Fate/make.of.install   作:ドラギオン

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龍之介の恐怖

「ほら、ほら、こっちこっち~」

「……?」

「……?」

 

 午後8時過ぎ、夜の人通りの少ない繁華街を、紫の腕輪を付けたさわやかな笑顔の青年。雨生龍之介に手を引かれて歩くのは、状況が理解できていないアルカと用水路で拾われた少女だった。冬木に根を下ろす、死の芸術家に手を引かれる原因となったのは、ある出来事だった。

 

――――

 

 

 マッケンジー家に褐色の少女、名前がないのも不自然であったためアンと名付けられた少女が滞在する事が決まった日。手段は大変手が込んでおり、遊びに来たアンとアルカが遊んでいる間に、公衆電話から彼女の両親としてブレイカーが連絡。

 冬木のごたごたで、しばらく家に帰宅する事が出来ないと相談。そして、アンをホテルに止めると言ったブレイカーだが、お人よしのマッケンジー夫妻は、アンを自分達が預かると申し出た。それに甘える形でアンの滞在も決定したのだ。そして、アンとアルカは、仲良く夕方まで過ごし、ライダーとお祖父さんがお酒を飲んでいた。

 そして、夕飯を終えると、ウェイバーはいつも通り無理のないようにマッケンジー夫妻に睡眠を促す暗示を掛け、安らかに熟睡して貰う。そして、いつものように探索に出かけたのだが、突然ライダーが「ふむ、そうだ」と何かを思いつき、夜の商店街に酒を略奪してくると告げた。それに反対するブレイカーとウェイバー。しかし、もう決定したと酒屋に向かって進む彼についていくほかなかった。

 アルカとアンは、悪影響が出ると公園に待機を命じられた。アルカにはアンと二人でコートに身を包みながら、コンビニで買って貰ったおでんを食べていた。あまり距離が離れていない上に、アルカには月霊髄液もあるので、最悪令呪で呼び出せと言い、ウェイバー達の見張り役をかって出ていた。

 

「はふはふ」

「ふっふっ」

 

 2人そろって熱々の卵を食べてしまい、火傷しそうになるがどうにかお茶を飲んで食べていた。しかし、少しの間待ってもウェイバー達は帰ってこない。思いの外難儀している。原因はと言えば、店の店主にライダーが気づかれ、突然現れた竹刀を持つポニテの存在が、ライダー達を追い掛けた事にあった。だが、そんな事を知らないアルカは、指輪に魔力を流すもテンパって逃げているウェイバーに繋がらない。

 

(ブレイカー)

(すまない。もう少し待っていろ。なんだあの女、まだ追ってくるのか)

 

 念話で連絡を取るも、どうやらブレイカーもかなりテンパっているらしい。完全に暇を持て余したアルカを心配そうにアンが見つめる。だが、アルカもその場を動かない。基本的に言われた事は守れるいい子共なのだ。言われた事以外は何も知らない子供でもあるのだが。

 

 そんな時だ。

 

「あ、れ~。もしかして、こんな時間に迷子かな?」

 

 そう言いながら軽いノリで現れたのは、紫のシャツを着た青年が現れる。かれは、2人に警戒を抱かせない自然体で二人に迫る。相手の悪意に鋭くないアルカは、その人物を眺めるだけだが、アンは警戒する。

 

「あ、君。この前新都で見たんだよね。いやー君を探して色んな家に押し入ったけど、まさかこんなところで出会うなんてね。神様が俺にプレゼントしてくれたのかな?」

「!……!!……!!」

「へぇお友達? ちょうど良いや、お友達も一緒においで

よ。君らとなら、すっごい芸術品が完成すると思うんだ」

 

そう言って龍之介は、二人の手を掴む。本来はそれで相手の意識を奪い取り、傀儡にできるはずだった。

 

「あれ? 壊れたのかな? 青髭の旦那に怒られるかな?」

「……さぁ?」

「?」

 

アルカとアンの二人は、龍之介の腕輪の効果を受けていなかった。何度か腕輪を叩いて確認する龍之介だが、彼女達が意識を失うことはない。なので、そのまま連れていくことにした。

 

不安そうなアンと呆然とするアルカは、大人の彼の力に逆らえるはずもなく、公園から引き連れられる。アルカの月霊髄液でも自立防御は本格的な攻撃でないと機能しないように、設定されていた。

第一霊体化すれば良いのだが、する理由とアンが一人になるため出来ない。

 

