Fate/make.of.install   作:ドラギオン

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聖杯問答

アルカとアンの誘拐事件は最小限の被害で抑えられた。そして合流したライダーは、肩に酒樽を抱えたまま、神威の車輪で空を駆けながらある場所へ向かっていた。そいつは、冬木で一番高いビルのてっぺんで下界を見下ろし、赤い瞳を細めていた。その鎧は街の光を受けて反射、黄金の輝きを放って存在していた。

 

「よぉ金ぴか」

「何だ雑種。この我に気安く話しかけるとは、不敬極まりないぞ。とはいえ、今日の我は気分がいい、ゆえに一度限りの不敬は許そう。だが、次はないと思え雑種」

「のっけから物騒な男よな。アーチャー、お主これから時間はあるか?」

「なに?」

「これから騎士王の所に、王としての格を競う酒宴を開こうと思ってな。おまえさんも参加せんかと誘いを掛けたまでよ」

 

 ライダーの言葉にアーチャーの眉が動く。これは最悪戦闘になるかもしれないとブレイカーがマスター達を庇う。自分がアーチャーと戦ってる間に逃げて貰うかと思案していると、しばらく黙りこんでいたアーチャーが口を開いた。

 

「王の格を競う宴か、普段なら斬って捨てるが、今の我は退屈をしていたのでな。己が幸運に感謝し、我の慈悲に敬服するがいい」

「決まったな。では、余達はセイバーの根城に向かう。後でな」

「ふん」

 

 アーチャーが了承した事で、ライダーは神威の車輪を走らせる。走り去っていくライダー達の後ろ姿を眺めたら黄金のアーチャーは、アインツベルンの城へと歩みを進めた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

アインツベルンの城、それを囲う広大な森を結界ごと突破したライダーの戦車は、ケイネスによって開けられた城の穴から中へ侵入する。ライダーの侵入に対してセイバーは白銀の鎧を纏って現れる。だが、侵入したライダーの姿に戸惑う。

 

 

「よお、セイバー!」

「ライダー?」

「城をかまえていると聞いて来てみたが、何ともしけたところだの」

 

 ライダーの言う通り、城の中は切嗣の使用したクレイモアや爆薬でボロボロであった。いたる個所が二人の戦闘で破壊されており、戦闘の苛烈さを物語っていた。普段であればもう少し美しい城であっただろう。

 

「それより何だ。のっけからその無粋な戦支度は? 今宵は現代のファッションはしておらんのか?」

「ライダー貴様何をしに来た」

「見てわからんか? 一献交わしに来たに決まっておろうが。そんな所につっ立てないで、何処か宴に誂え向きの庭園でもないか? 此処は埃ぽくてたまらん」

 

 自分のシャツを見せびらかすように言うライダー。彼のうしろではブレイカーのマスターとライダーのマスター。そして、見覚えの無い褐色の少女が戦車に座っていた。ライダーは戦車に積んだ酒樽を担ぎあげ、セイバーに何処か広い場所はないのかと問うた。確かのこの城の中は荒れ果てていた。

 

「……お酒嫌い」

「お前は飲むんじゃない」

「……!」

「なんか、色々すまないセイバー」

 

 お酒に対して苦手意識を持つアルカと状況が分からないアン。色々と吹っ切れているウェイバーは、自由なライダーの行いに怒るよりも恭順した方がましだと知っている。だが、唯一の常識人であるブレイカーが、唖然とする

アイリスフィールとセイバーに頭を下げる。誰が悪いかといえばライダーに他ならないのだから。

 

――ー―――

 

 結局庭園を貸し与える事になったアイリスフィール。庭園の中心で、セイバーとライダーがお互いに座りながら向き合う。ライダーは手元にある酒樽を素手で壊し、柄杓でワインを救って一口で飲み干す。そして一息つくと今度は、セイバーへワインを掬った柄杓を手渡す。それを同じく飲み干し、突き返す。

 

「聖杯は相応しきものの手に渡る定めにあるという。それを見定めるための儀式が、この冬木における闘争だというが……何も見極めをつけるだけならば、血を流すには及ばない。英霊同士、お互いの格に納得がいったのなら、それでおのずと答えは出る」

「ほう」

 

 そういって新たに酒を掬うライダー。セイバーとライダーは互いに武器を構えずとも、そのオーラと誇り、そして自分の王道によって今戦いを始めたのだ。それを眺めているのは子供二人と、ライダーの背後に座るウェイバー。当然ながらアイリはセイバーの背後で様子を見ている。だが、視界の端で暇を持て余した少女二人と遊んであげているブレイカー達が気になる。

 ブレイカーはアイリの視線に気がつき、振り返る。

 

「ん? セイバーの協力者の方、名を何といったかな? 先に名乗らせて頂くならブレイカーだ」

「御丁寧にどうも、アイリスフィール・フォン・アインツベルンよ。貴方の名前は倉庫で聞いた事があるわ」

「そうか、こいつらかな。ほら、自己紹介しておけ」

 

 ブレイカーは、ウェイバーのリュックにアルカがこっそり隠したトランプでのババ抜きを中断。正確には負ける直前で逃げたともいえるが、2人をアイリの方へ向ける。ブレイカーはセイバーのマスターを警戒するが、目の前の女性はタイプが違う。そして、こちらを狙うような気配は感じなかった。だからこそ、アイリスフィールは安全だと判断した。

