Fate/make.of.install   作:ドラギオン

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「約束された勝利の剣(エクスカリバー)------!!!」 

 

 騎士王が剣を振りおろし、生命の輝きを円卓王に放った。これまで史上最大威力で真名開放された聖剣は、その溢れんばかりの力で円卓王を葬り去らんとする。    

 

 それに対して円卓王は、食らいつくランサーと佐々木小次郎を両手の剣で弾き飛ばし、約束された勝利の剣(エクスカリバー)と”我が麗しき父への反逆(クラレント・ブラッドアーサー)” を同時に振り下ろす。

 

 全てを飲み込む光の奔流に向かって、同規模の黒き光と赤い稲妻が正面で衝突する。

 

 

――――――――

 

黒しかない世界。狂気を振りまく泥の怪物が巨大な腕をアルカへと延ばす。瞬きすらする時間も許されない。

 

「来て、私は破壊を望む」

 

 だが、アルカは心から安著していた。彼女は呼び出したからだ。全人類にとっての絶望、それを打ち破る更なる絶望の権化を。アルカの声は、確かに届いていた。

 

「っつ-----ぐああああああああ」

 

 泥の怪物がアルカに接触する寸前、突然セレアルトだった怪物が苦しむ。そして、彼女の体を突き破って二つの光が飛び出す。飛び出した光は、それぞれが交差するようにして一つとなりアルカに迫る泥の怪物を弾き飛ばす。

 

 突然背後から迫った光の球体にぶつかった泥の塊は、木端微塵になるも瞬時に再生。そして、弓を持った冠位英霊と魔術師らしき冠位英霊が光に目がけて矢と悪魔を嗾ける。無数の悪魔と矢がアルカと光の塊になだれ込むも、人型へと形を変えた光が腕を振るうだけで、全てが破壊される。

 悪魔は、肉塊に。矢は瞬時に分解される。通常の英霊よりも高次元の存在たちが、人型の光に最大限の警戒を示す。

 

 

「-----------!!!!」

 

 自らの体を突き破られた女神セレアルトは、突き破られた心臓と下半身の黒い球体から呪いを噴き出しながら、憎き仇を睨みつける。彼女の怒りに反応し、冠位英霊達が一斉に宝具の使用段階に入る。一切の手加減なしに、現れた光の塊。

 アルカを守護し、この世の終わりを決める者を殺し去るために。

 

 

 そんな彼らに人型は、遂に完全な姿を現して口を開く。

 

「久しぶりの再会だが、随分と難儀なことだな冠位共」

 

 アルカの前に立って、冠位英霊達との盾となったのは、灰色の髪に赤く輝く目、灰色の外套を身に纏い、体中に魔術回路が浮かび上がった男。10年前に第四次聖杯戦争に参加し、それからもマスターを守り続けた最強の英霊。

 アルカの知る彼と違うのは、髪型が長髪となり、破壊の魔力を封印する刻印がなく、身に纏う魔力が存在するだけで世界を制止させる……そう感じる程の重圧と殺気を纏っている事。アルカのサーヴァントだった頃と違い、安全装置が一切ない彼は、他の英霊と違い、英霊ブレイカーの本体なのだ。

 本来召喚されるはずのない抑止力に封じられた存在。アルカが彼を英霊として召喚できた奇跡は、確かな前例として抑止力に認識された。ただし、前例が出来たことでより強靭な封印を施され、アルカですら召喚は不可能となる。しかし、そんな矢先にセレアルトという抑止力が最も対処しなければいけない怪物が抑止力を狂わせ、挙句の果てに取り込んでしまう。

 

 アルカはその隙をついたのだ。抑止力が反転し、封印が弱まる時を。アラヤとガイアの両方が顕現した事で、アルカは彼を抑止力から引きずり出す事が出来た。英霊としてではなく人類の終わりそのもの……。 

 

 彼は、6騎の冠位英霊達がこちらの様子を伺っているのを見て、背後のアルカに話しかける。

 

