Fate/make.of.install   作:ドラギオン

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契約

 ソラウとケイネスの二人は、ライダー達に連れられて冬木の隣町へと移動していた。神威の車輪の最高速度に追いつける物はなく、完全に追跡を振り払う目的があった。

 そして、ホテルの一室を借りたウェイバー達は、それぞれが向きあっていた。魔力消費の激しかったアルカは、同じく体力を消耗していたソラウを共にベッドで睡眠をとっていた。アンはアルカの護衛として彼女達についていた。

 

 そして、ホテルの机でライダーとブレイカーに見護られながらケイネスとウェイバーが神妙な顔をして向き合っていた。既に子弟としての上下関係はなく、ケイネスは顔を伏せたままどんな無理難題が振りかけられるか待ちかまえる。

 

「ケイネス・エルメロイ・アーチボルト。貴方に要求する物は3つだ」

「みっつ……」

「あぁ。これはウェイバー・ベルベットが名門アーチボルト家の当主に対する要求と受け取ってほしい」

「なにを……とうに私には君の、要求を断る術はない」

 

 ケイネスは自分の立場を理解していた。今では魔術師としてもマスターとしてもウェイバーには及ばないのだ。どちらも衛宮切嗣のせいではあるが、結果的に自身を救ったのはウェイバーだ。彼のさじ加減でいつでも飛ぶ首だと理解している。

 

「まず第一、僕にアーチボルト家の魔術刻印全てを譲渡して貰う」

「魔術刻印を?」

「あぁ。どのみち今の貴方じゃアーチボルトは没落する」

「……そうだな。どの道私はアーチボルトを捨てた身だ。君が受け継いでくれるというなら、譲渡しよう」

 

 すでにケイネスの魔術師としての人生は終わっている。魔術回路がボロボロでまともな魔術すら使えない。そんな状況で魔術刻印に拘る理由はない。ウェイバー・ベルベットの聖杯戦争での功績は素晴らしい。本来のっとりとも言える行為だが、未来を考えれば悪い手ではない。それに銃などという現在兵器を用いて、監督役を殺した時点で誇りなど失っていたのだ。

 

「一つ目の条件に組み込ませてほしい事がある。その魔術刻印に今回の聖杯戦争の間、貴方の許嫁とのパスを繋いで欲しい」

「なに?」

「僕は、貴方の知っての通り魔術師としては二流以下だ。だからライダーに魔力供給を満足に行えない。当然、貴方の許嫁の生命活動に関わらない程度でいい。アルカの見立てじゃそう言った裏技を使えると聞いてる」

 

 ケイネスは、ウェイバーを見て驚く他なかった。時計塔で彼を生徒として持って居た時と今の彼は同一人物とは思えなかった。自身を持ち、目的を遂行するためには最善の策を引き出す。それでいながら決して道理を外さない彼は、自分の教え子なのか信じられない。

 

「できる。だが、今の私では魔術刻印の譲渡やパスを繋ぐ事は」

「安心してほしい。こっちにはアルカが居る。あなたの知識と刻印をアルカなら譲渡できる。そして二つ目だ」

 

 再びウェイバーの条件に身構えるケイネス。

 

「この聖杯戦争が終了後。今持てる限りのアーチボルト家の権威で、アルカの身の安全を保証してほしい」

「封印指定の魔術師を保護しろという事か」

「僕がアーチボルト家を引き継ぐまででいい。アルカの後見人となって欲しい。僕が時計塔での権力を持てるまで、アルカには守護が必要なんだ」

「確かに。封印指定の執行者などから守らねば彼女は危険だ」

「わかった。だが君の言う通り没落するアーチボルトの権威では、身の安全を完璧とまでは……」

 

 ケイネスは、彼の言う責任の重さに今の自分でできる事は少ないという。

 

「わかってる。そもそも、貴方が追い詰められたのは僕の責任だ。でも僕は謝罪も後悔もしていません。ただ、ロードエルメロイの名を僕が必ず、魔術師の中でも最高位の物にすると約束する。だからお願いします、僕に力を貸してくださいロード・エルメロイ」

「ウェイバー、くん」

 

 突然、頭を下げたウェイバー。それは言葉通り謝罪ではない。ケイネスの協力を得るため、アルカの安全を確保する為の行為だ。今のケイネスには、その意味が理解出来た。

 

