Fate/make.of.install   作:ドラギオン

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アルカの涙

「アン……こっち」

「マスター。お前は知っていただろう」

「な、なんだって。おい、ライダー、ブレイカー。お前達は、アンがアサシンだって知ってたのか?」

 

 アンの正体に驚いたウェイバーは、怒りに打ち震えながら2人の英霊に詰め寄る。何も答えない彼等に、沈黙こそが答えだと突き付けられる。さすがにショックを受けてよろめく。全く英霊だと気がつかなかった事もそうだが、アンと敵対する事など考えてもいなかった。むしろ、自分達はアンを殺さなければいけない、そんなことしたくはなかった。

 

「アーチャー、これは貴様の計らいか?」

「時臣の奴、下らん策を」

 

 ライダーがアーチャーが初めから仕込んだ策か問うが、彼は否定する。おそらくアーチャーのマスターとアサシンのマスターの策略なのだろう。この場にこれだけの人数を集めたという事は、やる気なのだろう。

 

「なんて数なの?」

「我等は個にして群、群にして個のサーヴァント」

 

 どの個体かは謎だが、アサシンのうちの一体がそう語る。そして、全てのアサシンが己の刃をブレイカーやライダーのマスターへと向ける。この数がいっぺんに攻めてくれば、どれだけ弱い英霊とは言え、マスターに一撃を喰らわせられる。

  

「落ち付け坊主。奴らは戦いに来たとは限らん。宴に参加しに来ただけやもしれん」

「あんな奴らまでも宴に迎え入れるのか征服王?」

「当然だ。王の言葉は万人に向けて発する物、わざわざ宴に足を運んだのなら、敵も味方もありはせん」

 

 そう言うとライダーは、酒樽から酒を酌みとり、上に掲げる。

 

「さぁ遠慮はいらん、共に語ろうという者は、此処に来て杯を取れ。この酒は貴様等の血と共にある」

 

 征服王がそう宣言して、時間をおかずに返答としてナイフが投擲。ライダーの持つ酌が壊れ、彼のお気に入りのシャツをワインが赤く染める。その返答に残念だと立ち上がったライダー。

 

「成程、この酒は貴様等の血と言った筈、あえてぶちまけたいというなら、是非もない」

 

 そう言った時、ライダーの目には怯えながらもカタカタとナイフを持つアンの姿も見えた。だが、令呪か何かで命令された以上、彼女が戦わない術はない。イスカンダルは、瞬時に胴鎧姿になり、魔力を迸らせ風を起こす。その風は周囲を襲いながら、全員の目を彼に向ける。

 

「セイバー、そしてアーチャーよ。宴最後の問いだ、王とは孤高なるや否や」

「王ならば孤高であるしか、ない!」

 

 ライダーの問いにセイバーは答え、アーチャーは視線だけで当然だと語る。

「駄目だな。全くもってわかっておらん。そんな奴等には今ここで、余が真なる王の姿を見せつけてやらねばなるまいて」

 

 彼がそう言った時、世界が光に包まれる。そして光が全てを飲み込んだ時、皆が目を開いた先にあった光景。それは、先程までとは打って変わり広大な砂漠と雲一つない青空だった。世界が変わったとしか言えない状況に、迷っていたウェイバーと、アンの所に行きたいアルカを抑えるブレイカーも目を奪われた。そして、セイバーやアサシン、そしてアンも突然変わった世界に驚いていた。

 そして、先程までアサシンが包囲していた状況から一変、ライダー達とアサシン達は向かい合うように配置されていた。ただ一人、アンだけがアサシン達からも離され、ブレイカー達の近くに存在した。

 

「固有結界ですって? そんなバカな!」

 

 アイリスフィールがこの現象を解明したが、固有結界を知っているからこそ否定する。固有結界は自身の心象風景の具現化であり、魔法に最も近い魔術の一つでもある。それを何故、キャスターでもないライダーの英霊であるイスカンダルが使えるのかが分からない。