「それで、俺を抑止力から直接召喚した大馬鹿はお前か……」 

「……ん。私の事、覚えてない?」

 

 アルカと10年過ごした彼は、今目の前にいる彼のコピーでしかなかった。英霊は、英霊の座にいる本体のコピーを召喚した存在。コピーの記憶は本体に過去に見た映像のように引き継がれるが、悠久の時を座で過ごす英霊達にとって、たった10年の記憶や聖杯戦争の記憶は、印象が薄い場合がある。 

 故にブレイカーであった頃の彼と目の前の彼が、同じとは限らない。

 

 

「その目には覚えがある。だが、俺はお前自身を覚えていない」 

 

 彼の回答は淡々としたものだった。彼は、アルカの前世を覚えているが、彼女自身を覚えてはいない。家族二忘れられる苦しみを味わい、胸を抑えるアルカ。

 

「だが、安心しろ。俺はお前の望みを叶えるために……その事だけは、心が覚えている。お前が召喚したのは、災厄だ。俺の事は、ブレイカーとでも呼べ」

「……ん。お願いブレイカー」

 

 彼は、悲しむ仕草をしたアルカを慰めるように言った。記憶には無い、だが魂は決して忘れはしない。召喚された段階から、彼はアルカを守る事、常に最強である事、そして彼女の願いを成就する事。その誓いだけは、決して失いはしなかった。

 むしろ、一度だけの英霊としての召喚が、彼という存在を完成させたと言える。

 

「で、お前は何を壊したい?」  

「……。――――この運命そのものを」

「了解した。俺はサーヴァントではないが……使用者(マスター)としてお前を認め、願いを叶えよう…………よく頑張った―――――アルカ」

「!? 今、なんて……」

「……ふっ、まずは冠位共を破壊する。次はあの小娘だ」

 

 彼は、アルカに下がっていろと告げる。彼の言うとおり後ろに下がると、彼は深呼吸の後に無限に広がるかのような黒い空間内に充満するほどの魔力を魔術回路から噴出させる。次から次に彼から漏れ出す魔力量は、英霊アンゴルモアの頃の比ではない。まさに地球の全てを魔力だけで破壊し尽くした規模を誇る。それは大気のように広大で、海のように深く、大地のように根深い新たな生態系の構築。彼の身が生存し既存の全てを否定する大災害こそが魔力である。

 英霊ではなく、本体を呼び出した意味を理解していたが、想定を遥かに超える力にアルカは驚愕していた。だがそれよりも、彼が名乗ってもいない自分の名を呼んだ事が嬉しかった。  

 

「――――――――――――――!!!!」   

 

 突然現れたイレギュラーに過剰反応する女神セレアルト。冠位英霊達にブレイカーの消滅を命じ、彼女自身も強力な呪いを凝縮した魔力砲を角から発射する。その一撃は最大開放された聖剣の一撃にも匹敵。  

 

 その攻撃に追従するように槍と剣の冠位英霊が、駆けだす。魔力砲を向けられたブレイカーは、至って平然と掌を向け、その攻撃を受け止める。ブレイカーの掌に直撃した魔力砲は、彼の魔力に触れた傍から破壊され、分解されていく。

 無尽蔵の魔力を持つセレアルトに対して、それを凌駕する魔力を持つブレイカー。セレアルトの攻撃は一切彼にダメージを与えられず、彼が拳を握るだけで聖剣の一撃にも匹敵するソレが霧散させられる。そして反撃にと魔力を掌から放出。セレアルト以上の魔力砲が彼女目がけて襲い掛かる。女神セレアルトは、地面から肉塊の山を出現させ、さらに無数の結界を展開するも全てが障子紙のように貫かれ、直撃を受ける。破壊の魔力の奔流を受けた女神セレアルトは苦しみの声を上げる。

