Fate/make.of.install   作:ドラギオン

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役割

 ブレイカーの過去に触れたことで、アルカは彼との繋がり、前世からの繋がりを感じ取る。胸に抱きしめる形見ともいえるナイフ。前世の自分ティターニアが彼の最期を看取り、授けた宝具。この宝具が消滅しないのは、ブレイカーとティターニアの転生であるアルカの宝具だからだ。

 

 繋がりがあるアルカの所有物としてこの世に残り続けている。

 

「何か手掛かりでも手に入ったんですか? 随分と嬉しそうにしてますけど」

「ん。本当に後は外に出るだけ」 

 

 切り札を再びつかむ方法は、既に手に入れた。後は表側で戦う彼に全てを託すしかない。

 

「……ただ、もうすぐ機会は訪れる。準備をしておいて」 

「いよいよですか。わかりました」

 

 アルカの指示に従い、世界を紡ぐ巨大な楔に子ギルが、更に接近しながら高度を上げていく。そして彼は心の中で「地上に蔓延る害獣は駆除しないとね」と考える。

 アルカの七色の魔眼も、既に未来を見据えていた。

 

ーーーーーーーー

 

 一方で、ウェイバーとイスカンダルの王の軍勢による援護を受けてセレアルトの拠点に侵入した士郎達は、最上階に向かう前に一つの中盤フロアに辿りついていた。最上階の天に最も近い魔法陣へと続く螺旋階段を護るように黒騎士が佇んでいた。

 その身に纏う鎧、そして右手に持つ聖剣と左手の十字架のような盾。それらから漏れだす魔力だけで、士郎達は誰一人進めなくなった。

 

「あの剣、やっぱりセイバーと同じよね」

「えぇ。ですが私の聖剣よりは、彼の方の聖剣に似ています」

 

 凛は恐ろしい存在感を持つ宝具をアーサー王の持つ剣だと断定。それに対して二人のセイバーも同じ結論を出した。綾香と士郎も相手の武器を解析し、その正体に気が付いている。ゆえに、敵は最悪の刺客であり、敵にとっては鉄壁の守り。

 通常のサーヴァントとは、別の階位にいるような得体のしれない英霊。そのことをサーヴァント達は理解していた。

 

「で、どうするよ。全員で睨み合ってても、進展しやしねぇぞ」

「そんなのわかってるわよ。私達に取れる作戦は一つ。二手に分かれてセレアルトと黒騎士両方の相手をする」

「あれを。突破してか……」

 

 そういった凛だが、黒騎士の実力はおそらく冬木の全サーヴァント最強だろう。ステータスが全てEXなど、ふざけているのだ。マスター達はその存在に戦慄する。

 その中で一番怖気づいている慎二が凛に尋ねる。

 

「それも無茶だけどさ、第一誰を行かせるのさ。それに残った方も確実に死ぬよ? わかっていってるのかよ」 

「わかってるさ。このまま進めば皆死ぬ。けど、進まなくても皆死ぬ」

「衛宮……」

「シロウの言うとおり、もう私達に引き返す事なんてできないわ。貴方も魔術師の端くれなら、覚悟なさい」

「うるさい! 僕に偉そうにするなよチビ」

「おい、イリヤに慎二喧嘩してる場合じゃ」

 

 とたんに慎二とイリヤがにらみ合った。それを仲裁する士郎だが、おかげで緊張はほぐれていた。そして目の前の敵を分析しながら、誰が先の地獄に進み、誰がこの場の地獄に残るか考える。敵は自分からは攻撃してこないため、マスター達には考える時間があった。

 

 そんな中、綾香と彼女のサーヴァント三人が前に出る。先頭に立つ綾香は、七色の魔眼と金髪という妖精化が進行した状態で星の触媒としての膨大な魔力を宿す。そして覚悟の籠った眼をしている。

 

現状最大戦力は綾香と3人。必然的に黒騎士の相手をするのは彼女しかいない。

 

