Fate/make.of.install   作:ドラギオン

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聖杯問答2

「アーチャー、なぜ此処に」

「いやぁな、街でこいつの姿を見たんで誘っておいたのだ。遅かったではないか金ぴか、まあ、余と違って徒歩なのだから無理もないか」

 

 黄金のアーチャーは、呼び出されたこの場所が気に入らないのか、忌々しげに見て吐き捨てる。彼のプライドのように彼の求める基準も限りなく高いのだ。

 

「よもやこのような鬱陶しい場所を王の宴の場に選ぶとは、我にわざわざ足を運ばせた非礼をどう詫びる?」

「まぁ硬いことを言うでない、ほれ駆け付けに一杯」

 

 アーチャーが来た事でその場の空気が凍る。セイバーは警戒し、ウェイバーも少しだけ距離をとる。アイリも危険な性格をしたアーチャーに恐怖を感じるが、ブレイカーが護るように彼女達の前に立つ。

 

「……次、お姉さん」

「え」

『あの金色の人、怖くないの?』

 

 アルカだけ状況に呑まれず、未だにトランプを続けたがる。それにアイリと同じく彼を警戒するアンが質問する。だがアルカは黄金のアーチャーと目が合う。深紅の瞳は全てを見下し、見る物の心に畏怖を抱かせる。だが、アルカだけは違った様子。

 

「……ブレイカーがいるから。それにあの人は綺麗、怖くない」

 

 そう言ったアルカの声を聞き取っていた黄金のアーチャー。彼はライダーの手渡した酒を受け取りながら、七色の瞳を持つ金髪の子供を見る。気に障った様子はなく、むしろ何かを評価するような表情であった。

 

「ほう。幼童ながら、我の威光を前に、正直な賛美を述べるか。中々どうして、見どころのあるマスターではないか。そこな雑種よ、特別に俺が許そう。今宵の席に限り、小娘共好きにせよ。そこな人形よ、しかと小娘共の相手を努めよ」

「……意外ですアーチャー。貴様なら、あの子たちをすぐ八つ裂きにでもするかと思いましたが」

 

 セイバーは子供たちに寛容なアーチャーの態度に驚いていた。だがアーチャーがそれに対してセイバーを見下しながら答えた。

 

「ほざくな雑種。大古より子供とは遊戯に興じる事で事で学ぶのだ。それは怠惰ではなく本能だ。なれば、学びより成長しようとする存在を邪魔する事こそ、愚劣であろう。教育とは、教えるだけで道を閉ざす事ではないのだ。

それに、あの小娘は見所がある、我を恐れず曇りなき眼で理解しようとする好奇心の塊。いや、好奇心の化身だ。あれが全てを吸収し成長した先にどのような存在になるのか、些か興味があるぞ。見栄えも雑種にしては悪くない、10も時が流れれば、さぞかし映えるだろう」

「まぁ、余も面白い小娘とは思ったが、見る目はあるようだな金ぴか」

 

 其処まで言ってアーチャーは、本来の目的である宴へと意識を向け、受け取った酒を一口飲む。だが、味がお気に召さないのか顔を歪め、不満を漏らす。普段の彼ならそれを床に投げ捨て、怒りをあらわにしただろうが、さすがに宴の趣旨を理解しているのか苦言にとどめた。

 

 

「何だこの安酒は、こんなもので本当に英雄の格を量れるとでもおもうたか?」

「そうか? この町の市場で仕入れた中じゃ、こいつは中々の逸品だぞ」

「そう思うのはお前が本当の酒という物を知らぬからだ雑種めが」

 

 アーチャーはそう言うと手元から、黄金の空間の歪みを発生させる。それはアーチャーの攻撃の際に使用される能力だった。しかし、其処から取り出したのは武器ではなく黄金の酒器だった。それが床に静かに着地する。

 

 

「見るがいい、そして思い知れ、これが王の酒というものだ」

 

 

そう言ったアーチャーの言葉と酒にライダーが嬉しそうに食い付いた。アーチャーは更に3つの黄金のコップを取り出し、セイバーとライダーに投げ渡す。受け取ったライダーは、黄金の酒器から芳醇な香りのワインを全員に注ぐ。セイバーもアーチャーもそれを受け取り、3人の王が同時に口に含んだ。

 

 

「むっほーうまい!!」

「うまい」

 

