Fate/make.of.install   作:ドラギオン

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切り札

 自らの過ちであり、その罪の結晶。それで居ながら完全な存在である円卓王相手に放たれる二人のアーサーの想いを乗せた聖剣の一撃。

 

「約束された勝利の剣(エクスカリバー)―――!!!」 

 

 今まで冬木で放たれた聖剣の一撃とは、文字通り格の違う真なる力を解放した騎士王の宝具。その威力は、神すら焼き尽くすであろう光の極み。その光に照らされた瞬間、その物はこの世から浄化させる。

 

 アルトリア・ペンドラゴンの振るった聖剣から放たれた極光に対して、黒の円卓王は黒く染まった聖剣と赤い稲妻を纏う魔剣の二振りで対抗する。黒い光の奔流と赤き稲妻が混ざり合った赤黒の奔流。その威力は、アルトリアの真名開放と互角。

 赤黒の奔流と極光の奔流が正面からぶつかり合い、凄まじい衝撃が周囲に響く。その衝突でギリギリ展開を保てていた征服王の固有結界が崩壊を始める。

 

 眩い光のぶつかり合いで発生した衝撃波で吹き飛ばされた小次郎とランサーは、英霊の規模を遥かに超えた戦いの行く末を見届ける。既に二人は、消耗しきっておりその場から動く事も不可能。文字通り死力を尽くしてアルトリアの真名開放までの時間を稼いだのだから。

 彼女の真名開放した一撃は円卓王相手に互角以上に競り合う。

 

 

「これで、正真正銘の最期。たのんだわよ、せい……ば」

 

 セイバー(アルトリア)に魔力供給を行い気を失う凛。いくら優れた魔術師である彼女でも度重なる宝具の使用、桜との全力戦闘、宝石剣の使用など、彼女の許容量を遥かに超えていた。むしろ、倒れる前にアルトリアへ魔力を供給できたことが奇跡なのだ。

 アルトリアの一撃で円卓王を殺す事が出来なければ、死ぬのは凛たちなのだ。

 

「聖剣よ!」

 

 必殺の一撃を放ったアルトリア。その攻撃に対して円卓王の迎撃が激しく、拮抗してしまう。これまでと違い、円卓王は全力で宝具の真名開放を行っている。それだけアルトリアの攻撃が致命的だという証明であり、突破口になりうる可能性がある。

 しかし、円卓王は危機を感じた場合、最適な防御を必ず行う。直感スキルで予知し、円卓の騎士達の武器を随所随所で使い分ける。そして強大な魔力供給から来る後先考えない火力を維持しながら戦うサーヴァントを恐れない相手はいない。

 だからこそ託された剣を握りしめ、騎士王たるアルトリアは聖剣を信じる。

 

(あと一歩だというのに) 

 

 聖剣を握る手に力を込め、もう一度真名開放を考える。だがマスターの凛から魔力供給は既になく、現実的に魔力が足りない。少しづつ円卓王の赤黒の奔流をアルトリアの宝具が押し始めているが、徐々に威力を削られているため、いずれ押し負ける。

 だが、現状戦力はアルトリア一人……そう思われた時彼女の傍に立つ者がいた。

 

「アルトリウスに綾香!」

 

 アルトリアの傍に立つのは、片腕を失いボロボロのアルトリウス。彼はアルトリアに宝具を譲渡した事で戦う力を持っていない。その彼が何故隣にいるかといえば、彼が杖代わりにしている聖槍が答えだった。そして、アルトリウスを支える綾香の姿。

 綾香の手を借りながら、アルトリウスは残った右手に周囲の魔力を吸いこんで活性化した聖槍を振り上げる。

 

「君に宝具を渡した時、聖槍が私に答えてくれたんだ。私に世界を護れと、綾香を護れと。だから私はここに立つ」 

 

 そういうアルトリウスと聖槍は、確かに魔力で深く結びついていた。アルトリアに聖剣を託した直後、放置された聖槍は真の主を見つけたように、傷付いた彼に力を与えた。その一時的な補助によって立ち上がるまでに回復したアルトリウスはマスターである綾香と共に前に出る。

 星の聖剣と同じく聖槍も、この世界を滅ぼす行いを許容できない。最果てにて輝く槍(ロンゴミニアド)は、13もの祈りの結晶、人類悪と戦う力をもう一人の騎士王に与える。元々、騎士王の危機を何度も救ってきた伝承を持つ聖槍は、伝承どおりにアルトリウスを助け円卓王を打倒する術となる。