 

「ここは、かつて我が軍勢が駆け抜けた大地。余と苦楽を共にした勇者たちが等しく心に焼き付けた景色だ。」

 

 彼の言葉を聞いていると、背後から無数の足音が聞こえ始める。

 

「この世界、この景観を形にできるのは、それが我ら全員の心象であるからだ」

 

 両手を広げ、この世界に君臨するのは自分だと宣言するように、彼は言葉を続ける。全員が足音に振り返れば、其処には……。

 

「見よ。我が無双の軍勢を。肉体は滅び、その魂は英霊として世界に召し上げられて、それでもなお余に忠義する伝説の勇者たち。

 彼らとの絆こそ我が至宝! 我が王道! イスカンダルたる余が誇る最強宝具、王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)なりぃー!」

 

 其処には、数千を超える数多の戦士達が居た。それもただの戦士では無かった。王の言葉に賛同し、固有結界中に響く程の勝ち鬨を上げた兵士達。その姿を見たアーチャーを除いた全員が戦慄する。

 

「冗談きついぞライダー。なんだこの軍勢」

「こいつら、一人一人がサーヴァントだ」

 

 そう。数千数万にも及ぶ軍勢を構成するのは、全てが英霊なのだ。そのような規模の英霊を召喚出来るライダーは、まさしく至高の英霊と行っても憚られないだろ。それらを構成するのは、英霊たちですらも繋ぎ止めるライダーとの絆。軍勢から一体の黒い軍馬が、ライダーに駆け寄り、ライダーはその愛馬を撫でると背後に構える軍勢に語りかける。

 

「王とは! 誰よりも鮮烈に生き、諸人を魅せる姿を指す言葉!」

「然り! 然り! 然り!」

「すべての勇者の羨望を束ね、その道標として立つ者こそが、王。故に! 王は孤高にあらず。その偉志は、すべての臣民の志の総算たるが故に!」

「然り! 然り! 然り!」

 

 征服王イスカンダルの言葉に、臣下たちは槍を掲げながら、同意する。臣下たちの返答に満足げな征服王は、群場に跨り、アサシン達へと向く。

 

「さぁ始めるか。アサシン共、見ての通り我らが具象化した戦場は平野。生憎だが数で回る此方に地の利はあるぞ。……いくぞ! 蹂躙せよ!!」

「「「--------!!!!!!」」」

 

 腰の剣を抜き、軍馬を走らせた王に続いて英霊たる彼等も駆け出す。向き合うアサシン達は、戦意喪失して逃げ出す。だが、ここはイスカンダルの空間、逃げ場など何処にもありはしない。戦意を無くした女のアサシンの首を、一早く駆け抜けたイスカンダルがはね飛ばす。それからは、臣下たちが槍を投げ、剣を振るい、抵抗する個体であっても数で殲滅する。一つの個体を分裂させたアサシンでは、一人一人が完全な英霊であり、数千倍の規模を誇る軍勢に勝てるはずもなかった。全てのアサシンが消滅し、ライダーが勝利を雄叫びをあげる。それに続いて進化達も砂漠中に響く勝利の声を上げた。

 

 

 

 

「絶対駄目!!!!!」

「マスター!!」

「アルカちゃん」

「アイリスフィール下がって」

 

 そう。アサシンは壊滅したが、全滅はしていなかった。まだ、涙を浮かべながらアルカとブレイカーにナイフを向けるアンが存在していた。そして、アサシンを倒すということは、アンを殺す事だと知るアルカが、癇癪を起して魔力を放出する。その勢いが凄まじく、ブレイカーも手古摺っていた。

 それを見たライダーが馬を駆けさせ、すぐにアルカとウェイバー、そしてアンの間に入る。彼女を見る目は、酷く痛ましく、重みのある目だった。 

 

「!!…!!!!……!!!!!」

「アサシンの小娘……いや、アンよ。よくぞ、盟友(とも)を守った」

 

