Fate/make.of.install   作:ドラギオン

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ブレイカーという英霊

 ブレイカーの宝具を読み取る中で、アルカは見たことのない場所にいた。そこは地上ではなく、明らかに宙だった。周囲が星の輝きと黒い闇に覆われ、視線の先には巨大な輪を持つ木星。アルカも見たことのない光景に驚くが、すぐに光景が移り変わる。

 

 その間少し周囲の光景が変わり、見たことのない高度な機械に覆われた施設。重力がないのか、物が浮き上がり、慣性のままに動いている。そして彼女の傍には、ひとりの子供が居た。まだ赤ん坊と呼べる年齢だが、褐色肌に黒髪をしたブレイカーにそっくりな子供が。そして、視線に入った年号が自分の知らない年号であり、2005年の現在よりも遥かに先だとしか理解できない。遥かに科学が進歩しており、文明レベルが理解できなかった。

 そして、時間が流れる中で、アルカは自分の視点がブレイカーのものだとわかった。周囲を通りすぎる僅かな人間達の姿だが、ほとんど摩耗して見えない。というよりブレイカー自身が覚えていないのだろう。

 

 目覚めたときから地球の外側にいた彼。だが、次第に成長するにつれて彼の居る箱舟が地球に向かっているのを感じる。ブレイカー(アンゴルモア)の国籍も時代も何もかも不明だったが、彼が地球生まれでないとは想定の範囲外だったとアルカは感じる。

 

 

 そして、彼が宙で10年以上過ごした時だろう。青き星が目の前に迫り、彼の両親とその仲間が抱き合っている。その光景を見て、彼は何かを感じたのだろうか。青い星を眺めながら、大気圏と注入を待っていた。しかし、その光景を見ていたアルカは、彼の体の中にある魔術回路が地球に迫るにつれて活性化しているのを魔眼で読み取れた。その時代には、科学の発展が魔術を超え、魔法にまで届く。そんな中で、地球という理の外で生まれたそれは、ある力を持っていた。

 

――――

 

 遂に地球へと降り立つことになり、周囲の人間(それでも6人ほど)が喜びの声をあげた。そして大気圏へと無事に突入。だが彼だけは、地球を恐れていた。彼の本能的な恐怖は、杞憂だったのか無事に大地に降りる事が出来た。

 

(……彼に何があったんだろう)

 

 一瞬、魔術など全て忘れてしまいそうな遥か未来の光景。あまりに現実的でなく、なのにもっとも現実に近き技術の進歩した世界。その世界の空気を初めて、彼が受けたとき。滅びが始まった。地球に存在したマナが彼の魔術回路を起動。ブレイカーの持つ魔術回路の数と質は、規格外。

 そしてその魔力の持つ性質は『破壊』。魔術がほとんど廃れた時代において、魔力の押さえ方など知らない彼は、周囲の全てを破壊していく。まず自分の乗っていた船や着陸した建物の周囲の者や人々が彼のあふれ出す魔力によって破壊され苦痛の末に消滅する。

 

 彼自身も自分が原因だとわかっているが既に壊したものは治せない。そして、自分の魔力を抑える事も出来ず、徐々に空気中に彼の魔力が流れ地球上の物理法則や物質すらも破壊していく。だが、自然と彼はその状況に順応していた。

 何処となく自分がそういう存在であると理解しながら、彼は世界を破壊するのをやめない。生きていることで世界が壊れ、呼吸するだけで世界が崩れる。だが彼には止める術がない。経った一日で彼の降り立った都市が、破壊の魔力に呑みこまれる。そして一週間にもなれば、体が魔力の精製に馴れてしまったのか、国が。半月立つ頃には、大陸全土へと段階を速めて破壊と死を振りまいた。

 歩く星の文明破壊装置となった彼は、飢えも何も感じることなくただ、壊れていく世界を眺めていた。当然その時代の人類も彼を殺そうと、手を尽くすもノアの大洪水のような超自然的な災害そのものである彼に、世界を創り変える破壊の権能を行使する彼の前には無意味だった。

 

