Fate/make.of.install   作:ドラギオン

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遅くなりました。


偉大なる王の軍勢

 セレアルトの喚起と共に崩れ出す聖杯の塔。その内部にいた士郎達は、崩落する塔の中にいられず、一時的に避難を余儀なくされた。凛と桜、そしてペルセウスとライダーの戦いでボロボロの塔が崩れ落ちるのは早かった。

 

「うふふふ、本当の戦争を始めましょう? あはは」

 

 

 それぞれがサーヴァントに手を借りることで脱出に成功するが、崩れていく塔と、その後にあらわれたものに唖然とする。

 

「何よあれ」

 

 セイバーに運ばれた凛が、塔が崩れた後に発生したあるものを見て、絶望の表情を浮かべる。それは凛だけでなく、マスター達やサーヴァントすら唖然としていた。

 

現れたのは、天まで伸びる魔方陣のようなステンドグラスの螺旋階段。その頂上は大聖杯であり、二つの濁った光の渦がセレアルトの周囲を回っていた。まるでそれを操るようにセレアルトが両腕を突き刺していた。

 

唯一魔術の性質を目で理解できる綾香が、巨大なステンドグラスや光の渦を目視したとき、脳に激痛が走った。

 

「つぁ……」

「綾香、どうしたんだい」

「情報が多すぎる。けど、あの魔方陣はだめ。はやく大聖杯を壊さないと」

 

二つの光の渦を見たとき、情報量の多さに脳が焼ききれそうになる綾香。妖精化が進んでいなければ廃人にでもなりそうな情報量だった。綾香に読み取れたのは、巨大なステンドグラスの持つ魔術の術式。

 

 ルーン魔術を習得しているランサーですら、術式の強大さからないか正体がつかめない中、綾香はその答えに辿りついた。そしてこれから起こりうる地獄の光景を、予知してしまう。

 

 綾香の眼に映ったのは、星だ。美しい青い星が、日本のある場所から広がった赤い炎と黒き人型の軍勢に蹂躙され、瞬く間に何もかもが燃え尽きた死の星になる光景。吐き気がする光景を見て、綾香は、焦る。

 これは地獄どころではない。セレアルトの考える未来というものが、全てを否定する行為だと理解できた。

 

「あれは、巨大なサーヴァント召喚の術式。それも聖杯戦争用じゃない、人類を守護する目的の」

「なんだって、セレアルトはそんなものを?」

 

 綾香の読みとった情報に、士郎が疑問を感じる。明らかに人類悪となっているセレアルトが、人類を滅びから救う術式を起動する意味がない。だが、士郎の疑問を無視して、術式が起動する。

 

 ステンドグラスのらせん階段を起点に、地面に巨大な魔法陣が広がる。その範囲は、非常に広く聖杯の塔が出来た影響で荒廃した周辺全域に広がる。アインツベルン森全土が巨大な召喚陣となり、そこから次々にサーヴァントが召喚され始める。

 

「なんだよこれ、無茶苦茶もいいところじゃないか!」

「慎二、暴れないでくれ」

 

 桜を抱え、天馬に同乗していた慎二は、誰よりも状況を把握できた。ステンドグラスを中心に、次々とサーヴァントが召喚されていく状況。その数の増加はとどまることを知らず、古今東西のあらゆる時代の英霊が士郎達の行く手を阻むように、立ちはだかる形となる。

 しかも、それらが全てスペックに減退のない、純粋なサーヴァントだということだ。彼らの表情には感情はなく、冷酷な機械として召喚されていることが伺える。それは英霊の本質であり、神話や伝説の功績が信仰を生み、その信仰をもって人間霊である彼らを精霊の領域にした人間サイドの守護者。なのにもかかわらず、人類の守護者たる英霊たちは、セレアルトを止めようとする士郎達へと殺気を向け、それぞれが襲いかかってくる。

 