「ウェイバーくん、いやベルベット家の当主よ。交渉相手に下手に出て、頭を下げるのは当主としては軽率だぞ。胸を張りたまえ、貴様は次代のロードエルメロイとなるのだろうが!」

 

 突然のケイネスの叱責。それは罵倒の言葉でもあり、彼を認めたからこその叱責だった。

 

「2つ目も飲もうじゃないか。それで三つ目はなんなんだい? 君の言葉通り、君に全てを奪われた私に何を要求するのかね?」

 

 腕を組み威厳に満ちあふれた態度で接するケイネス。ウェイバーも彼の態度に以前とは違い嫌悪を感じなかった。むしろ何処か嬉しいとすら思っている。そして三つ目の条件を掲示する。

 

「3つ目は、僕の夢に貴方にも協力して貰う」

「なに? どう言う意味かね」

「これはおまけだ。僕は魔術協会を根底から変えていくつもりだ。だが、僕一人じゃどう足掻いたってそんな事は出来ない。だから貴方の力を借りたい。ケイネス、ロード・エルメロイと呼ばれた貴方ほどの人物でも、魔術協会そのものを変革はできない筈だ。でも僕はそれを成す」

「ふははははははは、ははははは。くっくくくく。ははは」

 

 

 真剣に馬鹿げた事を吐き捨てる元教え子。それを聞いたケイネスは笑うしかなかった。当然だ。自分を越えた教え子が、自分ですら相手取ろうとも思わなかった魔術師社会に挑むというのだから。まさにドンキホーテのような愚かな戦いを彼はするというのだ。そして笑いが少し続き収まるとウェイバーに大声で話す。

 

「実に馬鹿げているよベルベット家の当主よ! 魔術社会を変えるか、なるほどそれは……私には無かった発想だよ。時計塔の権力争いなどとは次元の違う行いだ。……どのみち私は魔術師としては死んだも同然、ならば魔術師らしさにこだわる理由もない。よかろう、ただし聖杯戦争で君が生き残るのが条件だ」

「当然! あえてギアスは結ばない。ロードエルメロイ、貴方の誇りを信じよう」

 

 話は終わったと、ウェイバーが椅子から立ち上る。それまで黙って見守っていた2人の英霊も彼に続く。眠りから目覚めたアルカは、ウェイバーの願いを聞き入れケイネスの魔術の知識をinstallした。ケイネス事態がそれを受け入れた事で今まで以上に知識を読み込む事が出来たアルカは、彼の知識を元にケイネスの両肩にある魔術刻印をウェイバーに移植する。

 アルカの治療魔術は、封印指定になった治癒魔術の使い手のものを模範しており、無理矢理ケイネスの魔術刻印を同じく両肩に移植した。その拒絶反応をアルカの治癒魔術は強制的に抑制した。そして、ソラウの血を媒体にケイネスの指示に従い、魔力の供給ラインを繋ぐ。ただ魔力消費が通常の治癒の比ではなく類稀な魔力量を誇る彼女でも再び眠りに墜ちる他なかった。

 

 両肩に魔術刻印とソラウの魔力供給を得たウェイバーは、今までにない魔力量と刻印の苦しみも弱音を吐かずに受け入れた。痛い物は痛いし辛いものは辛い、でもこれに耐えなければ聖杯戦争には勝てない。上着を新たに着こんだウェイバーはホテルから出て行こうとする。

 

「確かに刻印は譲渡して貰いました」

「ふむ。なんというのかな。本当に肩の荷が下りたよ、どこかホッとする物だな」

 

 ケイネスは刻印を失った損失感が、少し心地よかった。縛られる物はなく、威張り散らす必要性から解放された故だろうか。

 無事に治療を終えたアルカと魔力消費を抑えるために睡眠に入ったアンを、ブレイカーはを抱き上げてホテルから出ようとするウェイバーについて行く。

 

「此処ならたぶん安全だ。聖杯戦争が終わるまで隠れていて欲しい。僕等は冬木に帰る」

 

 そう言い残して、ホテルのドアを閉めようとした彼を車椅子を押したケイネスが見送る。まさか見送ってくれるとは思っていなかった。振り返りケイネスを見る。

 

