Fate/make.of.install   作:ドラギオン

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再会

「セイバー」

 

 綾香は、片腕を切り落とされながらも聖剣をもう片方の手で構えながら黒騎士に向き合うセイバーに駆け寄る。片腕を失うも闘志は尽きない。だが出血が激しく、駆け寄った綾香が瞬時に傷口を塞ぐ。本来なら、全快させることも可能だというのに、セイバーの腕は回復しない。

 強引に止血することしか綾香に出来ない。黒い円卓王の聖剣の傷がアルトリウスの存在を否定するように傷を治させない。

 

「お姉ちゃんの知識でも傷が癒せない……」

「無理はしないでくれ綾香。僕はまだ戦える」

 

 必死に患部に治癒を施す綾香を止めるセイバー(アルトリウス)。強がっていても実質自分では、円卓王相手に立ちまわることはできない。現状で綾香に魔力を使わせるわけにはいかず、魔術に使用を止める。

 

 その間にもアルトリアを中心に、黒騎士相手にランサーと小次郎がどうにか噛みついていく。必殺の秘剣は、回避され、必中の槍は防がれ、聖剣は徐々にひび割れていく。そんな絶望的な状況下でも英霊達は戦う。そんな彼らの足を引っ張るわけにはいかないと、セイバーがランサーと小次郎に魔力を与えるよう頼む。

 

「ぐぉお」

「く、かは」

「ぐぅう、うわあああ」

 

 3騎が同時に肉薄した瞬間、アロンダイトとクラレントを掴んだ円卓王が彼らをなぎ払い、小次郎の得物、物干し竿の刃先が折れ、ランサーの体は赤雷に焼かれ、セイバーの聖剣は二振りの魔剣と聖剣を受け止めた拍子に、遂に砕け散ってしまう。

 約束された勝利の剣が砕けると同時に、その衝撃が彼女の華奢な体を吹き飛ばす。その勢いは、広大な魔法陣を飛び越える勢いだった。当然、セイバーは空中で止まることが出来ず、高層ビルより高い高度から落下する。

 

「うそ」

 

 凛は自分の相棒が落下していく姿と聖剣が砕けた事に驚愕していた。咄嗟に手を伸ばすも、物理的に届かない距離にセイバーは吹っ飛んだため、掴めはしなかった。

 全員が絶望的な状況下へ追い込まれた中、黒い円卓王は彼らを跡形もなく消し飛ばそうと約束された勝利の剣を構え、真名開放の準備を整える。もう防ぎようがなく、抵抗することすら難しい。

 

 強すぎる。それがその場にいる全員の感じたことだった。圧倒的なまでの力。倒すことは不可能だと知りながら戦い、最終的には突破口すら封じられた。

 

 そんな状況下において、相手はさらに絶望を叩きこもうとする。絶望に押しつぶされそうになる。剣が振り上げられ、遂に命の終わりが迫った時。

 

「そこな雑種共。動きたければ動くがいい。ただし、どうなっても知らんがな」

 

 剣が振り下ろされる直前、聞き覚えのある男の声と共に、むき出しになった魔法陣を宝剣、魔槍、聖斧など見ただけで歴史を積み重ねた宝具だと理解できるそれらが、黒騎士相手に音速以上の速度で次々に飛来する。全てがAランク相当の宝具の弾丸。それらがガトリングのように際限なく、黒騎士に襲い掛かる。

 完全な不意打ちに聖剣の鞘は発動できず、十字の盾で持ってそれを防御する。しかし、盾とぶつかるたびに爆発や炎、電撃に突風、呪いに浄化など数えきれない効果と威力の前に、初めて黒騎士が後ろに押され始める。

 

 ギリギリ攻撃の当たらない場所にいる4人は、現在も猛攻を続ける人物に目を向ける。

 

「なんだ、雑種共。誰の許可を得て我の顔を拝んでいる」

 

 その人物は当然、そいつだった。所々が砕けた黄金の鎧を身にまとい、金色の髪と全てを見通す朱眼。その目には引き込まれるような恐怖とカリスマを感じさせ、彼の輝きは今この場の絶望すら吹き飛ばす。

 彼は、防御する黒騎士を見つめながら、自分の宝具を使用し止むことのない攻撃を続ける。先ほどまで火力不足で一校に戦況が改善しなかった彼らを嘲笑うように地形すら変える攻撃を続ける。

 そんなことが出来る男はひとりだ。英霊の中でも彼くらいだ。そして彼は、宝具の矛先を怪我で動けない綾香達の方向にも向ける。

 

「有象無象とはいえ、英霊にもなった猛者であろうに。この程度の手合いに揃いもそろって苦戦するとは。王たる我の前座すら勤まらぬなら、此処で始末してやるのも王の務めか」

 

 彼は人類最古の王。英雄王ギルガメッシュに他ならない。彼はブレイカーとの争いで世界の裏側に落ちてしまった。そして、そんな彼が現れたということは当然……。

 

「……綾香達に手を出すなら許さない」

 