二人は手を繋ぎながら、龍之介に連れられて人気のない場所まで、歩かされる。

 

「さ、此処だよ。皆も待ってるから入って入って」

「……どこ」

「!!!!……!!!!!」

 

彼に連れらてたどり着いたのは、繁華街の地下にある人気のないbarだった。電気もない暗い店内だが、解析の魔眼持ちのアルカと生まれゆえに夜目が効くアンは、店内に糸の切れた人形のように倒れる子供達が見えた。それに反応したアンが、アルカを庇うように龍之介に向き合う。

 

「ビックリした? へぇ君の目、こんな暗い中でも光るんだね。お姉ちゃんも良い目をしてるね。安心してよ、君ら二人はこの子たちのパーティには、参加しないから」

 

とても優しい声で二人に話す龍之介。

 

「君の目は、見たときから最高の作品になると思ってたんだ。旦那の用事が終わったら、くり貫いて、良い作品にしてあげるよ。もちろん、お姉ちゃんもね」

 

そう言う龍之介は、悪意も敵意もなかった。本当に罪悪感すらなく、目の前で生きている少女や少年たちを殺すことに何も感じないのだ。正確には、子供達の死に、創造意欲と芸術性を感じるのだ。

狂気を感じたアンが、アルカの手を引いて逃げようとすると、龍之介の背後で人影が動く。

 

「コトネ! コトネ!」

 

その人物はアルカ達と同い年くらいで、赤い上品なコートとリボンでツインテールを作った少女だった。その子は、床に倒れる学校の制服姿の少女の体を揺するが、意識を取り戻さない。

 

「あれ、君も迷子かな?」

「ひっ」

「ちょうど良いや。これからパーティがあるんだ、君も手伝ってくれないかな?」

「コトネに何をしたの!」

「ん~? さぁ旦那が説明してくれたけどよくわかんないんだよね俺」

 

 その少女は首から下げた時計のような道具を見て、龍之介に恐怖している。そして、彼がツインテールの少女に手を伸ばした瞬間、2人の間で魔力の反発が起こる。

 

「なに、いまの」

「……大人しくこっちおいでって」

 

 お互いに違和感を感じた2人だが、龍之介が少女を再び捕獲しようとした時、アンがアルカの手を引いて出口に向かう。しかし、お気に入りの獲物が逃げ出すのを見逃す龍之介ではなく、すぐに回り込んでアンの頬を裏拳で払う。

 

「逃がさないよ。あっちゃー、ほっぺた腫れちゃうかな? まぁ旦那に治して貰うから、作品に影響はないかな」

 

 アルカより大きいとはいえ、アンも十分子供で数々の殺人を犯してきた龍之介は、見た目よりも筋肉が備わっていた。彼の一撃を受けたアンが床に倒れる。同時に手を握られていたアルカもアンと同じく転倒。2人が倒れたのを見て、龍之介がいつの間にかバーのカウンターに上っていた凛に手を伸ばす。

 

「こないで!」

「暴れんなって」

 

 手元にあったものを手当たり次第に投げるツインテールの少女に、龍之介も苛立っている。そして、龍之介が伸ばした手を、少女は逆に掴み返した。アンと一緒に倒れたアルカは、持ち前の魔眼で彼の持つ腕輪が礼装だと解析し、それが彼の切り札だと推測していた。

 さらにアルカの目には、現在彼の腕を掴んだ少女が、常人とはかけ離れた魔力を持っている事も見抜いていた。

 

「これを壊せば!」

 

 おそらく魔術の知識がある少女は、その腕輪に魔力を流し始める。しかし、腕輪に籠った凶悪な魔力に少女の方が押されていく。

 

「……アン、いたい?」

 

 アルカはアンを心配するも、アンは気絶したようでピクリとも動かない。アンが殴られた姿を見たアルカは、再び怒りという感情が湧きあがり、彼女の体から魔力が溢れだす。自分でも理解出来ない上に制御出来ない感情は、彼女の魔力のように沸々と沸き上がる。

 

「え?」

「何、君達?」

 

 ツインテールの少女は、七色に激しく輝く目を持ったアルカの魔力を浴びて意識を取り戻す。そして、ツインテールの少女も同時に全身の魔力をあふれさせる。2人の強大な魔力に囲まれた龍之介もさすがに困惑する。

 

「……ゆるさない」

「えぇ」

「壊れろ!」

「うわぁ」

 

 