「嬢ちゃんと坊主は下がってろ! マジでやばぇぞこれは!!」

「同意だな。拙者も行く」

「僕も前に出て敵をひきつける!」

 綾香と契約する3人は、群れで向かってくるそれぞれ前に出ることで、敵をひきつける役目を負う。剣を持った英霊と仮面をつけたアサシンをセイバーが剣で相手し、ランサーが3人同時に矢を放ってくるアーチャー達を、矢避けの加護で無力化しながら、槍を振るう。

 その二人の間を抜け出たランサーを小次郎が、物干し竿で首を切断する。だが、次々に召喚される英霊達は、明確の意思を持ってマスターやサーヴァント達に攻撃を仕掛ける。

 

 殿にルーラーとセイバー(アルトリア)が構え、飛んでくる魔術や矢を次々落としていく。一騎当千の英雄たちだが、敵もまた同じ英霊。前衛の3名も余裕が一切なくなる。次々に強さも伝承もランダムに英霊達が襲いかかるのだ。

 

「でたらめってずっと思ってたけど、あいつは本当に化け物ね。綺礼の方が何倍もましだわ」

「こうなったら、固有結界で」

「ダメよシロウ。固有結界でもあの数の英霊は」

 

 士郎は、空中に無数の剣を投影。それらを連続投射することで、現在陣営にない弾幕を請け負うが、それでは処理しきれない。英霊達は武器で発射された剣を弾きながら、こちらに迫ってくる。固有結界の使用を考えるも、セレアルトを倒す固有結界を此処で使うわけにはいかないとイリヤが止める。

 

 既に戦況は、敗戦に等しい。無限に等しい英霊達が抑止力を介して、召喚される。その抑止力はなぜか人類と地球の滅亡を支持し、破滅の使者として召喚される。通常七騎ですら手に余る英霊が、群れを成してやってくる。

 

 次第に英霊の種類も増え始め空と飛ぶ英霊も現れ始める。さすがに状況がまずいと判断したのか、慎二のライダーが士郎に手を伸ばす。以前の戦いで武器を失った彼には、接近戦に不安が残るからだ。

 

「空中の敵は、ワタシが引きつけよう。何か武器を」

「……わかった」

「これは、感謝しよう」

 

 桜を乗せた天馬から飛び降り、飛行能力のあるサンダルを使用して仕方なく接近戦を買って出た。マスターとその妹を守るために前に出るしかない。

 士郎はペルセウスに武器と言われて、アーチャーの腕の持つ記憶からハルペーを投影し彼に渡す。それを受け取ったライダーは、贋作とはいえしっくりくる武器に感謝し、飛び出す。

 

 空中から襲いかかる無数の英霊相手にハルペーを振るいながら戦う彼も正しく大英霊だ。サーヴァント達が時間を稼いでくれている間に、案を探さなくてはいけない。少なくとも相手の包囲網を突破する策を。

 凛は、自分の傷をイリヤに治療してもらいながら、セイバーにアイコンタクトを送る。 

 

「セイバー(アルトリア)の宝具を解放するわ。相手が大勢なら、強引に突破する、綾香、少しだけ時間を稼いで」 

「わかりました凛」

「うん。この場合……ランサーさん! 宝具の使用を!」

「おうよ。セイバー(アルトリウス)にアサシン、下がってろ」

 

 三人のサーヴァントを使役する綾香の指示によって、ランサーが快く答える。このままではじり貧だったため、彼女の指示は間違っていない。瞬時に、目の前の敵を振り払い、ランサーが後ろの飛び、投擲の構えを取る。

 それに合わせてセイバー(アルトリア)が魔力放出で膂力をあげながら迫りくる騎士の英霊二人を弾き飛ばす。アサシンも秘剣・燕返しで一人の首を切り落とす。そのまま俊敏性を生かして、背後にバックステップを踏む。

 

「セイバー(アルトリア)、令呪を使うわ!」

「了解しました」

「綾香、僕も真名開放を使う」

「うん。魔力の心配はしないで。全力で」

 

