Fate/make.of.install   作:ドラギオン

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神話礼装

「■■!!―――!!」

 

 空間を震わせながらバーサーカーが守護者エミヤへと攻撃を続ける。英霊して呼ばれたバーサーカー相手に守護者として召喚されたエミヤは終始優勢に戦い続けている。

 サーヴァントではなく生前以上のスペックを与えられる補正を受けたためか、バーサーカーの命のストックが消費されていく。だが何度殺されようともバーサーカーの戦意が途切れる事はなく、徐々に文字通り無限の攻撃を持つ守護者エミヤの攻撃に対応する。

 回避と迎撃を繰り返し、命を消費しながら切り込む戦法で渡り合うバーサーカー。

 

 だが確かな戦術眼を持つ英霊エミヤは、バーサーカーと戦いながらイリヤと十分な距離を取れたことを確認。戦闘の最中に無防備な干将莫邪を投擲。ダメ押しにと黒弓からバーサーカーとイリヤへと矢が放たれる。

 

「■っ!?」

 

 エミヤの行動に気がついたバーサーカーが、自分に向かう矢を背中にを受けながら必死にイリヤの方向へと走る。しかし間に合わない。

 

 守護者は、バーサーカーを引きつけながら彼女のマスターをずっと狙っていたのだ。いくらバーサーカーとはいえ放たれた矢と干将莫邪に走って追いつくことはできない。そして、さらけ出した背中に無数の剣が突き刺さり、それぞれが壊れた幻想にて爆発。

 背中の肉が消し飛び、右足が吹き飛んでしまう。そうなってはイリヤに手は届かない。しかし、イリヤに手を伸ばしていたバ―サーカーは瞬時にイリヤに伸ばした手を戻す。

 

 

 

「ただいまイリヤ」

 

 イリヤに着弾する干将莫邪が、もうひと振りの干将莫邪によって撃ち落とされる。そして、その後に迫りくる10本の矢を同じく干将莫邪を消した後に投影した黒弓から放たれる矢が一本一本撃ち落とす。

 

 その迎撃は正に神技であり、正確無比な弓の腕が可能とした防御である。そして、イリヤを守った人物は、褐色の肌に白い髪、金と黒の鎧を身に纏っており、両手には弓と矢。その風貌は、正に敵対する守護者エミヤと瓜二つだが、その表情は優しく満足気だった。

 そして、彼は自分の事を驚いた眼で見る義姉に対して、少年のような笑みを浮かべる。 

 

「シロウ、シロウなのね」

 

 そう、彼女の身を守ったのは先ほどまで死んでいた衛宮士郎だった。確かに死亡した衛宮士郎だったが、イリヤの治療とアルカの起こした第六魔法の相乗効果が彼を生き返らせるに至った。生き返る直前、黄泉の世界にて養父との邂逅を経た士郎。

 切嗣が文字通り切ってつなげた現世と黄泉のはざまへと飛び込んだ。切嗣の持つ起源が本来後戻りできないはずの死者の魂を現世へと戻れるように出鱈目に繋げ、もう一人の女性が使った力により生き返った。

 

 だが、ただ生き返ったわけではなかった。

彼が生き返った瞬間から、彼の周りの魔力が変化していく。衛宮士郎を中心に変化していくような印象をイリヤは感じとる。確かに衛宮士郎ではあるが、赤い外套のアーチャーや目の前の守護者とは違った気配を醸し出す彼は何者なのか。

 その謎が解けない限り、イリヤは困惑したままだった。

 

「俺自身、よくわかってないんだ。ただ、この姿はアイツ(アーチャー)の置き土産で、鎧は……」

 

 切嗣に送りだされた後、士郎は眩い光の中で英霊エミヤの後姿を見た。後をついて来いと言わんばかりに無言で歩む姿。だが士郎の知っているエミヤと違い彼の表情には、満足げな様子が浮かび上がっている。

 そして、背中を追いかけた先にあったのは、無数の光が集まる空間。

 その空間に浮かび上がる光は、全て人型をしており、彼らは士郎の傍に集まり始める。

 

――――――世界を頼む。

―――――――我々に成しえなかった事を。

――――――――無名の我らの意思を託そう。

 

 酷く小さな声達が士郎に何かを託していく。彼らの声を聞けば、士郎のように正義の味方となるべく銘を捨て、守護者となった者たちだった。彼らは抑止力の暴走により世界を滅ぼすことをよしとはせず平衡世界で一度だけ繋がった縁を通して士郎に力を授けるという。

 そして士郎に託された力は、正義の味方達の理想の残滓。おそらく衛宮士郎の辿りつくであろう中で極点へと至った姿が現在のそれだった。英霊でもなく、人間でもない。だがそれ故にどちらの常識にも縛られず、体内の聖杯の鞘が『剣』としての彼の機能を支える。

 

 最後に同じ鎧を着た英霊の背中が見える。彼は士郎に言った。

 