 左手に魔力を流され、さらに魔力を迸らせるアルカが接近。アルカは直接触れることなく、掌を腕輪に向け魔力の遠隔操作で蛇のように魔力を動かした。そして少女が破壊しようとしている邪悪な魔力を放つソレを包みこむ。。2人の魔力には耐えきれなかった腕輪がはじける。それに伴って気絶していた子供たちが目覚め始める。

 

「みんな、逃げるのよ!」

「あえうああああ」 

「ままぁあああ」

 

 腕輪がはじけ飛び、さらに強力な魔力で火傷していた龍之介は、さすがに堪忍袋の緒が切れたようでナイフを持って最初に逃げた子供たちを逃がし、残ったアルカとアンを連れに戻ってきたツインテールの少女に向ける。

 

「あぁ、逃げられちゃった。仕方ないから、君らだけでも連れて行くよ」

「何で逃げないのよ!」

「アンが」

 

 手足の腱でも切っておくかと龍之介がアルカにナイフを振る龍之介。相手が子供なら、狙いを外すことなんてない技術で持って狂人の凶刃がアルカと少女に向かう。だが、ガキンという金属同士がぶつかる音が聞こえ、龍之介の持っていたナイフの刃が砕ける。

 

「え」

「……アン」

「すご」

 

 龍之介のナイフを砕いたのは、何処からともなく取り出したナイフを持っているアンだった。アンは、目に明確な殺気を宿らし、魔力が身体から漏れる。だが、アルカや少女とは違い、何処か異質な魔力を宿らせ、アンはナイフを砕かれ呆ける龍之介に向ける。其処に恐怖はなく、ただ殺すべき対象として見ているようだった。少し怖がりなアンからは考えられない程、冷静に、まるで暗殺者のような目をしていた。

 

「いてて、最近の子供って、こう言う子たちもいるんだな」

 

 思いの外手古摺る子供たち、最初に逃げた子供が警察を呼んだとして、警察が来るまでの時間を考えると手段を選んでいられない。仕方ないと、キャスターから教わった令呪の使い方を思い出し、彼をこの場に呼び出そうとする。だが、バーの入口の扉が大きく開かれ、小さいカプセルが3人の前に投げ込まれる。

 

「目を閉じろぉ!」

「なんだってうぉおお目が」

 

 扉の外から聞こえた声に、アルカとアンは目を塞ぎ、ツインテの少女は後ろを振り返った事で、目くらましの強烈な閃光に目をやられる事はなかった。だが、龍之介だけは、モロに目くらましを喰らい目を抑えながらふら付く。そこへ勇敢に押し入ったのは、右手にリュックサックを振りかぶったウェイバーだった。ライダーが酒樽を抱えて逃げていた時、アルカの持つ指輪から彼女の怒りの感情を感じ、彼だけがアルカの魔力の方角へと走っていたのだ。

 そして、子供たちが大慌てで出てきた事で、冬木での誘拐事件の犯人。恐らくキャスターのマスターであると知り、飛び込んだのだ。

 

 

「お前だけはゆるさないぞ!」

「ぐ、何だお前」

 

 荒事が苦手のウェイバーでも、一瞬のすきを突けば中身の詰まったリュックで相手を殴打くらいはできる。中々良い一撃の入った龍之介はよろめく。すかさずウェイバーが子供たちに逃げろと指示する。

 

「ブレイカーは?」

「アイツらはもう直来る。早く逃げるぞ、この気配キャスターだ。くっ」

 

 アルカ達に階段を上らせ、自分も逃げようとするが復帰した龍之介の拳が鳩尾に入り、身体がくの字に曲がる。そして両腕を組んで後頭部を殴打。そのまま倒れた所を首を掴まれ、締め上げられる。

 

「はぁ、全部台無しにしてくれちゃってさ。男には興味ないんだけど、ちょっとプッチン来ちゃったよ」

「があは」

 

 首を締めあげられ、必死にもがくウェイバーだが体格でも筋力でも劣るウェイバーに彼を退ける手段はない。徐々に酸素がなくなっていき、意識が薄れる。

 

「ウェイバー!」

「ぐあああ、くっそ」

「ごほごほ」

 

 ウェイバーが出てこない事を勘づいたアルカが、ポケットに入れていた月霊髄液を起動。水銀を鞭にしてウェイバーにまたがる龍之介を弾き飛ばす。それにはたまらず龍之介ものたうつ。そして、パトカーのサイレン音がすぐ近くに迫り、咳き込んでいたウェイバーがアルカを抱いて外に逃げる。そして、龍之介も掴まる訳にはいかず、裏口から表へ出た。

