Fate/make.of.install   作:ドラギオン

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冠位

 守護者エミヤと正義の味方となった衛宮士郎が固有結界で一時的にその場から消える。士郎達の邪魔にならないように下層に飛び下りたバーサーカーとイリヤ。彼女達が降り立った場所は、世界を滅ぼすために起動した汚染英霊の召喚陣の中。

 当然、汚染英霊の軍勢の中心地に飛びこんでしまった事になるのだが、イリヤは信頼する彼に告げる。

 

「シロウが任せろって言ったんだもん。だから、こっちは私達でやっちゃいましょ。やっちゃえバーサーカー!!」

「■■■■―――――!!!!!!!」

 

 イリヤが肩に掴まる形で地面に降り立ったバーサーカーは、反応した汚染英霊達を片腕で振るう斧剣で蹴散らす。

 次々に汚染される汚染英霊達の中心地に降り立ちながら、バーサーカーは猛威をふるい続ける。周囲の英霊達が一斉に宝具を用いて襲い来るも、十二の試練が真価を発揮し無力化する。

 

 槍や剣が無数に突き出されても、イリヤを抱えるバーサーカーの肌に傷一つ付きはしない。そして、彼の振るう一撃は、宝具の真名開放に匹敵する一撃を高速で何度も振るう。

、その暴れっぷりは、まさに蹂躙に等しい。一流の英霊達が敵となろうとも、大英雄の前では有象無象。傷つける事すら叶わず、彼の眼光に睨まれれば瞬時に肉塊となる。少女を守りながら英霊の群れを一人で相手する巨漢は、次々に英霊達を血祭りに上げていく。狂気に囚われながらも、少女に傷一つ付けさせず一騎当千の戦績を上げる彼を遠くから発見。すぐさま駆けつけた男が居た。

 

「おぉおお! これはぶったまっげた。まさかあの大英雄が聖杯戦争に参加していようとはな」

「見物のために敵の陣地まで乗り込まれてはかなわん!」

 

 電撃を纏う雄牛に曳かれた戦車で汚染英霊達を轢き殺しながら参上したイスカンダルとウェイバー。突然のイスカンダルの奇行に苦言を零すウェイバー。だが生前から大英雄ヘラクレスの大ファンであり、彼の血筋との伝承すらあるイスカンダルは、雄々しく戦う姿に興奮を隠せない。

 突然陣形を崩して、突入してしまった征服王をサポートするため、王の軍勢の英霊達が駆けつけてくる。彼らも王の性格を熟知し、さらに戦場に降り立ったヘラクレスの姿に感銘すら受けている。

 

「ミスター・ベルベット。そこにいると危ないわよ」

「私としても望んだ展開ではない。君は上手く手綱を握れているようで羨ましい限りだ」

 

 王の軍勢の英傑達が交戦している間に、イリヤとウェイバーが言葉を交わす。その間にイスカンダルは、イリヤに制止されたバーサーカーを見て感銘を受けている。

 

「狂化してなお、損なわれない威厳。そして強さ、これは余も負けてられんぞ!」

「■■■!」

 

 イスカンダルは、戦況が悪化している事は理解している。宝具を解放された王の軍勢とはいえ、徐々に数が削られていく。しかし、彼らは士気を落としはしない。そしてイスカンダルに羨望の眼差しで見詰められたヘラクレスは、何も答えはしない。だが、彼の期待を理解したのか片手でイリヤを抱きかかえながら、先陣を切ろうと斧剣に力を込める。

 

 一息付けたことで、調子を取り戻したのかバーサーカーが前に進む。そして、イリヤは彼から離れないようにしっかりとしがみつく。ウェイバーが戦車に乗るかと尋ねるも「此処が一番安全だから」と提案を断る。

 

「では、行くか。英雄達よ、かの大英雄が我らの戦いに助太刀してくれる! 英霊になろうとも、このような機会はないだろう。我らが雄姿を、伝説の英雄に示そうぞ!!」

「「オオオオオオオ!!!」」

 

 イスカンダルの鼓舞に答える英雄達。彼らの勢いは汚染英霊の軍勢に対して、蹂躙という名の力として示される。戦場の空気にヘラクレスも感化されたのか軍勢に負けぬ咆哮と共に、走り出す。彼の出陣を機に、イスカンダルも戦車を走らせ、汚染英霊達へと突っ込んだ。

 ヘラクレスとイスカンダルの両名が汚染英霊の群れに突き進むのを見た兵士たちは、王に続けと汚染英霊達へとなだれ込む。

 