 そんな彼女を護るように剣の冠位英霊と槍の冠位英霊が、ブレイカーに急接近。それぞれの得物を振るう。その攻撃を上体を逸らす事で回避した彼は、神速の槍と光速の剣を見切りながら、紙一重で回避。両足から魔力放出を行い、瞬時に回転。彼の宝具である魔力を纏った回し蹴りが、剣と槍の冠位英霊を襲う。二騎の英霊達は、その攻撃を剣と槍で次々と弾いていくが、武器に対して生身で挑んでくる相手の一撃一撃に押される。

 

 そして、回転しながらブレイカーが無数の魔力弾を掌から創りだし、掃射。激しい嵐の中心となったブレイカーが突風に乗せて魔力弾を放つ。それらは、近距離にいる二人の冠位英霊達に降りかかり、命中すると空間を削り取ったようなダメージを与える。

 更に遠心力で加速した魔力弾が、遠距離で魔術を使用する魔術師、弓を最大限に引き絞る弓兵、太陽のような光を纏った舟に乗る騎乗兵にも降り注ぐ。彼らも巧みな技術や魔術、宝具で攻撃を相殺していくが、その隙をついてブレイカーが再び女神セレアルトに4連続で魔力砲を放つ。

 

「――――!!―――――!!!」

 

 破壊の魔力を盛大に浴びせられたセレアルトは、全身を血まみれにし、角は折れ、腕が全て消し飛んでいた。

 

「この程度か」

 

 女神セレアルトが悲鳴のような声を上げるが、ブレイカーは出力を絞りすぎたと寝起きの体の調子を確かめている。冠位達相手に善戦し、何度もセレアルトに攻撃を加える彼を恐れない存在が居ようか。だがブレイカーは過去に冠位の英霊達すら打倒し、生き残っていた。

 彼らを知っている事、そして英霊である彼らと違い、生前の”この世全ての終わり”としての力をフルに使えるブレイカーは、規格外すぎた。 

 

「……すごい」

 

 ブレイカーは最強だ。それはアルカが理解していた事実。だが、それは英霊としての彼を見た事による信頼だった。だからこそ、世界を滅ぼす力の真髄を彼女ですら理解していなかった。

 

――――強大すぎる力――――

 

 それがアルカやセレアルト、世界は彼に抱く印象。

 

「あっちの小娘は、手助けするのか?」

 

 ブレイカーは、上空から接近してきた舟に乗る冠位英霊をジャンプして回避。空中に飛び上がったブレイカーに弓矢が発射される。掌と足から魔力放出を推進力にし、縦横無尽に空を飛ぶ。

 追尾してくる弓矢を黒と白の混ざった魔力を放ち迎撃、さらに背後から迫ってくる周囲の泥を取り込み巨大化した狂戦士の腕が迫る。しかし、何事もなくブレイカーはアルカを背に庇い、左右の拳を巨大な泥の腕に叩きつける。殴りつけられた泥の腕は、拳と同時に打ち込まれた破壊の概念を持つ魔力によって内側から破裂する。

 彼は、何度も炎に包まれ瞬間移動を繰り返す骸骨騎士と戦うアンを指差す。アンは通常の英霊より弱い半英霊。その彼女が冠位英霊と正面からぶつかっている光景は、誰の目から見ても心臓に悪い。実際アンは、何度もナイフで剣を受け止めては飛ばされる。

 

 どうやらブレイカーの声を聞いていたらしく、彼女は首を横に振る。それを返答として、ブレイカーは6人の冠位英霊と向き合う。彼らは一人ひとりが敵対する事すらばかばかしい魔力を秘めた宝具を真名開放してゆく。彼らの企むのは、一斉攻撃でのブレイカーの消滅。

 示し合わせたように、彼らのクラスを表す絶対の宝具達が解放されていく。ブレイカーも宝具の開帳に対して、全力で答える。英霊となっていた彼の宝具となった世界を終らせる魔力。それを全身からほとばしらせ、迫りくる宝具の真名開放に突進する。 

 

