Fate/make.of.install   作:ドラギオン

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 前回が短く早めに書き終わったので、続けて投稿します。


謀殺・転機

「終わったな」

 

 切嗣は今夜の勝利に何も感じなかった、ただ障害が減った事は今後の展開で優位になったのは確かだ。その場から音もなく立ち去ろうとした切嗣だが。

 

「終わってないぞ! アインツベルンのマスター!」

「なんだ!? が」

 

 今まで誰の気配もしなかった背後から怒声と、後頭部に金属で殴られたような衝撃が走る。くらむ目と揺れる頭を如何にか平常に保ちながら、キャリコを探す。だが殴られた衝撃で銃をとり落としてしまい見つからない。そして、膝をついた所で後頭部に硬い何かが押しつけられる。その感触は、銃の砲身に他ならない。何者かが自分の落した銃を拾ったのだ。こうなってしまえば切嗣は背後にいる人物に両手を上げるしかない。

 

「なに、ものだ?」

「お前が殺したくて仕方のなかったマスターだよ。全部聞かせてもらったからな」

「なに?」

 

 切嗣を背後から襲ったのは、金属バットを持つウェイバーだった。彼は切嗣を殴りバットを捨て、切嗣の銃を両手で構える。それを切嗣の後頭部に当てて完全に制圧する。

 

「まさか、そんなバカな」

「残念だけど僕は生きてるし、ケイネスも生きてる。アンタの負けだアインツベルンのマスター」

「ふざけるな! 何故だ」

 

 切嗣は確かに、ウェイバーがランサーに殺される様を見た。なのにウェイバーは健在、しかも魔術師殺しの衛宮切嗣の背後を取るという、魔術師の落ちこぼれの彼が出来るとは思えない技能。油断したとはいえ、気を抜いた訳ではないのに背後を取られ、手痛い一撃を貰ってしまった。

 

「アンタ達の戦略が魔術師らしくないのは身を持って知ってるからな。アルカが殺せないなら必ず僕だと読んだんだ」

 

 そうウェイバーは、ランサーがマッケンジー家に訪れる前からアルカのカーテンを用いた隠密礼装を使っていたのだ。その効果はウェイバーの気配や姿を完全に隠す事が出来る。しかし、優秀な魔術師相手では効果が薄い。だが、ウェイバーはアンに協力を得ることで水銀で自身を模範したデコイを創りあげた。アンと手を繋ぐ形で存在する自分の偽物を前に、もう一人のウェイバーを探す人間などいない。そして、ランサーに貫かれたのはウェイバーに擬態したアンの水銀。彼女から切り離して動かす事は不可能だったので手を繋ぐ形でしか運用できないが、元々彼女達と戦車に乗るスタイルのため、問題がなかった。

 そうして注意をデコイに向けたウェイバーは、常に指輪でアンとライダー、そしてアンから念話でアルカとブレイカーへと情報を共有していた。

 

 当然ながらウェイバーは、この怪しい決闘を仕組んだ人間を探していた。戦車に乗りながら、アンは月霊髄液の無数の水銀を触角として撒き散らし、広範囲を走査。見た目でばれないように地面を掘削しながら周囲に蜘蛛の糸のように捜索範囲を広げる。そして見つけたケイネスならバットで気絶させる事も作戦だった。だが、其処にはもう一人、衛宮切嗣が居たのだ。ウェイバーは物音を立てないように2人の会話を聞き、ケイネスが脅されて令呪を使わされる場面を見た。

 

 そして、自分のデコイがランサーによって破壊された状況でケイネスを始末する算段を持って居た切嗣。あえてウェイバーは彼の隙を作るために、ライダー達に演技を頼んだのだ。

 

 

ーーーーー

 そして、一芝居うつ事になったライダーとブレイカー。演技とは言え2人は、瀕死になりながらも苦しめられるランサーに止めを刺す。だが、ランサーが己を恥じたまま消滅させる事はないと彼にウェイバーは死んでいないと伝える。

 

「ほんとう、なのか」

「あぁ。だからお前の誇りは護られた。安心して逝くがいいさ。お前のマスターも殺しはしない」

「すま、ない」

 

 最後に安心してランサーは消える。そしてウェイバーに命じられた通り罠にはめられたケイネスに戦車を走らせるライダー。その迫力と自分の死を理解したケイネスは、ソラウを地面に降ろし少しでも距離を取ろうとする。車椅子の移動は遅く、とてもではないが距離を稼げない。

 

「こっちだ、こっちにこい!」

 