 背後のセイバー(アルトリウス)も聖剣の解放の構えを取り、凛が令呪で後押しする。それを見たルーラーが、旗で敵の体を貫きながら、進言する。

 

「私も令呪を使いましょう。セイバー(アルトリア)ではなくランサーに。ルーラーの名において命ずる、ランサーよ宝具の一撃で持って活路を!」

 

 ルールブレイカーで契約破棄された英霊とブレイカーによって壊された令呪は使用不可。だが、それ以外の英霊には二画ずつルーラーの特権である令呪があるのだ。それを消費することでランサーへと魔力は補充される。

 

「いいね。活目して見届けろ、我が槍の一撃。突き穿つ死翔の槍(ゲイボルク)!!!」

 

 前に飛び出したランサーは、上へと飛び上がって、槍の呪いを最大開放。対軍宝具である槍を投擲した。時速400キロを超える槍は、英霊の群れに対して分裂を繰り返し、降り注ぐ雨となる。一撃一撃が死をもたらす槍の雨は、英霊達を次々に蹂躙していく。

 だが、突然、キャスターらしき英霊や盾を持った英霊達が宝具を発動したのか、攻撃が無数の結界に阻まれ、最終的に想定した数には届かない被害しか出せなかった。

 護りを打ち砕き、爆発することで多くの英霊を消滅させるも、次々に召喚される英霊を削るには程遠い。自分の手元に戻ってきた槍を掴み、ランサーが悔しそうな表情をする。

 

「ちっ、有象無象じゃねぇってことか」

「そのようだな!」

 

 ランサーが槍を掴んだ段階で、姿を消していた暗殺者の英霊が、彼を背後から襲う。それを見て暗殺者の首を瞬時に切り落とすアサシンの小次郎。敵は意思がなくとも、英霊として呼ばれた能力は持っている。

 

 当然、相手側も宝具を使用してくるのだ。

 

「みなさん後ろに!」

「ライダー! 盾を使え!」

「承知した」

 

 ランサーの攻撃に触発されたのか、アーチャー達が遠距離から強力な対軍宝具を放ってくるそれに合わせて、ルーラーと空中で戦っていたライダーがサーヴァント達やマスター達の前で宝具を発動する。

 

「反鏡す、女神の盾(カスレフティス・イージス)!!」

「我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)!」

 

 青銅の盾の宝具が展開され、その守りが発動。更に正面からの威力を削ぐため旗をルーラーが掲げ、正面から飛来する雨のような宝具の攻撃を防ぐ。だが敵の数が多すぎるため、その守りすら長くは持たない。ルーラーの宝具は無敵ではない。

 使用すればするほど傷つき、やがて壊れてしまう。だが護り切らねばならない。背後にいる彼らは希望であり、未来に違いない。主が自分をこの場所に道いびいた。それはここで彼らを守るためだとルーラーは意識する。青銅の盾を構えるペルセウスも敵の攻撃を反射するたびに宝具に負荷を感じる。

 

 しかし、背後で眩い光を放つ聖剣を構えた騎士王が二人いる。片方は、二振りの聖剣。同じ存在でありながら差異は有るものの、どちらも最高の聖剣。この星の意思が産んだ人々の願いの象徴。

 扱いしは、かの有名な騎士王。彼らの力が戦場に活路を切り開かんと振るわれる。

 

「「令呪を持って命ずる」」

「「約束された……(エクス、)」」

 

 凛と綾香の令呪が赤く輝く、絶望してたまるか。世界を終らせることは許せはしないと。その願いを受け、左右に並ぶ騎士王の聖剣は輝きを増す。絶望を光で焼き、払いのけんと。

 二人のマスターと二人の騎士王。互いに魔力が同調し、奇跡の一撃を放つ。

 

「「敵を蹴散らして!!」」

「「勝利の剣----(カリバー)!!」」

 

