Fate/make.of.install   作:ドラギオン

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一時の休息

巨大海魔が英霊達と戦っている最中、久宇舞弥は、車を走らせながらライダー達が根城にしている一軒家を目指す。一般家庭に潜むという魔術師ならぬ方法をとり、捜査を攪乱していたウェイバー達。だが、アルカと呼ばれた少女とウェイバーというマスターの出没記録から、場所を割り出す事に成功していた。

 先程切嗣から作戦の決行を任された彼女は、警戒されない程度にマッケンジー宅から、距離を置いた場所に車を止め、拳銃とキャリコを装備して、乗り込む。

 

 神経を研ぎ澄まし、潜入する。舞弥の装備は、アルカの持っている月霊髄液を突破は出来ない。しかし、切嗣から切り札として預かったコンテンダーカスタムと起源弾が有効なのは実証済み。アサシンの人格の一つと結合されたという情報だが、話では碌に戦闘のできない人格のため、警戒はせども辞退する理由にはならない。

  

「ただの一軒家のようですが」

 

 何か罠がないかと潜入する。すると、家に張り巡らされた結界がさっそく目につく。直に触れる直前までカモフラージュされた、かなり強力な結界。舞弥が戦場独特のきな臭さを感じなければ、結界に触れて何らかの障害被っていただろう。

 落ち着いて結界の基点を探るが、どうにも周囲の電柱や電線、庭の壁からマンホールまで、ありとあらゆる場所に魔術が施されている。今は触れていないが、一つでも接触すれば何が起こるかわからない。

 

「切嗣。ライダーの拠点に到着しました。ですが、予想以上というか、想定外なまでに強固な結界が施されています」

『わかった。引いてくれ舞弥。些か相手を甘く見過ぎたようだ。おそらく優れた魔術師であるアルカという少女の仕業だろう。今目視してライダーのマスターを見たが、優秀なマスターとは言えない。作戦を変えよう、先にランサーを潰す』

「はい、あ!?」

『どうした舞弥! 報告しろ』

  

 舞弥は、切嗣に携帯で連絡を取る。だが、殺気に気がついて後ろに飛びのく。そして、舞弥の居た位置にナイフを持ったアサシン、アンが居た。アンはアルカの看病をしながら周囲の状況を注意を払って確認していた。そして、記憶はなくとも一度消滅したアサシンに融合した事で、アサシン80体の残留記憶を身体が記憶していた。その経験に基き、アンは舞弥を見つけた。

 人を傷付けるのは嫌い。けれど、友達を酷い目に合わせようとする人が居るのなら、アンは冷酷なアサシンにだってなる。

 

 ナイフを回避した時に、携帯電話を落とし、連絡が取れない。回避と同時にキャリコを構えたのは流石だが、アンに通用するかはわからなかった。無表情に舞弥を見るアンと銃を構えて向かい合う舞弥。先に動いたのはアンだった。元々水銀の身体のため、スケッチブックを水銀で形作り、そこに文字を描く。

 

『アルカにひどいことしないで』

「……」

『アルカを泣かせるなら、私が許さない』

「……」

「アサシンである我等を舐めない事だ女」

 

 突然、少女の口が開き女性の声が聞こえる。それは、ライダーに殺された女アサシンの物だった。アンは、無数に別れた人格の一部を保持して召喚された。それはスキルではないが彼女の選択肢を増やすプラスの要素だった。アサシンの仮面をかぶったアンは、彼女の宝具『妄想幻像・偽(ザバーニーヤ)』の効果で自在に人格を使い分ける。

 

「何」

「マスターを守るのが、我らの主人格の願だ。此処で死ね」

 

 幼子の姿で、女アサシンの声を出すアンは、ナイフを舞弥に投擲する。舞弥はぎりぎりで回避するが、眼前に両手を手首から鋭い水銀の刃にしたアンが斬り掛って来る。引き金を引き、キャリコの弾丸を発砲する。周囲には防音の結界も張られているため、誰も起きる事はない。

 そして、水銀の身体を持つアンに物理攻撃は、効果が遥かに薄い。軽やかな動きでアンは、舞弥が拾おうとした携帯電話を切断。胴体を何発もの弾丸が命中するが、痛みを我慢しながら両手両足を刃に変えて踊るように攻撃を加える。舞弥は、彼女の攻撃を受けるためにナイフを取り出すが、月霊髄液の刃は、ウォーターカッターに勝る。何の抵抗もなく、ナイフの刃が切断される。