 一切の迷いなく、世界を一撃で焦土にしてしまう対界、対城など大規模な破壊兵器の究極系。それらに猛然と突っ込む存在は、破壊という概念そのもの。破壊とは彼自身であり、彼にとっての故郷に等しい。ならば何を恐れる事があるのか。

 ブレイカーは、最大開放された冠位英霊6騎の真名開放の中を強引に突き進み、中心で大爆発を引き起こす。核爆発にも匹敵する爆風と衝撃波が周囲を襲うが、アルカと女神セレアルトは、それぞれが結界を形成。それによって身を守る。

 

 そして、セレアルトの形成した黒い世界に亀裂の入るような激しい爆発、その破壊が収束に向かった時、セレアルトとアルカの前にあった光景。

 それは、爆発の中心地で多少の火傷を負いながらも直立するブレイカー。そして故意に爆発を至近距離で浴びせられ消滅寸前の冠位英霊達。既に彼らを構成する霊基は、光すら置き去りにしかねない速度で襲い掛かるブレイカーによって砕かれていた。

 あえて大爆発を発生させたブレイカーは、真名開放した冠位英霊対の隙を狙い、あえて攻撃を浴びながら駆け抜け彼らに致命傷を負わせた。時に手刀で心臓を貫き、魔力放出で右半身を吹き飛ばし、剣を折り、槍を曲げ、弓を砕き、舟に風穴を開け、指輪を粉砕、泥の体を吹き飛ばすなどしてあっという間に事を成し終えた。血に染まった両腕を力なく下ろし彼は消滅を始めた英霊達を見届ける。  

 

「正規の召喚なら、こうはならなかっただろう。恨むなら、雇い主を恨め」

 

 本来の彼らを知るブレイカー。呆気なさすぎる幕切れに、戦闘に愉しみを持つ彼は不満げだった。抑止力が狂い、平行世界、過去と未来で人類や地球を滅ぼす兵器となろうと……本来の目的で使用されない兵器に十分な成果は出せない。 

 そして、その元凶は理性を失い悲鳴じみた叫びと共に、ブレイカーとアルカを睨みつける。

 

 

―――――――――

 

 ブレイカーが大爆発を発生させ、その爆風によって骸骨騎士とアンの戦いに大きな変化が起こる。爆風で体勢を崩したアンを狙う剣。何度も撃ち合うたびに骸骨騎士の攻撃を引きよせ受け止めていた歴代ハサン達の魂が宿ったナイフでガードするアン。

 だが、踏ん張りもきかない体制で受け止めた事で、彼女の手からナイフが弾き飛ばされ上空へと舞う。完全に丸腰になったアンに抵抗する手段はなく、首を切り落とす斬撃が迫る。彼の持つ剣は、歴代ハサン達が肉体改造によって手に入れた暗殺術ではなく、運命による死を与える。相手が死ぬべき時、死ぬべき時を見失った時、それに死を与える。その刃はアンの水銀の体を持ってしても死を逃れる事は出来ない。

 

「?」

 

 だが、迷うことなく首を狙い剣を振るった骸骨騎士の青く燃える目が揺れる。それは確かな驚きであった。彼が自分より背の低いアンを見下ろす先には、彼の握っていた大剣を両手でつかみ、彼の喉元に突き刺したアンが居る。

 それは卓越した剣技と経験を持つ彼ですら予期しない事態。アンを狙った斬撃は、自らが上空に弾き飛ばしたハサン達の魂が宿りしナイフが彼の腕に落下、腕を切断する事で阻止される。激しい回転と自重、そしてハサン達の信念が初代ハサンの腕を切り落とした。

 アンはその隙を、自分の腕が殺気のない不運という運命の悪戯で機能しなくなった骸骨騎士が持っていた剣を空中でキャッチ。小柄な彼女が扱える筈のない大剣は、自ら運命に導かれるように……山の翁の首に突き刺さる。

 

 そう、自らの意志ではないと言え山の翁としての教義を破り、セレアルトに利用される骸骨騎士は山の翁たちの首を切り落とし、彼らの衰退という罪を許した剣によって捌かれたのだ。