「最後にロードエルメロイとして、君の教師として言わせて欲しい」

「……」

「私は、君を認めよう。私には人を見る目はなかったようだ。君が次代のエルメロイなれば、我がアーチボルト家の未来は明るい。誇るがいい君が次代のエルメロイだ」

 

 その言葉を聞いたウェイバーはドアノブに掛けた手が止る。いろんな感情が湧きおこる。

「僕は、貴方に認めて欲しくて聖杯戦争に参加した。だけど、その言葉は僕が貴方の後を継ぐに相応しくなった時、またお願いします」

「調子に乗るなよ、ウェイバー・ベルベット」

 

 2人にそれ以上の言葉はなかった。ホテルのドアを閉め廊下で待機していたブレイカーやライダーに合流し彼等は神威の車輪によって再び聖杯戦争に参戦したのだ。嬉しさから来る涙をこらえながら、一人の魔術師は戦地に赴いた。

 そして残されたケイネスは、眠るソラウを眺めながら次代のエルメロイとの契約を履行する為の策を考えていた。

 

 この日、ランサーは脱落。ケイネスは魔術師として死に、ウェイバーは新たな称号を得て歩み出した。

 

ーーーーー

 

 一方、1日過ぎても言峰璃正との連絡が付かなかった時臣は、言峰綺礼からの連絡を聞いて憤っていた。言峰綺礼は、本来ならもっと早く璃正の死に気付けた筈だが、彼は自分の目的である衛宮切嗣を探索し、1日の時が過ぎていたのだ。

 丸1日放置された父の死体は、実に醜悪であった。

 

「殺された? まさか、そんな、なぜ神父までもか、あってはならない! あってはならないことだ!?」

 

 時臣は、恩師である璃正の死を悲しみ、殺した相手への怒りを強めて行く。しかし実の父親を殺された綺礼は、時臣の部屋から出ると無言で再び教会へと向かっていた。そんな彼に普段着になったアーチャーことギルガメッシュが話しかけた。

 

「なぜ時臣に言わなかった?」

「なんのことだ?」

「哀れな父親だ、息子を聖人と信じて疑わずに逝ったのだからな。いいや、むしろそれが救いか?父親の死になんの感情も抱かぬのか?殺されたのだぞ、少しは悲しそうな顔ぐらい浮かべたらどうだ?」

「ああ、悔しくてならない」

「悔しいか。それは自分の手で殺められなかったからか?」

 

 ギルガメッシュの問いに綺礼は考え込む。

「蠅にたかられ、無様で醜悪な父の死体を見た時、私は何故か感動を得た。だが、お前の言う通り私の手で殺せぬことが……」

「ほう。醜悪な死体に感動を受けるか。なるほど、お前の愉悦……中々どうして面白い形をしているようだ」

 

 ギルガメッシュは、面白い人間性をしている綺礼の本質を愉しみながら、霊体化する。自由気ままな彼を制御など出来る筈なく綺礼も本来の目的を果たしに向かった。

 

 

――ー―――

 一方、武家屋敷に拠点を移したセイバー陣営。既に英霊3人が聖杯に吸収された事で、アイリスフィールは人としての機能のほとんどを損失していた。セイバーの手によって描かれた特殊な魔法陣の中心に横たわりながら、一日を過ごす他なかった。

 そんな彼女の身を案じたセイバーが片膝をつきながら彼女を見つめる。その視線に気が付き目を開けたアイリ。

 

「セイバー」

「アイリスフィール具合はどうですか?」

「どうやら心配させてしまったみたいね、ごめんなさい」

「いいえ、本当に大丈夫であれば、それに越したことはないのですが、しかし」

 

 セイバーの目から見てもアイリの状態は通常とは言えない。今こうして生きているのが既に奇跡のような、後戻りできない感覚を彼女から感じる。だがアイリは決して真実を話そうとはしない。そうなればセイバーにはできる事がなかった。だがセイバーが近付くことでアイリは少しだけ気力を取り戻す事が出来た。

 実はセイバーが来る前にボロボロの切嗣が現れ、再び彼女に聖剣の鞘を預けたのだ。当然心配したアイリが彼に詰め寄ろうとするが、そんな体力はなかった。少しでもアイリの負担を無くしたい切嗣の唯一の善意だった。

 

