Fate/make.of.install   作:ドラギオン

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聖剣

 アルカとセレアルト、衛宮士郎と守護者エミヤの戦闘が佳境を迎え始めた時、下層にて円卓王アーサーと英雄王ギルガメッシュが死闘を繰り広げていた。

 

 

「天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)!!」 

 

 円卓王の放つ聖剣の一撃は、英雄王の乖離剣の真名開放に匹敵。互いに何度も撃ち合いながら、突破口を探る。黄金の鎧と漆黒の鎧を着た両者。英雄王の王の財宝の機銃掃射が常に降り注ぐ中で、二騎の英霊が激しい攻防を繰り広げる。

 しかし、無限に近い攻撃手段を持つ英雄王であっても円卓王をしとめる事が出来ない。己の最大の一撃は、聖剣や聖剣の鞘によって相殺、あるいは反射される。

 他の攻撃に関しては、巨大な盾と卓越した剣技によって切り払われる。さらに瞬時に距離を詰め接近戦に持ち込まれるのでは、英雄王といえども苦戦する。だが均衡が保てているのは、ランサー、小次郎、聖愴を持ったアルトリア、片腕を失いながらも聖剣を振るうアルトリウスの加勢があってこそだ。

 

 息切れや魔力切れ一つしない円卓王の剣を、4人の英霊達が総出で捌くのだ。そこまでしてようやく一時しのぎとなる。5対1の戦力差で持久戦に持ち込まれる状況下。英霊達も疲弊が重なり、最大火力である英雄王ですらブレイカーとの戦闘の影響で、限界が迫っている。

 それでも持ちこたえているのは、彼らの意地に他ならない。

 

「決定打がない戦いってのは、こうもきついもんかね」

「実に歯痒くあるな。して、英雄の王とやら、堂々たる口上の割に、結果が伴っていないようだが?」

「黙れ雑種。貴様から裁決を下してもよいのだぞ」

「こんな時に、貴方達という人は!?」 

「ははは、全く嫌になるね」

 

 それぞれが満身創痍。愚痴の一つでも零したくなる。しかし、相手はそんな悠長なことを許してはくれない。魔力放出を伴った突進を繰り出す円卓王。迎撃に出たアルトリウスとアルトリア。聖剣と聖槍で、円卓王の持つ聖剣と魔剣を受け止める。

 しかし、出力で圧倒的な差のあるため二人の体が弾かれる。弾かれた二人の背後から高速で小次郎とランサーが鋭い剣戟と刺突を繰り出す。狙うは鎧の隙間。

 

 しかし、直感スキルを持つ円卓王はそれを予見。両手に持つ剣を持ちかえ、二人の攻撃を弾き、両者の体を切り裂く。

 

「がはっ」

「ぬ」

「天の鎖よ!」

 

 ランサーは槍でガードするものの勢い良く吹き飛ばされ、小次郎は間一髪で回避には成功するも余波だけで彼の体は吹き飛ばされる。だがそんな彼らを受け止めるようにギルガメッシュが天の鎖を網状にして展開。クッションのように彼らの体を保護する。

 

「……忝い」

「ち、借りを作っちまったか」

「ふん。犬共が犬なりに恩を感じるのなら、犬らしく奴にかみつくくらいしてみせよ」

「てめぇ。俺の前で」

「待たれよ。個人の主義は今持ち込むべきではござらん」

 

 そして、前衛の彼らが距離を取った段階で王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)による全方位から一世掃射を行う。回避は不可能。故に円卓王は、盾と聖剣の鞘を取り出す。

 

 王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)の宝具に、円卓王の盾を貫く武器はない。故にギルガメッシュの持つ乖離剣のみを警戒している証拠だった。

 王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)の掃射を盾の真名開放によって展開した強固な結界によって阻む円卓王。

 

「女共! 策を考えうる時間は与えたはずだ」

「うっさい! こっちも必死に考えってるっつうの!」

「後はタイミングだけ」

 

 ギルガメッシュが時間を稼いでいる間に、マスター二人は作戦を念話でサーヴァントたちに告げていく。だが、ギルガメッシュが綾香と凛に気を向けた一瞬の隙をついて円卓王が盾を構えたまま飛び出す。

 

「英雄王!」

「ギルガメッシュ!!」

 

 アルトリウスとアルトリアが魔力放出によって加速する。その勢いですら、置き去りにするように円卓王は、一直線に英雄王へと剣を振り上げる。英雄王も乖離剣ともう片方の手に竜殺しの剣の原典を持ち迎え撃つ。