 

『これは、運命なのでしょうか』

「……大義。首を落とせ」

 

 首を剣で突き刺された骸骨騎士は、一切の抵抗をやめ、山の翁として役目を果たした彼女を称える。そして、己が首を切り落とせと命じる。アンは、一言も発することなく彼の首を切り落とした。彼の首が地面に落ちるより先に、骸骨騎士は完全にこの世から消滅する。

 そして、戦いによって消耗しきったアンは、前のめりに倒れ意識を失う。

 

 

 

――――――――――

 

 

 無限の剣製を同時に展開した守護者エミヤと衛宮士郎。半分ずつ領域を支配しながら、両者の操る剣群が激闘を広げる。

 

 互いに持ちうるは無限の剣。正義の味方達の力を授かった士郎と抑止力のサポートを受ける守護者。二人の実力は拮抗し、未だに決定打が生まれてはいなかった。砕け散った剣の破片が荒野に広がり、新たな剣達が積み重なっていく。

 どうにか現状を突破できないかと衛宮士郎が思案した時、彼の体内にある聖剣の鞘が共鳴を始める。それは固有結界の外でアルトリアが聖剣を構えたのと同時だった。

 

 聖剣が真の力を発する時、それに釣られて衛宮士郎の脳裏に浮かぶのはひと振りの剣。それは剣を投影する贋作者である彼にも作れない最高の聖剣。未来の衛宮士郎ですら投影すれば瞬時に死亡してしまう神秘の究極系。だが、英霊エミヤや衛宮士郎に存在しない筈の記憶。

 遥か彼方、地球の外側にある月での戦い、衛宮士郎という存在の歩む道の一つに、答えは有った。正義の味方という結末を歩む衛宮士郎の中で、唯一満足できた正義の味方としての戦い。力無き消える運命の少女のために振るった力。

 

 絶望の淵にいる守護者である衛宮士郎を打倒するに相応しき剣。そのイメージから基本骨子を再現、一本の極限まで真に迫った剣を作り上げる。

 

「……」

 

 これまで以上に丁寧で真剣な投影魔術。衛宮士郎の動きに異変を感じた守護者エミヤは、採算度外視で剣を投影する。数えるのが馬鹿らしくなる質量の暴力は、士郎が護衛に使用した剣群を飲み込む津波となる。

 

「これは、衛宮士郎だけの力では完成しない剣だ。セイバー達の想いが俺にも力を貸してくれたが故に、打つ事の出来た代物。

 この光は今まさに輝かんとする王の剣……永久に遥か黄金の剣(エクスカリバー・イマージュ)!!」

 

 無限の剣による津波。その質量の猛威に対して振るわれたのは、衛宮士郎の手に投影された騎士王の聖剣。それは模造品である。だが彼の体内にある鞘と可能性の記憶、そして正義の味方達の残滓が重なる事で、本物に極限まで迫った約束された勝利の剣。真名開放と共に両腕を振るい放たれる光は、守護者の嗾けた剣の津波を切り裂いた。

 剣で構成された津波を正面から叩き割る光の奔流は、一切遮られることなく守護者エミヤという絶望へと叩きこまれる。 

 

「……くっぐ、ぐおおおおおお……」

 

 光の奔流に剣群をぶつけ相殺しようとする守護者エミヤだったが、聖剣の力が彼の予想を遥かに上回り彼の体を飲み込む。光の奔流にのみこまれた守護者は、うめき声をあげながらも消滅の寸前、浄化されていくように安らかな表情を浮かべる。

 そして安らかな表情をした直後、別の可能性に辿りついた過去の自分によって、消滅させられる。

 

 守護者エミヤを消し去った光の奔流はなお勢いを止めることなく、直進。そして、守護者が消えた事で解除され始めた固有結界を貫き、まっすぐに人理焼却の炎に包まれる大聖杯へと向かう。