 無数の宝具の雨を防ぐ守りが解除され、解放された約束された勝利の剣が、宝具の雨を蹴散らし、大軍となった英霊達の群れを消し飛ばして前進する。その威力は凄まじく、宝具による守りを次々に突破。城や要塞を召喚されても、止まることなく折り重なった聖剣の放った光は、突き進む。

 明確な意思を持って、巨大なステンドグラスを守ろうと英霊達が特攻を繰り返すが勢いは止まらない。セレアルトは正に世界の害敵。

 それに向けて振るわれる聖剣の威力は通常の真名開放の比ではない。このまま一気に押し切れるとだれもが思った時。

 

「残念でした。アーサー、頼んだわよ」

 

 空間を揺らすようにセレアルトの声が絶望と共に降臨する。彼女の声とともに現れた黒い騎士は、膨大な魔力を放ちながら、セイバー(アルトリウス)と同じ形状をした聖剣に光を迸らせながら振り上げ、もう片方の手に切っ先から膨大な直線状の赤雷を放つ魔剣を構え、それらをクロスするように振りおろす。

 空を切った二振りの剣は、激しい赤雷と黒い輝きで持ってセイバー二人の放った約束された勝利の剣と衝突するや、その威力を衰えさせることなく、アルトリアの聖剣の光を上回る。

 赤雷に押し切られ、アルトリウスの聖剣は黒い光どうにか拮抗するが、突破された膨大な魔力(赤雷)が自分達に向かう。

 

「馬鹿な、あの剣は」

「防ぎますよライダー! 我らを守りたまえ我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)!」

「慎二、ワタシの後ろに。反鏡す、女神の盾(カスレフティス・イージス)!」

 

 再び盾を持つ二人が、護りに入るが迫りくる赤雷の威力はEXクラスの宝具に匹敵し、瞬く間にルーラーの旗をボロボロにし、余波を反射する青銅の盾ですらひびが入る。もう数十秒と持たないという段階になり、アルトリウスの聖剣が押し負ければ、完全に全員が死ぬ。

 

「熾天覆う七つの円環!」

「キャスターじゃないが、ルーンを使う」

 

 このままではいけないと士郎が全面に無数のローアイアスを展開する。投擲武器に対して絶対の守りである花弁を持つ盾が10枚以上投影される。さらにランサーが瞬時にルーン全てを使い、上級宝具すら防いでみせる防御結界を構成する。

 だが、それらすら突破しルーラーの旗を砕き、ペルセウスの盾を粉砕する。最後の抵抗にと、ルーラーが背後にいたイリヤを守ろうと抱きしめ、セイバーが凛を庇おうとする。

 ランサーとアサシンも身を盾にと前に出る。

 

 そんな中、士郎と、綾香は生命の危機に陥り、互いに可能性に思い当たる。士郎は腕を前に出し、アーチャーの腕に残る記憶から、真実を導き出す。全ての魔術回路を起動して自分の中にあったそれを投影する。

 

 綾香は魔眼を通じて、体に起こる変化がある段階に達する。それは綾香の中に全てを内包する世界を構築するアルカの魔術の権限。妖精化し、魔力を人間よりも扱う術にたけたことによる奇跡。

 

「install―――overlord!!」

 

 身体がアルカに同化し始め、遂に彼女しか持ちえない魔術の行使を可能とする。それは膨大な敵の魔力を自分の中に内包することで、魔力による攻撃を吸収する行為に繋がった。赤い雷の魔力は、指向性を持って綾香の体に吸収され、一時的に威力の減退を起こす。

 だが、宝具の一撃を吸収する行為は、綾香の限界を超えているため、徐々に吸収速度が落ち始める。

 しかし、数秒の間だけでも攻撃が防げたなら、衛宮士郎の投影は意味を成す。

 

 眩い輝きと共に、士郎の中に宿っていた黄金の鞘。その鞘が顕現した時、セイバー(アルトリア)は、本能から咄嗟に聖剣を鞘に突き刺し、士郎と共に真名開放を行う。

 黒き騎士が用いていた絶対の守りにして、英霊アルトリアの宝具である概念礼装。10年前、衛宮切嗣から衛宮士郎に与えられたその鞘の名を。

 