 アイリに自己紹介しろと言われたアルカは、スカートの端を持ち上げテレビで見た淑女の真似をする。一方、言葉を話せないアンは、同じくウェイバーのリュックサックに潜り込ませたスケッチブックに文字を書き込んでいく。

 

「ベルベット家、当主ウェイバー・ベルベットの弟子、アルカ・ベルベットです」

『アルカのお友達のアンです』

「ご、ご丁寧にどうも」

 

 アイリは切嗣が殺したと言っていた少女がやはり生きていると知り、ホッとした気持ちとまた彼が苦しむ事になる事を知る。でも、彼女に出来る事をして切嗣を支えるのが、アイリの使命だ。そこでアイリは子供たちから情報を引き出そうと考えた。この場で危害を加えるつもりは全くなく、本当に彼女達の情報収集が目的だった。それに、アインツベルンの城において来たイリヤを思い出し、2人の少女を可愛が母性が確かにあった。

 

「貴方達は本当にマスターなの? 失礼なのはわかっているのだけれど、どうしても聞いておきたくて……」

「……ん」

『私はマスターじゃないです』

 

 アイリの問いにアルカが右手の甲を見せる。そこには一画を消費した十字架とウロボロスが描かれていた。それは間違いなく令呪である。そしてアンは彼女の問いを否定する。確かに彼女はマスターではないのだ。

 

「本当なのね。あ、ごめんなさい」

「……痛い?」

『大丈夫ですか?』

 

 本当に娘より小さい女の子がこの聖杯戦争なんて殺人の儀式に参加していると思うと、胸が痛くなる。何故なら彼女達はまさに、可能性として存在する未来のイリヤそのものなのだ。自分達が負けた先の未来。決して許されない未来の体現がアルカとアンだろう。何も知らず、あるいは知らされずいつの間にか殺される運命にあるか弱気少女達。

 アイリは大丈夫と言いながらも美しい瞳から雫をこぼし、しゃがみ込んで2人を抱きしめていた。

 

「……」

「……」

 

 アンとアルカは、アイリスフィールから感じる感情を察し、さらに彼女の柔らかさと優しさに心が動いた。アルカ達は、アイリに記憶になく、居るのかすらわからない母親という存在を感じた。始めて感じる母という存在に戸惑い、困惑する。

 そして、アイリが2人から離れるとアルカは名残惜しそうにアイリに手を伸ばしていた。アンも戸惑い、顔が困り果てた表情をしていた。

 

「すまないなアイリスフィール。2人とも母親が恋しいようだ。気分を悪くしないなら、少し遊んでやってくれ」

「私はこれでも敵のマスターです。なのにあなたは、私に預けると言うの?」

「誰のために流した涙かは知らないが、誰かのために優しい涙を流し子供を抱きしめた女性を疑う程、切羽詰まっていない。それに俺のマスターは強いぞ」

 

 ブレイカーとアイリの会話を聞いていたウェイバーがライダーとセイバーの邪魔をしないよう歩いてくる。そして肩をすくめながらため息を吐いて口を開く。

 

「僕からもお願いするアインツベルン。アルカやアンの様子を見てればあんたが悪い人間じゃないってわかる。それにライダーがああやって酒宴始めた時点で戦う気はない」

「わかったわ。ただし、貴方達の情報を聞き出すかもしれないわ?」

「そう言っている段階で警戒には値しないよ。アルカにアン、このお姉さんに迷惑かけるなよ」

「……ん」

『トランプしませんか? ブレイカーさん弱くって』

 

 アンとアルカに手を引かれアイリはまんざらでもない様子で彼女達と同じ場所に座り、「これはどうやって遊ぶのかしら? おねいさんにも教えてほしいわ」と彼女達の相手をしてくれていた。

 

 

 子供たちとアイリが打ち解けた様子を見たセイバーがほっとした様子を見せる。そこでライダーがすかさず話を始めた。

 

「どうやら、始めてもよさそうだな」

「えぇ。問題ない。だが、ブレイカーはいいのかライダー?」

 

「俺は辞退させて頂こう。俺は王とは言えないしな、安心して飲むがいいさ。マスターやアイリスフィールは何が来ようと護って見せるさ。それは誓おう」

 

 英霊の格を競うのであれば、ブレイカーが参加しないのはどうなのだと尋ねると、子供たちを守護していたブレイカーが代わりに答えた。その返答に納得はできないが無理に誘うのもはばかられる。故にブレイカーの意思を汲んでライダーを向き合う事に決めた。

 

「では、はじめるかライダー」

「ノリがいいではないか騎士王。余と同じく王を名のるものどうし捨て置けまい。これは言わば、聖杯戦争ならぬ聖杯問答。どちらがより聖杯を手にする王に相応しい器か、酒杯に問えば自然とつまびらかになるものよ」

 

 聖剣に選ばれブリテンを統治した騎士王と覇道を示しマケドニアを治めた征服王。時代は違えど、世界に語り継がれる王の対話が始まった。

 

「戯れは其処までにしておけ雑種」

 

 その問答の最後の参加者が遅れて現れた。黄金の鎧に身を包み、2人の王を真にも憚ることなく圧倒的なオーラを醸し出す人類最古の王が、聖杯問答へと参加したのだった。

 




 今回は短めです。状況次第で、連投する可能性があるかも知れません。

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