 ライダーの前に居るのは、全身を赤い魔力の戒めに合いながら、苦しみ、それでもなおアルカやウェイバーを傷付けたくないと歯を食いしばる少女だった。アサシン全体に掛けられた令呪故に効果は多少薄かっただろうが、対魔力もなく、弱い個体であるアンが、令呪に逆らうなど地獄の苦しみの筈。バチバチと身を焼かれ、今すぐにでもアルカに飛びかかりそうな筋肉を無理矢理押さえ、骨が軋む。正しく、少女は友を守るために戦っているのだ。

 それは、英霊であろうが無かろうが、その在り方は讃えられるべきである。一歩一歩進みそうになる足を必死に戻す。たった一日しか一緒に居られなかった人達、記憶もなく言葉もしゃべれない自分と友達になってくれた女の子。怖い事もあったけど、楽しく、愛しい時間だった。その想いが、アンを令呪に抵抗させる力となっていた。

 

 

「アン!……はなして」

「アンの気持ちを無駄にする気かマスター」

「ブレイカー、アルカを抑えててくれ。……ライダー」

 

 ブレイカーにアルカを抑えておけと言い、目に涙を浮かべ泣きだす事を堪え……ライダーを連れてアンの元へ向かう。その震える背中にライダーも心配そうに声を掛ける。

 

「坊主。これは余がやる。お前が背負う必要は」

「黙ってろライダー! アンを拾ったのは僕だ。僕が、僕がケジメをつけなきゃならない」

「わかった。だが、覚悟しろよ。共に過ごした幼子を殺すなど、まともな神経では耐えられん」

 

 そう言ってライダーはウェイバーの傍に立つ。ウェイバーでは、どうやっても英霊であるアンは殺せない。なら、殺せるライダーが介錯するしかない。それでもウェイバーは自分の命令でアンを殺すと決めたのだ。アルカを守るため、アンの頑張りを無駄にする訳にはいかない。

 

「!!!」

「ごめんなアン。僕を怨んでくれ、でもアルカだけは……」

 

 自分に近づくウェイバー。彼が近寄るたびに令呪の効力が発揮される。首を振りながら、近寄らないでと声にならない声をあげる。でも、ウェイバーは逃げない。逃げる事はアンに対する裏切りだ。今もこうして令呪の縛りに抗い、苦しむ、少女。それを前に自分が苦しいなど言えるわけがない。

 

「ライダー。楽にしてやってくれ」

「あいわかった。……アン。余はお前の事を誇りに思おう。幼き姿ながらも、貴様は一人の英雄だった」

 

 

「……アン、我慢しなくていい。おいで」

 

 これ以上苦しめる事はないと、ウェイバーはアンに来るように言った。その真意を知ったアンは、頷きながら令呪への抵抗を止めた。そして、英霊としての身体能力で駆けだしたアンは、ウェイバーにナイフを刺す前に。

 

「さらばだ!」 

「アン!!!!!」

 

 ライダーによってその小さな体を斬り伏せられた。血がライダーの刃と同鎧、ウェイバーの頬に振り掛る。目を逸らす事なく、自身の目の前で左胸から右腹まで斬られたアンを見た。白いワンピースを赤く染め、背後に倒れ行くアンの顔は穏やかだった。そして、彼女のポケットから、折り紙の鶴と折りたみ大事に持っていたアルカに貰った一枚の絵が、空を舞う。

 

 

「ーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 そして、砂漠に倒れ込んだアンの姿を見たアルカの瞳から雫が零れ落ちた。それは、アルカが新たに得た悲しみであり、慈しみの心だった。しかし、その感情は最悪な状況で芽生えてしまった。感情で魔力を溢れださせるアルカは、次から次にあふれ出る涙に比例して、魔力を絞り出していく。その勢いは、アルカの月霊髄液に影響し、本来のサイズに戻った水銀がブレイカーを襲う。その攻撃を素手で防いだブレイカーだが、アルカを解放してしまう。今までにない程声を上げ、我武者羅に泣きわめくアルカ。