 彼の傍に寄りそう形で共に戦う綾香の目には不安はなく、アルトリウスを支える手に力が込められる。

 

「十三拘束解放(シール・サーティーン)!! 最果てより光を放て……其は空を裂き、地を繋ぐ! 嵐の錨!」

 

 アルトリウスの声に従い、13もの封印が掛った聖槍が真の姿を現す。真の輝きを放つ槍は、完全解放された聖剣にも匹敵する極光を纏い、円卓王へと振るわれる。

 

「最果てにて輝く槍(ロンゴミニアド)!!!」

 

 約束された勝利の剣の隣で真名開放された聖槍は、その身に宿る光の魔力を放出。正面で激突する赤黒と極光の奔流、その極光に重なり合うように光の柱が叩きこまれる。二つの光は、円卓王の放った魔剣と聖剣の力を押しのけ、二つに引き裂きながら突き進む。

 最早迎撃は不可能であり、二つの極光はモーセのように赤黒の奔流を真っ二つにしながら突き進む。

 

「……」

 円卓王は、回避が不可能だと悟るや聖剣の鞘を展開。己自身を妖精郷に避難させる絶対防御と十字架の盾を使用。最大防御で二人の騎士王の攻撃に備える。

 

 前面に展開された盾と聖剣の鞘(アヴァロン)に光の奔流が激突する。通常であれば、聖剣の鞘を展開した円卓王に攻撃が届く事はない。しかし、聖剣の鞘(アヴァロン)の絶対防御に対して唯一の例外がある。それは鞘と対となる聖剣の力。 

 展開されたアヴァロンを通り抜けるようにして約束された勝利の剣の光が盾を持った円卓王を襲う。

 

 魔力放出による爆発的な筋力の強化で踏ん張り、聖剣の一撃を防ぎきろうとする。だが、円卓王の持つ盾は瞬時にひびが入り、体が大きく後ろに追いやられる。

 凄まじい勢いで襲いくる光の奔流を耐え凌ごうとする円卓王。

 

「アルトリア、押し切るんだ!」

「はい!」

 

 千載一遇のチャンス。アルトリアの聖剣の光を受け止めていた盾が遂に砕け、円卓王の体を光の奔流が飲み込んだ。凄まじい熱量と威力を全身で浴び、円卓王の身に纏っていた黒い鎧が剥がれる。そのまま光に呑まれ、ようやく聖剣の光が収束するとそこには、全身が焼け爛れた円卓王が力無く佇んでいた。

 

「あれが円卓王の正体ですか」

「そのようだ」

 

 そして、一度も外されなかった兜が砕け散り円卓王の素顔が晒される。仮面の奥にある素顔は、アルトリウスと同じだった。唯一違うのは、円卓王の目は全てを諦め光を宿さないものだった。

 その表情が目に入った綾香は、隣で円卓王の正体を見つめるアルトリウスの服の裾を強く握る。目の前にあるのは、彼が願いをかなえた後の姿。

 

「すごく悲しい姿」

 

 綾香がそう言葉を零した時、円卓王アーサーが彼女を見つめる。その視線にびくりと体がこわばる綾香と彼女を守るように槍を構えるアルトリウス。警戒はするが、円卓王の霊基は破壊されており消滅が始まっている。聖剣の一撃を身体で受け止めて無事で済むはずがないのだ。

 既に戦う力はなく、そこに存在するだけの円卓王。彼は悲しげな目で綾香を見つめながら、初めて口を開く。

 

「……私は、間違えた。本当に守るべきものを見捨て、己の願いを優先した。その私が別の道を選んだ騎士王に、裁かれる、か」

 

 酷くしゃがれた声、まるで生魂尽き果てた老人のような話し方をする円卓王。彼の言葉に未来はなく、あるのは後悔に重ねた後悔だけ。先ほどまで死の象徴だった強大な力見る形もなく消えた。

 

「貴殿は、聖杯への願いを成就した騎士王なのか?」

 

 アルトリアが円卓王に尋ねる。それに対して彼の答えは、無言の肯定だった。円卓王は、別の次元において聖杯に故国の救済を願ったアーサー王である。彼は聖杯戦争において、修羅となり戦い、大切な何かを見捨てた。そこで得たものはブリテンの救済。その末路は、ブリテン以外の全ての消滅だった。歴史の完全な否定、死んだ者たちや失われた国が彼の元に戻ってきた。