 そして鞘の効果が出始めた時。武家屋敷に貼られた結界に反応がある。すぐにでも動きだそうとするセイバーをアイリが止める。 

 

「大丈夫、この気配は舞弥さんだわ」

 

 そして、入ってきた舞弥から手紙を手渡される。

 

「遠坂から?」

「はい。遠坂時臣からの共闘の申し入れです」

「同盟ですか、今になって」

 

 セイバーの問いにアイリが答える。正直この展開は想定できていたのだ。

 

「残るライダーとブレイカーの陣営、そしてバーサーカーの対処に遠坂は不安を持っているのでしょうね。そこで一番与しやすいと見えた私たちに誘いをかけてきた。要するにほかの2組に比べれば、なめられてるってこと。けれどライダーの陣営は正直私達でも脅威でしかないのは事実」

「遠坂は今夜冬木教会で会見の場を設けたいと言ってきました、遠坂時臣は今回の聖杯戦争においてかなり初期の段階から周到な準備を進めています。それに遠坂はアサシンのマスター、言峰綺礼を裏で操っていたと思われる節がある。遠坂が言峰綺礼に対して影響力を及ぼしうるなら、彼の誘いは我々にとっても無視できないかと」

 

 舞弥の進言は、まさにその通りだった。切嗣の天敵となり最大の脅威となる男、そして切嗣の策を掻い潜り彼を追い詰めてくるライダーのマスター。その2人と争う事になれば切嗣は、どちらかに殺される。一人でも厄介なのに2人となれば、いよいよもって切嗣の身が持たない。

 

「そうね」

「言峰綺礼?」

「覚えておいて、セイバー。今回の聖杯戦争で切嗣を負かして、聖杯を獲るものがいるとしたら、それが言峰綺礼と言う男よ。今ではライダーのマスターも十分危険でしょうけど、存在が危険なのは言峰綺礼だけ。この話、受けましょう」

 

 アイリ達は、アーチャー陣営との会談に参加することを決めた。

 

 

――ー―――

 

 そして同時の夕方。戦況が大きく変わり、遠坂時臣は隣町の別荘に訪れていた。それは愛する妻と娘へ最後となるかもしれない顔合わせをするためだった。

 彼は出迎えてくれた妻に話を終え、玄関で自分を尊敬と愛に満ちた目で見る娘、遠坂凛を見つめた。

「凛、お父様からお話があるそうよ」

 

 すでに時臣との話を終えた遠坂葵は、玄関で待つ彼女に屈みながらそう告げる。そして、凛は自分の父の元へと駆け寄る。自身を笑顔で迎えてくれた娘。彼女に対して時臣は、初めて彼女の頭を優しく撫でた。力加減はこのくらいでいいのか、痛くはないのか。それらを考え大変ぎこちない手つきながらも、彼は愛する娘の頭を撫でた。

 

「凛、成人するまでは教会に貸しを作っておけ、それ以降の判断はお前に任せる、お前なら一人でもやっていけるだろう。いずれ聖杯は現れる、あれを手に入れるのは遠坂家の義務であり、何より、魔術師であろうとするなら避けては通れない道だ。

 凛、これを。それでは行くが、後のことは分かっているな」

 

 時臣は、手に持っていた魔術書を凛に手渡す。受け取った彼女は宝物を貰ったように本に喜び、時臣に笑みを向ける。

 

「はい。行ってらっしゃい、お父様」

 

 娘と妻の見送りを受けて遠坂時臣は一人の夫と父から、魔術師へと意識を切り替えた。 

 

 

――ー――――

 そして、時間指定の通り教会に訪れたセイバーとアイリスフィール。久宇舞弥は、腕時計に仕込んだ盗聴器で切嗣に教会の様子を送る。中には時臣と綺礼、そして柱に凭れかかるアーチャーが居た。

 

「不肖この遠坂時臣の招待に応じていただき、まずは感謝の言葉もない。紹介しよう、言峰綺礼。

 私の直弟子であり、一時は互いに聖杯を狙って競い合った相手であったが、今となっては過ぎた話だ。彼はサーバントを失い、既にマスター権も手放して久しい。

 此度の聖杯戦争もいよいよ大詰めの局面となってきた。残っているのは案の定「始まりの御三家」のマスターたちと想定外の戦力を誇る外様の魔術師二人。さて、この戦局をどう考えか? 外様の手に聖杯が渡ることは万に一つも許せない。そこのところはお互い合意できるはずだ」