 

 これでは拙いとスモーク弾を投擲して後ろに下がる。スモーク弾を例に習って切り裂いたアンは、煙に包まれ距離をとる事を許してしまう。本来のアンの性能なら舞弥を一撃で殺せたはず。それでも舞弥が無事な理由は、アンが新しいからだでの戦闘に慣れていない事が原因となる。

 

(まずいですね。劣化しているとは英霊。ですが)

「何を企んでいる?」

 

 舞弥がコンテンダーを取り出し、相手に向かって構える。これまでの戦闘からアンは、攻撃を回避しない。ならば、コンテンダーで起源弾を打ち込めばアサシンを構成する月霊髄液を無力化できる。そして英霊の契約と同時に礼装も使うアルカの魔術回路は、ショートする。おそらく自分の膨大な魔力で即死するだろう。

 そうとわかれば、迷う事はないとコンテンダーを発射する。発射されたライフル用の弾丸は、アンの仮面目掛けて突き進む。

 

「!? ぐ」

 

 その時、舞弥は驚愕した。表情に感情を現わさない彼女ですら驚く事が起こった。それまで全て身体で受け止めていたアンは、起源弾を見るや否や最低限の首の動きで回避した。一切触れることなく、元々起源弾の効力を知っているかのように。そしてアンは、自分の身体の一部をナイフの形状にして、投擲。そのナイフが舞弥の肩に突き刺さる。突き刺さった水銀はすぐに液体となり、アンの元へ帰る。だが、傷口に大量の水銀が入った事で毒が回る。

 ふら付く身体を気力で持ち直した舞弥は、閃光手榴弾を使い逃走を選ぶ。光に紛れて素早い逃走を始めた舞弥をアンは追う事はなかった。すぐに仮面を外して元の人格に戻る。そして、深呼吸する。アサシンの知識を持ち総ているアンは、衛宮切嗣とケイネス・エルメロイ・アーチボルトの戦闘を見ていた個体の記憶も持つ。其処で見た光景からコンテンダーと月霊髄液の相性と危険性を理解していたのだ。だからこその回避だった。

 

「……~」

 

 アルカの看病を任された身としては、敵は撃退しても追撃は出来ない。それにアサシンとしての毒の知識が、自分を構成する水銀の有効性を示していた。あの摂取量なら、すぐには行動できない。後は、ウェイバーや2人のサーヴァントに相談するだけ。だが、連絡はした方がいいと礼装の指輪に話しかける。

 

(ウェイバーさん)

(ウェイバーは眠ってるから、代わりに俺だ)

(ブレイカーさん。今さっき銃を持った女の人が)

(やっぱり来たか。俺の結界は作動しなかったのか?)

(結界を警戒していた所を、攻撃しました。けれど、相手が逃走したので無視しました)

(OK。いい判断だ。追い掛けた先に英霊が居たなんて事になったらシャレにならない。俺達も帰るから……御苦労さん)

(ありがとう)

 

 指輪の念話を終えたアンは、すぐに音も立てずにアルカの眠り部屋まで向かう。マッケンジー夫人の作ってくれた御粥を食べて、薬を飲んで眠ったアルカは容体が安定に向かっていた。部屋に入り、アルカの額のタオルを変えてあげる。自分のために泣いてくれて、聖杯に干渉してまで取り戻しに来てくれた友人でありマスター。彼女の左手を優しく握り、己とのつながりである彼女の令呪を見る。

 

(アルカ、好き)

 

 自身もマッケンジー夫妻に与えられた布団に入り、アルカの魔力消費を抑えるために睡眠をとる。ブレイカーの結界とアサシンとしての気配察知は、眠っていても侵入者を察知できる。そして、アンもアルカと共に夢の世界へと旅立った。ブレイカー達が海魔退治から帰還すると、仲良く手を繋いで眠る2人の姿があった。その光景が酷く緊張感をそぎ、長かった戦闘がようやく終わったのだとライダー、ブレイカーに感じさせた。

 

 

 

-----

 