「遠坂さん達は、先に進んで。ランサーさん、小次郎さん、セイバー。私は、此処に残るね」

「かまわねぇよ。マスターの指示だしな。それに、あれと死合えるんだから、本望だ」

「左様だ。綾香嬢と契約してからというもの、胸躍る戦いが尽きぬ。そして締めがこれなら、文句はござらん」

 

 元々戦うことが目的の二人は、あっさり承諾。勝てぬとわかっていても黒騎士と戦うという状況は彼らを戦へと引き出すに十分。

 

「僕は君を守るサーヴァントだ。君が決めたなら、僕は剣を振るおう」

 

セイバーも傷は完治しており、自分も死ぬつもりで戦うと決める。同じ聖剣を持ち、息子であり自分を殺したモードレッドの剣すら所持する英霊。考えうる限り最悪の相手だが、アルトリウスは逃げない。

 

「凛、私も残ります」

 

アルトリウスに続いてセイバー(アルトリア)も黒騎士の相手を勝って出る。セレアルトにアーサーと呼ばれていた黒騎士。

明らかにアルトリウスやアルトリアとは違う存在だが、アーサー王が敵ならば自分達で倒すしかない。

 

「ちょっとセイバー。あなたまで行ったら、大聖杯を破壊する火力が」

 

一撃で大聖杯を消し去らねばならない。さもなくば10年前と同じ、それ以上の災厄を引き起こす。故に聖剣を凛が必要とする。

セイバーもそれを理解してか、困り顔をする。

 

「では、私が大聖杯を破壊します」

手をあげたのはルーラーだった。彼女は既に宝具である旗を破壊され、凛達も彼女は宝具を持っていないと考えていた。

 ルーラーに隣にいるイリヤが尋ねる。

 

「ルーラーの剣も宝具なの?」

「はい。一度きりの使いきりですが、聖剣の一撃にも劣らないと自負しています」

 

 ルーラーの回答を聞き、凛も決断を下す。

 

「じゃ、ルーラーと衛宮君、イリヤと間桐君が進んで。私も綾香と一緒に残る」

「ぼ、僕も上に行くのかよ」

「ライダーの宝具に、イリヤと士郎を乗せてもらうわ。飛べるでしょ?」

 

 凛の質問に対して、ペルセウスは是と答える。相手は怪物なのだ、ただ突破するだけなど不可能。ならこの中で最も機動力のあるライダーに足の遅いマスターを運んでもらうしかない。

 

「わかったよ。だけど、絶対僕らを守れよな。絶対だぞ」

「保証はできないわよ。さぁ行きましょう」

 

 覚える慎二と取りあうことなく、凛は黒騎士を見据える。それに腹を立てながらも、ぺルセウスに士郎とイリヤをかなり狭いながらも乗せる。非常に窮屈だが、ペルセウスは空とぶサンダルで横に並走する形となる。

 

「これがおそらく最後になるでしょうから。私の令呪を貴方達に。令呪を持ってジャンヌ・ダルクが命じます。黒騎士を倒してください」

 

 ルーラーは、小次郎とランサーとセイバー(アルトリウス)に、背中の令呪を行使する。それは自爆宝具を使う自分が出来る最後のサポートであり、保険。背中に刻まれた令呪を発動。セイバー(アルトリウス)に二画、ランサーに一画、小次郎に二画消費する。

 それを受けて、一時的なブ―ストのかかった彼らは、黒騎士に向き合う。

 

「セイバー(アルトリア)、こっちも惜しみなく令呪を使うわよ。破産覚悟で、やってやるわ」

「はい。それでこそ凛です」

 

 アルトリアと凛も準備を整える。宝石を飲み込んだ凛から魔力が流れ、鎧を解除し全てを攻撃に集中するセイバー(アルトリア)。その隣では、綾香達も黒騎士を相手取る覚悟はできていた。

 

「いくよ。皆」

「おうよ!」

「承知した」

「やるからないは必ず勝とう。人類の未来を得るために」

 