 

 時臣はそう告げた。彼にとって最も恐れているのは現段階で聖杯戦争を優位に進めるライダーと主体不明のブレイカーの陣営。ライダーは大変強力な英霊であり、ブレイカーも未だに奥の手を持っている強敵。さらにブレイカーのマスターは幼いながらも卓越した魔術の腕を持つ怪物。そしてそれらを束ねるライダーのマスターの手腕。これは大変恐ろしい。実は、アサシンもライダー陣営に組み込まれているが、時臣達はまだその情報を掴んでいない。 

 

「同盟などは笑止千万、ただし敵の対処に順列を付けてほしいというのなら、そちらの誠意次第では一考してもいいでしょう」

 

 アイリは、歴史あるアインツベルンの娘として告げる。

「つまり?」

「遠坂を敵対者として見なすのはほかのマスターを倒した後。そういう約定なら応じる用意もあります」

「条件付きの休戦協定か? 落としところとしては妥当だな」

「こちらの要求は2つ。まず第一にライダーとブレイカー、そのマスターについてそちらが掴んでいる情報をすべて開示すること」

 

 その条件は当然だと時臣は頷く。今更情報の隠ぺいに意味はないのだから、それを交渉のカードにできれば儲けものである。

 

 

「いいだろう」

「第二の要求は言峰綺礼を聖杯戦争から排除すること」

 

 二つ目の条件は時臣は理解出来なかった。

 

「理由を説明してもらえるかね?」

「そこの代行者は我々アインツベルンと少なからず遺恨があります。遠坂の陣営が彼を擁護するのであれば、我々は金輪際、そちらを信用することはできない」

 

 聞き覚えのない情報に時臣の余裕も崩れる。

「どういうことかね、綺礼」

 

 彼の問いに、綺礼は独断専行し、アインツベルンと一戦交えた事を述べた。それに時臣は顎に手を当てて思案する。そして、彼はアインツベルンとの共闘を優先し言峰綺礼の脱落を条件に停戦協定を結ぶ旨を話した。

 ここでアインツベルンとの協定が結ばれなかった場合、ライダー陣営が野放しになる結果になる。それだけは避けなければならなかった。現状聖杯に一番近いのはライダー陣営だというのがその場の全員の結論だからだ。

 

 

 

ーーーーーー

 

 協会から出たアイリ達。アイリ達は愛用の車に乗って帰路に着くが、セイバーだけは切嗣が用意したバイクにまたがっていた。

 

「どう、切嗣からの贈り物は?」

 

「車よりもこの騎馬に似た乗り物のほうが、私には性に合っているようです。では私が先行して、帰路の安全を確認してきます」

 

 彼女の言うように、密閉された車内よりも風を感じられるバイクの方が、彼女にはふさわしいのだろう。気配を感じる彼女にとって、外界との接触は大変重要な役割を持つ上に跨って走るという性質が、馬に似ているのだ。

 

先にバイクで走って行ったセイバーを追い、アイリ達も車に乗り込む。

 

「私たちも行きましょう」

「……マダム、どうしました? 」

「行って舞弥さん」

 

 突然助手席に座るアイリが力無く舞弥に凭れる。その様子に困惑する魔嫌だが、指示通り車を発進させる。

 

「しかし」

「遠坂に不審がられるわ。……異常ではないのよ、これは予め決まってたこと。

 むしろ今まで人として機能できたことが私にとっては奇跡みたいな幸運だったの。私は聖杯戦争のために設計されたホムンクルス、それはあなたも知っているわね」

 

 アイリの問いに対する舞弥の答えは一つだ。

 

「はい」

「アハトのお爺さまは器そのものに生存本能を与え、あらゆる危険を自己回避して、聖杯の完成を成し遂げるために、器にアイリスフィールという偽装を施したのよ、それが私」

 

 初めてアイリの口から語られる事実に、舞弥も驚かずにはいられない

 

「そんな、ではあなたは」

「このから先私は元のものに還っていくわ。次はきっとこうしてあなたと話をすることもできなくなるでしょう、だからこそ切嗣は私にセイバーの鞘を預けたの。アヴァロン、その効果は知ってる?」