 人理焼却の炎に守られた大聖杯に直撃した贋作の聖剣が放ちし光。その凄まじい光は、焔による鉄壁の守りに身を焦がしながらも後から後から押し寄せる光の勢いで突破をしようともくろむ。やがて拮抗していた炎と光は、光の勢いが僅かに勝り始める。衛宮士郎は、己に託された正義の味方達の鎧を魔力に変換、聖剣の威力を高めた。生身の体で聖剣の一撃を放った代償はでかい。

 放った聖剣の光が体を焼き、魔術回路をオーバーヒートさせ、血液が蒸発しそうになる。それでも士郎は大聖杯を見据え、剣を握りしめた。

 

 

「うぉおおおおおおお!!!」

 

 そして炎を上回った光の奔流は、黒き呪いを吐きだし続ける大聖杯を破壊し始める。初めて黒い闇に光が差し込む。呪いを吐きだす大聖杯に直撃した魔力の光は、呪いの元凶であるソレを貫き粉砕する。滴り落ちていた泥は蒸発し、巨大な光の柱として天にぼる。

 

 大聖杯を打ち砕き、消滅させた事で投影品である”約束された勝利の剣”は衛宮士郎の手の中で消滅。全身に襲い掛かる痛みと脱力感から床の魔法陣に倒れ伏す。

 

「あとは…………たの、んだ」

 

 そう言い残し、衛宮士郎は完全に意識を失う。

 

 

 

 

 

 

--------

 

 衛宮士郎の決死の聖杯への攻撃は、確かに実を結び始める。

 

 

「―――――つーーーーーーーああっがああああああああああーーーーーーーー!!!」

 

 7騎の冠位英霊を失い、ブレイカーとアルカの主従と対峙する女神セレアルト。仮に冠位英霊が消滅したとしても、抑止力と聖杯を取り込んだ彼女は、止まらない。

 彼女を守るグランドサーヴァント達が居なくとも、ブレイカーの放つ宝具と撃ち合い、地面や空を支配し、多様な魔術と潤滑な魔力による二人きりの戦争を行っていた。

 

「様子が変だぞ」

「……ん。たぶん、下がやってくれた」

 

 ブレイカーへと放たんと口を開き、下半身である黒い球体から10本の一つ目竜の頭部を産み出した。

それらは一斉に竜の息吹を放とうと準備にはいる。しかし、突然女神セレアルトが胸を押さえて苦しみ始め、産み出した一つ目竜達は泥となって消滅。彼女の苦しみを現すように黒い世界が崩壊を始める。

 

 その様子を見てアルカは、外で衛宮士郎達が善戦しているのだと知る。セレアルトの力の源、大聖杯を破壊されれば、彼女は再び弱体化する。そして取り込んだ抑止力が制御できず内側から破られる。ボロボロと彼女を構成していた怪物の殻が崩れ始める。

 角が崩れ、無数の腕が腐り、下半身の黒い球体がドロドロに溶ける。 

 

「……セレアルト」

 

 力の一端を失いながらも、憎悪と怒りだけで未だにブレイカーとアルカに向かって肉塊で出来た無数の腕を作りだし、襲いかからせる。だがブレイカーが軽く腕を振るうだけで、無数の肉塊となって地面に転がる。

 最早彼女は、穴のあいた風船に等しい。内側から抜け出る力を抑えられず、しぼんでいくだけ。

 そんな彼女に一切容赦なく、ブレイカーは魔力を放っていく。砲撃となった白と黒の魔力を防御もむなしく浴びせられ、崩壊が早まるセレアルト。ギルガメッシュの宝具すら打ち破った宝具の直撃を受けて原形が残り、戦意を失っていない事が奇跡だった。だがブレイカーの攻撃を次第に防げなくなり、女神セレアルトの下半身である黒い球体が半壊する。

 

 殻が剥がれ、中からようやくセレアルト自身。アルカであった体が姿を現す。黒い球体の中でうずくまり、血の涙を流しながら泣き続ける少女の姿がアルカとブレイカーに見えた。瞬時に球体が再生をはじめ、女神セレアルトの殻が構成される。

