Fate/make.of.install   作:ドラギオン

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イリヤの守護者

 アルカの第六魔法が発動した時、必死に心臓の止まった衛宮士郎を治療するイリヤ。ホムンクルス式の治療法しか知らない彼女だが、全身全霊で義弟の蘇生を行う。

 

 しかし、止まった心臓は再び鼓動を刻む事はなく、彼女の美しい銀色の髪が血で染まるだけ。徐々に熱を無くしていく彼にイリヤは涙を零しながら心臓マッサージを施す。

  

「シロウは、死んじゃダメ。お願い、帰ってきて、お母様もキリツグも、バーサーカーやセラとリズ……皆居なくなっちゃった……お願い、シロウ!!」

 

 唯一の家族を失う恐怖に苛まれていたとき、彼女の背後で英霊エミヤが静かに迫っていた。セレアルトの命令で、邪魔者の排除を行うために。もうイリヤを守る存在はいない。一瞬で片をつけようと投影した剣を発射する。20本近い宝具の雨が無力な少女の体を貫くのに1秒とかからない。

 

(助けて、バーサーカー)

 

 もうダメだと走馬灯のようにかの大英霊の姿を思い出したイリヤ。既に彼はおらず完全に消滅している。けれど、イリヤにとって最も頼れるのは彼だ。今望むのは奇跡でしかない。

 聖杯の器であるイリヤにすら不可能な次元の奇跡。だが、その場にはアルカが居た。彼女はセレアルトとの戦いで既に第六魔法を発動している。その効果は、確かに現れていた。奇跡を必要とする者の所に、奇跡は訪れる。

 

「■■■■■■――――!!!」

 

 イリヤと士郎の体を黒い影が通り過ぎ、巨大な肉体から繰り出される力任せな一閃。風を切りか弱き少女の身に降りかかる火の粉を払いのける。金属が砕ける音と共に、鼓膜に響くほどの怒声。理性無き中に、思いのこもった野獣の咆哮。

 涙を貯めたイリヤの瞳がとらえたのは、誰よりも大きく逞しい……大英霊の後姿だった。

 

「嘘……なんでバーサーカーが」

「……■」

 

 理性無き巨人。彼は、狂気に染まった瞳でかつて守ろうと誓い守り通せなかった少女を見下ろす。そして、何も言わず目の前で弓を構え、無数の剣群を従える守護者に向かって威嚇する。その姿はイリヤの知る彼であり、誰よりも信頼できる背中だった。

 大英霊自身、一度は英雄王に敗れ、二度目は汚染されたことでか弱き少女達の敵にまわり、今こうして護る事が出来る奇跡に僅かな理性で感謝する。

 

 バーサーカーの視線を合図に、次々と多種多様な剣が発射される。それらを背後の少女を護るように巨大な斧剣と鋼の肉体で受け止めながら、バーサーカーは英霊エミヤの攻撃を防ぎ続ける。

 

 英霊エミヤと突然現れたバーサーカー(ヘラクレス)の戦いに、セレアルトは信じられないと怒りをアルカに向ける。だがアルカは涼しい顔でイリヤに忠告する。

 

 

「イリヤスフィール。今奇跡は貴方に味方している。貴方の信じる彼は、貴方の思いに呼応して召喚された。だから、命じてあげなさい。彼は貴方のために戦いたがっている」

 

 アルカの魔法。それはこの世とあの世、未来と過去、全ての可能性の中で生まれた祈りを具現化する力。願望ではなく、純粋な願いや思いを現象として発現させる神秘。使用者は、数えきれず増え続ける宇宙より膨大な数の祈りと向き合う。

 そして、己の裁量権で持って祈りを叶え、奇跡を必ず発生させる力。その力は、法則や物理現象、はては抑止力にすら関与できぬ領域の力である。仮に全ての祈りを叶えることすら労力なしで可能であり、使用者を制限する縛りは何一つない。全力での魔法の行使によって、全ての世界の人々の祈りが叶えられ、一時なら皆が幸せになるだろう。

 しかし、祈りは全ての人間が幸福になるだけではなく、互いに食い合い、潰し合う。結果的に多くの祈りが別の祈りと対立し、それが全て叶えられる魔法によって全てが消滅しかねない副作用がある。

 