 何故こんなことが起こっているのか、彼には理解できなかった。だが、自分の役割はそれであり、これは定められていたのだろうと受け入れるしかなかった。そして、彼の魔力は尽きる事なく増え続け、地表にある全てのものを破壊しつくした。

 彼が地球に降り立って半月が経ったとき、彼の前に未知の存在が現れ始めた。その存在たちは彼も時代の装飾ではなく、太古の武器と鎧を纏い明確な殺意を持って彼へと武器を振るう。

 

 その存在は人類よりはるかに超状的な存在である英霊。それも聖杯戦争ではなく、地球の脅威に対して世界に派遣された英霊たちだった。彼らは何も知らないブレイカーを殺す命を受け、現界した。世界が彼個人を敵と認識した結果だ。

 人類とは違う強さを持った彼ら、世界に認められる偉業を成し遂げた彼らと生きるために戦う日々が始まった。

 

(世界を敵に回す、ブレイカーの言っていたのは)

 

 最初は、魔力の放出で身を守っていた彼だが。次第に英霊の数や規模が増え始める。少年だった彼が、傷付きながらも英霊と戦い。そして青年になるまで地獄のような日々が続いた。破壊の化身となった彼は、生まれ持った魔力とたぐいまれな戦闘技術を英霊を相手にすることで磨きあげるという所業を行った。

 

 敵の魔術や宝具を見ることで、その性質を学び、受けてきたことと破壊の魔力で耐性を得る。そして、魔術を自己流で学び、破壊された残骸から魔術師の痕跡を見つけては学習した。

 

 日夜命の危機にさらされながら、自分の力を磨く生活。虚無な生活だった彼の人生に、絶望的な状況は革命的だった。日々の戦いで彼は戦いに、壊すことに喜びを見出した。

 そして、殺される立場からより強い敵を求めるようになった。

 彼らの戦いに被害者は出ない。何故なら彼が最後の人類なのだから。ゆえに誰にも気を使うことなく、自分の力を振るい続けた。相手は英霊だけでなく、その時代の怪物たちも存在した。それと戦うたびに死にかけ殺し時には壊し、生き続けた。

 

 世界中を一人歩き、次々現れる英霊と戦っては、一日を過ごす。そして日々が過ぎる中で、徐々にアルカの知るブレイカーへと成長していく。そんな中地球がある強大な決戦魔術を行為。すでに護る存在はいないにもかかわらず、誤作動を起こし続ける抑止力。それによって現れた存在とも戦い、生き残ったブレイカー。いつもとは次元の違う敵との戦いだったが、何年も英霊相手に生き残った怪物は英霊そのものにとって天敵となっていた。

 既に地球に壊せるものはなく、殺してくれる存在すら現れない。

 

稀に空からの来訪者も現れるが、ブレイカーは敵対すれば戦い、敵対しなければ放置した。死の概念を持たない相手でも、破壊という全宇宙に存在する概念の権能を操る彼は全ての天敵だった。

 

(ブレイカー……)

 

自分以上に過酷な人生を歩み、それでも生き続けるしかない彼を見てアルカは不思議な感情が胸に起こる。いつも自分の側に居た彼が、こんな過去を持っていた。

そしてラインをカットすることでブレイカーは、アルカへの影響を減らしていたと感じる。アルカがブレイカーの記憶に影響されぬよう気を使って。

 

世界を一人さ迷い続けた彼は、やがて抑止力ですら手に余ってしまった。元々地球の外側で生まれ、外側で育った彼は別種の存在。

手を尽くしても、打倒できない。そして世界は滅び守るものすらないのだ。その段階でブレイカーは、人類最後の存在という特異点となった。

彼が選んだ場所が、人類の最後となり未来は一切消滅する。ブレイカーを打倒しなければ、未来は見えず訪れない。故に彼は、根源接続者や全知全能の反逆である。彼と敵対すれば、未来を知ることができず、あらゆる力を行使しても打倒は難しい。

全てを知るからこそ、ブレイカーの異質さと力を理解してしまう。

 

そして一芸に特化しながら、全てを相手できる万能性が現にセレアルトの暴走を抑え、現在までの抑止力となった。セレアルトが恐れていたのは、ブレイカーのみ。注意する相手はいても、直接会うこともセレアルトですら否定した。