 アーチャーの酒を飲んだ二人は、その旨すぎる味に驚く。アーチャーはその様子こそが当然だとばかりに自慢げに自身の酒を煽りその味に口元を緩める。

 

「酒も剣も、我が蔵には至高の財しかあり得ない。……これで王としての格は決まったようなものであろう」

「ふん、アーチャーよ。貴様の極上の酒は、まさしく至宝の盃に相応しい。が、生憎聖杯の所有権とは別だ。まずは貴様がどれほどの大望を聖杯に託すのか、それを聞かせて貰わねば始まらん」

 

 偉く挑戦的な目でアーチャーを見るライダー。彼が場を支配知ることが不快だったのかすぐさまアーチャーは返した。

 

 

「仕切るな雑種、第一聖杯を奪い合うという前提からして、理を外しているのだぞ?」

「ん?」

 

 ライダーはアーチャーの言っている事が今一わからず、首を傾げれば酒を再び飲んだアーチャーが続ける。

 

「そもそもにおいて、あれは我の所有物だ。世界の宝物は一つ残らず、その起源を我が蔵に遡る」

「では貴様、昔聖杯を所有していた事があると? どんなものか正体も知っていると?」

 ライダーの問いはまさしく正しい質問だろう。聖杯戦争なんて儀式に参加しているが、基本的に御三家以外は正体を知らない。英霊が一体になった時に現れると聞いているが、何処でどんな形で表れるのかは知らないのだ。

 であれば、彼の問いはまさしく正しいと言える。

 

「知らぬ」

「は?」

 

 アーチャーの返しに流石のライダーも呆ける。むしろ、彼しか声を出さなかっただけで、遊んでいる子供達以外は皆が思った事だろう。彼の疑問にアーチャーはさらに自分の言葉を重ねて行く。

 

「雑種の尺度で測るでない。我の財の総量は、とうに我の認識を超えている。だが、宝である時点で我の財であるのは明白だ。それを勝手に持ち出そうなどと、盗人猛々しいにも程がある」

 

 黄金のアーチャーが言う言葉を整理すれば、物を集め過ぎたので中に入っているものは把握していない。だが、宝という物を余すところなく手に入れた彼に、持っていない宝は存在しない。なので、聖杯という宝を狙って戦う聖杯戦争自体、彼の所有物を勝手に争奪しているという事なのだろう。

 

「お前の言は、キャスターの世迷い言と全く変わらない。錯乱したサーヴァントは奴だけではなかったらしい」

 

 アーチャーの主張を真っ向から斬り伏せたのはセイバーだった。涼しい顔で、聖杯は自分の物だと主張するアーチャーの言葉に怒りを覚えたらしい。そして、確証もないのに自分達の戦いを強盗呼ばわりする彼を、敵視しているのは明白だった。

 

「いやいや、どうだかな。何となくだが、この金ぴかの真名に心当たりがあるぞ、余は」

「ほう」

「でもなアーチャー。別にお前は聖杯が惜しいという訳ではないのだろう?」

「無論だ。だが、我の財を狙う賊には、然るべき裁きを下さねばならん。ようは筋道の問題だ」

「つまり何なんだアーチャー、其処にはどんな義があり、どんな道理があると?」

「法だ」

 

 ライダーの問いに、さも当然であるが如く。いやアーチャーからすれば至極当然の事を口にした。

 

 

「我が王として敷いた、我の法だ。お前が犯し、俺が裁く。問答の余地など何処にもない」

「ふむ。となると、後は剣を交えるのみ」

 

 聖杯の所有権を主張するアーチャーを認めたうえで、ライダーはアーチャーから奪い取ることを宣言する。それは征服王と呼ばれた彼の生き方故に仕方のない性質だった。欲しいものは手に入れる。それは黄金のアーチャーも過去に行った事だった。故に、彼の主張に怒りを覚えつつも、否定する事はなった。それどころか自身に盾付くと堂々と宣言した目の前の男を、見定めるのも悪くはないと思っていた。

 

「征服王よ。お前は聖杯の所有権が他人にあるものと認めたうえで、なおかつそれを力で奪うのか? そうまでして聖杯に何を願う」

 

