Fate/make.of.install   作:ドラギオン

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勝利

セイバー達が見た光景は、予想に範囲外だった。

 

 彼らの眼前には、綾香が背を向けて立っており、その視線の先に巨大な氷塊が存在した。綾香はその氷塊を眺めながら、手で触れている。

 

「綾香」

「え、セイバー! 元に戻ったの?」

 

 後ろからセイバーの声が聞こえ、振り返った綾香は傷だらけでランサーに肩を借りているセイバーの姿を見て驚く。そして、名残惜しいそうに氷塊から手を離し、セイバー(アルトリウス)へと歩み寄ってくる。

 彼女が離れた氷塊には、鋭い剣を前に突き出した姿のまま、凍りつけになった少女の像があった。全身が金属でできており、さっきまで動いていたかのような精巧な像。

 

「まさか、彼女を?」

「こうするしかなかったの」

 

 その像とは、アンだった。綾香は凍りつけにしたアンから視線を外し、セイバーの傷を見る。アサシンとランサーは、綾香が一人でサーヴァントを倒せるとは思っていなかったため、正直驚かずには居られなかった。

 

「嬢ちゃん一人でやったのか?」

「……うん。でも、先を急がなくちゃいけない」

 

―――――――

 

 事の真相は。

 

『!』

 

 綾香の隙をついて、背後から奇襲を仕掛けたアンだったが、彼女の体に焼けた刃を突き刺す直前に、体が急に動かなくなる。そのことに違和感を覚え、動きが鈍くなる体に目を向ける。

 すると、先ほどまで赤熱化していた体中が、蒸気を発しながら、徐々に固まり始めていた。水蒸気の正体は、アンの足元に発生していた氷だった。そして、突然発生した冷気がアンの体を包んでいき、体が動かなくなっていく。

 拘束ではなく、金属の体自体が稼働域を失い動かなくなっていく。 

 

 そして、立ち上がった綾香が背後で固まっていく体に困惑しているアンに振り返る。その表情は悲しげで、避けたい現実に向き合うような実直さが伺い知れた。

 

「アンお姉ちゃんの体は、金属だから。高温で熱して、氷で急激に温度を下げれば、動けなくなる」

『けど、私は、気配を消して』

 

 綾香は、アンの金属の体の持つ性質を利用し完全に拘束する。アンの体は、熱を急激に失い綾香の足元からまっすぐに延びる氷の魔術によって足首から凍り始める。凍った部分は一切稼働せず、無理に動かせば砕け散ってしまう。

 そして、徐々に体を覆い尽くしていく氷に抗うアンだが、体の変形ができず、自分の力で体が砕けるため一切身動きが取れない。

 しかし彼女にも理解できないことがあった、それはアンの気配遮断をどうやって看破したかだ。アンは炎に呑まれた中で、拘束する茨が燃えて、緩んだ隙をついて地面にもぐった。そして気配を少しづつ消し、死を隠蔽した。

 なのに彼女は背を向けながら、自分の攻撃を察知し、先に罠を仕掛けておいたという。それが理解できない。そんなことはアルカですらできない。彼女が後手において強敵だが、先手は必ず観察しなければいけない。

 それゆえにアルカの目を持っていても、アンの攻撃を察知できるはずがない。

 

 首まで凍りつき、どうしてかと尋ねるアン。いつもの姿ではなく、幼い容姿の彼女に綾香は手を伸ばす。そして、アンの頬に触れる。

 

「うまく説明は出来ないんだけど、最近、何が起こるのかわかるようになってきた。初めは勘違いだと思ったけど、これも私の強みだと考えるようにした、だからアンお姉ちゃんが攻撃するのを知ってた」

 

 これまでもたびたび起こっていた予知夢のような現象。それはアルカではなく、綾香自身が持つ能力。アルカの目を持ったことが原因か、龍脈と繋がったのが原因か、それは定かでないが……彼女の持つ本質が予知を引き起こし、アンの最後の策を打ち破った事実だけが残る。

 そして、ほとんど体中が氷で固まり、指ひとつ動かなくなったアンは、観念したのか、項垂れる。自分では、綾香を殺せないと理解したのだ。

 

