「どうやらあれのマスターは、アーチャー自身ほど剛毅な質ではなかったようだな」
己以上に傲慢で破天荒なアーチャーに対して、ライダーは苦言をこぼす。暢気にそう言う彼だが、未だに警戒を怠ってはいなかった。何故なら彼等の前には、素晴らしい技を持ちながら、理性を持たないバーサーカーが居るのだ。目の前の獲物が消えれば、次は近くの獲物を狙うのは必然。
「…ur…」
静寂な空気の中で突然バーサーカーが動きだす。
黒い兜の中で、バーサーカーが咆哮を上げる。その視線の先には、セイバーがおり彼女を見たバーサーカーが唸りを上げ、魔力を迸らせる。
「A--Urrrrrrrrrrr!!」
バーサーカーは、真っすぐ彼女に向かわずコンテナの傍に転がる鉄骨を掴む。鉄骨を掴んだまま、大きく跳躍しそれをセイバーに叩きつける。セイバーもその攻撃を透明の剣で受け止めるが、驚きが顔に出る。
「そんな」
ギリギリと鍔競り合いする鉄骨とセイバーの剣。それこそが本来ありえない事だ。セイバーの持つ剣は、最高峰の神秘を秘めた宝具である。ただの鉄骨でそれと斬り合えば、紙よりたやすく斬られるのは鉄骨だ。
その鉄柱から感じられるのは憎悪と殺意の感情と狂戦士の魔力。彼の持つ鉄骨は、バーサーカーの触れた部分から黒い魔力が葉脈のように巡り包み込んでいた。素早く力強い攻撃にセイバーが押され始める。
「貴様、まさか?」
「そうか、あの黒い奴がつかんだものは、何であれ奴の宝具になるということか」
「随分便利で、手癖の悪い宝具だな」
ライダーの説明でその場に居た全員は、バーサーカ―の能力に納得がいく。宝具と対等に戦える武器は、同じく宝具である。バーサーカーの能力で宝具となった鉄骨は、通常ではありえないセイバーの宝具と打ち合えるまでに、強化されているのだ。さらに言えばバーサーカーに宝具を奪われれば、相手のものとなってしまう英霊としては看過できないリスクも発覚する。
そして、アーチャーの時もそうだがセイバー以上に卓越した技術で、鉄骨を槍のように操って、攻めていく。セイバーが片手を負傷している事も拍車を掛けて、状況を悪化させる。
「セイバー!!」
アイリスフィールが苦戦するセイバーに声を掛けるが、答えている余裕をバーサーカーは与えてくれない。次々に振るわれる鉄骨を剣で弾き、後ろに飛び、しゃがみ、地面を転がる。徹底的な防戦でどうにか堪えるのが精いっぱいで彼女の持つ直感スキルが、警告を続ける。
「貴様は、一体?」
勢いよく斬り込んできたバーサーカーの攻撃を交わし、カウンターに回転切りを加えるも、槍の角度を変えられ威力がそがれる。そして、斬り返した鉄骨を振り下ろされる。その一撃を如何にか防ぐが、鉄骨を腰を着点に背後から回され、彼女の頭部に向かう。
避ける事は敵わない攻撃がセイバーを襲う。
「悪ふざけはそこまでにしてもらおうか、バーサーカー」
しかし、セイバーにダメージは来なかった。彼女の目に映ったのは、音を越え自分の隣に賭けつけ、赤い槍を振り上げ終えたランサー。そして、鉄骨を真ん中から寸断され呆然とするバーサーカーだった。
魔力によって宝具として強化された鉄骨も、ランサーの持つ魔を絶つ破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)の前では、無意味。バーサーカーの宝具に対して絶大なアドバンテージを得ていた。
「そこのセイバーには、このオレと先約があってな……これ以上つまらん茶々を入れるつもりなら、俺とて黙ってはおらぬぞ」
「ランサー」
セイバーは、ランサーの在り方に感銘を受けずにはいられない。自分と同じく騎士道を重んじる彼の姿は、彼女にとって好ましく、それでいて彼との勝敗を付けるのは自分でなくてはならない自負があった。尋常な決戦で彼と死力を尽くした先の勝利は、何物にも代えがたい栄誉であると。
だが、騎士道は所詮騎士にしか理解できないたわごとに過ぎない。
『何をしているランサー? セイバーを倒すなら、今こそが勝機であろう』