「衛宮君、綾香」

「シロウ」

「いやだ、死にたくない!」

「「全て遠き理想郷(アヴァロン)!!」」

 

 数百に分裂した鞘の守りが、赤き電撃を受け止め、遮断する。内包をやめた綾香が魔術回路の痛みからうずくまり、サーヴァント達やマスター達を聖剣の鞘が展開した妖精郷が完全に守り抜く。

 自分の役割として、聖剣で持って黒騎士の聖剣を相殺したセイバー(アルトリウス)が、綾香達を心配して振り返れば、彼らはみな無事だった。彼らを守りきった投影品の聖なる鞘は、姿を消滅させる。

 

「よくわかんねぇが助かった見てぇだな」

「左様だな。綾香嬢、立てるか?」

「うん」

 

 そして、聖剣の鞘を投影した士郎にセイバー(アルトリア)が告げる。

 

「士郎、貴方が私の鞘だったのですね」

「セイバー(アルトリア)。俺もよくわかってない……だから今は説明できない」

 

 セイバー(アルトリア)は全てに納得がいった。自分を士郎が何故召喚したのか、何故召喚されたのか。そして今の現状から、自分はこの時のために召喚されたのだと。

 ルーラーやペルセウスは、防御宝具を失うも戦う力はある。まだ戦える。

 

 その光景が予想外だったのか、彼らを見下ろすセレアルトが、目を丸くしていた。

 

「嘘。こんなの、見えなかった。……でも結果は変わらない。アーサー、貴方は私の傍に来なさい。アルカの気配が、近づいてる」

 

 セレアルトはさらに胸騒ぎと、自分の片割れが近くにいるような気配を感じ念のためにとアーサーと呼ばれる黒騎士を自分の傍に戻す。別に他にも尽きぬ英霊が居る以上、彼らに勝機はないのだから。既に抑止力は壊れ、世界はセレアルトがリセットするだけなのだ。

 不安要素は、裏世界に居ながらこっちに近付いているアルカ。だが、それですら彼女は対策している。

  

―――――――

 

 現に、死の一撃を防いだ士郎達11人だが、英霊たちは次々に召喚され、突破方法はないに等しい。全力の一点集中ですら、セレアルトに邪魔されるのだ。もうあの一撃は厳しい。

 

 ルーラーはひそかに、此処で使うべきかと自分の剣を眺め、腕に力を込める。それはルーラーにとって最後の手段。エクスカリバー(アルトリウス)に匹敵する威力を発する宝具だが一度しか使えない。

 敵を蹴散らし、活路を開かんとしたとき士郎達の後方から足音が聞こえる。それに反応し、ランサーとアサシンが武器を構える。

 

「新手か!」

「どうやら、魔術師のようだが。何故今頃参った?」

 

 魔力は低く、驚異と感じられない。今ここに居るマスター全員に劣るかかろうじて並ぶ程度の男だ。

 

だが男のカバンの中から膨大な魔力を感じ、そして彼が首から下げるネックレスの指輪が膨大な魔力を宿している。

 

二人の英霊の殺気を向けられながらも、男は黒い長髪を風に揺らし、口にくわえたタバコを投げ捨て足で消す。そして、肩を竦めながら、言葉を発する。

 

「冬木の呪いじみた結界に時間を取られて、慌てて来てみたが絶望的だな」

「誰よあんた」

 

凛が突然現れた魔術師に噛みつく勢いで声を荒げる。こんな状況に謎の魔術師など笑えない。

 

「私か? そうだな其処で驚いている子の保護者だ」

 

誰の事かと全員が彼の視線に目を合わせれば、それはポカーンと状況を理解できていない綾香。

 

「う、ウェイバーさん」

「ウェイバー……」

 

綾香が彼の名を呼んだとき、セイバーと凛とイリヤだけが思い当たった。

 