 勝機はない。だが、希望はある。この戦場で戦う彼らこそ、明日の象徴なのだから。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 一方で空中に浮かびながら、にらみ合うセレアルトとアルカの両名。聖杯を取り込み、人ならざる物となったセレアルトと妖精族であり第六魔法の使い手となったアルカ。 

 

 アルカの発動した奇跡の誘発を可能とする第六魔法。その力を見てセレアルトは驚愕している。根源に繋がる自分ですら理解しがたい現象をアルカが行ったからだ。ヘラクレスの召喚、衛宮士郎の蘇生、そして彼に抑止の守護者と戦うための力を与えるなど通常は不可能。

 それゆえに恐ろしいのだ。故にアルカの存在は一切容認できない。目の前の存在は、己の憎しみを存在ごと消してしまうような怪物だと再認識。一切の手加減と遊びなく殺すと決める。 

 

 咄嗟に大聖杯から発生する人理焼却の炎をアルカに向かって放つ。だがアルカは、その炎に対して先ほど第六魔法で放った光を掌から放つ。それはまさに奇跡。この星にある物なら何でも燃やしつくす炎をかき消して見せた。

 

「!?」

「……全ての人類を滅ぼすなら、それを阻止する祈りがあるのは必然」

 

 セレアルトの優位性が一気に崩れ始める。セレアルトの行う人理焼却によって発生した炎をアルカは消す事の出来る力を持っている。何処までも憎たらしいと彼女はアルカの殺し方を変更する。

 

 

「何をしたか、それはどうでもいい。お前は殺すわアルカ」

「……無理」

 

 セレアルトが、一瞬で空に超巨大な魔法陣を形成する。そして、魔法陣から聖杯の泥が現出。その泥が次第に蠢く肉へと変質、それらが集まって数千を超える巨大な腕が空中に現れる。それらは下にいるアルカへと集中して伸びていく。

 アルカは、それに対して千もの魔術を同時に発動。空から伸びる腕に対して迎撃を行う。だが彼女の放つ魔力砲は、腕に命中するも肉を抉るだけで効果が薄い。抉った肉からさらに腕が生え続け、アルカへと襲い掛かってくる。

 

 七色の魔眼で相手の性質を理解したアルカは、自身の足元にセレアルトと同じく巨大な魔法陣を展開。その魔法陣から呪文の刻まれた光り輝く巨大の腕が幾重にも飛び出し、セレアルトの使役する肉塊の腕をがっちり掴み合う。

 肉塊は呪いで相手を溶かそうとし、光の腕はその熱量と浄化によって相手を消し去ろうとする。呪いと浄化の争いは決着がつくことなく拮抗する。それに対してセレアルトは、苛立つ。

 七色の魔眼で解析、根源からその魔術に対する対抗策を引き出せる彼女達。二人の争いは数、質ともに現代の魔術師を凌駕している。複数の魔術を事前準備なしで同時に発動。それを成す魔力量も恐ろしいが、何より恐ろしいのは、それを制御する彼女達の脳だ。

 

 現在も魔力弾で牽制しながら、相手の隙を探る。そして、互いに手数を増やしながらもセレアルトは、アルカを瞬時に葬り去る準備を整え始める。

 

 

「私と貴方では決着はつかない。だから……」

「……セレアルト?」

 

 セレアルトがそういった瞬間、彼女の口や目からあふれ出す聖杯の泥に彼女の全身が覆い尽くされる。そして、聖杯の泥が黒い球体となる。その球体の呪いの密度は、魔眼を持つアルカですら中身が解析できないほどだった。突然身体を泥に呑みこまれたセレアルトの姿にアルカも警戒する。

 そして彼女の警戒は、まさしく正しいものだった。黒い球体の表面に、突然紫の光を放つ魔術式が構築される。それを読み取ったアルカは、セレアルトの目的を知る。

 

「決戦魔術……英霊召喚」

 

 アルカは理解した相手の術式に身構える。既に起動された術式を解除は不可能。

 故にアルカも切り札を切る時が来た。妖精となった自身の引き出せる限りの魔力を引き出し、余剰魔力が妖精のドレスと羽根から漏れ出す。

 だが、先に発動するのはセレアルトの魔術だ。

 

 黒い球体の魔法陣が空へと広がり、彼女達の下降で大聖杯から漏れ出す膨大な泥に汚染されていた、ガイアとアラヤの光の渦が浮かび上がってくる。バチバチとこの世全ての悪へと染まっていく抑止力は、セレアルトが変質した球体へと取りこまれる。