 悪戯に攻撃を繰り出そうとするギルガメッシュを止めたのは、金色の髪をなびかせ、白いドレスを身にまとった美しい女性。七色の瞳を持ち、背中には魔力で構成された羽根。人の形をしながら人ではない気配を漂わせ、彼女の登場だけで世界が一度止まったかのような衝撃を受ける。

 その女性を見た綾香がだれよりも早くに声をあげた。

 

「おねえちゃん!!!」

 

 同じ七色の瞳を持つ綾香の声を聞いて、セレアルトと同じ顔とは思えないほど非常に穏やかな表情で、アルカは答える。

 

「ん。遅れてごめん綾香」

「おねえちゃん、うぅ、うわぁああん、ほんとうに、ほんとうにおねえちゃんだ、わたし、わたし」

「ん。大丈夫」

 

 宙に浮く彼女は、ゆっくりと綾香達の傍まで近寄り、必死に戦い疲弊し、妖精化が深刻なレベルで進んでいる妹を抱きしめた。ふわりと抱きしめられ、姉の暖かさを感じたことで彼女が幻でない、本物のアルカだと理解する綾香。

 よく頑張ったと彼女をほめながら、アルカは右手に浮かんだ令呪を見せつけながら、ギルガメッシュに指示を出す。ギルガメッシュに命令する様が全員にとって異常に見える。

 

「あの黒騎士をお願い」

「我に命令をするとは、仮のマスターの分際で大きく出たな女」

「……黙りなさい。全てが終わったら、存分に殺し合う約束のはず。……余計なことをしている時間はない」

「ちっ」

 

 妹に慈愛の心を向け、サーヴァントに対して辛辣なアルカ。ギルガメッシュに殺される可能性があるのにかかわらず一歩も譲らない。現状で規格外な円卓王相手に押している規格外。その気分次第で全てが焦土に化す怪物とにらみ合いながらも睨み勝つ。

 不機嫌ながら、英雄王は王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)を次々に展開し、円卓王目がけて発射を続ける。

 英雄王の乱入で拮抗した状況となり綾香が、アルカに疑問を抱く。

  

「おねえちゃ、でもどうやって?」

「……それは」

 

 アルカがどうやって再びこの世界に現れたかと答える前に、彼らの背後を雷を纏った雄牛達にひかれた戦車が空を駆けながら近づいてくる。その戦車にはウェイバーとイスカンダルが搭乗しており、ウェイバーの隣には、見覚えのない槍が存在しており、禍々しい魔力を迸らせている。

 

「な、あの槍は」

 

 その槍は、アルトリウスにとって忘れる事の出来ない武器。最果てにて輝ける槍(ロンゴミニアド)。槍は、世界の表裏を繋ぎ止める「光の柱」そのもの。アーサー王伝説に手自分の息子を殺した際に使用された、約束された勝利の剣に匹敵する伝説の武器である。そんなものを何処から持ってきたのかが疑問となる。

  

 さらにイスカンダルの戦車には、円卓王に吹き飛ばされたセイバーがイスカンダルに支えられる形で、乗っており彼女は砕けた聖剣の柄を持ちながら、悔しげな表情を浮かべる。それはアルトリウスにも理解できた。自分の伝説であり、一部ともいえる剣が砕かれた。

 そのショックは計り知れない。だが、今はショックを受けている時間ではない。それを理解しているのか、アルトリアは「助かりました」と言って戦車から飛び下りる。

 無事な姿を見て凛は、セイバー(アルトリア)へと駆け寄る。 

 

「セイバー、無事だったのね」

「えぇ。落下した際に征服王に拾っていただきました」

「うむ。突然上から落ちてきた時は、正直驚いたぞ。だがまぁ、あの怪物と戦っているなら納得がいくな」

「やはり、規格外か」

 

 セイバーがイスカンダルを見れば、彼は驚いたと語りウェイバーと共に英雄王と激しい戦いを行う円卓王を見る。サーヴァントの規格でもあり得ない規模の魔力と宝具を持つ怪物。英雄王でなければ徒党を組んでも拮抗すらできない。

 その英雄王ですら、アルカと契約したことで魔力のサポートを受けているがブレイカーとの戦いで破壊された宝具の原典は再生していない。現状優勢とはいえ、限界は訪れる。

 

 英雄王も余裕を見せながらも、警戒しているのか既に乖離剣を抜いて構えている。王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)だけでは突破不可能だと感じているのか、すぐさま応戦できるよう慢心は捨てている。

 

 

「あまり詳しく説明はできないの。すぐにセレアルトを止めないと、大変なことになる」

 

 アルカは、綾香を抱きしめるのをやめ空を見上げる。ただでさえ高い魔法陣のはるか上空に螺旋階段を通じて繋がる巨大な魔法陣。今凛達の居る場所がちょうど地上と天の中心。士郎達が向かった場所は、その上なのだ。高すぎて上の様子は分からないが、大聖杯が破壊されていない以上、士郎達も苦戦しているのだ。

 そして、残された時間はあまり長くない。爆心地である黒騎士の居る場所から、膨大な魔力の波長を感じ取り、アルカは先手を打つ形で令呪を使う。

 