 

 アーサー王である以上、竜殺しの武器は天敵。そう読んだが故に英雄王はその剣を振るう。

 

「何っ!?」

 

 英雄王の振るった剣は、円卓王と打ち合うことなく空振りする。何故なら、円卓王の狙いは背後から追ってくるアーサー王二人。急激な方向転換によって感性を無視した円卓王は、全身の関節が軋む中でも聖槍を持つアルトリアへと切りかかる。

 

「こちらが狙いですか」  

「奴の狙いは君だアルトリア」

 

 聖槍を構え、二刀を振るう円卓王に突きを繰り出すアルトリア。セイバーで召喚されたとはいえ、持ち馴れた槍は冴えわたる。アルトリアの魔力を受けて光り輝く槍が円卓王に迫る。リーチの差では、槍が有利。

 だが、円卓王は右手に持つ黒き約束された勝利の剣(エクスカリバー)で難なく矛先を逸らす。そして、完全に剣の間合いに入った事で、アーサー王を死に至らしめた不貞の息子、モードレッドの持っていた魔剣を振り切る。

 

 直感を持ってしても回避不能。咄嗟に小柄な彼女を庇うようにアルトリウスが立ちはだかる。しかし隻腕の彼に、円卓王の剣を防ぎきることはできなかった。片腕で振るわれた魔剣に同じく片腕でふるった聖剣が弾かれ、戻しの刃によってアルトリウスの胸が突き刺される。

 

「ごふ」

「セイバー(アルトリウス)!!」

 

 アルトリウスが魔剣によって貫かれ、吐血する。そして、無慈悲にも引き抜かれた魔剣。血染めの魔剣を持つ円卓王に、槍を振り回してアルトリアが肉薄する。しかし、聖剣と魔剣によってガードされてしまう。

 倒れそうになるアルトリウスは、綾香の叫び声に反応するように、反射的に剣を振るう。

 その剣は、二刀でガードする円卓王の兜に命中。兜の目元に傷をつける。

 

 しかし、力尽きたかのように膝から崩れ落ちるアルトリウス。アルトリアの体に蹴りを入れることで引きはがした円卓王は、既に動けないアルトリウス目掛けて剣を振り上げる。

 

「灰は灰に、塵は塵に!」

「嬢ちゃん!!」 

「拙者が行くでござる!」

 

 アルトリウスの危機に、マスターである綾香が走りながら魔術で攻撃を加える。咄嗟の行動に、隣にいた凛ですら止める事が出来ず、無茶をする綾香の姿に叫ぶ。 

 

 そして、無策にも前に飛び出してしまった綾香に反応した円卓王。綾香の炎は、対魔力によって弾かれ無防備な姿をさらしてしまう。

 

「突き穿つ死翔の槍(ゲイボルク)!!!」 

 

 綾香に向けられた注意。それを自身に向けさせるため、ランサーが宝具の真名開放を行う。投擲され幾重にも枝分かれしたゲイボルクが円卓王へと降り注ぐ。瞬時に魔剣を盾に取り変えた円卓王は、盾から障壁を発生させゲイボルクの攻撃を完封する。

 

「ぼさっとしてんな金色!」

「ほざけ犬!」

 

 

 だが、足が止まった隙を狙い小次郎が負傷したアルトリウスと綾香を抱えて距離を取る。障壁に防がれた槍が手元に戻ったランサーは、ギルガメッシュに吠える。無礼な態度に激怒するギルガメッシュだったが、王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)の照準を向ける事はなく。

 絨毯爆撃で円卓王を足止めする。

 

 その時間稼ぎを利用して、二人を抱えた小次郎が後方にいる凛の所まで、距離を取る。

 

「この馬鹿綾香! 貴方が死んだら、どうする気よ」

「でも、セイバー(アルトリウス)が刺されて」

「あ、やか、僕は大丈夫……」

「傷はすぐに、……あれ、体が」

 

 傷が深いセイバー(アルトリウス)。彼の傷を治療しようとした時、綾香の体が一瞬だけ透明になる。

「綾香嬢? これは妖精化という奴ではないか?」

 

 自分の体が透明になった事に困惑する綾香。傍にいた小次郎は、綾香の体が妖精化を深刻化させている兆候だと見抜いた。 

 

「あやか、だめ、だ。君が」

 