 本来人の体で抑止力を取り込むなど不可能だろう。抑止力に触れた瞬間に、存在が消滅、記憶は消去、魂が焼却されてしまうだろう。だが、セレアルトは根源と繋がる不滅の魂。身体も小聖杯とこの世全ての悪と融合。記憶はアルカの残した内包魔術で保管されている。

 故に抑止力を取り込むという暴挙に出た。そして、セレアルトの行った分の悪い賭けは成功する。

 

 突然、イスカンダルの固有結界中が揺れ始め、黒い球体から世界を黒く染める力場が発生。固有結界を展開するが如くアルカの体を別世界に引き込んだ。

 

(此処は、何処) 

 

 アルカが引きこまれた場所は、先ほどまで騒がしかった戦場とは打って変わっていた。周囲を黒いだけの空間が覆い尽くしていた。黒い空は何処までも高く、足場は黒い水面のように何処までも広がる海が広がる。空中に浮遊していたはずのアルカは、気がつけば水面の上に立っており彼女が少し動くたびに波紋となって世界に広がっていく。

 魔眼で解析すれば、固有結界に似た疑似結界だと理解できる。だが、全てが呪いで構築された世界。大気中も呪いで満たされ通常の人間や魔術師、サーヴァントですらこの場に足を踏み入れたら世界に溶け込んでしまうだろう。この世界では呪いでないものこそが異端なのだろう。

 

 そして視線を上に向ければ、先ほどの黒い球体が浮かんでいる。球体の表面に浮かび上がっていた魔術式は消えている。だが、突然黒いだけの世界に7つの莫大な魔力が発生する。何人にも邪魔されない世界を形成し、その場にセレアルトは召喚しようというのだ。

 通常のサーヴァントよりも一段階上の器を持って顕現する英霊。通常のサーヴァントと桁違いの力を誇る彼らは七つの人類悪を滅ぼすため、天の御使いとして遣わされるその時代最高峰の七騎。英霊の頂点に立つ始まりの七つ。通称グランドサーヴァント。

人類存続を守り、霊長の世を救うために召喚される兵器達が壊れた抑止力と人類悪によって、人類の消滅のために召喚される。そして、7つのグランドサーヴァントが滅ぼす対象はアルカに他ならない。

 

 膨大な魔力によって召喚される7騎の冠位を持った英霊達。個体個体ですら世界を震撼させる力を持つ彼らが、同時に召喚されるとあって、黒い空間が広がる世界中に強烈なプレッシャーがかかる。

 

 遂に冬木の聖杯戦争で使用される英霊召喚の元となった術式が起動すると言った瞬間、空に浮かぶ黒い球体の中からセレアルトが上半身だけ飛び出す。衣服をまとわぬ白い肌は、葉脈のように黒い泥がめぐっており、背中からは天使のような翼と悪魔のような翼が対となって生え、羊のような角が4本頭部に生えている。

 そして、顔を上げた彼女を見てアルカが驚いた表情をする。

 

 アルカや綾香と同じだった七色の魔眼が消滅し、彼女の眼窩には光を放つ事のない虚が広がっている。その目を覗きこむだけで魂を取り込まれそうになる。

 

「―――――――!!」 

 

 既に原形のないセレアルト、いや最早この世の全ての悪と狂った抑止力と融合した新たな怪物。西暦二千年にして新たに生まれてしまった女神だろうか。神代の時代が終わり、神秘から遠ざかった人類の前に現れた新時代の女神。その目的は、全てを産み出した原初の女神とは魔逆。

 全てを終わらせる事を目的とし、全ての否定者となった”森羅万象の天敵”。彼女の口から洩れるのは言語にあらず。  

 聞いた物の精神を腐らせる独特の聲(こえ)。一切の抵抗すら許さず、その意思すら腐敗させ、踏みつぶす化生。そして彼女の声に応じて、世界を揺るがす7騎の冠位英霊達が召喚される。その衝撃は、膨大な魔力を持つ純粋な妖精であるアルカの体中に激痛が走るほどだった。

 召喚されただけで、妖精種のアルカが痛みを感じ、黒いだけの世界が大きく轟く。

   

 

 非常に高位で計り知れない力を持つ英霊達に囲まれたアルカ。そのプレッシャーは彼らが意思を持たぬ存在であっても指先一つ動かせはしない。第六魔法の使い手であっても勝ち目は皆無。