ブレイカー達が帰還した後、冬木の教会には早速報酬の令呪を受け取りに来ていた人物が居た。衛宮切嗣の戦闘による後遺症で、車椅子での移動を余儀なくされたケイネス。彼にはマスターの証たる令呪が存在しない。令呪を消費したのではなく、彼の同行者であり婚約者、もう一人のマスターであるソラウに令呪を奪われた。

 婚約者であり、ケイネスが愛した彼女は、あろうことかディルムッドに対して恋を抱いていた。初めての恋の熱に魘された彼女は、あろうことかケイネスから令呪を強奪したのだ。故に、ケイネスはどうしても令呪を手に入れなければいけなかった。

 

 大人しく監督役を待っていたケイネスの所に、言峰璃正が現れる。なにやら、作業後で疲れた表情をしている。

 

「お待たせして申し訳ない。さすがに今夜は少々取り込んでいるもので」

「致し方ありますまい、ことがことですからな。隠蔽工作も楽ではないでしょう」

「いや、まあ。今回ばかりは我ら聖堂教会でも手に余る。利用できるところはできる限り利用している有様で」

「さて、神父殿。私の申告についての判定はどのように。そう、キャスター討伐による報酬の件ですが」

 

 神父は、今回のキャスターの暴挙に聖堂教会だけでは隠蔽は不可能と判断。魔術協会などに手当たり次第に隠蔽工作を行っていた。

 

「確かにキャスター討伐の戦いにおいてはランサーのサーヴァントが重要な働きを示したことが監視係たちの報告からも確認されている」

「それでは私にも令呪1画を譲り受ける資格が?」

「それなのだが、ケーネス・アーチボルト殿、現状の貴殿をマスターの1人として見なしていいものかどうか……」

「ランサーとの契約は許嫁のソラウと分散する形で結んでいるのです」

「今では魔力供給も令呪の管理もすべてスラウ女史がお1人で担っているのでは?」

 

 実に痛い所を突いてくる神父であると、ケイネスが顔を歪める。だが、令呪は何としてでも手に入れなければならないため、自分を弁護する。

 

「確かに今は令呪をソラウに預けてある、だが、契約の主導権は今も私にあるのです。第一、協会に対するマスター申告においても、名義は私個人になっているはずです」

 

 これ以上は何を言っても引かないと判断した璃正は、時臣が不利になると知りながらも、やむなく令呪の譲渡を認めた。

 

「よろしいでしょう、貴殿を資格者として認めます。さあ、ケイネス殿、手をお出しなさい。

 皆この杯から飲め、これはその罪が許されるようにと多くの人のために流す私の血、契約の血である。」

 

 神父は右腕の令呪をケイネスに向けながら、呪文を唱える。それに呼応する形で令呪の一画がケイネスの手に浮かび上がる。ようやくランサーの支配を取り返したと喜ぶケイネス。

 

「それでは引き続き、マスターとして、誇りある戦いを」

「ええ、もちろんですとも」

 

 用は終わったと背中を見せて立ち去る璃正。その背中をケイネスは懐から取り出した拳銃で撃った。油断しきっていた璃正は、銃弾を受けて倒れる。まだ息がある事を確認したケイネスが再び拳銃を倒れる璃正の頭に向けて発砲する。彼の死を確認したケイネスは、嫌悪する現代兵器に頼った自分を恥じるが、手段は選べない。

 

「今となっては1画限り、未だ不利な状況には変わらぬ。この上、ほかの連中に新たな令呪を獲得させるなど、断じて見過ごせるはずがあるまい」

 

 自分勝手な都合で監督役を始末したケイネスは、車椅子を押して教会を後にした。

 

――ー――ー――

 そして、ケイネスが令呪を授与した事を知らないソラウは、新都のビルの屋上で自分の令呪を眺めていた。

 

 

「よかった、これで報酬の令呪を受け取ればディルムッドと私は完全な形で繋がれる」

 

 初恋の相手であるランサーとの明確な繋がりを約束され、喚起するソラウ。だが彼女の意識が自分の世界に向いた瞬間、真横から忍びよる人物によって彼女の右手は切り落とされる。斬られた衝撃で転倒、何が起こったかわからず起き上ろうとするが、右手の感覚がない。

 

「私の右手、ない。右手、私の右手……あれがないとダメ、ディルムッドを呼べない。ディルムッドに構ってもらえない。右手。手、私の手」

 