「ロードエルメロイ、ウェイバー・ベルベット!!」

「ベルベットの男、前回の聖杯戦争勝利者」

「まさか、あの時の青年なのですか」

 

凛とイリヤは、資料で知っておりウェイバー・ベルベットが聖杯戦争でアルカ達と共に善戦。最後まで勝ち抜き、4次聖杯戦争を支配した男だと。そして頭角を表し、時計塔に一大勢力を築いた。

 

そしてアルカと綾香の保護者であることは凛は知っていた。セイバーは、今のウェイバーを見て過去の姿と一致せず困惑する。

その貫禄をもって現状を見据えるウェイバー。

 

「状況は察している。ブレイカーの手紙と森に入った時、指輪からアルカの意識が私に伝えた」

 

ウェイバーは本の数分前に指輪から現れたアルカの意識と会話し、情報を得ていた。セレアルトが復活。アルカは世界の裏側に行ったと。

 

そして現状のまずさとこれから起こる災厄を想定し、人類滅亡のカウントダウンが始まってもうすぐ終わると知っている。

 

「何か手はあるのかなレディ。いやセカンドオーナーと言うべきか」

「無いわよ。少なくとも今すぐは」

「そうか。わかった」

 

悔しそうな凛の表情を見るなり、ウェイバーは自分の脇に抱えた箱を開き、中から赤いマントの切れ端を取り出す。

その手には、巨大で膨大な数の令呪がきざまれていた。

 

「あんた何をする気だ」

「まさか、召喚するとか言わないよね? 今更何の英霊呼んだって、あの数の英霊に勝てるわけないじゃん」

 

士郎と慎二が、水銀の試験管を地面に向け、こぼれた魔方陣を見て指摘する。

 

今更誰を呼んでも変わらない。むしろ混乱するだけだと。それを耳にしたウェイバーが慎二を見る。

 

「何も変わらないから、何もしないのか君は」

「な、なんだよ。ちょっと偉いからって……役に立つのかよ」

「我々大人の責任を君らの世代に残した事は、謝罪しよう。そして償うと誓う。

安心していたまえ、こいつは切り札だ」

 

ウェイバーが魔方陣を完成させ、触媒を要した段階でセイバー(アルトリア)が「えぇ。彼ならきっと」とウェイバーの召喚する存在を肯定する。

 

「閉じよ(満たせ)。閉じよ(満たせ)。閉じよ(満たせ)。閉じよ(満たせ)。閉じよ(満たせ)。繰り返す都度に五度、ただ満たされるときを破却する。

 

告げる。

汝の身は我が下に。我が命運は汝の剣に。

聖杯の寄る辺にに従い、この意この理に従うならば応えよ。

なれば我はそなたに力を添え、新たなる道を開かんとする。

 

誓いを此処に。

我は常世総ての善と成る者。

我は常世総ての悪を敷く者。

そなたは世の真理を越え逝く者。

 

汝三大の言霊をまとう七天。抑止の輪より来たりて顕現せよ。天秤の守り手よ」

 

ウェイバーの令呪が輝き、魔方陣輝きをまし、一体の英霊がこの世に召喚される。風によりマントをはためかせ、胴鎧を身に纏い、強靭な筋肉を纏う巨漢。

赤き髪と赤き瞳は、野望の証。腰に指す剣は征服の第一歩。この世に再び現れた存在はマスターたるウェイバーを見てこう訪ねる。

 

「余は今宵この時、騎乗兵(ライダー)のクラスで現界した。問おう。そなたが余のマスターか?」

 

その問いは10年前にもあった。その時とは違う。ウェイバーは笑みを口許に浮かべ、答えた。

 

「その通りだ。この私、ウェイバー・ベルベットが再びお前のマスターだ。ライダー」

 

はっきりと告げたことば。他のマスターからしたら当然だろう。だがウェイバーと彼は違う。ライダーは大きな目でウェイバーを見ながら、「ほぉ」と感心する。

そして、ウェイバーの肩に手をおく。

 