 どうにか最上級の攻撃魔術を起動して、牽制をもくろむ。

 だが、どういう訳かアルカの魔術は、発動者の意思に反して照準を変更。108にも及ぶ砲門、その全てがアルカの体を焼き払うために起動される。

 

「?」

 

 アルカの目に映ったのは、アルカの魔術発動に合わせて指輪に魔力を込めた魔術師の英霊。その瞬間に魔術の制御を失った彼女は、己の魔術に体を焼かれる。

 さらに瞬きすら出来ぬ間に、アルカの体は謎の剣を持つサーヴァントに遠距離にも関わらず、胴体を切り裂かれる。血飛沫が黒い世界に舞い散り、それを合図に必殺の弾丸がアルカの頭を貫く。そして、無数の槍がアルカの四肢を串刺しに、太陽のごとき流星に乗ったサーヴァントが彼女の体を轢く。

 

 それらの攻撃を受けたアルカは、存在そのものが消滅しかける。しかし、既に発動していた”世界を救ってほしい”という祈りを叶えた奇跡。第六魔法の力によってブレイカーの形見であるナイフを起点に己の存在を再び現界させる。

 

 だが状況の不利は変わらない。アルカにグランドサーヴァントの相手は務まらない。第六魔法は強大だが、戦闘向けではないのだから。そうしている間に、暗殺者の骸骨騎士がアルカの意識の外側で堂々たる闊歩を披露する。一切気配と殺気がなく、魔眼ですら見切れない暗殺。

 それが死なぬ相手に死を与える概念を持つ技。第六魔法でセレアルトを止めるまで消える事も死ぬこともないアルカを唯一害する力。一歩一歩死が迫るものの。アルカは死が迫っている事を知らない。

 

 

(後少し、後少しで)

 

 アルカの切り札。第六魔法は既に発動済み。衛宮士郎の蘇生と彼の可能性を引き出す。イリヤスフィールの守護者の復活、人理焼却の炎を消し去る。それらの奇跡と後二つ彼女は奇跡を選択していた。

 

 既に奇跡は起こしている。だが、奇跡が現象として現れるのに時間がかかっている。

 

「……間に合わない」

 

 根源を頼りにしても冠位7騎を同時に相手取る方法など出てこない。正しくは、答えは手に入れている。だが、その答えを実行する事が不可能なのだ。そうしている間にアルカの前に気配遮断をした骸骨騎士が忍び寄る。そして、アルカを取り囲むように無数の巨大な目玉を持つ柱の怪物達が指輪の男によって召喚される。

 

 それに気を取られた彼女の前に立った骸骨の騎士。まるで幽鬼のごとき騎士は、その手に持つ無骨な大剣を振りあげる。不死になっているアルカに与えられるのは安らかな人としての死。世界に齎されるのは破滅という名の消却。

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

「……そう、おかえりなさいアン」

『ただいま、アルカ』

「……私は、複雑な気持ち」

『うん。わかってる』

 

 死の一撃。回避も予測すら不可能だった骸骨騎士の一撃は、アルカの左手に突然宿った令呪と共に現れた未熟な暗殺者によって防がれる。骸骨騎士の剣をハサンの名を持ちながら仮面を捨て、一度は何もかも放り投げたがゆえに当然全てを失った少女が手に持ったナイフで弾く。

 誇りを捨て、家族を捨て、たった一人を守りたかった暗殺者にもなれぬ未熟なハサン。もし生前の彼女(彼)が同じ事をしていれば、その首は目の前の騎士に切り落とされただろう。いや、正しくは彼女の首は一度切り落とされている。暗殺を失敗、そして捕縛された百の貌のハサン。

 敵対者による拷問を受ける際に、その苦痛を味わう役割を持っていたのがアンだった。何も知らぬ幼子の身でありながら、拷問を受け、ただ苦痛の中で生きるというのが存在意義の人格。

 

 吐ける情報もなく、死の瞬間まで嬲られ、最後に見たのは初代にして山の翁を殺す、山の翁。突然現れた彼によって苦しむ間もなく首を落とされた記憶がアンにはあった。

 

 だからこそ、即死の一撃を予測できた。綾香に負け氷漬けになったアン。自分の罪の重さを自覚し、未来永劫償おうと意識を深い闇の底へと落とした。だが、彼女は祈ってしまったのだ。

 

 