 もう綾香は限界に近い。度重なるサーヴァントの戦闘、宝具の解放と魔術の行使。綾香の体は遂に限界を迎えたのだ。後何度か魔力を消費尾すれば、綾香は人間では完全になくなる。完全な妖精となり、世界の表側に存在が出来なくなる。

 セイバー(アルトリウス)は血に濡れた手で、綾香の手を掴む。

 

「僕は、もう、助からない。今ので霊核が破壊されたようだ。だから、綾香……」 

「ダメだよ。セイバー(アルトリウス)、セイバーが居なくなったら。私、私」

 

 掴んだ腕に力を込めながら、セイバーは綾香に微笑みかける。涙があふれる彼女の綺麗な目を見つめながら、首を横に振る。 

 

「君は、一人じゃない。僕は君を守るサーヴァントだ。だからお願いだ……最期まで、君を守るために戦わせてくれ」

「……」

 

 綾香は何も言えない。彼の覚悟の重さ、そして世界の危機を前にして、自分のとれる行動は一つだからだ。下唇を噛みしめ、セイバー(アルトリウス)の願いを聞いて承諾する。

 

 そんな彼らの傍に、ランサーと共に円卓王へと肉薄していたアルトリアが吹っ飛ばされる。聖槍を用いて円卓王の魔剣と聖剣と打ち合っていたが、次第に劣勢となり強烈な一撃を受け止めた衝撃で地面に転がる羽目となった。

 すぐに体勢を立て直そうと聖槍を床に突き刺し、体を起こす。

 

 セイバー(アルトリア)が宣戦を離れた事でギルガメッシュが再び宝剣魔槍での連続射撃を始める。ランサーも一時的に距離を取るが、円卓王との接近戦で手傷を負い、脇腹の切り傷を手で押さえていた。

 

戦況は不利になり、希望はないかと思われた。だが、アルトリウスが戦線に復帰しようとするアルトリアを呼び止める。

「待ってくれ、アルトリア」

「アルトリウス、貴方の傷では、もう」

「わかっている。……君にコレを」

 

アルトリアは、アルトリウスの傷の深さを見て彼がもう戦えない事を知る。現に力無く綾香に支えてもらう事で、ようやく上体を起こしているのだ。

そんな彼がアルトリアに差し出したもの、それは彼の聖剣だった。

 

聖剣の刃を掴み、持ち手をアルトリアに向ける。

 

「これは、貴方の聖剣ではないですか」

「あぁ。僕のエクスカリバーを君に使って欲しい」

「え」

「本来エクスカリバーは、両手で振るわなければ、全力を出せない。だが僕は腕を失っている。

そして、円卓王の持つ"全て遠き理想郷(アヴァロン)"を突破できるのは聖剣だけだ」

彼の目は、アルトリアに聖剣を使う事を望んでいた。アルトリアの聖剣は既に折れており、残る聖剣は円卓王のそれと、アルトリウスの持つ物のみ。だが、アルトリアにはアルトリウスの聖剣を扱う自身がなかった。己の望みや聖杯に託す願いすら意味はなく。

 唯一自分を肯定していた宝具すら、円卓王に砕かれたのだ。アルトリアは意識の奥底で、聖剣が折れたのは自分に聖剣を扱う資格がなかったからでないかと考えていた。思い出すのは、選定の剣が未熟さゆえに折れた事実。

 

「しかし、これは貴方の宝具だ。私では」 

「……改めて問う。君は誰だ」

「何を、急に」

「君は、ブリテンの王、アーサー王ではないのか」

「っ」

 

 いつまでもハッキリしないアルトリア。彼女に対して強い口調でアルトリウスが話す。

「僕らは、確かに別の存在だ。だが、僕らの歩んだ道や、願いは限りなく同じのはず。君だって、選定の剣を抜く時、覚悟したんじゃないのかい?」

 

 二人の脳裏には、台座に突き刺さった選定の剣が浮かび上がる。それを抜いた物が王となりブリテンを救う運命を授かるという伝承。当時のブリテンを救いたいという願いがあった。

 だからこそ彼や彼女は、選定の剣を抜き、王となる道を選んだ。そして王となり、円卓の騎士たちを集い、ブリテンを救う戦いを繰り広げた。あの頃は確かにブリテンを救いたい一心で身命を捧げたのだ。

 その結末が、ブリテンのほろびだとしても。確かに理想はあった。

 

