Fate/make.of.install   作:ドラギオン

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宝具開帳

そして当然のように日は沈み。聖杯戦争の開始である。いつものようにウェイバー達は、ライダーの宝具に乗り探索に出向こうとしていた。だがウェイバーとアルカが玄関から出た時、そいつは現れた。

 

「悪いが、お前達に用があったのでな。結界は破壊させてもらったぞ」 

『ランサー』

「……」

「……ブレイカー」

「随分とやる気満々のようだな。ランサ―」

 

 

 玄関から出た2人を待ち伏せていたのは、紅い槍を持ったランサー。彼は、何処か迷いを持った表情でウェイバーとアルカに槍の刃先を向ける。ウェイバーはアンと手を握ったまま黙っている。そして横に立つアルカはブレイカーを呼び出す。元々見張りをしていたブレイカーはすぐさま現界して、拳を構える。彼の作成した結界を簡単に破壊したランサーは、自分からは動かない。

 外の異変を感じたライダーも現界し、殺気立つランサーに剣を向ける。

 

「ランサーよ。お前、余達の首を取りに来た、というには事情がありそうだな」

「悪いが、詳しく話す事は出来ない。一つだけ言っておく、俺に着いてこい、さもなくばこの場が戦場になるが」

 

 それは彼らしくない脅しだった。ライダーとブレイカーの両名が相手では、勝ち目が薄い。しかしマッケンジー家に被害が出るのは必然だった。ブレイカーが強化していると言っても彼の槍には無意味。これはそう言う類の脅しだった。

 当然ランサーも納得はしておらず、不本意なのはバレバレだった。

 

「よかろう。貴様ら、いくぞ」

「俺は構わないが、ライダーのマスターどうする?」

「……」

 

 ライダーの問いにウェイバーは少し悩んだ後、頷いて返答する。アルカも同じく頷いてライダー陣営の方針は決定していた。

 

「よし決まった。ランサーの奴を辱めた輩を余は許さん。それに罠を越えて打ち勝てば、ランサーも観念して余の臣下に加わるかもしれん」

「すまない征服王」

 

 ランサーの誘いに乗るといったライダー。自身の戦車を呼び出し、ランサーの誘う場所に追従する。ランサ―に誘導されて辿り着いた場所はアルカとケイネスの闘った廃墟だった。この場所には自分から攻め込んだ事を内緒にしているアルカは、目線を少しそらす。手を繋いでいるウェイバーにばれる訳ではないのに、何故か余所余所しい。その様子をアンは不思議そうに見ていた。

 

 そして2人を引き連れたランサーは、廃墟の広場で停止すると振り返る。そして、魔力が迸る槍を構えながら2人に殺気を放つ。どんな事情があるにせよ、ランサーはブレイカーとライダー両名を相手取る理由があるのだろう。ディルムッドほど騎士道を重んじる彼が、恥を忍んで人質を取り、そして自分に優位な場所で戦う事になった理由が。ライダー達の予想通り、ランサーはソラウを誘拐した犯人の残した指示通り動いていた。あの後、昼間になった時誰かの使い魔が一通のメッセージが届けられた。それは、己の拠点でブレイカーを殺せという物だった。そして、ランサーに結界を破壊させ、ネズミを巣穴から引きずり出せと。

 

「一騎打ちと来て、この広くはない場所だ。俺がやるしかなさそうだ」

「本来であれば、貴様とも尋常に勝負を交わしたかったが……」

「アンタのマスターがどんな奴かは知らない。それにお前の様子から望まぬ展開であるのは理解できる。だが、仮にも殺そうという相手に、迷いを持つとはどういう事だ」 

 

 マスター達をライダーに預けたブレイカーが戦車から飛び降り、ランサーに向き合う。だが、ランサーが迷いを感じ戦いに集中していない様に激怒する。激怒されたランサーは、相手の言う通りだと自分を恥じた。たとえ誰かの手の上で踊らされようとも、決闘をする相手には関係の無い事。むしろ、相手に対する侮辱でしかない。

 

「すまないブレイカー。そうだ、その通りだ。勝手な都合で決闘を申し込んだが、受理されたのなら全力を尽くそう。フィオナ騎士団が一番槍ディルムッド・オディナ押して参る!」

「真名は公開できない縛りがある。だが、死力を尽くしてお前を倒そう」

 

 両手で持つ彼の槍から夥しい魔力と闘気が迸る。既に迷いはなく、むしろ迷いは捨て去った。今のディルムッドにあるのは、ブレイカーという強敵を打ち倒す事のみ。彼を打ち倒し主の許嫁を拉致した人物から、許嫁を取り戻す。さすれば、彼の主も自分の忠義を理解してくれるはず。だからこそ、ランサーは全力でブレイカーに槍を振るう。

 それに対してブレイカーは自然体を取る。ランサーの勢いの籠った刺突が繰り出される。

 

「な!?」

「この世にはいろんな武器がある。だが、人間にとって最も扱いやすい武器、それは拳だ」

 

 ランサーの槍の刃先ではなく、柄の部分をブレイカーは掴み取っていた、当然、ランサーの勢いに押され地面を削るレールを築いてしまう。だが、ランサーの宝具の効果の及ばない柄を掴んだ事でブレイカーは彼の攻撃を無効化する。

 

「マスター。魔力の節約は中止だ、俺に魔力を渡せ」

「……ん」

 