 だがブリテンが意外が滅んだ世界において、平常な生活など不可能に等しかった。復活したブリテンは別の崩壊を始め、民衆や騎士達、ありとあらゆるもの達が殺しあっていた。認めなれない物を排除する行為を、国の王が実際に行ったのだ。円卓王は、一度始めてしまったやり方を変える事が出来ず、反逆者を殺し秩序を保とうとした。しかし、そんな行為を続けていった先に、ブリテンを己自身で滅ぼした円卓王一人がカムランの丘に佇んでいた。

 ブリテンの滅びを未然に防ごうとした結果、彼はブリテンを滅ぼしてしまった。その彼の末路を知るものは、彼以外には存在しないだろう。ただ、円卓王は世界を滅ぼすという狂気に加担するほど摩耗していた事は、言うまでもない。

 どのような結論の末に、セレアルトと同調したかは語られない。ただ彼は何もかもを捨てたくなった、そう綾香は感じ取った。 

 

 そして彼は、一言こうこぼした。

 

「忘れるな騎士王達よ。滅び無くして、私達はあり得ない。何故なら、我らもまた人々の中の一人でしかなかったのだから……」

 

 円卓王の体が遂に首元まで消滅する。そして完全に消滅しかけた時、最期の言葉を残した。

 

「受け入れるんだ。それが唯一の救いだ」

 

 滅びを受け入れなかった円卓王。彼は、滅びと向き合う可能性に敗北した。円卓王は消滅する……第二の円卓王が生まれる事のないよう祈りをささげ。そして、消滅の刹那に脳裏に浮かんだのは、何時も嗤いながら泣き続ける小さな少女だった。

 滅ぼす事しかできない自分を必要とした、救いようのない少女。彼女自身が彼女の事を理解しておらず、地獄への階段を転げ落ちる中、落ちている事にも気が付いていない。

 そんな少女を救うことはできないだろう。なのに、全てを諦めた彼は、願ってしまったセレアルトがほんの少しでも光を見られるようにと。 

  

―――――――

 

「終りました、ね」

 

 円卓王の消滅を見届けたアルトリアは、疲労から片膝をついて肩で呼吸する。彼女の魔力で構成された鎧やドレスも消滅し、私服姿となる。すぐに消滅しなかった事が奇跡なほど魔力を消費していた。

 

「やっと、かよ。師匠の時以来だな、戦いで弱音吐きたくなったのわよ」 

「生前、死合を所望していたが中々に堪えるものでござるな」

 

 円卓王が本当に消滅したことで小次郎とランサーの両名は、床に大の字で倒れこむ。二人は、円卓王が倒れなかった場合、特攻を仕掛けるつもりだったが杞憂に終わった。

 

 剣でどうにか体を支えようとするが、もう身体中が悲鳴を上げて一歩も動けない。無理をして動こうとするアルトリアだったが「無理はいけないアルトリア」と綾香に支えながら立っているアルトリウスが制止する。

 

「ですが、上ではまだ士郎達が」

「動けないものが行っても、足手纏いでしかない。君は魔力を使いきっている。聖槍の魔力を利用した私と違って下手に動けば消滅してしまう。君は、マスターの傍にいたほうがいい」

「上には、私とセイバー(アルトリウス)で行ってくる。遠坂さんをお願いします」

 

 セイバー(アルトリア)に頭を下げる綾香。彼女と聖槍を持ったアルトリウスは、上を目指すという。綾香の妖精化は、既に最終段階に到達している。セイバーが戦闘に聖槍を使ったおかげで魔力の消費が抑えられたが、髪は完全に金色に染まり魔眼は最大限に活性化。身体中が妖精になり、顔つきもアルカに近付いている。だが、彼女は姉との繋がりから、彼女の戦いに駆けつけなければと急ぎ足になる。

 

かなり消耗しているアルトリウスだが聖槍の加護もあってか、アルトリアより魔力に余裕があった。二人は、床に倒れる小次郎とランサーに回復したのち、気絶した凛と魔力切れのアルトリアを頼むと告げる。

 二人も疲労がたまり切っており、最終決戦に参加できないことには不満があるも了承する。

 

「武運を祈ります。綾香」

「ありがとうアルトリアさん」

 

 アルトリアは、上階へと昇っていく綾香とアルトリウスの後姿を見送った。 

 

 

―――――――

 

 一方、地上で汚染英霊達と激戦を繰り広げていた征服王達。聖剣同士の衝突による衝撃だけで固有結界が崩壊。次々に座に送還されていく盟友達にねぎらいの言葉をかける事も出来ず、傍で大暴れする大英雄(ヘラクレス)と汚染英霊が現実世界で暴れぬよう引きつけていた。