「老衰の停滞と無制限の治癒能力。そう聞いています」

「その効果が私という殻の崩壊を押し止めてくれているの、もっともセイバーとの距離が離れてしまうととたんボロが出るんだけど」

 

 そのボロが出たのが今の状態なのだと理解する。突然衰弱を始めるアイリスフィールの言葉には嘘偽りはなかった。だからこそ気になる事があった。

 

「なぜ、私にも教えたのですか?」

「久宇舞弥、あなたなら決して私を憐れんだりしない。きっと私を認めてくれる、そう思ったから」

 

 アイリの言葉を聞いて、舞弥の中でアイリに対する認識が変化した。

 

「マダム、私はあなたという人をもっと遠い存在だと思っていました」

「そんなことない、分かってくれた?」

「はい。私がこの命を代えてでもアイリスフィール、最後まであなたをお守りいたします。だからどうか、衛宮切嗣のために死んでください。あの人の夢を叶えるために」

 

「ありがとう」

 舞弥とアイリスフィール。境遇は違えども衛宮切嗣という男に救われ、彼に全てを捧げると決めている女性達は通じあう物があった。たとえそれが両者にとっての滅亡でも、2人は迷うことすら無かった。

 

 

――ー――

 

 セイバー達が教会を離れた後、言峰綺礼と遠坂時臣は話しあっていた。

 

「アインツベルンとの経緯、やはり私には一言ほしかった。残念ながら致し方あるまい。この戦いから身を引いてくれ、綺礼」

 

 師の言葉に逆らう事が出来ず、綺礼は教会にある自分の部屋で冬木から離れる身支度をする。そして、これで自分の聖杯戦争も終わりかと思った時、机に広がる資料の中で衛宮切嗣の写真が目に入る。

 

「衛宮切嗣、貴様は何者だ? それも分からぬまま私はここを去るのか?」

「この期に及んでまだ思案か? 鈍重にもほどがあるぞ、綺礼。今なお聖杯はお前を招いている。そしてお前自身もまたなお戦い続けることを望んでいる」

 

 綺礼が悩んでいると彼の部屋に侵入したアーチャーが声を掛ける。相変わらず何かを見透かしたような目で綺礼を見ながら彼は綺麗という人間の苦悩を愉しんでいる。

「物心ついて以来、私はただ1つの探索に生きてきた。ただひたすらに時を費やし、痛みに堪え、そのすべてが徒労に終わった。なのに今、私はかつてないほどに問い質し答えを間近に感じている」

 

 そう言峰綺礼の人生とは自身の探求に他ならない。

 

「そこまで自省しておきながら、いったい何をまだ迷う?」

「予感がある、すべての答えを知った時、私は破滅することになるのだと」

 

 それは予感というよりは、必然だ。己の本性を己で避けたくなる部類だと、既に感じる綺礼。もしそれを認めてしまえば、それは破滅と言う他ない。

 

 しかし、思い悩む彼の元に教会からの連絡が舞い込む。着信を知らせる受話器を受け取り、その報告を聞いた綺礼。

 

「分かった、ご苦労」

「何かよほど心が浮き立つような報せでも受けたのか?か 」

「アインツベルンの連中が隠れ潜んでいる拠点の調べがついた」

「なんだ綺礼、お前というやつは。もとより続ける覚悟なのではないか」

「迷いはしたさ。止める手もあった。だが結局のところ、英雄王、お前の言う通り。私という人間はただ問い続けることのほかに処方を知らない」

 

迷いながら探求し続けた言峰綺礼は、眼前に迫った答えを見逃せるはずがない。そう言いながらカソックの袖を捲る。

 

「それは?」

「父からの贈り物だ」

 

言峰綺礼は、死んだ父の懐に隠されたメッセージを読み、聖句を読み上げたことで右腕に大量の令呪を受け取っていた。

 

再び言峰綺礼が、聖杯戦争に参加したのだった。……そしてその日の夜、言峰綺礼と彼の悪性を容認したアーチャーによって遠坂時臣が脱落したのだった。弟子が裏切ったとも知らず、言峰によって時臣は背後から心臓を突き刺され絶命した。

 




 えーと、状況で言えばアーチボルト家の魔術刻印、ソラウ女史の魔力供給、アルカがケイネスの知識を得た。って状況ですかね。

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