Fate/make.of.install   作:ドラギオン

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友達

 キャスターの工房から戻ったウェイバー達。夜中になった時、気絶していた謎の少女が目を覚ました。目を覚ました少女は、ぼんやりとしながら、ウェイバーの部屋を見渡す。そして、テレビを見ているライダーと、窓枠に腰掛けて傍観するブレイカーを見た後、「目が覚めたのか」と声を掛けるウェイバーに驚いて、後ろの飛びあがる。

 

「っ」

「……けほ」

 

 突然知らない人間に囲まれた少女が、飛び退いた先には眠っていたアルカが居て、衝撃で彼女も目覚める。少女のお尻で鳩尾に一撃をくらったアルカは、苦しそうに胸を抑える。どうやら完全に入ったようである。

 

「……」

「……」

 

 驚いて飛びの居た少女とアルカが、無言でお互いに見つめ合う。両者の表情は読めないが、無言で目線での対話をしているようだった。男三人は、独特のコミュニケーションをつづける二人を眺めていた。

 

「……」

「……ん」

 

 先に動いたのは、アルカだった。両手を合わせて小さくした水銀を少女に見せた。プルンプルン動く水銀に、謎の少女も興味をそそられたのか、恐る恐る指を伸ばす。だが、怒りという感情を得たアルカは一味違う。少女が手を伸ばした途端、球体だった水銀の形状を口のようにして、少女の指をくわえさせた。

 

「!!!!!?????」

「きゃ」

 

 突然指を食べられた少女は、声は出さないが全身の毛が逆立つように、大慌てでアルカをもう片方の手で突き倒す。思いのほか強烈な突き飛ばしを受けて、アルカが後ろに転がる。少女は自分の指が残っている事に気が付くが、ドキドキした心臓はまだ収まらない。

 しかし、突き飛ばされたアルカは、眉をひそめ頬を膨らませたまま少女を押す。肩を押された少女も瞳に涙を溜めながら、応戦する。

 

「……ゆるさない」

「……!……!」

 

「こら、お前ら喧嘩するんじゃない」

「子供同士。喧嘩の一つや二つくらい放っておいたらどうだ坊主?」

「アルカは魔術使うだろうが」

「だな、おいマスター」

 

 腰を上げたブレイカーが掴みあった2人の襟首を持ちあげ、2人を引き離す。そして、少女を先に降ろすと掌に乗せた月霊髄液を使おうとしていたアルカの頭部を軽く殴った。

 

「んぎ、いた」

 

 本当に軽くお仕置きを加えたブレイカーだが、アルカは頭部を抑えて恨めしそうにブレイカーを見る。だが、ブレイカーは彼女を睨み返し、デコピンを加える。あうっと後ろにのけぞったアルカは状況の理解が出来ていない。

 

「最初にいじわるしたのはお前だろマスター。そして子供の喧嘩で魔術を使うな。卑怯を通り越してなんか情けない」

「……ん」

「分かればよろしい。わかったら謝らないとな」

「……」

 

 子供の喧嘩で魔力を用いるのは間違いだと学んだアルカ。ブレイカーに背を押され、少女の前に出されるアルカ。一方、ウェイバーに宥められた少女も落ち着きを取り戻し、恐る恐るアルカに向き合う。2人は、やはり何も話さず、じーっと視線で何かを訴えかけている。

 また振り出しに戻った状況にウェイバーも顔を歪める。どうにも相性が悪いのかもしれない、むしろ同族嫌悪というのがアルカにも当て嵌まるのかと考えた。

 

「……」

「……ん」

 

 お互いに進展しない状況でアルカは、ウェイバーの部屋にある押し入れから、一枚の絵を渡した。少女は何も言わずにそれを見て、目を輝かせる。アルカが渡したものは、冬木の一番高い建物から見下ろした光景だった。見た物をそのまま絵に出来るアルカの絵は、誰が見ても美しい絵だった。たとえ、この街が現在聖杯戦争で狂気と血に溢れていようとも、美しいものは美しいのだ。

 少女もその絵に感じる物があったのか、それを渡したアルカに少しだけ微笑んだ。

 

「ん」

「……」

 

 如何にか意思の疎通が出来たアルカと少女。絵を大事に抱きしめた少女は落ち着いており、ウェイバーが話しかけた。なるべく怖がらせないように、話しかけたウェイバー。

 

「さっそくで悪いんだけど、お前の名前言って貰えるか? それから何処に住んでたとか。安心してくれ、僕等がキチンと届けてやる」  

「……」

「あんな、ことがあったんだ。すぐには話せないか」

 

 困ったような顔で口をパクパクさせるが、少女の口から言葉は出ない。事件によるショックで言葉を話せなくなったのかと思ったウェイバーあは少女の頭を撫でながら「無理をしなくていい」と告げる。

 

「だがな坊主、言葉を話せんとなるとこっちの小娘はどうするのだ?」

「本当なら監督役に預けるのが正解だ。けど」

「アサシンのマスターが健在であるのに、匿っている神父は、信用ならないな」

「少なくとも、キャスターを打ち倒すまでは、此処で匿おうかと思う」

「警察に預けても、また狙われるだけか……」

 