 彼女の心象を現わすように、水銀の形状が二つの鎌を持った怪物のように変化して行く。

 

 

「ライダー! 固有結界を解除して逃げろ! 今のマスターはお前を殺せと令呪を使いかねない」

「アルカ……」

「アルカよ。余に怒りをぶつけるのは当然だ。お前にはその権利があろう。だが、その前に」

 

 ブレイカーがアルカの暴走を止められず、何度も振るわれる水銀の鎌を拳で弾く。そして、ライダーに逃げるように言う。ウェイバーは年相応に泣きだし、感情を爆発させるアルカに戸惑う。だがライダーだけは落ち着いた口調で。背後に倒れるアンに目を向ける。

 

「お前も友の最後を看取ってやれ」

「アン」

 

 ライダーは既にアンのナイフを回収、アンも虫の息で令呪の効力も既に切れている。もし、アンが再び牙を剥いても月霊髄液の自動防御とライダーそしてブレイカーを突破する事は不可能。ならば、別れの挨拶をとライダーは言い、アルカは一瞬怒りを治めてアンに駆け寄る。

 

「アン、アン! うぅう」

「……」

 

 自分に駆け寄ってきたアルカ。既に現界する魔力もない。彼女を構成する霊核が崩壊し、全身が粒子になっていく。そんな彼女の手を握り、アルカが泣く。これほどまでに感情を露わにするアルカは、誰もが初めて見た。涙や勝手に起こるグズリに翻弄されながらも、アルカはアンに治癒を掛ける。だが、アンは既に治癒では修復せず、魔力が垂れ流されていく。アンは、最後の力を使って指で砂に文字を書く。

 

『アルカ、ともだち』

「……ん、うん。うううう」

『だいすき』

 

その文字を書き残し、アンと名付けられたアサシンの少女は、消滅した。固有結界内にアルカの悲鳴じみた鳴き声が響いた。ウェイバー、ライダー、ブレイカーは彼女に言葉をかけられず、セイバーとアイリはアルカの心境を察して顔を伏せる。

 

「おい、小娘。貴様の欲望は、取り零したソレを容認するのか? 」

「アーチャー、貴様は何を少女に吹き込むつもりだ!」

「黙っていろ騎士王。我が話している。貴様がやっているのは、道具を持ちながらも使わない行為だ。この世界は無駄に満ちている。だが、我は有益なものを吐き捨てる行為だけは許さん。もう一度だけ、人類最古にして、全てを統べる英雄王たる我が聞いてやろう。

貴様はその力を使わぬのか……小娘」

「これ以上、追い込むな金ぴか」

「すまないアーチャーさん。無視はできない」

 

 

静寂を破ったのは、英雄王と名乗るアーチャーだった。その場にいたセイバーとアイリ、ウェイバーは真名を名乗る彼に驚く。ブレイカーとライダーは、何処か理解していた様子だが、アルカに付け込まれる訳にも行かず、アーチャーに立ち塞がる。

 

「……ひっぐ」

「浪費するのも、また人の業だがな。お前のは廃棄に等しい。使わぬのなら、殺して俺の蔵にでも追加してやろう。誇るが良いぞ雑種」

「……ん。アンを返して」

 

英雄王の言葉は、アルカの心に何かを与えた。殆どの人間から悪辣としか写らない英雄王ギルガメッシュを、唯一理解しようとしたアルカ。英雄王の在り方に価値を見出だしていたアルカだからこそ、彼の言葉を理解できた。

 

-----私の力は、誰かを思う純粋な気持ち、祈りよ。

 

 

消滅した英霊の魂は、本来座に帰る。しかし、聖杯戦争のシステムは、座ではなく聖杯に吸収させるのだ。アルカは魔眼でアンの魂を捉えた。それは、空に漂いながらある場所に向かっている最中だった。