「良い顔をするようになったではないか、ウェイバー。背も伸びて、坊主とは呼べんな。見知った顔もおるな」

「当たり前だ。私も子供のままではいられん。夢を叶えるためにはな」

「ふむ。それは良いことだな。それでどうなっておる?」

 

ライダーは、周囲を見渡し、サーヴァントやマスターを見ながら遠くでこちらに向かってくる無数の英霊が尋常ではないと知る。

 

「聖杯戦争どころではないんだ。お前を呼んだのは、奴等が世界を滅ぼす集団だからだ」

「なんと、世界を滅ぼすか。それは征服ではなくてか?」

「全て燃やし尽くすだろうな。お前の征服する世界が危機に瀕している。敵は無数の英霊達」

「がはははは。それは確かに危機よな。つまり余の力を借りたいと?」

「その通りだ。私にはお前しかこの状況を変える英雄が浮かばない」

 

ライダーは顎を掻きながら、現状を理解。手のひらを拳でポンっと叩く。そして、10年前のマスターである男との再開を祝して、剣を抜く。

 

「良かろう。世を再び世界に呼び出した功績は偉大である。盟友よ。此度は世界を救う戦いに馳せ参じよう」

 

そう言いながら、ライダーは剣を掲げる。

 

「征服王イスカンダルたる余に従事る英雄達よ。新たな戦場で世界を征するとしよう。集えよ我が同胞!」

 

その瞬間、無数に英霊が召喚されるステンドグラスや数万に昇る英霊達。そして士郎達を別空間へと引き込んだ。

 

突然広大な砂漠と雲一つない青空が広がり吹き荒れ風が砂を巻き上げる。ちょうど向き合うか達で万を越える英霊達と士郎達の場所が移動する。

 

召喚の術式ごと移動したため、ライダーの固有結界の中でも英霊達が召喚される。

 

だが数の優位は消えてしまっていた。セイバー(アルトリア)以外の全員は無数の英霊達よりも地面が揺れるほどの足音を立て、征服王イスカンダルの背後で整列する数万いやそれ以上の兵士達。

 

「馬鹿げてるだろ。なんだこの数」

「真に切り札よな」

「征服王イスカンダルか、恐ろしい英霊だな慎二」

「は、反則じゃないか」

「これが、10年前の」

 

マスター達やサーヴァントは、イスカンダルの召喚した兵士達が全て英霊という事実に驚愕する。固有結界だけでなく英霊の軍勢を一人で召喚する英霊反則だ。

これが10年前に存在したのかと思えば笑えない。だがこの恐ろしい英霊は味方なのだ。

 

数十万の英霊が仲間となる以上に心強いことはない。

 

「見よ無数の英雄豪傑達よ。貴様らが相手するわ我が無双の軍勢。肉体は滅び、その魂は英霊として世界に召し上げられて、それでもなお余に忠義する伝説の勇者たち。

これがイスカンダルたる余が誇る最強宝具、王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)!」

 

だが、その軍勢も圧倒的優位とは言えない。敵は正規の英霊であり宝具が使える。王の軍勢は、数は多いが宝具をイスカンダルの霊器では所持させられず、個々の能力は控えめになる。

敵は対軍宝具を雨のように打ってくる。それを理解しているウェイバーが、10年前のギルガメッシュ戦での体験から、策を編み出していた。

 

「ライダー、正しくは違う。10年前の教訓を活かし、私はお前の召喚を次の次元に押し上げた」

「何?」

「これに時間がかかったのだが、私の弟子達は腹立たしいが優秀でな。全員を収集してある術式を編み出した」

 

ウェイバーが令呪を見せれば、そこかた魔力が溢れ出していた。ウェイバーの魔力ではない、他の魔術師の優秀な魔力。

「お前のマスターは、私だが王の軍勢のサーヴァントには、弟子達が魔力供給する。お前の霊器を押し上げ、王の軍勢は昇華された」

 