 ブレイカーとウェイバーとライダーの三人が向かい合って、拾ってきた子供の処遇を話している間。この街に来て初めての同じ年頃の子どもに、アルカは興味が湧いた。基本的に大人としか触れあって来なかったアルカは、言葉を発せない少女の手を引いて、ウェイバーの部屋から出る。そして、なるべく静かに階段を下りると、リビングに用意されたアルカ用の物入れを開けた。

 自分の孫だと勘違いしたマッケンジー夫妻が、彼等の孫が幼少時使っていた玩具箱を取り出してくれていた。その中の玩具でアルカはよく遊んでいた。

 

「?」

「……おりがみ」

 

 夜中におもちゃ箱から折り紙を取り出したアルカ、それを両手に抱えて、再びウェイバーの部屋に戻る。部屋に戻ったアルカ達は、地図を開いて今後の方針について思案しているウェイバーとブレイカー。そっちの方は任せると煎餅を食べながら、通販雑誌を見ているライダーだった。

 

「……ライダー」

「お、戻ったか小娘。あ、煎餅か」

「!」

 

 ライダーの食べている煎餅に手を伸ばしたアルカに気が付いたライダーが、煎餅の袋をアルカと少女に向ける。それに手を突っ込んだアルカとアルカの真似をして煎餅を貰い、2人で齧る。

 

「坊主たちはしばらく話し込むだろうからな。ベッドの上で遊んでおけ」

「……ん」

 

 ライダーの勧めに従って頷くアルカと褐色少女。二人でベッドの上に折り紙と、折り紙の本を広げる。

 

――――

 

「……おー」

「!」

「うぉ、なんだこの折り紙の山。後片付けどうするんだよ、これ」

「器用だな」

 

 意外に手先が器用だった2人の少女は、次々に折り紙で美しい作品を作り上げていく。そして、折り紙が全て作品に変わるまで使いきった。あまりにベッドの上がゴチャゴチャし過ぎて、アルカと褐色少女は折り紙を終え、再び一階に玩具を探しに行った。

 

 最初こそ問題があったがアルカと少女は、完全に意気投合したらしい。若干褐色少女の方が、背が高いためかお姉さん的な立場でアルカに付き合ってあげていた。ウェイバーはベッドの上に散らかった折り紙を地図を退けた机に上に移動させる。

 折り紙なんて文化の無い英国出身のウェイバーは紙でこんな作品をいくつも考える日本人の手先の器用さを、再認識した。その後、アルカと少女はヨーヨーやトランプで遊び続けていた。トランプはさすがに二人では出来ず、ブレイカーとライダー、そして観念したウェイバーの5人でババ抜きをしていた。

 無表情の少女達は、問答無用で強くウェイバーが水銀を見て動揺を確認する手に出たが、それすらブラフで見事に少女達が勝ち上がる。そして、ライダーは持ち前の幸運を生かして勝利。

 

「まさか、俺が最終決戦に残されるとは」

「ふん、お前結構顔に出るからな」

「そうか、なら俺に勝って見せるがいいさって、あぁ!!」

「ふん。僕の推理を舐めるなよ」 

 

 結末は、ブレイカーの敗北で終わった。少し悔しかったのか、再選を申し込むブレイカーだが、アルカと少女はあくびをして目をさすっていたので、強制的にお開きになった。納得のいかないブレイカーは、トランプを片づけながら必勝法を考えていた。最悪の場合カードを礼装にと考えるが、解析の魔眼を持つアルカ相手に誤魔化せる気がしない。

 

――――

 

 ウェイバーはアルカをよく眠るマッケンジー夫妻のベッドに戻し、褐色の少女にベッドを貸しあたえ、床に敷いた寝袋で眠った。3人が眠りにつくと、ライダーとブレイカーは霊体化したまま、屋根の上に腰掛けていた。 

 

「ブレイカー、お前もあの小娘の事、気付いておるな?」

「気付いている。よりによってアサシンの一個体を引き込むなんてな」

「まぁ、なんて言うかな。あの場で殺せとは言い難くてな」

「わからない事もない。俺もマスターにあの子を殺すとは言い難い。最悪、マスターの中で何かが起こる。今のマスターはかなり不安定だ。感情にようやくのびしろが出来ただけで、幾らでも揺らぐ」

 

「確かに危険だわな。もし、あの小娘が敵対すれば、余が責任を持って斬り伏せる。だから、しばし見逃せ」

「了解。マスターにとって初めての友達だからな。大事にしてやりたいとは思ってたよ」

 

 

 2人の話し合いは、これで終幕した。次の日、わざわざ褐色少女に玄関のインターホンを押させ、近所の家からアルカの家に遊びに来た友人という設定で、マッケンジー家に少女を潜り込ませたウェイバー。マッケンジー夫妻も孫の友人と聞いて歓迎してくれた。

 別れることが決まっていても、アルカとウェイバーと少女は、少ない時間でも互いの理解を深めて行った。

 

 

 

tobecontinued

 

 





 謎の少女の正体。感想で既に回答された方もいましたが、ちびアサシンです。彼女の設定を見た瞬間これは出さねばと、慌てて書きくわえたのが彼女です。後、最近になって評価や感想を多く頂けて大変モチベーションが上がります。ありがとうございます。

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