 死力を尽くしてソラウだけを守る決断をしたケイネスがライダー達を誘導する。すこしでも、彼女が生きる可能性を上げるため、自分を捨て石にした。泣きじゃくりながら手を振ってライダーを誘導する。

 

「私は此処だぞ、わたしをころしたいのであろう! うう」

 

 ライダーの戦車が眼前に迫り、ケイネスは目を閉じた。もう自分にできる事はない、自分の経歴のために死地に誘ってしまった愛する許嫁がどうか救われる事を祈り、彼は死を受け入れた。

 

「ちょっと見直したよ」

 

 戦車の衝撃より先に、何かに抱えられるような感触がする。痛みが来ない事で目を開けば、ケイネスは戦車に轢かれる事なく、ブレイカーの肩に抱えられていた。そして意識の無いソラウも動揺に勝変えられ、戦車へと乗せられる。何が起こったのかわからないケイネスは、戸惑いながら真横に居るライダーを見上げる。すると、ケイネスの頬を小さな手が叩く。

 

「な」

「……おじさん嫌い」

 

 ケイネスの頬に小さな紅葉を作ったのは、不機嫌な顔を崩さないアルカだった。アルカは唯一ウェイバーの言うケイネスを助ける事に念話で(いや、絶対嫌)と否定していた。しかし、ウェイバーの頼みに渋々従う。アルカに頬を殴られたケイネスは、何も言う事が出来ず不思議そうな目で見る。以前の彼なら激怒しただろうが、今は何処か非現実的な状況に呆けるしかない。

 

「……嫌い。でもウェイバー、好き」

「なにを」

 

 アルカはケイネスを睨みつけた後、無表情になり腕を切り落とされたソラウに治癒の魔術を行使する。ケイネスにすら理解出来ない独自の理論で組まれた治癒魔術は、ソラウの容体を次第に安定させて行く。

 

「ランサーのマスターよ」

「ら、ライダー……」

「貴様を助けたのは余のマスターの計らい。魔術師には等価交換という決まりがあるのであろう? 悪いが貴様とこの女の命を救う事を条件に、マスターが取引を要求しておる」

「断るのなら、身の安全は保証しない。だが、乗るのなら先払いで命を救ってやる」 

 

 それは、ケイネスにとって唯一の活路だった。彼はウェイバーに命を握られた屈辱よりも、許嫁の命を救う事を優先した。どう言う風の吹き回しかわからないが既にアーチボルト家を捨てる覚悟を決めた彼には、要求をのむしかなかった。少なくともアインツベルンのマスターよりは信頼できるだろう。

 

「わかった。頼む」

「……ん」

『アルカ、良い子』

 

 ケイネスが頭を下げた事で、アルカは頷きながらソラウを治療していく。そしてブレイカーは、アインツベルンのマスターを制圧したウェイバーの元へ向かって戦車を下りた。

 

 

――ー―――

 

(全く、こいつのせいでドンドン聖杯が遠のいて行く。言峰綺礼よりもこいつはやり手だ)

 

 切嗣は背中を取られた事で、ウェイバーという魔術師に対して憤っていた。何処までも自分の裏をかくこいつこそが自分にとって倒すべき障害だと認識する。切嗣は気が付いていないのだ、ウェイバーは常に正攻法しか使っていない。持てる手札を全て用いて信頼と仲間による勝利を目指している。だからこそ切嗣には理解出来ない。何故自分がこうも裏をかかれているのかを。

 

「さぁ令呪を全部破棄しろ。アンタみたいなやつには、僕は油断も慈悲も掛けない。少なからずアルカを何度も殺そうとしたアンタはな」

 

 ウェイバーは震える手でキャリコを構える。どんなど素人でも一発なら外さない。そう言う距離で銃を構える。銃など握った事もなく、引き金を引くだけで命を奪う凶器に自然と手が震える。

 

「ふん、戦場に子供を連れてくるお前の方が理解出来ないな」

「……」

「あの子を僕が狙ったんじゃない。お前が狙わせているんだよ。何のつもりであの子をマスターにしたかは知らないが、お前だって僕と変わらない。手段を選ばず聖杯を求めている時点でな。もし僕等に勝った後、あの子も殺すつもりか? 妙に懐いているようだからな楽だろうよ。