 再び言葉を発したのはセイバーだった。セイバーは相手の所有権を認めないが、ライダーは認めたうえで奪うという。なれば、彼はどのような目的でそれを求めるのか、聞いておかねばならない。セイバーだけでなく、アーチャーも自身の蔵を荒らす賊の大望に興味を持っていた。当事者たる彼は、酒がまわったのか頬を赤らめ照れくさそうに答えた。

 

「受肉だ」

「は?」

「は?」

「は?」

 

 ライダーの返答に対して、セイバー、アーチャー、話を聞いていたブレイカーが同じ声を出した。さすがに誰しも征服王の突拍子もない願いに、予想すらできていなかった。ついでに言えば、何度も王の宴を見ていたアイリも驚いて、神経衰弱のカードを忘れていた。そして、彼の背後に居たウェイバーも心底呆れながら「おまえ、世界征服が望みだって言ってなかったか?」と征服王を知る者たちなら、思うだろうことを口にする。

 

「……幾ら魔力で現界しているとはいえ、所詮我等はサーヴァント。余は転生したこの世に一個の命として根を下ろしたい。身体一つで我を張って、天と地に向かい合う。それが、征服という行いの全て。そのように推し進め、自らで成し遂げてこその、我が覇道なのだ」

「そんなものは、王の在り方ではない。」

 

 彼の語る王道に、アーチャーも少しは理解があるのか鼻で笑う事はなかった。無礼であり、道理を知らぬおろか者だが、彼もまた王であるとは認めた。だが、騎士王たるセイバーだけは彼の大望を理解出来ず反論する。

 

「では貴様の胸のうちを聞かせてもらおうか?」

 

 今度はセイバーが語る番となり、彼女は自身の願いを口にした。

 

「私は我が故郷の救済を願う。万能の願望機を持ってして、ブリテンの滅びの運命を変える」

 

 騎士王たる彼女の言葉に、彼女の願いに2人の王と、腕を組んで話を傍聴しているブレイカーが固まる。特にブレイカーは、その願いを語ったセイバーを見て、憐れむような目をした。アーチャーは何を言っているんだこいつと言った目で見て、ライダーが彼女の願いの意味を問うた。

 

「なぁ騎士王? 貴様今、運命を変えると言ったか? それは過去の歴史を覆すと言うことか?」

「そうだ、たとえ奇跡を持ってしても、かなわぬ願いだろうと、聖杯が真に万能であるのならば必ずや……」

 

 その縋るような願いに、黄金のアーチャーは肩を震わせる。少し離れた場所で立つブレイカーも溜息を吐かずにはいられない。ただ、話を振ったライダーだけがセイバーの騎士王としての彼女の真意を探る。

「えぇとセイバー。貴様今、よりにもよって自らが歴史に刻んだ行いを否定するというのか?」

「そうとも、何故訝しがる? 何故笑う? それにブレイカー、何故私の言葉にだけ溜息を吐いた! 剣を預かり身命を捧げた故国が滅んだのだ。それをいたむのがどうしておかしい?」

「おいおい聞いたかライダー!この騎士王と名乗る小娘は……よりにもよって故国に身命を捧げたのだと、ははは!」

 

 堪え切れないとばかりにアーチャーが笑い始める。心底愉快と言った感じに腹を抱えて笑う彼をセイバーは、すぐに斬り伏せてしまうかという程睨む。そして、3人のうちで唯一、自分の願いを呆れたような態度を取ったブレイカーにも怒りを向ける。その視線にブレイカーは「あぁ、うん。気持ちは分かるが理解はできないからだな」と返す。  

 

 

「笑われる筋合いがどこにある? 王たるものならば身を挺して、治める国の繁栄を願うはず!」

 

 彼女の掲げる理想は立派だ。しかし、理想は理想である、追い求めるのもよいが、追いつけばそれは地獄を生み出す事にもなる。征服王であるライダーが、騎士王の理想を正面から斬り伏せた。

 

「いいや違う。王が捧げるのではない。国が、民草がその身命を王に捧げるのだ。断じてその逆ではない」

「何を……それは暴君の治世ではないか!」

「然り、我らは暴君であるが故に英雄だ。だがな、セイバー。自らの治世をその結末を悔やむ王がいるとしたら、それはただの暗愚だ。暴君よりなお始末が悪い」

 

己の願い、民や国に自身を捧げる生き方や考えを否定されたセイバーが立ち上がって噛みつく。だが、ライダーは一切動じず、自分の掲げる王としての在り方を騎士王に告げる。

 