「セイバーは必ずやこのディルムッド・オディナが誇りにかけて討ち果たします」
実に効率的な判断を下すランサーのマスター。彼の言う通り弱っているセイバーを先に打ち倒すのは戦略として正しい。だが、騎士であるディルムッド・オディナは、好敵手とは尋常な果たし合いの元で雌雄を分かちたいと今生のマスターに告げる。
「何となればそこな狂犬めも、先に仕留めてご覧に入れましょう。故にどうか我が主よ」
『令呪を持って命ずる』
「主よ!」
ランサーの言う矜持が理解出来ないケイネスは、言う事を聞かないランサーに対して令呪の行使をした。令呪による縛りは、あの傲慢な英霊にすら退却を強制するもの。それに抗うには、ランサーは対魔力が足りない。
『ランサー、バーサーカーを援護してセイバーを殺せ』
「ランサー、く」
ランサーを心配するセイバーだが、令呪に縛られたランサーはその双槍で持って、斬り掛る。後ろに飛んで回避するセイバー。
「セイバー、すまない」
屈辱に歪んだ表情で、彼はセイバーにそう告げる。だが、これ以上殺さねばならない相手に掛ける言葉が見つからない。どうあっても、望まぬ形での決着がこれほどまでに惜しい。ディムルッドは、歯を噛み締めながら槍に力を込める。その横に折れた鉄骨を剣のように持つバーサーカーが立つ。彼もセイバー以外には興味を持たないのか、ランサーには警戒すらしていない。
「アイリスフィール、この場は私が食い止めます」
最悪のシナリオになったと、セイバーは表情を歪める。今の状況で最も望まぬ事態になり、自分の生存は考慮できない。ならば、せめて騎士として戦えないアイリスフィールを逃がす事に死力を注ぐ事にした。
「だから、せめて貴女だけでも離脱してください。出来る限り遠くまで」
だが、彼女は逃げない。このままでは、護ると誓った彼女まで犠牲にしてしまう。
「アイリスフィール、どうか」
セイバーは、アイリに逃げる事を懇願する。だが、彼女はこの戦場に潜んでいる最愛の夫であり、アインツベルンの切り札、衛宮切嗣を信じていた。彼ならこの状況でも、好機に変えると。
バーサーカーとランサーは、揃ってセイバーに向かって駆け出す。もう駄目かと思われた時。彼等の背後から、恐ろしい速度で駆け抜け追い抜いた灰色のサーヴァントが反転、左足でバーサーカーに蹴りを見舞い。蹴りの回転から、再び正面を向くとランサーの赤と黄色の槍を手の甲で弾き、勢いの乗った左脚を上げる。
ランサーは、咄嗟にのけ反る事で顎に向かう必殺の蹴りを回避、槍を持ったまま器用にバク宙する。バーサーカーは、野生の勘と天武の才から、鉄骨で回し蹴りを受け止めていた。だが、彼の持つ鉄骨は、ランサーに斬られた時より、さらに短くなっていた。
受け止めた中央で、見事に折られており、今度は双剣のように持ち方を変えるバーサーカー。
「すまないなセイバー。加勢させてもらう」
セイバーの危機を救った灰色の外套と、幾何学模様の走る時代が判別しにくい衣装を纏う。黒髪にアーチャーのように赤い瞳の英霊。ブレイカーは彼女の隣に立って、左手を突き出し、右手に拳を握る構えを取る。そして、彼の全身には、淡く輝く刻印が浮き出ていた。
――ー――彼がランサーとバーサーカーに攻撃する前。状況が悪化した時、ブレイカーはライダーと話していた。
「ランサーも可哀想に」
「あぁ、奴のマスターには戦場の花をめでる感性は無いらしい。さて、どうしたものか」
バーサーカーとランサーに襲われれば、今のセイバーでは死亡は必須。だが、自分達が介入すれば、3対1でランサーが不憫である。どうすればいいか、と聞きながら彼のブレイカーを見る目は、答えを出していた。そして、彼のマスターであるアルカは、ブレイカーの裾を引っ張る。それは、催促に他ならなかった。
「わかったよマスター。ライダーのマスター、うちのを頼む」
「あぁ。だけど、お前も無理するなよ」
「了解した。ついでだ、俺の実力も見せておくかね……いざ」