現在、時計塔やエルメロイ家などでは、大勢の魔術師に令呪が浮かび上がっていた。彼らは全員が魔力を豊富に貯めこの時を待っていた。

ウェイバー・ベルベットより優秀な彼らがだ。

 

「なるほどな。力がみなぎる訳か」

「好きなだけ魔力を使え、弟子達が支えてくれるさ。宝具は解禁され、マスターを得た無敵の英雄達。

偉大なる王の軍勢(グランドニオン・ヘタイロイ)と言うのはどうだ?」

「気に入ったぞウェイバー。では、敵もしびれを切らしたようだ。

英雄達よ。我らが勇姿を、世界に示さん」

「「「「然り、然り、然り」」」」

 

ライダーは、剣を震いながら神の雄牛二頭が引く神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)を召喚。ウェイバーと共に乗り込む。

イスカンダルが偉大なる王の軍勢を鼓舞し、ウェイバーは呆然とする士郎達を見る。

 

「外の英霊は、私が対処する。君達は、中で真の敵を倒せ」

「あぁ。助かる」

「そちらの少女は、こちらで預かるか?」

 

ウェイバー桜を見て、慎二に訪ねる。これからセレアルト攻めると考え、桜を連れていく危険は冒せない。

ライダーの宝具を考えても、連れていく選択はできない。

 

「頼むよ。ただし、絶対に安全なところに」

「わかっている。ヘタイロイの一人と固有結界の外に連れ出す」

 

慎二から桜を受け取ったウェイバーは、目配せでライダーに頼む。それに頷いたライダーが伝令役のミトリネスを呼び出し彼に預ける。

王の命令を受け、非戦闘員を外に運び出す。

 

「これ憂いは消えたな。此度のマスター達よ、英雄達よ。余達が未来を拓こう。では--蹂躙せよ‼」

「「「ウォオオオオオオオオオオオ」」」

 

大地や空を揺らす英雄達の声と共に、軍勢が蹂躙を始める。敵の英霊達も冷静に宝具による一斉射撃を行う。本来なら相性の悪い状況。

しかしウェイバーの策により王の軍勢は、宝具の使用が可能となる。

 

無数の対軍宝具や対城宝具の放火に対して、英雄達も自らの伝説を形にした宝具を使用。敵の宝具を打ち落とし、盾を展開。呪いを発動。槍を投擲など計測不能な宝具の応酬で偉大なる王の軍勢は、勢いを止めず駆け抜ける。

当然被害も出るが、宝具を宝具で打ち合い、接近戦となった段階で対人宝具を持った英雄達が英霊達と血潮を飛ばす激しい戦場を産み出す。

イスカンダルも神威の車輪の真名解放、遥かなる蹂躙制覇(ヴィア・エクスプグナティオ)による電雷を纏った走行で英霊を踏み潰し、焼きながら道を開いていく。

「ALaaaaaaaaaaiiiiiii」

「行け」

 

道を開き、英雄達と共に召喚される英霊を相手どるウェイバーが背後で駆け抜けてきた士郎達に指示する。

それに頷き11人の第五次メンバーをステンドグラスへと向かわせる。

 

彼らが螺旋階段を上った段階で敵の数がさらに増える。イスカンダルが戦車でUターンを行い激戦区から離脱。

 

かなり無理矢理な突破だが士郎達を中に送り込めた。一先ず安心かとウェイバーがほっとすれば手綱を握るイスカンダルが訪ねる。

 

「中に行かんでもよかったのか」

「正直言えば私も着いていきたい。だが私はやることがある。だから敵の英霊を減らしてくれ」

 

ウェイバーはそう言いながらカバンの中に入った魔力を吸い続ける黒い鎌を見た。

 

「あいわかった。期待に応えよう」

「切り札は、二枚あるものだからな。待っていろアルカ」

 

ウェイバーは、イスカンダルの戦車と偉大なる王の軍勢が宝具で応酬する英霊大戦争へと参戦した。

 

 




今回はオリジナル宝具ですね。

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