「イスカンダル、貴様とて世継ぎを葬られ、築き上げた帝国は3つに引き裂かれて終わったはずだ。その結末に、貴様は何の悔いもないというのか?」

「ない」

 

 ライダーはその問いに対して答えるのに、考える時間など無かった。何故なら、彼と言う王が過去を悔やんだ事など一度もなかったからだ。

 

「余の決断、余に付き従った臣下達の生き様の果てに辿り着いた結末であるならば、その滅びは必定だ。悼みもしよう。涙も流そう。だが決して悔やみはしない」

「そんな……」

 

 彼の語る決意と潔さ、何より臣下に対する彼の考え方がセイバーとは大きく違ったのだ。彼の気迫にセイバーは少し押される。

 

「ましてやそれを覆すなど!そんな愚考は、余と共に時代を築いた全ての人間に対する侮辱である!」

「滅びの華を誉れとするのは武人だけだ。力無きものを護らずして、どうする。正しく統治し、正しく尽くせ。それこそが王の本願だろう」

「それで、貴様は正しさの奴隷か」

「それでいい。理想に準じてこそ王だ」

 

 ライダーが心底呆れた様子を見せ、セイバーがさらに自身の王道を熱く語る。何故相手はそれを理解しないのか、それは自分も相手を理解していない事に気が付いていない騎士王。

 

「そんな生き方は人ではない」

「王として生きるなら、人の生き方など捨てねばならない。征服王よ、高々わが身の可愛さのあまり、聖杯を求めるという貴様には分かるまい。あくなき欲望を満たすためには王になった貴様などには!」

 

 彼女の言葉は、ついにライダーの怒りにも触れたらしい。威厳溢れる声を荒げ、騎士王であるセイバーに征服王の持論を正面からぶつける。

 

「無欲な王なぞ飾り物にも劣るわい!! セイバーよ、理想に殉じると貴様は言ったな。なるほど往年の貴様は清廉にして潔白な聖者であったことだろう。さぞや高貴で侵しがたい姿であったことだろう。

 だがな、殉教などという茨の道に、いったいだれが憧れる? 焦がれるほどの夢を見る? 王とはな、誰よりも強欲に、誰よりも豪笑し、誰よりも激怒する、清濁含めてヒトの臨界を極めたるもの。

 そう在るからこそ臣下は王を羨望し、王に魅せられる。一人一人の民草の心に、我もまた王たらんと憧憬の灯が燈る!」

 

 彼の語る王は、セイバーの語る王とは別物だ。セイバーの掲げる王とは、正しき行いをする理想の王。ライダーの掲げる王とは、憧れの象徴。騎士王は理性によって統治し、征服王は欲によって征服する。そんな生き方の違う二人であれば、話がまとまる筈はない。

 

「騎士どもの誉れたる王よ。たしかに貴様が掲げた正義と理想は、ひとたび国を救い、臣民を救済したやも知れぬ。それは貴様の名を伝説に刻むだけの偉業であったことだろう。だがな、ただ救われただけの連中がどういう末路を辿ったか、それを知らぬ貴様ではあるまい」

 

 セイバーは黙るしかなかった。何故ならライダーの語る事は事実であり、自身の掲げた王道のなれの果てが、自身の歴史の改竄なのだから。

 

「貴様は臣下を救うばかりで、導くことをしなかった。王の欲の形を示すこともなく、道を失った臣下を捨て置き、ただ独りで澄まし顔のまま、小綺麗な理想とやらを想い焦がれていただけよ。

 故に貴様は生粋の王ではない。己の為でなく、人の為の王という偶像に縛られていただけの小娘にすぎん」

 

 それは決定的な一撃だった。セイバーは言葉に詰まり、二の句を告げない。セイバーの頭に浮かぶ情景は、己が滅びの象徴であるカムランの丘。そこで自身と共に戦った騎士たちが殺し合い、屍が積み上がった光景。自身の理想に殉じた結果、理想とは真逆の滅び。

 

「ライダー。それくらいにしておいてやったらどうだ。あんたの時代とセイバーの時代も土地も違うんだ。そうするしかなかった場合もあるだろう」

「ブレイカーよ。これは王の語らいであるぞ?」

「アンタらみたいな王とは違うから、よくわからんが、良い年した大人が小娘を虐めてるようにしか見えなかったからな。第一、王子様とやらに理想を持ってる年齢層が居るんだ、悪影響にもなりかねん」