 錯乱し、フェンスに残った右手を見てそれを手に入れようと手を伸ばす。だが、彼女の手を斬り落とした衛宮切嗣により気絶させられる。切嗣はキャスターの討伐より先に、舞弥が予め発見していたランサーのマスターの元へ駆け付けていた。彼は、ソラウの右手を止血すると、すぐさまフェンスに掛った右手の令呪を銃を撃つ。そして、舞弥に渡していた予備の携帯へ連絡する。ライダーの拠点から離脱した連絡を受けていた。

 

「新都でソラウ・ヌァザレ・ソフィアリを確保した。毒の方は?」

『毒は少量です。念のため傷口から水銀を抉りだしました。問題ありません』

「わかったよ。直にランサーも戻ってくるだろう。古典的な手段だが、奴等はこれに縋るしかない」

 

 ソラウの体を抱えた切嗣は、その場に一枚の紙を置いた。其処には、マッケンジー宅の住所が記され、今から24時間後までにブレイカーとライダーを討ち取らねば、ソラウの命はないと書かれていた。

 

「これ以上奴等に引っかき回されるのは御免だ」

 

 そう言い残し、切嗣はビルの階段を下りて行った。その場に残ったのは、彼女の手と血液、そして切嗣の残した手紙だけだった。

 

――ー――ー―――

 

 視点が変わり、聖堂教会から抜けだした言峰綺礼は困惑していた。彼はある人物を背負い、その人物の拠点へと連れてきてしまった。それは時臣との戦闘でビルから落下した間桐雁夜だった。綺礼は、己の中に沸き上がる正体不明の感情に踊らされ彼を得意の魔術で治癒し、間桐の家に送り届けてしまった。

 

(間桐雁夜を助けるなど、紛れもなく我が師の仇となる。言い訳の余地のない、謀反だ。しかし、これはなんだ、後悔ではない。まさか私は高揚しているのか?)

 

 言峰は、自分の感情に驚く他なかった。

 

 

ー―ー――

 

 

 

「この無能めが、口先だけの役立たずが、女1人の身を守ることもままならぬとは。騎士道が聞いて呆れるわ」

「面目次第もありません」

 

 海魔を打ち倒したランサー。彼は、セイバー達と別れ主の許嫁の元へと戻った時、屋上には彼女はいなかった。あるのは彼女の右手と血液、そして明らかに脅迫を含んだ文書。主の許嫁を何者かに攫われたまま、ランサーはケイネスの元に帰るしかなかった。当然、ケイネスが激昂する。

 

「一時の代替とはいえ、己のマスターを守り仰せることすら叶わんで、いったいなんのためのサーヴァントだ? よくも1人でおめおめと帰ってこられたな」

「恐れながら主よ、正規の契約関係になかった、私とソラウ殿では互いに気配を察知することもままならず」

「なればこそ、細心の注意を払ってしかるべきだろうが?」

「主よ、しかしまだソラウ殿は生きておられます。私への魔力供給は淀みなく」

 

 主の怒りはもっともであり、しかし自分には主の許嫁を見つける手段はない。

 

「そんなこと、分かったところで正規のサーヴァントでないお前に居場所が察知できなければ、無意味であろうが!! あぁソラウ、やはり令呪を渡すべきではなかった」

「お諌めしきれなかったこのディルムッドの責でもあります」

 

 主は自らの顔を両手で覆って、後悔の念を吐きだす。

 

「よくもぬけぬけと言えたものだな。惚けるなよランサー、どうせ貴様がソラウを焚き付けたのであろうが!」

「断じてそのようなこと」

 

 主が身に覚えもない事を言うため、それに対して平伏するランサーが反論を口にしてしまう。それが油に火を注ぐと知っていながらも黙ってはいられなかった。

 

「まさに伝説どうり、主君の許嫁とあっては色目を使わずにはいられない性なのか?」

「我が主よ、どうか今のお言葉だけは撤回を!」

 

 彼の言うその言葉だけは、ランサーは許せなかった。

 

