Fate/make.of.install   作:ドラギオン

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開戦

 

 手痛い一撃を貰ったセイバー。だが、二つも宝具を見せられて、その正体を看破する事が出来た。

 

「なるほど、一度穿てばその傷を決して癒さぬと言われる呪いの槍、もっと早くに気づくべきだった」

 

 

チャームの泣き黒子に破魔の紅薔薇と必滅の黄薔薇と来れば、セイバーが間違える筈がない。セイバーの生きた時代より前の伝説にあるケルト神話の登場人物。

 

「フィオナ騎士団、随一の戦士……輝く貌のディルムッド。まさか手合わせの栄に与るとは思いませんでした」

「それがこの聖杯戦争の妙であろうな。だがな、誉れ高いのは俺のほうだ。時空を越えて英霊の座にまで招かれた者ならば、その黄金の宝剣を見違えはせぬ」

 

 しかし相手の名を知ったのは、セイバーだけにあらず。 

 

「彼の名高き騎士王と鍔ぜり会って、一矢報いるまでに至ったとは。ふふん、どうやらこの俺も捨てた物ではないらしい」

 

 セイバーの正体、アーサー王伝説のアーサー王その人。本来なら、アーサー王よりも過去の人物である彼が知る筈の無い人物だが、英霊として座に招かれた事で、時間の概念を超越した彼ら英霊には、その常識は通用しない。

 

「さて、互いの名も知れたところでようやく騎士として尋常な勝負を挑めるわけだが、それとも片腕を奪われた後では不満かな?セイバー」

「戯言を、この程度の手傷に気兼ねされたのでは、むしろ屈辱だ」

 

 左手が使えなくても、戦いには問題ない。逆に自分を此処まで追い込む相手の技量に感銘を受けてすらいた。互いに決闘をするのなら、相手が策を弄しても失態は自分にある。だが、状況が悪いことだけは、事実。

 

「覚悟しろセイバー、次こそは獲る」

「それは私に獲られなかったときの話だぞ。ランサー」

 

 しかし、その不利でもって相手を打倒すれば、その後の勝利の美酒は何物にも勝るだろう。ランサーも己の技量で騎士王を倒す栄誉を想像する。当然容易く取られてはくれない、むしろそうでなくてはならないと槍を構える。

 

 互いにジリジリと距離を詰め、勝負に出ようとした矢先。

 

「ALaaaaaaaaai」

 

 雷が周囲を襲い、空から野太い声と共に、たくましい黒い雄牛2匹に曳かれた戦車が現れる。その登場に伴った雷が、セイバーとランサーの間に墜ちて、戦闘を中断させる。

 

 

「チャリオット?」

 

アイリスフィールが上空で戦車に乗っている騎手の姿をみて口に出す。戦闘を中断した乱入者は、戦車を3人から離れた場所に停車させる。

 

 戦車を操るの筋骨隆々な巨漢で、真っ赤な髪と紅い瞳が特徴的だった。彼は、戦車を停車させるなり、両手を広げマントを靡かせながら宣言した。

「双方、武器を収めよ。王の前である」

「……らいだぁ」

 

 不敵な笑みを浮かべた見る限りの騎乗兵の英霊は、その場に合った空気をぶち壊して、のたまった。彼の影に隠れる形で、小さい青年が忌々しそうにつぶやくが誰の耳にも入らない。

 

 

「わが名は征服王イスカンダル、此度の聖杯戦争ではライダーのクラスで現界した」

 

その場に居る英霊やマスター、そして気配遮断スキルで密かに監視していたアサシン、そして感覚共有で見ていた言峰綺礼ですら、破天荒なライダーに絶句してしまう。一瞬だけだが、教会に身を隠し礼装にて連絡していた遠坂時臣に、伝達が止る。

 

「何を……考えてやがりますかこの馬鹿はぁあ!! うわ」

「……だいじょうぶ?」

「優しさが痛い……」

 

 となりに控えていたマスターらしき青年が、ライダーに突っかかるがデコピン一発で撃沈する。赤くなった額を押さえて蹲るウェイバー、彼を心配しライダーのマントに隠れていたアルカが、頭を撫でる。セイバーとアイリは、マントから出てきたアルカの姿に驚き、ランサーも子供が現れた事に少しだが動揺する。

 アルカの優しさに、余計に落ち込んだウェイバー。すでにセイバーとランサーも毒気を抜かれてしまった。

 

 

 

「うぬらとは聖杯を求めて相争う巡り合わせだが……ひとつわが軍門に降り、聖杯を余に譲る気はないか? さすれば余は貴様らを朋友として遇し、世界を制する快悦を共に分かち合う所存でおる」

 

とんでもない発言を繰り出す征服王。彼はこうして仲間を増やし世界を征服していたのだから、仕方ないとも言える。しかし、聖杯戦争を行うこの場では、明らかに相応しくない発現だった。

 

「その提案は承服しかねる。第一俺が聖杯を捧げるのは今生で誓いを交わした新たなる君主ただ一人だけ。断じて貴様ではないぞライダー」

 

 ライダーの言葉を理解したランサーが首を振り、怒気の籠った視線でライダーを貫く。その返答に同じくランサーとの戦闘を中断されたセイバーが刃を向けて続ける。

 

「そもそもそんな戯言を述べ立てるために、貴様は私とランサーの決闘を邪魔したというのか? 騎士として許しがたい侮辱だ」

 