「ま、大人の話だからな」

 

 

 怒ってはいないが、突然話に入ってきたブレイカーにライダーは仕方ない奴だと感じる。それはお互いだと思うがなとブレイカーも心の中で語る。突然入ってきたブレイカーに対して、意外にもアーチャーが口を開く。

 

「おい雑種。丁度いい、貴様の願いとやらも語って見せよ。下らん願いである事は必然だが、騎士王とやらに言いたい事があるのだろう? 我が許す、述べてみよ」

「折角許可貰ったんだから、語るとするかね。最初に言っておくが、俺はアーチャーさんの言うように、真っ当な願いはない。むしろ、聖杯に願いを持っていない」

「な、それなら、何故あなたは」

「俺の願いは、マスターの願いの成就に他ならない」

 

 ブレイカーが、よっこいしょっとライダーの横に腰掛ける。そして、語りながらアルカを見る。それにセイバーも続いてアイリに遊んで貰っているアルカを見る。何度見ても、戦闘とは無縁な少女である。

 

「俺という存在に願いはなく、クラス通り破壊しかできない。だから、俺という破壊兵器を召喚した存在が、何かを壊したいといえば叶えるのが俺の仕事だ。アンタ達三人の願いを馬鹿にする訳じゃないが、どんな王道であっても俺にとっては破壊の対象にしかならない。そんな俺に王道は理解出来ない」

「随分と下らん願いもあった物だ」

「願いですら無いからな。せいぜい、マスターの破壊対象にならないよう気をつけてくれ」

「貴方は、それで満足なのですか!」

 

 セイバーは自分に願いはなく、ただ命令に従うという彼の生き方に疑問を覚える。

 

「満足だ。俺という存在の証明になるのだからな。俺こそ聞くがセイバー、自分の理想に殉じて後悔している癖に、未だに理想を捨てられないお前が、一体何を救うというんだ?」

「な」

「俺は其処が哀れ過ぎてね。それが言っておきたかった事だ。……またか」

 

 

「うわ!」

 

 ブレイカーが語り終ると、4人の英霊はそれぞれ現れた気配を察知した。一早く反応したブレイカーが現れた存在から、アルカとアイリスフィールを引き離す。そして、ウェイバーも背後に現れたそれに驚きながら、ライダーの近くに走る。

 

 そして、次の瞬間には、黒い仮面と黒い装束を纏ったアサシンが70近い数で現界する。庭園全てを囲むように現れたアサシンにアイリとセイバーは驚く。だが、元々アサシンと組んでいた時臣がマスターであるアーチャーと、複数体居る事を知っているライダー陣営は驚かなかった。ただ一つを除いては。

 

「……アン」

「駄目だマスター。よく見ろ」

 

 ブレイカーに抱えられたアルカが、アンへと手を伸ばす。だが、それをブレイカーが封じる。何故なら、先程の場所から微動だにしないアンの手には、アサシン達と同じナイフが握られ、彼女の頭部に白い仮面が現れていた。

 

 運命は、悲惨な方向へと向かって行く。

 

 

――――ー――

 

 教会の地下室で、遠坂時臣と魔術礼装で通信していた言峰綺礼は、未だに手を晒していないライダーとブレイカーの戦力をあぶり出す為、アサシンを令呪を持って特攻させた。彼の師の命令は、ライダーとブレイカーへの全戦力で持っての特攻だった。

 己のサーヴァントを使い潰す事に抵抗の無い綺礼は、何も感じずそれを行った。だが、彼はその時人知れず笑みを浮かべていた。それは何故か。

 

 アサシンの人格の一体。一人だけ幼い少女の姿をした個体とブレイカーとライダー陣営にぶつけること。その悲劇とも思える行為に、その後に起こる人の不幸と苦しみに、彼は自覚しない中でも『愉悦』を感じていたのだ。そして、ガラスに反射した顔を見て、綺礼は自分で驚く。

 

「なぜ、私は笑みを?」

 

 この場所にも、未だに自分という存在の在り方を見つけられない男が居た。

 

 

 

tobecontinued

 

 

 





 早めに仕上がったので、続けて投稿させて頂きます。御感想など頂けたら幸いです。

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