 

「返して。アン、友達」

「アルカ、何を」

「見ておくが良い雑種共。奇跡の体現を目にする機会など、そうあるものではない」

 

アルカが空に向かって手を伸ばす。その光景と彼女の必死さに気圧される。ギルガメッシュだけが、その行いを是とした。

 

「霊核の補足、霊体の権限奪取、媒体、月霊髄液」

「これは、あり得ない」

「アインツベルン、アルカは何を?」

 

聖杯の運び手のアイリスフィールは、アルカの行為を理解した。彼女が行おうとしているのは、聖杯戦争のシステムへのハッキング。聖杯へと向かうアサシンの魂を横から奪うつもりなのだ。

 

「……われは常世すべての善となるもの。我は常世すべての悪を敷くもの。……なんじ三大の言霊をまとう七天、戻って、アン!」

 

彼女の足元で、英霊召喚の魔方陣に形を変えた月霊髄液。それは、アルカの召喚に従い、水銀は形を変える。

アルカのアンを別れたくないという祈りが、彼女に力を与え、奇跡を起こす手助けをする。アサシンが消滅した直後、聖杯であるアイリが側に居る。そして、ライダーの固有結界の中、つまりは英霊が現界しやすい世界。それらの要素が全て集まった今奇跡は起こるべくして起こった。

 

「アルカ、お前は本当に……すごい」

「こんな事って」

 

ウェイバーとアイリが目の前の光景に、信じられないと言う顔をする。彼らの前では、アルカが居た。心底疲れたようで、肩で息をしながら左手の甲を見る。

 

「令呪。アイリスフィール、彼女がアサシンのマスターになったと言うことですか?」

「いいえ、アサシンは既に脱落しているわ。あれは、アサシンの欠片を召喚したんだと思う」

 

アルカの左手の甲には、四角形1画の令呪が浮かび上がっていた。左右の手に令呪が浮かび上がったマスターとしてアルカは存在していた。

 

「英雄王よ。貴様、小娘の正体を知っておるのか?」

「知らん。だが剣を見れば王であろうと無かろうと、其が振るうものだと理解するのと同じだ。あれはそう言うものだから、出来ただけだ」

「魔術師共に狙われる訳だ」

 

アーチャー、ライダー、ブレイカーの男三人は、アルカの前に立つ存在を見ていた。

 

「アン」

「……!!!」

 

アルカの前には、月霊髄液が形を変え、友人の姿に変化していた水銀。元々降霊科の教師であるロードエルメロイの礼装は、少し以上に霊を宿らせる性質を持っていた。

アルカは、月霊礼装に英霊を召喚した。月霊礼装にアンと言う魂が入ったことで、相応しい形に変形した。

銀色の自身の体と再び蘇った事に驚いてしまう。

 

「大丈夫」

「!」

 

アンが戸惑う様子に、アルカが彼女の手をとる。すると、彼女の元の姿に合わせて、水銀の色や質感が変化していく。正確にはアルカが内包する魔術で、アイリスフィールというホムンクルスを真似たのだ。

 

「……ねむ」

「マスター」

 

完全にアンの魂に相応しい状態に変化した月霊髄液、改め英霊髄液を完成させたアルカ。彼女は友人が帰ってきた事と魔力の過剰な使用で意識を失った。

突然糸が切れたようなアルカを支えたアン。そして駆け寄ってきたブレイカーが彼女の体を抱き上げる。ウェイバーもすぐにアルカに駆け寄って様子を見る。

 

「大丈夫だ。命に別条はない」

「そうか、よかった。それにアンも……僕がこんな事言うのも、おかしいけど。おかえり」

「!」

 

 アルカの身の安全が分かり、様子を見ていたアンの頭を撫でながら、ウェイバーが言う。自分で殺す決断をした少女が生き返った。だが、どんな顔で顔向けすればいいのかわからなかった。けれど、ウェイバーの気持ちはしっかりと受け取っていたアンは頷く。