「勘に触ったか? 無償の忠誠を誓うなどと綺麗事抜かしておきながら、所詮劣情に駆られて獣が」 

「ケイネス殿、なぜ、なぜ分かってくださらない。私はただ単に誇りを全うし、あなたとともに誉れある戦いに臨みたかっただけのこと」

「聞いた風な口調を聞くな。サーヴァント! 身の程を知れ、所詮魔術の技で現身を得たというだけの亡者が。主に対して説法するなど、烏滸がましいにもほどがある。

 悔しいと思うなら、そのご大層な誇りとやらで我が令呪に抗ってみせるがいい? 叶うまい? それがサーヴァントという傀儡のからくりだろうが」

 

 拳を握りしめ歯茎から血が出る程、奥歯を噛み締める。するとケイネスはランサーへ渡した住所の書かれた紙を見る。その場所しか手掛かりがない以上、其処に居るライダー達を打ち倒すしかないのだろう。だが、もうじき夜明けであり、仕掛けるなら日が落ちてからという事になる。

 

「このディルムッド。必ずやブレイカーとライダー討ち取り、主の許嫁を攫った下郎をも仕留めてみせます」

「黙れランサー! 当然の事を改まって言うでない!」

 

ー--------

 

そして日が昇り、昨日の海魔事件は正体不明の怪奇現象、UFO、誰かの大規模ないたずらなど情報を数多く掲示する事で情報を攪乱。さらに科学での検証が出来ぬ現象である事が、さらに謎を深くした。そうした情報処理を食卓のテレビでウェイバー、ライダー、アン、そして元気になったアルカが見ていた。

 

「やはり冬木は物騒になったなマーサ」

「本当に。ウェイバーちゃんも出掛ける時は、気を付けてね」

「わかってるよ。けど、こいつといて襲われる気がしないんだけど」

「だな。奥さん、彼は私が守りますんでご安心を」

 

話を振られたライダーが、己の逞しい肉体美を見せ付けながら宣言する。確かにどんな暴漢でも彼だけは相手したくないだろう。熊にナイフ一本で立ち向かうようなものである。

 

『アルカ』

「……ん?」

 

未だに発声出来ないアンは、スケッチブックの他に単語が書かれた単語帳をアルカに見せる。

 

『ご飯、頬』

「……ありがとう」

 

フォークとスプーンでお茶碗のご飯を食べていたアルカの頬に込め粒がついていた。それを指摘されたアルカは指で取って礼を言う。一日安静にした結果、体力が回復した彼女は朝食をおかわりしていた。

 

「それにしてもよく食べるな。そういえば少し背が伸びたんじゃないかね。成長期なんだから良いことだ」

「そうね。アルカちゃんがご飯いっぱい食べてくれて嬉しいわ。あらアンちゃんもお手伝いありがとう」

『ごちそうさま』

「おそまつさま」

 

先に食べ終わったアンは、自分の食器を台所の洗い場に運んでいた。そして単語帳を見せる。アンもマッケンジー夫妻の人柄を好み、積極的にお手伝いしていた。アルカも手伝いをするようになったのだが、お姉ちゃん風を吹かしたいアンの方が積極的なのだ。

 

「……ごちそうさま」

「はい、おそまつさま。あら、ウェイバーちゃんの部屋に皆行くの?」

 

既に食べ終わったライダーとウェイバーは自室に。そしてアルカとアンも二階に上がっていく。

 

「……遊ぶ」

『ゲーム、見る、です』

 

純粋にウェイバーとアレクセイの買ってきたゲームに興味を持ったと言われ、マッケンジー夫人は微笑みながら「後で御菓子持っていくわね。後テレビに近寄り過ぎちゃダメよ」と言い残して部屋に戻った。

 

階段を上る二人。ウェイバーの部屋の扉を開けて入ると、ウェイバーとライダーは買ってきたゲームを早速プレイしていた。

 

二人して説明書を読みながら、ぎこちなく対戦していた。その光景をベッドに座るブレイカーが見学していた。

 

「だいたい、コツはつかめてきたぞ。油断してたらすぐに討ち取ってやるからな」

「嘗めるでないわ。余の帝国を攻め落とすことなど不可能よ」

 

二人は交互に戦術を駆使しながら、周囲の国を巻き込んで戦っていた。登場する諸外国の名前があアーチボルト国、マトウ国、トオサカ国、アインツベルン国と記されているのは、完全な悪意である。それらが自動で動いて戦闘を盛り上げていく。