アルカをウェイバーに預け、チャリオットから飛び降りた彼は、己のスキルである強化を全身に施していく。全身の魔術回路に強化が巡り、通常状態では最低レベルのステータスを卑怯なまでに上昇させる。幸運を除いた全てのステータスが上昇し、Aに届いた瞬間、彼は走り出す。さらに全身に淡く輝く刻印が浮かび上がっていた。
「すごい」
「ほう、あんな特技があったのかあやつめ」
「……おー」
遅れて駆け出したのに、バーサーカーとランサーを追い抜いて、2人を強制的に下がらせた格闘技術にウェイバーとライダーは感心する。ウェイバーとしては、ステータスの異常に低いブレイカーの裏技を見て、己の陣営の英霊も反則じみた存在だと改めて理解し、恐怖よりも信頼が湧く。ステータス詐欺とは、ブレイカーの事を言うんだと思ったウェイバーだった。一方、己のサーヴァントを今一理解しておらず、何処か地味だと感じていたアルカは、ブレイカーに小さく拍手する。
――ー――視点は変わりセイバーとブレイカーへ。
「何故、貴方が私に加勢を?」
助けて貰った事には感謝するが、彼は征服王の仲間の筈。セイバーを陥れはしても、味方をするメリットはない。彼女の問いにブレイカーはニヒルな笑みでこたえるブレイカー。
「今日、マスターはアンタとあの女性に助けられたって聞いてな。さっきは礼だけだったが、マスターがセイバー、あんたを助けてほしいって言ってな」
「そんな、あの子が?」
「まだ情操教育の最中でな、受けた恩には報いる。これを教え込まないといけないんだ、人としてな。アンタは善行をしたんだ、マスターに変わって俺が報いるさ。油断するな、来るぞ」
「感謝します……あなたのクラスは?」
此処に来てうれしい協力者に、セイバーも心からの感謝を告げる。だが、彼のクラスを聞くのを忘れていたため、呼び名が浮ばない。それを察したブレイカーは、そう言えば名乗って無かったと改めて名乗った。
「俺は、破壊者のクラスで限界したサーヴァント・ブレイカーだ」
「エクストラクラスですか、協力感謝しますブレイカー」
自己紹介を終えた段階で、痺れを切らしたバーサーカーが両手に1m程の短剣(鉄骨)を持って駆け出してくる。それに続いて令呪に縛られたランサーも両手の槍を鳥のような構えを取って、襲い来る。
「バーサーカーは、一先ず俺が。状況で入れ替えよう」
「く、わかりました」
バーサーカーを迎え撃つために飛びだしたブレイカー。彼の言う通りならば、ランサーをかなり軽視した戦いになるため、心から納得はできない。だが、協力して戦う以上、相性や戦況で相手を変えるのは、悪い手ではない。
彼女が返事するより先に、お互いに走っていたバーサーカーとブレイカー、黒と灰色のサーヴァントが衝突する。バーサーカーは障害となったブレイカーに、両手の短剣を振り下ろす。強化した動体視力で彼の太刀筋を見切ったブレイカーは、胸の前にクロスさせた手刀を繰り出して、短剣を迎え撃つ。
ガキンと素手と武器がぶつかった事では発生しない音が響き、バーサーカーの宝具化した鉄骨が粉砕される。バラバラになった短剣を持っていたバーサーカーは、追撃として繰り出された返しの手刀を受けてコンテナに吹き飛ぶ。
「浅いか」
コンテナに突っ込んだバーサーカーに対して、手ごたえを感じないブレイカー。実際は、彼の攻撃の直撃を咄嗟に後ろに飛んだバーサーカーが軽減したのだ。狂戦士のくせに防御が上手い英霊だとブレイカーは苦笑する。
「余所見をしている場合か、ランサー!」
「く、はぁ!」
ブレイカーの隣で、ランサーとセイバーも何度も槍と剣を切り結んでいる。ようやく、望んだ決戦だがランサーは先程の卑怯な行いを悔いていた。それでも、彼の積み重ねた槍捌きは冴えわたっており、何度もセイバーを苦しめる。だが、先程からブレイカーと名乗った英霊の技が気になる。
それに関してはセイバーも同じだが、味方である事が彼に対する意識を薄くしていた。
「どうやら、俺のスキルもバーサーカーに対しては有効そうだ」
