Fate/make.of.install   作:ドラギオン

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意外な人物

崩落した天井から下層に落下するイリヤと士郎。巨大な塔の中身はがらんどうで、床に激突するまえに、士郎が投影した鎖付きの釘剣。

慎二のライダーの持っていたそれを壁に投擲。落下の速度を鎖で押さえようとするが、二人の体重を落下する勢いが乗ったまま片腕で支える事は、士郎の左腕に僅かに痛みを発生させる。

 

アーチャーの腕だからこそ、耐えきれたが、人間の限界を越えた動きは士郎の体を蝕む。

 

落下速度が収まった所で、どうにか着地する事に成功。身体能力が上がっているからこそできた芸当だった。

 

「イリヤ、怪我はないか」

「うん。大丈夫。……でも」

「よかった。……それにしても、かなり落ちたな。他の皆も無事でいてくれると良いが」

 

自分は失敗したのだ。固有結界でセレアルトを隔離するはずが、ソレが間に合わず聖杯を手にさせてしまった。

そしてセレアルトの言っていた台詞から、あの心臓は桜の心臓だと推察できる。凛達との話し合いで、桜の心臓に聖杯が眠っていると聞いていた。

桜の相手は、実の肉親であった遠坂凛がすると言っていたため、士郎達がショートカットする最中、下層で凛と桜が死闘を繰り広げていたのは想像に易い。

 

姉妹同士が殺しあうなんてと衛宮邸で否定した士郎だったが、凛は可能な限り殺さない手段として、二つの秘策を用意した。

一つは無尽蔵の魔力に対抗するための、宝石剣ゼルレッチ。そしてもう一つは桜をセレアルトや聖杯から切り離すために士郎が投影した 破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)を手渡していた。

 

 しかし、それでも確実じゃなかった。もし救出が不可能な場合、凛は桜を殺すと言っていた。姉である自分が、妹である桜にしてあげられることはそれしかないと。衛宮士郎に桜を殺すことはできない、だからこそ凛が戦うと言ったのだ。

 

 だが結末は、最悪のものとなった。あの黒い騎士が桜を殺した可能性が高く。それどころか桜と戦っていたセイバー達の安否も気になる。

 セレアルトの元に戻らなけれならないが、凛達の安否もと考えていたとき。

 

「シロウ、伏せて!」

 

「あれは」

「衛宮君、イリヤ、ひとまずこっちに来なさい」

 

 突然、セイバー(アルトリア)の声が耳に入る。そして、その目線の先には、激しい魔力を纏いながら高速で衝突を繰り返す、二つの光が見えた。その速度と衝撃は凄まじい。その激しい戦いに視線を奪われていると、背後の岩陰から凛の声が士郎達を呼ぶ。

 そして、セイバー(アルトリア)が士郎達をぶつかりあう二つの光から守るように駆け寄り、剣を構える。セイバー(アルトリア)に誘導されるように岩陰へとたどり着くとそこには、胸から血を流し、顔色が真っ青な桜と彼女の胸の上で手をかざす凛の姿だった。

 桜は、身に何も纏っておらず、セイバー(アルトリア)のコートが掛けられているが、非常に痛々しい。

 

「遠坂、桜はどうなんだ? さっき上で黒いサーヴァントが、桜の」

「わかってるわよ。本来なら上手くいくはずだったの。けど、土壇場になってあいつが現れて、桜の心臓を抉りだしたのよ。あのサーヴァントには、手も足も出なかった……」

「……」

 

 凛の言葉に、同じくセイバーもうなずく。よく見れば彼女の鎧は所々が砕け、額からは血が流れている。セイバーすら力及ばずだったということがわかった。何より、セイバーの手に持つ聖剣を見れば、皆が驚かずにはいられないだろう。最強の聖剣であり、神造兵器であるそれは人々の想いの結晶。

 その約束された勝利の剣の切っ先と中心が、刃こぼれしていたのだ。

 

「セイバー……」

「大丈夫です。まだ戦えます」

 

 聖剣を傷つけられたことは屈辱だろう。何より黒い騎士を止められなかったことが悔しい。けれど剣は折れておらず、すぐにでも戦闘は可能だと口にする。 

 

「悪いんだけど、今は桜の治療で精一杯」

「そうだ、桜は助かるのか!?」

「わかんないわよ。宝石剣の魔力を使って治療してるけど、心臓丸々復活させられるかは五分よ」

「……私も手を貸すわ」

 

 心臓を失った桜、彼女を必死に治療する凛。それを見てイリヤも治療に加わり始める。凛やセイバーがこの場から離れられない以上、一刻も早く桜を治さなくてはならない。二人の魔術師が止血と臓器再生を担当分けして桜を癒していく。

 士郎とて、桜を見殺しはできず、彼女達の治療を見守る。上にいるセレアルトが気がかりだが、あの黒騎士が居る以上、サーヴァントなしでは二人同時に相手など不可能。悔しいがサーヴァントを何人連れても勝てるめど等立たない。だからこそ、待つしかない。

 そして、もう一つ気がかりだったのが、士郎達から離れた場所で今も激しい高速戦闘を繰り広げる二つの魔力の塊だ。

 

「セイバー、あれは何なんだ」

「あれは、その」

「何でも聞いてないでさ、ちょっとは自分で考えたらどうなんだい、衛宮」

 

 士郎の強化された動体視力でも、軌道を追うこともできない。それに対してセイバーが答える前に、凛の背後の岩陰から白髪にやせ細った姿だが、特徴的な髪と喧嘩腰な口調で話す人物、間桐慎二が現れる。

 

「慎二! お前」

 

 咄嗟に干将莫邪を投影する士郎を、セイバーが止める。クラスメイトであり、友人である慎二だが彼の行いや彼の組する陣営を知っている士郎は、セイバーが止めなければ慎二を無力化していただろう。

 

「セイバー?」

「彼は、敵ではありますが。現在は協力関係です。あの光は、眼帯のライダーと彼のライダーの宝具で応酬です」

「はやとちりすんなよ衛宮。お前が僕を殺せばお前達も死ぬんだからさ。本当に危なかったね」

 

 慎二がそうやって士郎を挑発する中、セイバーが無用な争いを避けるために、説明を加えた。

 

 

 


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