 綾香とサーヴァント達も戦闘準備はできた。ゆえに残った慎二が頭をかきながら覚悟を決める。乗りかかった船であり、自分の命を捨てる場所を此処だと決めたのだ。弱く卑屈な自分でも、意地があると慎二はライダーに進めと指示する。

 天馬に跨る膝は震えるし、腰は引ける。だが慎二の考えを汲んだぺルセウスが、天馬に並走しながら空を走りだす。

 

 その動きに反応した黒騎士が黒に染まった聖剣で彼らを切り裂こうと次元を超えた動きで接近する。その動きを見た護衛役のサーヴァント達は一斉に黒騎士に挑む。

 

「ハァー!」

「通しはしない!」

 

 飛び出したのは、セイバー二人だった。マスターから供給される魔力を全て魔力放出に費やし、一時的に加速を生み出す。その速度は、天馬とペルセウスに接近する黒騎士に追いすがり、追い抜くほどだった。そして騎士王二人が聖剣で黒騎士に斬りかかる。

 

「「!?」」

 

 しかし、二人の聖剣を盾と剣で受け止めた黒騎士は規格外の魔力放出によって騎士王二人の体を切り払う。それによって簡単に吹き飛ばされる騎士王二人。さらに横を通り過ぎようと一目散に駆け抜けた士郎やライダーを追いかける。

 

 止まらない怪物。その矛先が移動中のマスターたちに襲い掛かる。絶対の暴力を前に衛宮士郎は、天馬に股がり投影した弓に螺旋剣を構える。

危機的状況下において導きだされた最適の手段。

 

セイバー達が一秒抑えてくれた事が勝機となる。全力で弓を引く士郎を同じく天馬に股がる慎二が服をつかんで支える。

 

 

「――――I am the bone of my sword.(我が骨子は捻じれ狂う)――偽・螺旋剣(カラドボルグ)」

 

士郎が放った剣は、真名解放の元で、勢いよく飛び出し、空間をえぐり稲妻を纏って直進する。それはもうスピードで迫る黒い騎士王の速度に比例して距離を積める。

 

だが黒い騎士王は、十字の盾でその攻撃をなんなく受け止め、あろうことか前進する。

 

「熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス )、壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)!!」

 

弓で殺せるとは思わない。殺すことではなく時間を稼ぐこと。それを選んだ士郎は、放った剣を爆発させ、その爆風を天馬の背後に展開した盾で受け止める。

爆風の加速で黒騎士の速度を若干上回った士郎たち。そして至近距離の爆発を、騎士王が持つ直感で感じたのか、黒騎士は爆発から遠退いており、その隙をランサーと小次郎の二人が畳み掛ける。その隙にルーラーも突破。

 

 

「後は頼んだ‼」

「ぶっ倒してこいガキ」

「そなたが何者かは関係ないが、ここは通すわけにはいかぬ。通りたければ首を置いていって貰う」

 

士郎がそういうと、天馬は黒騎士を放置して上階に続く階段を上り始めた。そして階段を守るように小次郎とランサーが構え、背後を復帰した騎士王二人が囲む。

サーヴァント4人に囲まれた黒騎士は、周囲を見渡す。そして、厄介だと判断した綾香を狙い武器を構える。

 

「後悔してない? 綾香」

「こ、後悔はずっとしてる。でも後悔したって先には進めないから。それに遠阪さ、凛もでしょ」

「そうね。私は反省はするけど後悔はしない。それでも後悔するなら、やれるだけやって、後悔してやるわ」

 

凛はそう言いながら宝石を構える。無数の宝石を空に投げる。綾香も本質的に向いていた元素変換を使用。アルカの繋がりを利用して大規模な魔術を行使する。

「あの世で会いましょう」

「うん。凛が一緒なら怖くない」

 

二人はそう言って、突然マスター狙いに切り替えた黒騎士相手に立ち向かう。自分達の役割を全うして。

 

 

 

 

 


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