最初の回し蹴りと、先程の手刀でバーサーカーの宝具を破壊出来た事で相性の良さを確信したブレイカー。破壊者のクラスで呼ばれた彼のクラススキルは破壊。文字通り、何かを壊す事に特化した英霊であり、彼のそれは自らの肉体により物質、概念、宝具などありとあらゆる物を破壊することが出来るという物だった。追加効果で破壊された物体は、自然治癒できる場合は回復できるが、不死属性や神霊などの超自然的概念では破壊を修復できない。という効果まで持っている。
触れた物は、なんでも破壊されるスキルとは違い。物理的に破壊しなければ物体には効果の薄いスキルである。ただし、形の無い宝具や概念礼装、物理的硬度を持たない者には、最強のアドバンテージを誇るスキルである。形あるもので言えば、バーサーカーの宝具も実際の物質であるが、彼が破壊したのはバーサーカーの宝具の効果だった。
ランサーの破魔の紅薔薇と同じような作用で鉄骨の宝具化を破壊、物理的な破壊力で持ってただの鉄骨を破壊したのだ。物理的な破壊力を強化できるブレイカーには、最終的には破壊不可能な物質は無いとも言える。当然高ランクの宝具は一筋縄で破壊できないが、それでも通常の攻撃より効率的に破壊する補正を持っている。
「さて、どうくるか」
仕留めた手応えがないため、狂戦士が生きている事は必然。コンテナに突っ込んだまま、出てこない相手にブレイカーは警戒する。だが、そんな警戒は吹っ飛んでしまった。
「■■■■ーーー!!」
「うお」
コンテナを突き破ってきたバーサーカーは、コンテナを放り投げたのだ。どういう経緯か、コンテナを投げる武器として認識したバーサーカーが、葉脈の様な魔力を巡らせたコンテナを軽々持ち上げ投擲。中が空とはいえ、その重量は凄まじく、英霊にすらダメージを与えるコンテナが迫る。対峙するブレイカーは下から打ち上げるように拳をぶつけ、コンテナの方向を上空に変換。打ちあげたモーションの隙をついて獣のように接近したバーサーカーが空中のコンテナを掴もうと飛び上がる。それを掴み、彼に叩きつけるつもりなのだろう。
「何であろうと破壊する!」
空中でコンテナを掴み、宝具化したバーサーカーはそれを振り下ろした。ブレイカーも避けるつもりは毛頭なく、十分に強化された拳でコンテナを迎え撃った。ズシンという地面を揺らすほどの衝撃が走る。さすがにセイバーとランサーの戦闘も中断されてしまう。
「ブレイカーが……」
地面に突き刺さったコンテナを見てウェイバーが、悲鳴じみた声を漏らす。それは周囲の心の声の代弁だった。だが、ブレイカーの魔力は消えておらず、アルカとライダーは、彼の死を感じていなかった。
二人の期待に応えるように、コンテナの中から声が聞こえる。
「勝手に殺さないでくれ」
ブレイカーの声がコンテナに反響すると同時に、コンテナを突き破って現れたブレイカーの正拳突きが、コンテナの上に立っていたバーサーカーの胸に的中する。数百キロはある上に英霊として昇華され、頑強になった鎧ごと、ブレイカーは大柄なバーサーカーを打ち上げた。
「……◼◼◼」
何故ブレイカーがコンテナの中から飛び出したかと言えば、潰される前にコンテナに大穴を開け、中を走っていたからである。見えない位置からの奇襲と鎧を凹まされる一撃に、バーサーカーは這いつくばる。ダメージは決して軽くないが、セイバーに対する執念と憎悪で、立ち上がろうとする。
「えらく根性がある英霊だな。ブレイカーよ、楽にしてやるがいい」
既に満身創痍のバーサーカー。意識を失う事もできない彼を不憫に思ったライダーがそう言うと同時に、バーサーカーは黒い魔力を伴い霊体化する。どうやら彼のマスターが退却を決めたらしい。
バーサーカーが消えたことで、残るはランサーだけになる。
「はぁ、く」
「ち」
未だに令呪で縛られるランサーは、戦いを続ける。セイバーは、全て剣で防ぐが、攻めに回れない。それを見かねたブレイカーが乱入する。
「ブレイカー!? 」
「マスターに君を助けるように命令されてる。バーサーカーを倒したのだから、次はランサーを仕留める」