「何か、いいのこすことは、ある?」

『綾香は、昔から勝てるときは、強気だった。……知ってたはずなのに、貴方の成長を見誤った。私の負け。アルカにも嫌われちゃった。もちろん貴方にもね。

セレアルトの策に乗ってしまった私の心が弱かった。全て私のせい、最低ね』

「ちがう、ちがう。私はアンお姉ちゃんこと、嫌いになんかなってない。お姉ちゃんは、私のお姉ちゃんなんだから……嫌いじゃない。殺されそうになった、怖かった。けど、私はお姉ちゃんが―――大好きだよ。お姉ちゃんだって、きっと」

 

 ポロポロと涙をこぼす綾香。その顔を見て、アンは先ほどまで殺そうとした相手、標的である彼女の涙を拭ってあげたくなった。その顔は、お世辞にも上品とは言い難く、泣きじゃくる子供のそれだった。彼女を泣かせたのは自分、アルカのために家族だった、妹だった彼女を殺そうとした身勝手で人でなしの自分だ。

 ののしられ、八つ裂きにされても当然の自分のために泣いてくれる。

 

「ごめんなさい、ごめんなさ……」

『これは当然の結末。……馬鹿な私でごめんね』

「くっ……でも」

『決めた、でしょ? 貴方を待ってる人達が、いる。だから』

 

だから、私を殺しなさい。アンがそう口に出したとき、綾香は掌から魔術を発動する。それによりアンの全身は氷に覆われ物言わぬ金属の像となる。

綾香の涙と共に凍りついた巨大な氷塊は、まるでアンの墓標のように聳え立ち、中で固まった彼女の表情は穏やかだった。

 

姉に止めを刺した事で、綾香は泣き崩れそうになる自分を気合いで支えた。まだ終わっていない。敵は黒い聖杯の塔、其所に居るのだ。

二人の姉とブレイカーの仇であり、全ての元凶が。

 

ーーーーーー

 

そして姉と別れを済ませた綾香は、傷付いたセイバーの傷を見て、アルカの知識から治癒魔術を取り出す。それを施すが、彼の傷の治りは遅い。

ランサーの槍によってつけられた傷は、そう簡単に快癒しない。

そしてセレアルトから解放されたセイバーは、マスター不在であり、傷が深いことから消滅が近かった。

 

「セイバー、もう一度私と契約し直して」

「君に剣を向けてしまった僕に、その権利は」

 

守ると誓い、それを破ってしまったセイバーは、消滅を望む。だが綾香はそれを許さない。

 

「そうやってまた後悔するの? 私を守るサーヴァントなんでしょ? 一度裏切ったからって、私を見捨てるの?」

「ち、違う」

「だったら契約して。もし罪の意識があるなら、力を貸して」

 

綾香は言葉を選ばなかった。そして説得ではなく強要した。セイバーに選択肢はなく、そして時間すらなかったのだ。自分が見ないうちに、随分と苛烈になったと思う反面、彼女の揺るぎない強さを見せ付けられ、自分のプライドがちっぽけに感じた。

 

「わかった。すなない綾香」

 

セイバーは、マスターである綾香の元へと戻るしかなかった。剣を捧げ、彼女をマスターと認めたらのだった。

 

そして綾香の胸に新たな令呪と共に、アルトリウスが戦力として加わり、出遅れる形でセレアルトの元へと向かった。

 

ーーーーーーーーー

 

綾香達が過ぎ去ったあと、巨大な氷の墓標の前に人影が現れる。背の高めの男性であり、手に持つ煙草の臭いを漂わせながら、彼は、氷塊に触れる。

 

「事態は深刻だな。だが、希望はある。お前も必ず助けよう。少しの間眠るといい」

 

大きなトランクを持ち、赤いマントを風に靡かせながら前へと進んだ。そのマントは偉大なる王を思わせ、男の持つ風格を後押した。

 

「待っていろ綾香、そしてアルカ」

 

男はそう口にしながら、前に進んだ綾香達を追いかける。

 

 





セイバーを奪還。これによりセイバー、ランサー、アサシンと契約した逆ハーマスター綾香誕生。原作プロトもこんな感じでしたよね。

そして、最後の奴は誰だ。ヤツだ。

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