 僅かの時間だけセレアルトが露出した時、アルカにはひどく泣きわめく女の子の声が聞こえた。酷く痛ましく、せつない泣き声が。

 たとえるなら、暗い部屋で一人泣き続ける幼児のように。 

 

 

「あれが本体か。外側をいくら攻撃しても無駄ってところか」

「……ブレイカー。外殻を破壊して、私に道を開いて。あの怪物はこの世全ての悪とセレアルトの恨みの化身。私がセレアルトの魂を消滅させる」

 

 既に女神セレアルトを圧倒しながらも、相手の再生能力を前に分析するブレイカー。形振り構わず純粋な火力で存在そのものを消去しようとした彼をアルカが止める。

 なんとマスター(使用者)である彼女が前に出ると言うのだ。ブレイカーと女神セレアルトが戦えばブレイカーが圧勝する。それは相性の問題を考慮し切り札として召喚したアルカが一番理解している。だが根源に繋がる彼女は、女神セレアルトの消滅では何も解決しない事を知っている。

 

「魂の消滅? 俺の宝具でも十分可能だが」

「……無理。セレアルトの魂は、根源に繋がっている。この世から消滅させても別の世界で復活するだけ。大元を絶たなきゃだめ」

「そうか。だが、これを前に進むのかお前は」  

 

 アルカが前に出た瞬間、女神セレアルトは彼女を否定するかのように広範囲に無数の刃を産み出し、それらをアルカ目がけて突き出す。猛スピードで迫りくる針の筵。

 その姿にアルカは、セレアルトが自分の心の中に誰かが干渉することを拒否していると感じた。

 

「……ん」

「なら突き進め。お前は最強の鉾を持っている……恐れる事は何もない」

 

 ブレイカーの破壊を阻める者など存在せず、彼を従えるアルカの前に障害など無意味。彼の指示に従い前に飛び出すアルカ。その動きに反応し女神セレアルトの産み出した数千にも及ぶ刃が到来。

 しかし、アルカは一切躊躇することなく前進する。避ける事はせず、最短距離で突き進む。そして彼女に追従するブレイカーは、黒と白の魔力の噴射で加速し、彼女の行く手を阻む刃をことごとく打ち砕く。アルカの周囲を螺旋状に飛びまわるブレイカーの動きは、巨大な竜巻がまっすぐにセレアルトに向かっているようだった。

 

 アルカとブレイカーの接近に対して、女神セレアルトは空間を捻じ曲げる事で逃げる準備を始める。それを見たアルカが、追従するブレイカーに命令を下す。別の次元に逃げられればセレアルトの存在を根源でも検索できないアルカに彼女を見つける事は不可能。

 捩じれた空間は、既に時空流を発生させておりそれに突っ込めばアルカの体は消滅すら免れない。

 

「……ブレイカー、もっと早く!」

「人使いの荒い奴だ」

 

 やれやれといった表情で時空間の歪みに先行したブレイカーは、時空の歪みの中で可能な限り魔力を放出。彼の破壊を帯びた魔力は、空間すら打ち砕く。触れられない筈の現象である空間の歪みを破壊、ガラスが砕けるようにして女神セレアルトを守る壁が消える。 

 目配せだけで「後はお前が行け」と伝えるブレイカー。彼の意図を汲み取りアルカは、静かに頷き妖精の羽を羽ばたかせ女神セレアルトへと向かって手を伸ばす。

 

「―――――――――――!!!」  

「……もう泣かなくていい、お姉ちゃん。force install」

 

 アルカが女神セレアルトの胸元に触れながら、内包魔術を起動。セレアルトの中にある内包魔術とアルカの持つ内包魔術を強制的に接続。それによりアルカから伸びた魔術回路がセレアルトへと巡り二人を強固な絆でつなぐ。

 

 そして、二人の体が輝き始め太陽のように眩い光が周囲を覆い尽くした。

 


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