剣と槍の応酬に、素手で乱入したブレイカーはセイバーを背に庇い、二本の槍の柄を手で弾く。左右からの同時攻撃を強化した両腕で受け止める。刃に触れないとはいえ、激痛と骨にまで響く衝撃が走る。ブレイカーが強化していなければ、上半身の骨全てが砕けただろう。
「随分苦い顔をするな色男。おら」
「ぐ」
両方の槍を、受け止めたブレイカーが前進してランサーの腹部に撃肘を決める。車に轢かれたような衝撃がランサーに走り、彼は後ろに飛ばされる。
『何をやっているランサー! そのような英霊ごときに』
ランサーが膝を付いた姿に、何処からともなくランサーのマスターが彼を責める。
「おう、ランサーのマスターよ。これ以上ランサーを辱しめるのは止めておけ。これ以上、続けるならブレイカーとセイバー、そして余の3人で貴様のサーヴァントを潰すが、どうするかね?」
ランサーは、よく戦っている。だが、ブレイカーが混ざり数で不利になり、さらに使用された令呪の『セイバーを殺せ』がブレイカーへの集中力を阻害する。そんな状況でランサーが戦えるはずがないのだ。
「ライダーに同意する。どうしても俺達を撃ち取りたいなら、残りの令呪も使うがいい。当然、我々のマスターも使うだろうがな」
勝敗はついている。それを理解できていない相手に、勝ち筋が潰えていることを告げる。流石に残りの令呪を使うほど耄碌していないランサーのマスターは、ウェイバーやアルカ、そしてサーヴァント達を憎しみを込めた眼で睨みながら『撤退するぞランサー』と告げて撤退した。
その命令に従って、ようやく令呪から解放されたランサー。彼は、どこかホッとした表情でライダー、セイバー、ブレイカーを見る。
「感謝する。ライダー、ブレイカー」
「なに、戦場の花は愛でる質でな」
「空気を読んだまでだよ。礼には及ばないさ」
「それとセイバー、今度戦うときは、正々堂々と雌雄を決しよう」
「私も望むところだ。貴殿との再戦を心待ちにしておく」
ブレイカーとライダーには、礼を良いセイバーには、再戦を申し込んだランサー。こうしてランサーも完全に霊体化する。
「では、余達も行くとしよう」
「征服王、お前は結局何をしに出てきたのだ?」
「ただうぬらを仲間に加えたくなった……それだけだ。セイバーよ、ランサーと勝敗を付けておけ、勝った方と余が戦ってやる。行くぞブレイカー、ではさらば」
征服王は、チャリオットを引く雄牛達の手綱を操って、空に向かって駆け出した。戦闘が終わり、緊張の糸が切れたウェイバーは、立ってられなくなる。どうにかライダーのマントに掴まって立つのが精一杯だった。ゆっくり海へと進むチャリオット。ブレイカーは、狭くなる上に魔力を使いすぎたと霊体化して、チャリオットを引く雄牛に腰かける。
聖杯戦争開幕戦は、ようやく終息を迎えたのだった。
ライダー達が出発すると同時に、こちらも気が抜けたアイリスフィールを支えるセイバー。騎士の鎧ではなく黒いスーツ姿に戻っていた。
「無事ですかアイリスフィール」
「えぇ。すごいわね、英霊同士の戦いは」
「そうですね。誰しも一筋縄でいかない猛者ばかりでした……」
セイバーは、その猛者に挑むに当たって、不自由な左手を見た。ランサーが死んだ訳ではないため、必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)の呪いは解除されていない。
「一先ず拠点で切嗣と合流ね」
「はい」
そう言ってセイバーとアイリスフィールが移動する中、終始見張っていたアサシンのサーヴァントが消える。それを待っていた人物がいた。
全てが終わり、皆が気を抜く瞬間。それこそが衛宮切嗣の戦闘開始の合図である。そして、同じく彼の命令でスナイパーライフルを構えた舞弥と切嗣は、引き金を引いた。
静寂が訪れた夜に二つの銃声、そして一人の流血が空に舞う。
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