「その覚悟、理想の果てが……世界を滅ぼす要因であっていいはずがない。君のマスターだった彼と同じだ。円卓王という結末を僕らで変えなければいけない」

「……」

「僕と君、同じアーサー王だ。なら、君にこそ託したい」

 

 アルトリウスが約束された勝利の剣の鞘を握る腕に力を込める。アルトリアは、アルトリウスの目を見ながら、静かに頷く。そして聖槍を床に突き刺し、もう一人のアーサー王から授けられる聖剣の持ち手を掴む。

 

 彼は彼女であれば、自らの聖剣を扱えると信じていた。その信頼は、形となって真実となる。アルトリアが聖剣を握った瞬間、二人の魔力が互いを聖剣を介して駆け巡る。それは同調と言って差し支えなく、覚悟を決めたアルトリアは、今まで一度も鞘から抜かれる事のなかった”約束された勝利の剣”を抜く。

 これまでは、アルトリウスの聖剣に掛った制約と封印によって、解放される事のなかった刀身が解き放たれ、瞬時に眩い光が固有結界中に広がる。

 

 それは円卓王の持つ聖剣の暴力的な光と違い、体を包み込む仄かな温かさ、傷付いた英霊達やマスター達に活力を与える命の光。刀身を抜かれたアルトリウスの聖剣の鞘は、光を保ったままアルトリアに力を与える。突然聖剣から力が流れてくる感覚に戸惑うアルトリア。

 しかし、その力は優しく彼女の霊基を満たしていく。13もの封印を解き放った聖剣を握る彼女の姿が変化する。頭に王冠が現れ、青いマントが風になびく。それは英霊アルトリアのアーサー王としての姿。

 

「再び、王としての姿になるとは思っていませんでした。……英霊アルトリウス、貴方の聖剣ありがたく使わせて頂きます」

「だが、僕の消滅まで時間がない。勝負は一度きりだ」

 

 聖剣を譲渡した事で、アルトリウスは力なく綾香に身を任せる。彼に出来る事は、アルトリアが円卓王を打倒するまで生き残る事。それこそが彼の使命となった。

 

「はい。では、行きます。凛、これで決めます」

「了解よ。全魔力持っていっちゃいなさい!」

 

 アルトリアは、聖剣を上段に構えながら真名開放の構えをとる。振り下ろすべきは必殺の一撃。そのためにアルトリアは、マスターである凛に声をかける。凛の魔力はもう枯渇寸前。

 だが、正念場で弱音を吐くわけにはいかないと宝石剣を強く握りしめる凛。宝石剣は既に崩壊を始める程、酷使されている。既に光の斬撃は使えない。だがセイバーに魔力を与える事は出来る。

 そして自分に残された令呪を使い切ってでも円卓王を倒すと決める。

 

「(ようやくその気になったかセイバー)」

 

 王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)で牽制を行いながら、乖離剣に魔力をチャージするギルガメッシュ。余裕の表情で終始円卓王と拮抗する彼だが、表情の裏には少しばかりの焦りがあった。

 アルカと契約していたことから、魔力の供給は彼のスペックを最大限に引き出しても問題ない。だが、ブレイカーと戦った際に、酷使しすぎた乖離剣が悲鳴を上げ始めた。既に罅が入っており、いつ破損しても不思議ではない。

 最大火力で放つ事は一度なら可能だが、聖剣の鞘を持つ円卓王の防御を破れない。

 

そのように思案していると、円卓王が転輪する勝利の剣(エクスカリバー・ガラティーン)を真名開放。放たれた炎によって宝具の原点にして、英雄王の財宝を燃やし尽くす。

それにより足止めが無くなった円卓王は、同時に約束された勝利の剣(エクスカリバー)を真名開放する。

 

太陽の炎に追従するように、光の斬撃が英霊とマスターの密集した場所を狙う。アルトリアは、魔力を聖剣にチャージしているため、即座に反応できない。中途半端な状態で真名開放を行えば、攻撃を防げても円卓王を倒すに至らない。

 そんな中で誰よりも速く動いたのは、黄金の英雄王だった。セイバー(アルトリア)を守るように前に飛び出した彼は、無数の盾を取り出し攻撃を防ぐ。 

 

「「ギルガメッシュ!」」

 

 太陽の聖剣と光の聖剣の同時攻撃。その攻撃に立ち向かうように動いたギルガメッシュ。その行動にセイバー(アルトリア)と凛が驚く。だがギルガメッシュは後ろの二人を相手することなく、聖剣二本による攻撃で砕け始めた無数の盾目掛けて乖離剣に込められた魔力を解放する。