 セイバーとランサーの戦いを見て、どうしても仲間に引き入れたいライダーは、駄目押しにと続けた。

「待遇は応相談だが?」

「「くどい!」」

 

 駄目押しは二人に両断されてしまう。ライダーもこれ以上続けると2体1で戦う羽目になると分かったのか、頭を掻きながら悔しがる。

 

 

「重ねて言うなら、私も一人の王としてブリテン国を預かる身。いかな大王とは言えど、臣下に下るわけには行かぬ」

「ほう、ブリテンの王とな? これは驚いた。名にしおう騎士王が、こんな小娘だったとはな! 実に意外だ」

「ほう、ならば、その小娘の一太刀を浴びてみるか征服王」

 

ライダーの言葉は、セイバーの矜持を傷つけたらしい。本当に斬り掛ってきてもおかしくない殺気が向けられる。英霊にまでなった武人の殺気を間接的に浴びたウェイバーは吐きそうになる。膝が笑い、立ちあがれなくなる。

 

「こりゃー交渉決裂だ。勿体無いなぁ。残念だなぁ」

 

 本心から残念がる征服王に、セイバーは更に殺気を強めて行く。もしこれがウェイバー個人に向けられれば気絶していたかもしれない。だが、ウェイバーの前に立ちふさがった小さな少女によって、セイバーの殺気は薄まる。

 

「あなたは、ライダーの協力者だったのか……」

「……ん」

 

 アルカに庇われなお恥ずかしいウェイバーと「もうちょっとなんとかならんかな」とそんなマスターに呆れるライダー。もとはと言えばライダーが悪いのだから、酷い事この上ない。

 感情が読めない少女が、セイバーと対峙した時、彼女の隣にブレイカーが実体化する。

 

「大変申し訳ないが騎士王。マスターを救って貰った上で、敵対するのは気が引けるんだが、征服王とは同盟を結んでいてね」

 

 灰色の外套と幾何学的なラインが描かれた、服に身を包んだ細身の男性。実体化した事と纏う魔力から、英霊だと周囲も理解する。突然現れた英霊に、セイバーとランサーも警戒を強める中、セイバーに対して礼をした英霊。

 

「まさか、マスターだと言うのかその幼い無垢な少女が」

「だな。それと征服王、あんた俺が居るのにどんだけ欲張るつもりだ?」

「世の全てを求めてこその、余だからな」

「喰い過ぎて腹壊す羽目になるぞ。で、どうするんだ?」

 

 チャリオットに乗ったまま、征服王と親しげに話すブレイカー。周囲の人間は、彼の正体がわからずもライダーと同盟を組んでいるという事実だけが分かった。それだけに動けない。ライダーですら実力が分からないのに、もう一体とは、相性を除いた所で不利である。それにクラスも判明していない。

 

「丁度あちらも二人でこちらも二人、それぞれ潰しあうのか?」

 

 挑発的な表情で、ランサーとセイバーを見るブレイカー。それを止めたのはライダーだった。

 

「まぁまたんか。そう急くでない」

「そうだな。確かに此処で脱落させるのは、もったいないか」

 

 平然と自分達を倒すと言った英霊に二名とも眉間にしわを寄せる。そして、2人とも脳内では同じ事を考えていた。

 

((あの馬鹿な誘いに乗った馬鹿がいたとは))と。

 

 

――ー―――離れた位置でセイバー達を見張っていた衛宮切嗣も、多少とは言え動揺している。突然現れたライダーと謎の英霊。そして、自分の娘ほどの少女がマスターであると言う事実に動揺する。そして、その動揺から目線を動かした時、鉄塔の上に黒い影を見つける。ライフルのスコープ越しにアサシンのサーヴァントだと判別できた。

 

「舞弥、鉄塔の上にアサシンが見えるか?」

『脱落したアサシンですか、見えます。私がアサシンを攻撃して、その隙に貴方が』

「いや、僕等の装備は対サーヴァント用じゃない。手出しはするな……それにしても」

『……切嗣、あのライダーの傍に居る子供ですが』

 

 無線で連絡を取る切嗣と別の位置からライルを構える舞弥。舞弥が珍しく動揺しており、切嗣がどうしたのか問いかける。

 

『ハイアット・ホテルのケーキバイキング会場で、接触していました。勝手な判断で、報告をしませんでした』

「そうか、子供を使って情報収集。中々にライダーのマスターは、人の虚を突くのが上手いようだ」

『申し訳ありません』

「いや、問題ない。むしろ、大した自衛手段を持たない子供なら、幾らでも手はある」

『……わかりました』

 

 舞弥の失態を責める事はない。自分でも子供がスパイだと判断する事は出来なかっただろう。そして、舞弥にそう言いながら、少女に照準を向ける切嗣は、僅かにだが動揺していた。

 

「今さら何を……僕は決めた筈だ」

 

 それは、衛宮切嗣として許されない動揺。すぐに、意識を魔術師殺しの冷酷な機械へと変える。同盟自体は非常に厄介、現在セイバーも停滞負傷を負っている中で、最悪の敵が現れたと言っていい。だが、その油断を衛宮切嗣は狩り取る。たとえ、イリヤと変わらない程の少女であっても、恒久和平という聖杯への願いに、必要な犠牲ならば……切り捨てる。

 

 冷酷な暗殺者は、引き金を引く機会を虎視眈々と待っていた。 

 

 

 

tobecontinued


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