 

そして時は流れ、ブレイカーが現在のブレイカーと重なった時、それは現れた。

 

廃墟になった大都市を歩いている彼の前に、突然光が発生し、中から金髪に七色の目を持ったアルカそっくりだが年上の女性が現れた。

その女性は、セレアルトの記憶を辿った時に現れ、アルカに力を与えた女性。アルカの中よりも強大な力を持った状態の彼女は、ブレイカーに微笑みかける。

10年以上人と関わらないブレイカーにとって現れた敵意を持たない存在は異質だった。

 

「お前は?」

「私? 私は偉大なる妖精の女王にして第六法の担い手。ティターニアと呼んで貰おうかな」

「妖精? 死徒の仲間か?」

「カテゴリー的には違うわ。遥か未来に現れた破壊者さん?」

 

気だるげながらもブレイカーに絡んでいく女性。アルカも深層心理のなかでこんな人だったと思い返す。だがブレイカーは、邪魔だと女性に魔力を放つ。

敵であろうがそうでなかろうが、関係なく破壊する。それがブレイカーだった。

 

当然女性は、力を持っているがブレイカーは第六法すら破壊する性質を持つ。故に女性は、抵抗しなかった。ただブレイカーを七色の魔眼で見つめ、待った。

これまで敵対者以外の相手をしなかったブレイカーは、女性の無抵抗に殺気を削がれる。放出した魔力を霧散させ、「何が目的だ」と訪ねる。

 

「君の死よ」一寸の迷いもなく発せられる事実。当然と言えば当然だが、この状況でいう意味がわからない。

 

「それで?」

「君が存在する限り、未来は消えてしまう。他の次元だろうが何だろうがね。だけど君は倒せない。だから自決して貰おうと思ったのよ」

「馬鹿かと思ったが大馬鹿か」

「馬鹿はあなたもでしょ? 何もかも壊して。無駄な余生を永遠に謳歌するのかな」

「……」

 

真っ直ぐに死ねと言ってくる女。ブレイカーは殺してしまうべきかと感じる。だが彼女のいう言葉も一理ある。自分に目的はなく、ただ生きているだけ。

それは死んでいるんじゃないかと感じさえする。

 

「私は魔法使いだ。人々を幸せにする魔法使い。とはいえ、私の余生は短い。だから最後に未来に巣食う君を救済する名目で……説得に来たのよ」

 

言うなら彼女は、過去から今、別次元からこの次元まで魔法で来たらしい。自分の寿命を捨てる覚悟で。見た目は若い女性だが、妖精から人間になったことで寿命が激減。25の今が寿命だと語る。

他の魔法使いと喧嘩し、世界の裏側に帰る前にブレイカーを殺しに来たらしい。

 

「死ねって説得があるとは、過去は凄いな」

「君は生きているより死んだ方が君のため」

「……メリットは?」

「詐欺だから怒らないでほしいんだけど、君が死ねば肉体と魂を分離した上でアラヤとガイアに封印する。そして君を英霊のしようと思う。後、抑止力は賛同してるから」

 

馬鹿げてるとブレイカーは、笑いながら女を見る。大きな胸を張りながら、主張する馬鹿女。

 

「それで俺は過去で使役されるってか?」

「いいや。君は永遠に座に封印。一生召喚されないし 、必要にもされない。監獄に無期懲役」

 

とんだ詐欺だ。自殺した上、英霊にされ転生すら止まる。さらに英霊としての未来さえないのだ。世界を滅ぼした英霊が必要な状況など、ない方がいいにはわかる。

 

「だが、もし君のような存在が別世界で発生すれば保険としてキープされるでしょうね」

「力業だな。処理不能な化け物に化け物か」

「君は死んでいるようなものだから。死んでも後悔はないはずでしょ? それに物事には必ず例外がある」

 

ブレイカーに詰め寄る女性。彼女は手のひらの上で光による未来予想図を映しながら、語る。

 

「…-案外君を必要とする頭のおかしな奴が現れるかもしれない。だって世界を破壊する力よ。魅力的で、強大だから。保証はしないけど、もしもとして考えてね」

「俺は生き汚い上で、勝負弱いんだがな」

 