 あ、なるほど。最後の始末まで考慮した人材だったか……これは畏れ入ったよ。お前は間違いなく聖杯戦争史上最強で最悪のマスターだ」

「うるさい! 僕はアルカを裏切ったりしない」

「おめでたい奴だ。僕はそう言って引き金を引かねばならなくなった奴を知ってるよ。そいつが辿る末路は、過去の小奇麗な正義などに縛られて同じ罪を繰り返す事だけだ」

 

 切嗣は、背中から銃を構えるウェイバーを挑発する切嗣。彼は、ウェイバーの注意を引きながら、魔術回路を起動して魔術を心の中で詠唱する。

 

(Time alter―double accel)

 

「がは、ごほ」

「詰めが甘いな。甘さは、弱さだ。茶番は此処で終われ」

 

 魔術が発動した瞬間、切嗣は自身の体を固有結界とて時間経過速度を加速させる。そうして通常の二倍の速度で動いた切嗣は、ウェイバーの反応速度を越えて振り返り、キャリコを構えるウェイバーの鳩尾に膝を喰らわせ、咽て仰向けに倒れ込んだウェイバーに空中で拾ったキャリコを掴み引き金を引く。しかし、弾は出ない。

 

「セーフティを!?」

「そして、てめぇは此処で終われ」

「が」

 

 銃が発砲されない所を見てウェイバーは、口元を緩める。激痛が走り呼吸が苦しい。肋骨が何本か折れた可能性のある蹴りを受けてもなおウェイバーは切嗣を翻弄する。彼は頭の中で、(ライダーと一緒に映画を見ていて良かった。安全装置の位置が分かるんだから、戦争映画も捨てたもんじゃないな)と考えていた。

 そしてキャリコの安全装置を外す前に、切嗣は走ってきたブレイカーに胴体を殴られ柱へと激突する。まぎれもない英霊の一撃、それは手加減されていようとも衛宮切嗣の心臓を破裂させ、息の根を止めるのには十分すぎた。

 

「言った筈だ。今度と下らない事をすれば、俺が壊すとな。頑張ったなライダーのマスター、手を貸そう」

「結局、荒事じゃ僕は……最弱だな。死んだのか?」

「心臓は破壊した。あれで生きてたら不老不死だ。目的の物も回収したんだ。マスターが死んだと分かれば、セイバーが飛んでくる。

 マスターも魔力を使い過ぎてる。行こう」

 

 ウェイバーは柱に激突しピクリとも動かない切嗣の姿をはために、ブレイカーの補助を受けながらアルカ達の待つ神威の車輪に乗り込み、空へと雷をまきちらしながら登って行った。

 

 

 

「がほ、ぐ」

 

 柱に激突し確かに一度死んだ衛宮切嗣は、ブレイカー達の気配が消えると咳き込み始める。ブレイカーに潰された心臓に手を当てながら、生きている事を確認する。彼が生き返った理由は、セイバーであるアーサー王を召喚する触媒に使用したアヴァロンという鞘を自身に埋め込んでいたからに他ならない。アヴァロンは、持ち主の魔力を使う事で本来の持ち主でない者でも、驚異的な再生力を与える宝具。彼は本来の持ち主であるセイバーと契約を結んでいるため、その効果が得られたのだ。

 

「アイリの勘に救われたな」

 

 ケイネス達の謀殺を決行する前、すでにアインツベルンの城ではなく深山の古い武家屋敷に拠点を移していた。そして、舞弥の負傷のためセイバーを一人で探索に出し、切嗣がアイリの相手をしていた。そして最愛の女性はいやな予感がすると、すでに英霊二体を吸収したため聖杯の器として生体機能に障害が出ている自身を捨て置き、彼に聖剣の鞘を託した。よもやそれが、こんなに早く効果を発揮するとは想定外だった。

 

「く」 

  

 たとえ死ななかったとはいえ、回復までに時間がかかると切嗣はその場から動けなかった。だが命がある限り必ず奴等を殺さなければいけないのだ。ウェイバーに話した馬鹿な奴とは自分であり、今も自分は自分の妻を殺す戦いをしているのだ。ウェイバーに子供を死地に連れ込んだなど、自分に言う権利はない。

 だが、自分の妻の命を犠牲にした聖杯を他者に渡すなどあり得はしない。そして自分が負ければ妻だけでなく自分の最愛の娘が聖杯戦争に参加する羽目になる。

 

「イリヤとアイリのため、僕は……」

 

 一人だけになった廃墟で切嗣はタバコに火を付ける。その様は酷く疲れ切り、この聖杯戦争で辟易している姿が誰の目から見ても明らかだった。




 かなりご都合主義な展開になってしまいましたね。すいません。

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