 次々と臣下が現界を保つ事が出来なくなり、いよいよ潮時となる。数万の英霊に対して大英雄と征服王しか残らず、全方位を包囲される形となる。固有結界が消失、遂に汚染英霊達が現世に放たれた時、凄まじい魔力の衝撃が二つ発生。

 

 その破壊力は、汚染英霊達を召喚していた超巨大で頑強な魔術術式と核である大聖杯を破損させ、汚染英霊の召喚が止まる。さらに汚染英霊達のコントロールを失ったのか現界が保てない英霊達は次々に活動を停止していく。

 

 

 

 

「坊主、上の奴らやったようだぞ」

「そのようだな。しばらくは立つ気力すら残らないなこれは」

「シロウ達、頑張ったじゃない」

「■■■」

 

 戦車に乗る征服王の隣で、必死に踏ん張っていたウェイバーは疲れ果てたとばかりに座り込む。膨大な数の英霊を弟子達に負担させたとはいえ、長時間使役したのだから当然。その隣で上空を眺めながら佇む大英雄の肩に乗るイリヤ。

 彼女も魔力をバーサーカーと守護者と争う士郎へ供給していたため疲労困憊だった。もう一歩も動けないとイリヤは、身を任せられるヘラクレスの肩の上で眠りに落ちてしまう。

 

 徐々に人類滅亡の計画が崩壊していく。だが、まだ女神セレアルトだけが消滅していない。彼女にとって冬木の術式は氷山の一角にも満たない。抑止力と繋がった彼女を倒さない限り世界に平穏は訪れない。  

 

 

―――――

 

 そして、女神セレアルトに接触。互いの魔術回路を繋ぎ合わせたアルカ。この世全ての悪と抑止力を取り込んだ女神セレアルトの内面世界に侵入した彼女は、心象世界の中にて古い洋館を見つける。黒い世界の中に存在する今にも朽ち果てそうな洋館。

 その建物を外から眺めているアルカ。少しづつ歩み寄って洋館の扉に触れる。掌で洋館に触れた瞬間、アルカはその感触や風景に懐かしさを覚える。まるで我が家に帰ってきたかのような安心感に包まれながら扉を開け中に入る。

 

「……やっぱり」 

 

 扉から中に入ると、洋館の中は酷く荒れ果てていた。壁は崩れ、カーテンが炎を纏う。床には鋭い刃でついた切傷、さらに屋敷中に無作為に召喚された悪霊や怨霊の類が徘徊している。

 

 そして怨霊や燃えるカーテン、さらには屋敷中のシャンデリアや家具などが意識を持って侵入者であるアルカに飛来する。それらは洋館の主が無意識に用意した防衛装置。

 

 

「……退いて」

 

 アルカは、軽く手で振り払う事で飛来する家具や怨霊を不思議な光で退ける。強引にズカズカと洋館の奥へ進む。最終的に辿りついた場所は、唯一無傷の扉のある部屋。鎖や錠前を幾重にも施され堅く閉ざした部屋。その扉に手で触れると、中から少女のすすり泣く声が聞こえる。

 

「―――――!------!!!」

「……今、行くから」

 

 この泣き声は、何度もセレアルトに出会うたびに聞いていた声。ようやく、アルカは辿りつけたのだと実感する。唯一の障害である堅牢な扉。多少強引に行くしかないと掌から光を発し、その光が固く閉ざされた扉を吹き飛ばす。

 扉が吹き飛んだ事で、障害物が消えたアルカは明かり一つない暗い部屋へと侵入。妖精として覚醒している彼女の纏うドレスは、仄かな光を発して暗い部屋を照らす。部屋に光がともった事で彼女は部屋の主の姿を目でとらえる。

 

 

「ひっぐ、ひっぐう、うううぅうううう」

 

 暗い部屋の中央にいたのは、アルカと同じ色の髪に七色に輝く魔眼を持つ少女。目元を真っ赤にはらし、どれほど泣き続けたのだろうか咽が枯れ、可愛らしい洋服はボロボロになっていた。

 部屋にアルカが侵入しても彼女は一切気付くことなく泣き続ける。その小さな両手に無残な引き裂かれ死体となった両親の手を握りしめて。彼女の足元には、死体の山が築かれていた。だが少女は死体の山を気にすることはない。

 

 

「……ただいま、お姉ちゃん。そして初めまして」

 

 全てに目を瞑り何も見ようとしない少女の頬に、実の姉の頬に触れたアルカはそう挨拶した。  

 

  

 


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