――――今のお前なら彼らの力を持ってして、願いを叶えられるだろう。恐れずに進め。……少年はいつだって、荒野を目指すものなのだから。

 

 

 

 まぎれもない正義の味方の体現者、衛宮士郎がその場にいた。正義の味方となった士郎は、干将莫邪を投影。両手にそれを握りしめながら、こちらの様子を伺っている守護者エミヤに向かって歩み始める。

 

「イリヤにバーサーカー、ありがとう。だけど、安心してくれ俺はもう負けない」

 

 士郎は、先ほどまで守護者と敵対していたバーサーカーとイリヤに礼を言う。自分が負けたせいで彼らに苦労をかけてしまったと。言葉のわからない筈のバーサーカーは、肉体が回復するなりイリヤの傍まで跳躍。彼女の体を片手で抱えあげる。

 

「ど、どうしたのバーサーカー」

「―――」

 

 突然の抱き上げにイリヤが驚くが、バーサーカーは士郎と守護者エミヤの二人を見詰めながら距離を取り始める。

 神話の登場人物であり、数えきれない武功を立ててきた生粋の戦士である彼には本能で理解できた。今から行われる戦いは、苛烈を極めか弱き存在では耐えきれない……と。故に彼はイリヤを抱きかかえ、魔法陣の塔の最上階から退避を始める。

 バーサーカーは、帰ってきた衛宮士郎が守護者と戦えると確信を持った上で、戦いの障害になりえるイリヤを安全な場所に連れて行く。イリヤも彼が何をしようとしているのか察し、バーサーカーの体に掴まる。そしてバーサーカーが跳躍する構えを取った時、士郎に激励の言葉を贈る。

 

「絶対に勝って。シロウの事、お姉ちゃんは信じてるから!」

「わかった。絶対勝つ」

 

 姉の応援を聞き、士郎は笑みを浮かべ答えた。そしてイリヤの姿が安全な場所まで降りた事を感じると、鷹のように目を鋭くし、守護者エミヤに剣の切っ先を向ける。

 終始無言で感情を表しはしない。だが戦闘態勢に入り黒弓とカラドボルグを投影して構え始める。

 

「さて、世界を滅ぼす事が正義だというなら、俺は俺の正義を信じて戦おう。正義の味方の末路は知った、そして末路に殺された。だけど、俺はお前を倒して正義の味方になってみせる。

 

 覚悟はいいか守護者。これが俺の目指す正義の味方だ!」

 

 だっと錬鉄の鎧を纏う正義の味方(衛宮士郎)は、矢を構えた守護者エミヤに対して突進する勢いで駆けだす。互いの持つ得物は違えど、自身の背後に100を超える剣を投影。それらを弾幕として発射しながら攻防を繰り返す。 

 

 同じ剣と剣が衝突し、爆発と共に砕け散る。その爆発の中を駆け抜けてくる正義の味方に対して、守護者は偽・螺旋剣(カラドボルグ)を真名開放して発射。稲妻を纏い、空間すらえぐり取る魔弓が士郎へと直進する。英霊エミヤと完全に同化している士郎は、千里眼スキルの持つ動体視力でそれを見切、瞬時に熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)を全面に展開する。

 

 投稿武器に対して絶大な防御力を発揮する盾は、守護者エミヤの放った螺旋剣の攻撃を受け止める事に成功する。次々に花弁が稲妻によって削られていく。そして、守護者エミヤが壊れた幻想を使用。

 

 爆発が発生し、爆風と衝撃波が正義の味方を襲う。しかし、鎧を身に纏い盾を構えたまま前進する彼は無傷だった。螺旋剣が爆発するタイミングに合わせ、残った花弁を壊れた幻想で爆発させる。

 爆発と爆発による相殺を行った士郎は、煙の中を突き進み一気に距離を詰める。干将莫邪を振るう正義の味方(士郎)に守護者は同じく干将莫邪を投影。

 

 同じ顔だが、服装は違う。そして目的が違う二人の正義の味方と守護者。片方は己に与えられた指示のため、もう片方は託された思いを胸に激しい剣戟を繰り広げる。刃と刃が打ち合うたびに世界が震え、火花が散る。一撃一撃が相手を打ち倒すために振るわれた必殺。同じ剣術を用いて、信念と命令が火花を散らす。

 終始攻め続ける正義の味方の攻撃を守護者が同じ得物で防ぎ、カウンターを繰り出してくる。

 

 しかし、カウンターを読んでいる正義の味方が、体の軸をずらし回避。逆にカウンターを仕掛ける。そのように超至近距離で互いに攻防が入れ替わり続ける。その速度たるや黄金と黒の閃光が激しくしのぎを削るようにすら見える。

 互いの全力での斬撃が衝突。ギリギリとつば競り合いする中で、背後に無数の剣が投影される。それらは投影主の指示に従って敵の投影使いへと至近距離から発射される。同じ投影品での攻撃は、贋作同士の衝突と破壊をもたらす。何度も打ち合いながら、剣が砕けるたびに投影する。