 3つの円筒が回転し、発生した時空流が太陽の聖剣と光の聖剣の二振りと激突する。激しい衝撃波が発生し、3つの光がぶつかり合う。

 

「くっ耐え凌げエアよ!!」

 

 最上級の聖剣二本と互角に打ち合う英雄王の乖離剣。激しい魔力同士のぶつかり合いを繰り広げる両者だったが、機能の限界を超えた使用で乖離剣が機能を停止する。聖剣を打ち合っていた時空流が消え当然、二つの聖剣の光がギルガメッシュを飲み込もうとする。

 

「ぐぅうううううおおおおおおおおお」

 

 炎と閃光に包まれたギルガメッシュの姿に全員が言葉を失う。だが、英雄王の背後にいるセイバー(アルトリア)達には、その光が届かない。英雄王が持てる限りの防御で攻撃を凌いでいるからだ。

 

 そして、永遠にも思える時間が遂に終わりを迎えた。聖剣の攻撃がようやく止む。二つの聖剣を王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)と体で受け止めた英雄王。光が止むと同時にフラフラと前のめりに倒れそうになる。

 

 だが彼は、瞬時に踏ん張る事で、無様に倒れ伏す事を避けた。そして、焼け爛れた肌や無数の傷跡をまるでなかったかのように両腕を組んで再びその場に君臨する。それこそが王の威光だった。決して屈することなく、己という存在を主張し続ける人類最古の王。

 

「す、すごい」

 

 どんな状況であろうと倒れる事をよしとせず、君臨し続けるプライドに綾香が正直な感想を零す。傷つき、致命傷を負った事で英雄王の霊基は崩壊を始める。無数の光の粒子となっていく中、彼は振り返りながらアルトリアや他の英霊、マスター達を赤い双眼で見つめる。

 既に下半身が消滅し、後数分も現界を保てない。だが彼の目は鋭く、威厳に満ち足りていた。

 

「騎士王よ。己こそが真の騎士王だと思うならば、あの鏡像を打倒して見せよ。……そして英霊共、有象無象であるとも僅かにでも腕に誇りがあるのならば、戦うがいい。我からの言葉を胸に刻め。……ではな」

 

 英雄王は最後にそう言い残して消滅する。彼の稼いだ時間は、円卓王が再び聖剣を放つまでの10秒ほど。だがそれで充分だった。 

 

 英雄王の稼いだ時間でアルトリアの聖剣は、力を滾らせる。振り上げられし剣は、輝きだけで天に昇る。その光は全ての人類の、こうあってほしいという願い。世界崩壊の危機に、それを退けてほしいという願いが集まり伝説の王に力を与える。

 

「カッコつけやがって、ちっ」

「だが、あのように見せつけられては……応えぬ訳にも行くまい。綾香嬢、よければ切り札を切ってもらいたい」

「うん。ランサーにアサシン、令呪を持って命ずる! 後少しだけ時間を稼いで!」

 

 そして、騎士王をサポートするように、侍と槍兵が決死の覚悟で左右から円卓王に切りかかる。少しでもアルトリアの時間を稼ぐ事に尽力する。令呪を消費した強化で、二人は最大限の技を繰り広げる。二刀流で応対する円卓王だが、二人の勢いに押され始める。

 

「オラオラァアア!!」 

「秘剣……燕返し!!」 

 

 胸元で拳を握りながら綾香は、二人の雄姿を見届ける。ボロボロになりながらも戦い、勝利を掴もうとする二人の英雄。圧倒的な強者を前に、決して引き下が事なき姿。

 綾香はマスターとして見届けるのだ。そして、二人の戦いを眺めるしかないセイバー(アルトリウス)は、己の不甲斐なさに奥歯を噛みしめる。本来なら自分も彼らの傍で戦いたいと。

 

 だが託した希望は、確かな現実としてそこに現れた。目をつむりながら剣を掲げていた騎士王アルトリアが静かに瞳を開く。彼女の殺気を感じてランサーとアサシンは後ろに大きく飛び退いて道を開く。

 

「束ねるは星の息吹、輝ける命の奔流。今一度知るがいい円卓王……約束された――――――(エクス)」   

 

 振り上げられた聖剣が、今倒すべき敵へと振り下ろされる。

 

 




英雄王退場。

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