 

「アーチボルトがアインツベルン国の罠に嵌まってるな。名前は影響力あるんだな」

「おぉ、トオサカ国も派閥が出来ておるぞ。これはクーデターの前兆か」

「実際に起こる現象なら笑うな。聖杯戦争のミニチュアみたいだな」

 

ウェイバーとライダーは、真剣に遊んでいた。ブレイカーは名前と実際のリンクを疑う。妙に面白い展開が続いていた。

 

「……ウェイバー。私もやる」

『私もアルカとやりたいです』

 

ずっと見ていた子供達だが、中々奥が深いゲーム故にライダーとウェイバーは、二人が楽しめるか分からなかった。ただ、駄目だと言うのも可愛そうなので、途中参加でアルカ国を作る。彼女達が準備が完了するまで不可侵条約を強制されるシステムだったため彼女達は安全にゲームできた。

 

「じゃ始めるか坊主、小娘達」

「あぁ」

「……ん。勝つ」

『ふふふ』

 

やるからには負けるつもりはないと、4人は意気込む。後ろで見学しつつ、アルカ達のサポートをしていたブレイカーは思った。唯一不気味な存在感を発するアンが、一番のくせ者だと。

 

そこから一時間かけてウェイバーは着実な戦術を、ライダーは豪快な戦術を駆使して勝利を目指していた。だがアンとアルカは軍備の増強などはせず、戦争も仕掛けない。ただ、訓練と周囲との和平を行う。

そして、ゲームの終盤でそれは起こった。

 

「あーーーーー!!! 暗殺された!?」

「なんと! 余も討ち取られただと」

 

終盤、互いに大陸を二つに分けて最終決戦と言うとき、二人のキャラクターが暗殺され敗退したのだ。二人は同時に暗殺され、暗殺した国を見て驚く。

 

「……アン、すごい」

『アサシンですから』

 

ウェイバーとライダーは、忘れていた。今は少女の姿といえ、彼女は時の権力者を葬ってきた英霊なのだ。アンは周囲の国を利用し、ウェイバーとライダーを焚き付け、完全に自分達から意識を反らしたのだ。

 

「僕らは……手の上で踊らされたのか」

「末恐ろしい小娘達よの……鳥肌が立つわい」

「はははは、やばい。つぼに入った。はははは」

 

ベッドの上でブレイカーが、腹を押さえて笑う。苦い顔をする二人の主従を放置しアンがゲーム内で天下を取った。プライドが傷付いた二人はアルカとアンに再戦を要求。ウェイバーが御菓子を献上する形で承諾。

再びゲームを開始した。今度はブレイカーも参加したのだが。

 

「馬鹿な……建国一年でブレイカー国が……」

「もしやと危惧したが、やはり貴様勝負事には弱いのブレイカー」

「戦う前に自滅って……下手以前の問題だぞ」

「……私の英霊、弱い」

『次があります』

 

トランプもそうだが、勝負事にめっぽう弱いブレイカーだった。アンに慰められるが落ち込んで部屋の隅で三角座りしていた。特にマスターからの駄目出しが効いた。

 

「今度は油断しない。暗殺対策だって万全だ」

「余も抜かりはない」

『うふふ』

「アン、良い笑顔」

 

結果、今度は暗殺されることはなかった。だが、ウェイバー国はアルカに煽動された他国の攻撃で基盤を築く前に壊滅。一方ライダーは、戦に強かったがアンが彼の征服先を兵糧攻めにし続け、ライダーが戦争に勝つ程食料不足になる。兵糧攻めの負債を背負ってライダーの征服はゲーム時間の半年で終幕した。

 

「無理だ……僕らじゃ勝てない」

「余の時代に小娘達が居たらと思うと、ダレイオス三世以上の天敵になったであろうな」

「……勝った」

『完全勝利』

 

もうだめであった。アルカとアンは目が疲れたと殿堂入り。二人を除いて遊ぶことになった主従とブレイカー。彼等は平和な時間を過ごしていた。その時はまだ、自分達が狙われて居るなど考えもしなかった。

 





 アンの宝具がさっそく登場しましたね。全体的に戦闘時は体重が水銀のそれに戻るので、それがアンの戦闘経験不足と合わさって多少のハンデとなっています。

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