今に意味はない。だが未来を求めるなら彼女の勝負に乗るのもありだろう。失うものは何もなく、ただ得るものがないだけ。

同時に生き続けても自分の存在に意味を見出だせない。なら分の悪い絶望的な賭けに出て、自分の意味を現れるかもわからない馬鹿な存在に託すのも一興だ。

 

「私も君が最後に会える人間になる。これが終わったら役目を終えた蝉のように死ぬわね。だから答えは即決で」

 

もし断ったら私が君を殺そう。と言い始める。無理だとわかっていながら、彼女は分の悪い賭けに残りの命を賭けていた。

あまりに気持ちのいい命の賭け方。それを見習い、ブレイカーは決める。

 

「……わかった。抑止力を呼べ。騙されてやる」

「そうか。良かったわ。君の未来は真っ暗。だけど、真っ暗な世界にも意味を見つけてくれると嬉しいと思う。ーー君」

 

(ブレイカーの名前……)

 

女性が初めて彼の名を呼んだ。それには彼も驚き、そして空を見上げながら静かに涙する。名を呼ばれず、名すら忘れかけた彼。

それを呼び思い出させた存在。これだけでもブレイカーは救われた。

そして英霊になることを選んだ彼の前にアラヤとガイアが顕現。後はブレイカーの死で契約は成立する。

 

「君の本名は、封印した方がいいわね」

「だったら、何て名乗る」

 

女性は名前の力を知っており、迂闊に名前が呼ばれるのは危険だと判断。故に彼女はブレイカーの名を考え始める。

そして、彼女は良いことを思い付いたと告げる。

 

「お前が地球に来たのが、この時代の年号で1999年の7月。なるほど、予言はこうも的中するのね」

「どういう意味だ」

「意味は座で知れば言い。では名を授けましょう、お前はアンゴルモア。恐怖の大王を名乗りなさい」

「アンゴルモアの英霊は、他にも居た筈だ」

「だからだ。何かの拍子に召喚されれば、本望だろう? それにこの時代ではお前こそがアンゴルモア(恐怖の大王)に相応しい」

 

ブレイカーがしぶしぶと言った様子で受け入れれば、女性は魔術でない魔法で世界中に残った残留思念をブレイカーの所有物だった一降りのナイフに宿す。そのナイフが「じゃあな」と言いながら抵抗を止めたブレイカーの生を終わらせた。

 

抑止力は、アラヤが魂を封印し肉体をガイアが封じた。二度とアンゴルモアが顕現しないために。ブレイカーの生を終わらせたナイフを持った女性は安らかに英霊の座に導かれた被害者を眺め、ナイフを投擲。それらはブレイカーの宝具として取り込まれた。

漸く未来が開けたと抑止力が消え、女性は残った寿命を数えながらブレイカーの破壊し尽くした世界を歩む。

 

「どうか、アンゴルモアに幸のあらんことを」

 

そう言い残し、彼女はその世界で砂になって消滅した。

 

ーーーーーーー

 

そして、座に導かれたアンゴルモアは壊す前の世界のついて学び悠久の時間を過ごしていた。諦めに似た境遇だが、彼は英霊の座を満喫していた。

だがやがて転機は訪れる。ある世界で彼をピンポイントで召喚する存在に抑止力はバグを起こした。

 

そして幾重にも重なった奇跡が、ブレイカーを第四次聖杯戦争の行われる世界へと召喚した。

 

「あ~……?」

 

どんな奴かと楽しみに応じた彼は、マスターとなった幼き少女に驚いた。彼を殺した女性に似ている少女が彼のマスターであり、自分の未来と存在意義を与える可能性。この運命に驚き、そして決めたのだ。

この女に全てを託そうと。笑みが浮かびそうになるのを堪えながら尋ねた。

 

ーーよりによって。

 

「俺を召喚した大馬鹿はお前か?」

 

何処か懐かしい瞳との対面。これが英霊アンゴルモア。ブレイカーの真相だった。

 

 

 





木星帰りの男……アンゴルモア。ガンダムだと困ったちゃんなイメージありますね木星。

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