 もし運命が違ったならアルカ達のために、戦いたかったと。許されない、そんなことは望めない。だからこそ、彼女達の傍で、彼女達のために死ぬ事を望んだ。裏切り者の自分が彼女達に認められる日は来ない。 

 恥知らずだ。自分から捨てたものの尊さを知る事ほど空しい事はない。

 闇に落ちた彼女だからこそ、10年の月日は己にとってどれほど大事かを思い知った。故に手を伸ばしてしまった。決して届く事のない光へと。

 そして、アンの手を取ったのは眩い光の後に現れた歴代のハサン達だった。

 

 17人のハサン達が深い闇の中に現れ、それぞれが共通した一つの願いを残した。 

 

――――”””我らが祖にして、我らの裁定者。あのお方を利用する者が居る”””――――

 

『故に、私が此処に送られた』  

「……この騎士を止めるために?」

『違う。私達ハサンが道を踏み外した時、初代が私達を殺すのは定め。ならば、初代が道を外れたときこそ、私達歴代のハサンが彼を裁かなければならない』  

 

 だから、彼女はアルカの第六魔法に乗っかる形で現れた。ハサンでありながら、最もハサンらしからぬ彼女。そんな彼女が他のハサン達の意志を継ぎ、現在初代ハサン・サッバーハと対峙する。 

 

 何時もの戦闘装束ではなく、白いワンピースのような暗殺者とは思えない装いに小刀を構えるアン。突然現れ自分の剣を防いだ存在に骸骨の仮面の奥で燃える炎の目で凝視する。そして遥か高みにある太刀筋で剣を振るう。敵が何であれ、アルカを殺すという抑止力、決戦魔術・英霊召喚の命令に従う。

 本来、相手にすらならないアンのような弱小英霊に一太刀すら受ける事は叶わない。だが、2,3と振るわれる剣を怪しい魔力帯びた短刀を持つアンが捌いていく。

 

『初代様は、私がどうにかする!! だから、アルカは為すべき事を!!』

 

 骸骨騎士の攻撃に必死に対応するアンが、大きく口を開いて叫ぶ。アルカを消滅させる要因を相手にするというアン。彼を相手して一言でも発する事が奇跡。しかし、彼女にも切り札がある。そして何度も瞬間移動のように高速で移送し、アルカの首を狙う騎士の剣を防いでいく。

 互いに火花を散らしながら、暗殺者の祖とナイフを持った少女が切り結ぶ。片方は卓越した技術と積み上げた経験が持つ必殺剣。対するアンは、特徴のない普通のナイフ裁き。暗殺者の記憶すら持たない今のアンは、ただの少女の延長線上にいる存在。

 なのにもかかわらずその剣は、アルカやアンの首を切り落とすことなく彼女の持つナイフへと吸い込まれる。

 

「……わかった。話は後」 

『うん』

 

 こちらの様子を伺う冠位の英霊達を尻目に、指輪の魔術師が呼びだした怪物達がその目玉から魔力による交戦を放つ。その砲撃に晒されるアルカは、空を飛びながら必死に回避行動をとる。飛行能力自体が高いためかどうにか弾幕の隙間を縫って移動する。

 しかし、それすら誘導でありアルカの逃げ込んだ先には、巨大な柱の怪物を肉塊にしながらこちらに向かってくる形を次から次に変化させる泥の怪物。敵味方関係なく破壊衝動にしたがっているようだ。

 

 その怪物は、強烈なプレッシャーを放ちながらアルカの体を引き裂こうと腕を伸ばす。その狂気に触れれば、己まで狂ってしまうと魔眼で読み取るアルカ。

 

 その様子を見て、黒い球体から上半身を出している女神がケラケラと笑う。

 

 しかし彼女やアルカを逃がさないとばかりに構える冠位の英霊達は、気が付いてない。アルカの握っていたナイフが彼女の手から消えている事に。そして、絶対的ピンチの中でアルカの口元は笑みを浮かべていた。暗い世界、絶望的な戦力差、人類史の終幕、封じられた魔術。

 それら全ての事象を持ってして、アルカを絶望させることはできない。不安定だったころの彼女はもういない。アルカ・ベルベットとして一つの個人となった彼女は知っている。

 

 

 

 

 本当の絶望とは何であるかを。ソレを呼び出すのに魔術は必要ない。元々魔術などアルカには必要なかった。

 

故に唱えよう。故に声をだそう。

 

「来て、私は破壊を望む」

 

そう喚べばいいのだ。さすればソレは応えるのだから。

 

 

ーーーーーーいいだろう。

 

っと。

 


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