「令呪を持って命ずる。英雄王ギルガメッシュよ、その人類最古の力を惜しみなく使い役割を果たせ」

「言われるまでもない。エアよ。その力、解き放つ時だ」

 

 王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)の掃射を受けながら、反撃のように聖剣を真名開放する円卓王。その動きを読んでいたと天地乖離す開闢の星を使用する。激しく回転する乖離剣から発射された赤い竜巻は、黒い光の奔流と正面から打ち合う。衝突する二つの最上位の力。

 暴力と暴力が互いを否定しながら拮抗する。

 

 ギルガメッシュに令呪を使いただでさえ強大な力を持つ彼を強化したアルカ。自分の役目はこれまでだと、3画全て消費して時間を稼ぐ。正しくは円卓王相手に英雄王ですら、令呪を用いることで時間稼ぎしかできないのだ。

 そして、アルカにはやるべきことがある。

 

「凛、綾香。私は今から上に行って決着をつける」

「愛歌……いえ、アルカ。あんたなら、あれに勝てるわけ?」

 

 凛は、アルカに勝算はあるのかと尋ねる。今のセレアルトは、人類にとって最悪の敵。でたらめな力をでたらめな理由で行使し、世界そのものを終らせようとしている。一度万全な状態で戦い、アルカは敗れている。もしアルカが再び負ける様な事があれば、セレアルトを止められる者はいなくなる、

 

「……ん」

 

 必ず自分がセレアルトを止めると頷き、名残惜しそうに綾香から離れる。綾香は、その時のアルカの表情から、不思議な感覚を得る。不安のような当然のような、表現しにくい感覚。しかし、本能的に離れていくアルカのドレスのすそを掴んで引きとめてしまう。 

 自分のせいで時間を使わせる訳にはいかないと理解しながら、アルカとセレアルトが戦うことを恐れる自分が居る。再び姉を失うことになるんじゃないかと。

 

「……綾香」

「ごめんなさい。けど、けど」

「ん。わかってる。だけど、だからこそ、信じてほしい。もう私はだれにも負けない」

「……」

 

 アルカは止まらない。彼女の指名がセレアルトを止める事な以上、誰にも止める事は出来ない。奥歯を噛みしめ、綾香の七色の魔眼から毀れおちた涙をアルカは拭う。そして、綾香が手をゆっくり話すと同時に、空に浮かび上がりながら、上を目指す。

 その様子に綾香は何も言えず、隣にいるセイバー(アルトリウス)に抱擁され慰められる。

 

「アルカ、行くんだな」

「ウェイバー。綾香をお願いします」

 

 セレアルトの元に向かうアルカに、戦車に乗りながら後姿を見送るウェイバー。彼の顔を見てアルカが少しだけ振り返るが、綾香を託すことで迷いを断ち切る。アルカ自身もこの場で留まりたいとすら思っていた。

 けれど、セレアルトを止められるのは自分だけ。自分はそのためにこの表側に来たのだ。ならば立ち止まることはできない。

 

「……行ってきます」

 

 アルカはそういうと、高度を上げて上空にある大聖杯とセレアルトの元へと向かった。それを見届けたウェイバー達。一人の少女の背中に掛る重圧は、計り知れないだろう。けれど彼らには彼らの仕事があるのだ。一番早く立ち直ったウェイバー。彼が綾香と凛に指示を出す。

 

「上は上に向かった者たちに任せよう。我々も役割がある。ライダー、用事は済んだ。戻るぞ」

「そうさな。戦場に戻るとするか。下の方も、追い込まれてきた」

 

 イスカンダルとウェイバーは、地上で行われる英霊同士の大戦に戻ると言い、凛と綾香に目を向ける。

 

「私とライダーは、無限に増殖する英霊達を食い止める。倒す必要はない、あのサーヴァントがアルカの所に行かないように、足止めをしてくれ」

「わ、わかったわ」

「後、君のセイバーは武器を失ったらしいな。これを使いこなせるなら使ってくれ」

「礼を言いますメイガス」

 

 ウェイバーの願いに凛が了承する。現在ギルガメッシュが居ることで足止めなら可能となった。綾香を心配するウェイバーだが黒騎士と向き合う綾香の強い意志が宿った眼を見て、何も言うことはないとイスカンダルと共に地上で戦う偉大なる王の軍勢の加勢へと向かう。

 その際に、凛の傍にいるアルトリアに、最果てにて輝ける槍(ロンゴミニアド)を預ける。元々アーサー王のための武器であり、彼女やアルトリウスが使ってこそ真価が発揮されると判断した故の行動だった。聖愴を受け取ったアルトリアは、頷くとすぐにギルガメッシュと円卓王の激しい戦闘に介入しに行く。ランサーと小次郎もギルガメッシュの戦いに参戦、アルトリウスも止血された段階で片腕ながらも円卓王に攻撃を仕掛ける。

 

 戦車を走らせ、地上に舞い降りたイスカンダルとウェイバーは、次々に英霊達を轢きながら、敵を蹂躙していく。

 

 

 


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