 

――ー――

 

「はぁはぁ、はぁ」

「……ウェイバー。ありがとう」

「ごめんな。冬木に誘拐犯が居るの知ってたのに、お前達だけにして」

「!」

 

 ウェイバーが助けに来なければどうなったかわからない状況だった。そして、キャスターの気配が迫っている中、子供たちだけで本当に危なかった。礼を言うアルカと隣で頷くアン。2人が無事で、今度こそアルカを守れたとウェイバーは喜ぶ。本当はブレイカーとライダーが来るまで待つのが正解だった。けど、あの時は一瞬でも判断を誤ったら、アルカやアンが危険に晒される。

 

(自分でも考え無しだったな)

 

 彼が素手で相手を倒せる確率なんて低い。けれど勝てないからやらないのでは、ウェイバーは護るべきものを失ってしまう。そう考えた時、自分は行動していたのだ。

 

「……ウェイバー、ごめんなさい」

「幾ら魔術を使えたって、あんな殺人犯は別だ。本当に良かったよ」

「……ん。ありがとう」

「まぁカッコ悪かったんだけどな」

「かっこよかった」

 

 結局ボコボコニされたウェイバーだが、アルカはウェイバーの床にぶつけた頬を撫でながら、魔力を注いでいく。それは、簡易的な治癒の魔術だった。

 

「こんな魔術いつ覚えたんだよ」

「……わかんない」

「そっか。ライダーにも念話で場所を教えたし、もうちょっと待ってような」

「ん」

「!」

 

ウェイバーの頬を治癒しながら、彼に返事をしたアルカ。その表情を見たアンが少し意外そうな顔をする。そしてウェイバーも呆然とアルカを見て固まる。

 

「アルカ……お前笑えてるぞ」

「……わらう?」

 

アンとウェイバーが見たのは、頬を緩ませ微笑むアルカだった。子供っぽい笑い方ではないが、今まで一度も見せたことのないはっきりした笑みは、人形のような彼女に人間味を与えていた。

 

「!」

「アン、ありがとう」

 

アルカは、自分を庇ってくれたアンにも礼を言い、アンもぎこちなく表情を緩めた。どこか恥ずかしそうにアンが手を伸ばし、アルカがそれを握っていた。

 

-----それから、2分ほどたって。ライダーとブレイカーが戻ってくる。ブレイカーはラインから流れてくる彼女の変化を感じたのか、目を丸くしており、ライダーは一皮剥けた男の顔をしていたウェイバーに驚く。

 

そして、同時刻。無事に誘拐されていた友人コトネを救いだしたツインテの少女、名を遠坂凛は、友人が警察に保護される姿を見て家に帰ろうとした。一緒に誘拐されていた二人の少女も気になるが殴り込んだ男の人と逃げたのを見て一先ず安心していた。

彼女は警察に補導されるつもりはなく、自分で帰るつもりだった。しかし、人目を避けて裏路地に入ったとき、上からキャスターの召還した海魔が襲い掛かってきた。

「あ、あああ」

 

そんな彼女の危機を救ったのは、たまたま町を出歩いていたバーサーカーのマスター、間桐雁夜だった。彼は虫を使役し、幼馴染みで初恋の女性の子供である凛に襲い掛かった海魔を襲わせる。

百を越える肉食の虫に、タコのような海魔は瞬時に絶命させられた。ショックで気絶した凛を雁矢は丁寧に抱えて思い出のある公園に運んだ。

そして凛を探しに来た彼女の母、遠坂葵と対面。自らの変わり果てた姿に驚く葵に自分が聖杯戦争で勝ち抜くと宣言し、彼女達を見送った。本来であれば、聖杯戦争を戦う理由である葵に全てを伝えたかった。

だが、彼には倒さなければいけない敵がいた。フードを深くかぶり、彼は闇で呟く。

 

「時臣……必ず、桜ちゃんや凛ちゃん、葵さんを苦しめるお前だけは」

 

嫉妬と怒り、そして愛が渦巻く心境の最中、彼は寿命を刻一刻とすり減らしながらも、愛する人たちの幸せを望んでいた。例えそれが自分がいない未来だとしても。

 

tobecontinued

 




 今回は、アニメでも賛否に分かれる凛の冒険を、アルカ達が介入しました。というか、巻き込まれただけなんですがね。
 ウェイバーVS龍之介をどうしても書きたかったのでやりました。よろしければ、気軽に感想など頂けたら幸いです。

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