 

 

そうしたところでライダーの王の軍勢が解除された。元のアインツベルンの庭園に戻った一同。

目の前で起こった奇跡と奇跡を成し得た少女アルカに向かった視線を、ライダーが自分に向けるように振る舞う。

酒樽から再び酒を酌みとり、それを一口で飲み切る。そして一息ついた彼からは、これ以上追及は許さないという空気が伝わった。

 

「色々、聞きたい事はあると思うが……今宵はこの辺でお開きとしようか」

「ふん」

「待てライダー、私はまだ……」

 

 セイバーはまだ納得した訳ではなかった。ライダーの弁やブレイカーの疑問に答える事が出来なかったが、セイバーは自分の願いを無意味だとは思っていなかった。アサシンやアルカの事で気を取られたが、そこだけは忘れていなかった。

 

「不躾ながら俺が言わせてもらう。少なからず自分の中で矛盾を取り除かない限り、アンタの願いは叶わない」

「な」

 

 それに対してライダーも続ける。剣を振り下ろし、神威の車輪を召喚しながら、言う。  

 

「なぁ小娘よ。いい加減にその痛ましい夢から醒めろ。さもなくば貴様は、いずれ英雄としての最低限の誇りさえも失う羽目になる。貴様の語る王という夢は、いわばそういう類いの呪いだ」

 

 召還した神威の車輪に乗り込み、ウェイバー達も無事に乗り込むと彼は戦車を空に向かって走らせた。ライダーとブレイカーの言葉に悩む表情をするセイバーにギルガメッシュが話しかける。

 

「耳を傾ける事はないぞセイバー。お前は正しい、己が信じる道を行くがいい。その身に余る王道を背負い。苦しみに足掻く、その苦悩、その葛藤。慰み者としてはなかなかに上等だ」

 

 そう言いながら、英雄王は自身も立ち去るべく、セイバーと愛理の背中を見せる。

 

「精々足掻けよ騎士王とやら。事によるとお前は、更なる我が寵愛に値するやもな」

 

 そして機嫌良く笑い声を残しながら、アーチャーは霊体化してその場を去る。あらゆる要素や謎を含んだ王の宴、聖杯問答は終わりを迎えたのだった。アサシンの消滅とアンの復活、アルカの異常性、アーチャーの真名、ライダーの宝具。そして、セイバーの中に宿った迷い。

 

「セイバー?」

「いえ、生前に臣下であった人物に言われた事を思い出したのです。アーサー王は人の心が分からないと言って、嘗てカムランを去った騎士の事を。あれは円卓に集った騎士たちの誰もが抱いていた言葉なのかもしれません」

 

 悲しげに空を見るセイバーには、何が見えているのかアイリにはわからない。だが、彼女が思い悩んでいる事だけはわかった。

 

 

 

tobecontinued

 

 

 




『クラス』アサシン(偽)
『真名』アン(ハサン・サッバーハ)
『マスター』アルカ・ベルベット
『性別』女性
『身長・体重』134cm 200kg(水銀の重量、魔術で重さは軽減)
『属性』秩序・悪

筋力 E 魔力 D
耐久 E 幸運 A
敏捷 A 宝具 ?

クラス別能力

気配遮断:A+
 自身の気配を消す能力。完全に気配を断てばほぼ発見は不可能となるが、攻撃態勢に移るとランクが大きく下がる。

保有スキル

単独行動:E
 マスター不在・魔力供給なしでも24時間現界していられる能力。

変身:B
 自らのカタチを変えるスキル。元々水銀で形成されているため自在に身体を変形可能で、攻撃を受けた時、瞬時に再生などができる。さらに礼装本来の攻撃方法や機能も備えている。


『宝具』
 ???



 どうしても、別離なんて悲しすぎてできませんでした。

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