 第六魔法・祈りの泉(エゴカラト・プライレイ)の力は、凄まじくも不安定。むしろ難易度が高いのは発動よりも制御なのだ。魔力が一切いらない代わりに、自分が昇華するべき祈りを、無限に増え続ける祈りの泉から見つけ出す行為は神にすら不可能。

 この魔法には、祈りを叶える術はあっても、目的の祈りを検索する力はない。検索機能のない状況で、莫大なデータ―の中から目的のものを見つける事は、雲を掴むように果てしなく長い道のりが必要。先代は、妖精であったために悠久の時の中で、気に行った祈りだけを昇華し現実とした。

 だが先代は、一度人間となったことでその生涯に3度ほどしか使用できず、息絶えた。逆にこの魔法は、詳細を理解せず感覚のみで使用する場合、最も効率がいいと言える。当てずっぽうで祈りの性質を感じ取り、類似する祈りを昇華する。これでも使用が可能なのが第六魔法。

 しかし、極めようと魔法を理解したり、自覚、または相手による考察などが入った場合、とたんに難易度の上がる厄介な力である。

 

 アルカは、根源に繋がっていることで第六魔法に、頭文字だけ検索できる程度の利便性が加わった次代の魔法使いとなっている。根源から与えられる全知を持ってしても、頭文字のみの検索しか出来ず、結果的に実用は不可能。

 だが、世界の裏側で出会った根源接続者2名の協力が、アルカの第六魔法を完全なものにした。

 

 アルカは、祈りを読み取り選択する役割を。

 青い魔眼を持つ和服の女性は、必要のない祈りを片っ端から殺し尽くし、検索の手助けを行う。

 別世界の沙条愛歌は、あらゆる祈りを踏みにじり、アルカの検索の障害となる他者の祈りを全て供物とした。

 

 二人の協力によって、通常の3分の一の速度で、目的の祈りを見つけ出したアルカ。後はそれらを一度に開放することで幾つかの祈りを絶対に起こる奇跡として発揮。その一つがイリヤスフィールの身に起こった奇跡。危機的状況下で、彼女の最も信頼する大英霊を工程を無視して召喚するという荒技だ。

 その奇跡によって召喚された大英霊は、イリヤを守るためにセレアルトの手駒である英霊エミヤと対峙している。

 

「……もう一度だけ、彼に願いを託せばいい」

「うん。……やっちゃえバーサーカー」

 

 護るべき少女の言葉が、狂気の野獣の枷を解き放つ。本能による抑制すら失ったバーサーカーが、持てる力の全てを持って少女を襲う輩を跡形も残さずに破壊し尽くすだろう。

 

「■■■――――!!

 

 エミヤの放つ滝のような勢いで連射される矢を“十二の試練(ゴッドハンド)”で強引に突破し、白兵戦を仕掛ける狂戦士。巨体と鋼の肉体から繰り出される嵐の一撃。それは英霊であっても一撃で消滅する威力を誇る。しかし、接近戦を仕掛けられた英霊エミヤは、両腕にヘラクレスの斧剣を投影。

 彼の宝具である9つの連撃を行う真名開放を行う。両腕で振るわれる18もの音を置き去りにする斬撃。それでもってバーサーカーの一撃を防ぎ、残る17の連撃でもってヘラクレスと白兵戦を行う姿があった。

 聖杯戦争時のアーチャーには不可能な行動だが、抑止力にバックアップを得ている守護者の性能は、サーヴァントとして召喚された時よりも遥かに強い。

 元々ただの人間だった彼は、守護者として世界の脅威を戦うときのみ、大英霊にも匹敵する力を行使する。身体を削られながらも、蘇生。そして徐々に連撃を捌き始めるヘラクレスと持ち前の投影魔術でもって英雄王と同じく物量による攻撃へと移行する。

 世界からバックアップを受ける守護者の力は強大だった。世界の修正力すら受け付けない錬鉄の英霊。彼は次から次に本来なら不可能な神造兵器の投影を行う。それらは確実にヘラクレスの十二の試練を突破、徐々に命のストックを奪っていく。だが英雄王と違い、バーサーカーを拘束する天の鎖を持っていないことで、バーサーカーの勢いを殺しきる事が出来ない。それだけが唯一の救い。

 

 奇跡的に拮抗する大英霊と守護者の激しい戦い。その陰でアルカによる祈りの昇華を受けた人物が居た。

 

   


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