 守護者としてバーサーカーとすら戦える存在相手に、正義の味方という概念を背負った衛宮士郎は、互角以上に戦い続ける。

 

「ハッアアア!」 

「く」 

 

 一切止まない連撃。次第にペースが正義の味方のものになり始める。互いに同じ武器同士にもかかわらず、正義の味方の体現者が守護者を押す理由は一つ。人類の抹殺という目的を持って淡々とこなす守護者と、未来や願いを背負い前に進む衛宮士郎。

 諦めた存在が、諦めない存在に押されるのは必然。一歩一歩、剣戟が起こるたびに守護者エミヤは、後退させられる。接近戦の勢いで不利を悟ったのか剣劇の最中に持っていた武器を爆破。

 

 己のダメージを度外視で士郎との距離を取る。さすがに至近距離での壊れた幻想は、避けねばならない。動体視力と反射神経、そして同じ存在であるが故の勘で回避した士郎。

 

 

「距離を取られたか……」

 

 肌の2割ほどが爆発で焼けただれているが、それでも一切支障のない守護者。元より痛みなど感じず、ただ与えられた指令に従い、善悪関係なく対象を殺す兵器。故に自己の安全すら考慮されることはない。接近戦を中断した両名は、黒弓を投影したのち剣を矢に変換。

 それらを射ることで、中距離と遠距離での凌ぎ合いが始まる。次から次に剣を投影しては、相手の眉間や急所を狙って放たれる矢。その矢を矢で迎撃し、更に追撃を仕掛ける士郎。

 

 さらに弓での精密射撃の合間にも、全投影連続投射(ソードバレル)による激しい戦いが行われる。互いに視野が爆発による粉塵で劣悪にもかかわらず正確無比。

 

 相手の投影する剣の性質を解析、それを超える剣で撃ち落とす。何度も攻防が入れ替わりながら、互いに走りながらの射撃。相手の動きを先読みしながらの偏差射撃の応酬だが、やはり決着はつかない。どちらも衛宮士郎の可能性の極致であり、本来の力を凌駕する状態。

 むしろ、抑止力のバックアップを受ける守護者相手に生身の士郎が相手できる事が奇跡に他ならない。

 

 そして二人の戦いは、中距離遠距離、近距離と舞台を変えるものの決定打に欠ける。勢いは間違いなく正義の味方(衛宮士郎)にあるが、相手は機械のように精密な動きでその勢いを封殺してくる。そのように鏡合わせの戦いが続く中で、遂に両者は己の切り札を切る。

 二人同時に黒い弓を消し去り、右腕を前に突き出し、呪文を唱え始める。守護者エミヤは、何度も行ってきた作業のように淡々と。衛宮士郎は、己の心に浮かぶ光景を頭でイメージし、呪文を唱える。

 

「I am the bone of my sword.

 

 Steel is my body, and fire is my blood.

 

 I heve created over a thousand bladas.

 

 Unknown to Death.

 

 Nor known to Life.

 

 Have withstood pain to create many weapons.

 

 Yet, those hands will never hold anything.

 

 So as I pray, ”UNLIMITED BLADE WORKS”.」

 

 

「体は剣で出来ている。

 

 血潮は鉄で心は硝子。

 

 幾たびの戦場を越えて不敗。

 

 ただ一度の敗走もなく、ただ一度の勝利もなし。

 

 担い手はここに独り。

 

 剣の丘で鉄を鍛つ。

 

 ならば我が生涯に意味は不要ず。

 

 この体は、無限の剣で出来ていた!!」

 

 二人の固有結界が同時に展開され世界を上書きして両者を別の世界へと誘う。本来互いに干渉し消滅してもおかしくない固有結界同士の拒絶反応。だが、同じ存在である衛宮士郎と守護者エミヤの固有結界の同時発動。それは互いに混ざり合うようにして展開された。二人が固有結界を発動した時、既に展開されていたイスカンダルの固有結界にも影響が出始めるが、ギリギリで世界が持ち堪える。

 

 そして、二人の固有結界の使い手は、分断された世界に降り立つ。守護者エミヤは空を巨大な歯車がひしめいているのに対し、士郎は何も遮る物の無い燃えるような赤い空である。互いに荒野である事に違いはない。

 だが、士郎の固有結界の空には、僅かばかりの青い空がある。

 そして、荒野に突き刺さった無限の剣達も、守護者エミヤの剣達は、どこか錆が浮かんでおり、彼の摩耗を表現する。対する士郎の剣は、輝きを放ち贋作でありながら真作に迫る存在感を放つ。

 

 一つの世界に二人の主。それぞれが片腕を上げ己に属する剣達に人理焼却をかけた神話の開戦を知らせる。彼らは世界の主に従い、空中に浮き上がる。その数は、千や二千ではなく無限の剣製の名のとおり、無限。それらが嵐のように敵対者を世界から排除しようと押し寄せる。

 人のいない剣と剣による無機質の戦争。その戦いが激しい火花を散らす。

 

 


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