 ブレイカーは、余裕を持った笑みでランサーの攻撃を受けた後、アルカに魔力の供給を再開させる。瞬間、エンジンにガソリンが注がれたように躍動する。ブレイカーという英霊を中心に周囲の空気が変わる。微かに残っていた結界は、彼の漏れ出た魔力に触れた瞬間、ひびが入る。そして、大地や建物が少しづつ崩れて行く。

 

「ふぅあああ!!」

「良い勘だ」

 

 万全の魔力供給を得たブレイカーは、これまでとは別物だった。その存在そのものが破壊力を持ち、歩くだけで周囲が壊れて行く。ブレイカーの全身には淡く輝く刻印が浮かび上がり、そこから発せられる力は、万物の天敵となりうる。それを心眼(真)で感じ取った彼はブレイカーに掴まれた槍を強引に引き付け、蹴りをブレイカーに御見舞する。蹴りを受け止めるために槍を手放してしまったブレイカー、槍が解放された事で先程比べ物にならない速度での突きを連打する。

 

「ふははは」

「はああああ!!」

 

 おおぶりでの攻撃では、槍を戻す前に掴み取られる事知ったランサーは、最速で最短の突きを繰り出し続ける。それを全身強化したブレイカーが両手の手刀を目視できるぎりぎりの速度で振るう。手数ではブレイカーがランサーを越える。だが、槍と素手ではリーチの差が歴然でランサーが優位。そして、ブレイカーは決してランサーの槍の刃に触れる事はない。何故なら、彼の強化魔術はランサーの槍の前には、無力化されてしまうからだ。彼の持つスキルで完全に無力化はされなくとも、強化が解除されれば弱体は必須。だからこそ、最善の注意を払って護りに徹する。

 ランサーも相手が意地でも葉先に触れない事でブレイカーのからくりを呼んでいた。

 

「早いな。ランサーもそうだがブレイカーの奴も、手数なら負けておらん」

「……早すぎて見えない」

『すっごいです』

「……」

 

 ランサーとブレイカーの一騎打ちを観察するライダーが述べた感想に、アルカは見えないと文句を言う。ギリギリ2人の動きが目で追えたアンが、凄いと賞賛、ウェイバーは戦況を眺めノーコメントで佇んでいた。

 そんな彼らに注意を向けて居られないランサーとブレイカー。リーチの差で防戦一方に追いやられ始めたブレイカーが手刀と脚刀を駆使する。手刀の防御の後に繰り出される破壊力の籠った蹴りは、当たれば身体が真っ二つになる。もし当らなくとも風圧だけでランサーの鎧に傷をつけて行くだろう。すでに廃墟の広場は、暴風地帯と化していた。

 

「そこだランサー!」

「ぐ」

 

 足技を繰り出すようになったブレイカーが、ランサーとの均衡を破った。右足の回し蹴りが槍の柄を強く蹴り飛ばし、矛先が大きくぶれた。突然の方向転換にランサーの肩が悲鳴を上げる。その隙を見逃さないブレイカーが地面を蹴って頭から突っ込む。

 そうして、出来た好機をブレイカーは己の間合いに入る事で拳を突き出した。槍はもう間に合わない、拳がランサーの胴体に命中し、彼の胴体を割れたスイカのように破壊する鉄拳が振るわれるだけだった。

 

「甘いぞブレイカー」

「ぐ」

 

 必殺の拳は、ランサーが優れたフットワークで横に回避。横に移動した回転を利用し、ランサーの拳が逆にブレイカーの頬を捉え、彼の体を3m程後退させる。殴られたブレイカーは首の筋が痛む事がないか確認しつつ、口元からこぼれる血を拭いとる。槍を捨て突然肉弾戦に切り替えたライダーにブレイカーは驚いていた。

 

「やるな色男」

「槍使いが槍しか使えないと思うのは、些か早計だぞ」

「マスター、まだ大丈夫か?」

「ん」

 

 ブレイカーが首を鳴らしている間に、ランサーが地面に刺さった再び破魔の紅薔薇を抜き、構える。それに対してブレイカーは、強化の魔術を重ねて行く。すでにどれほど強化されたかわからない程、強化を重ねる。そして、見るからに右腕を突き出す突撃の構えをとる。前かがみになりながら、目の前の獲物を狙う狩人のように。

 

「よし、見せてやろう。俺の宝具をな」

「ほう。遂に見せるかブレイカー」

 

「……ス、……集……72番」

 

 このタイミングで宝具の開帳など、ランサーにとっては絶望的でしかない。だが、相手の底知れぬ武勇と強さは本物、その存在を象徴する宝具という物に興味が湧かない筈がない。これまで頑なに宝具を使わなかった相手が、自分相手に使ってくる、それは己を認められたのだと理解する。構えを取った彼の右手には、腰に備え付けられたナイフが握られる。ランサーやライダーはあれがブレイカーの宝具だったかと思った。だが、予想とは違った結末こそが、現実となる。

 彼の持つナイフが彼の小さな声でとなえた呪文によって謎の光を帯びて、黒と白の混ざった魔力を纏い見えなくなる。方便ではなく、本当に白と黒の魔力の渦となってナイフが消える。だが、ブレイカーは何かを持っている事が宝具の魔力と存在感から理解できる。

 

「お前にはこれが何見える?」

 

 そして、ブレイカーはランサーに問うた。

 




 ついにブレイカーの宝具解禁です。まぁ詳しい内容はまだ言えません。

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