Fate/make.of.install   作:ドラギオン

118 / 145
宝石剣ゼルレッチ

森の中を進む凜とセイバー。彼女達は、木々の影から現れる無数のアサシンと戦っていた。

 

凜はセイバーと一緒だったため、二人して他のメンバーと合流しようと考えていた時、凜に対する不意討ちが行われた。

寸でのところでセイバーが、投擲された短剣を弾き、二人してアサシンが潜む森を掛けていた。

 

「なんなのよ。さっきからこそこそ」

「油断しないで凜。敵はアサシン、常に我々の隙を窺っています」

 

最優の英霊、アルトリアに接近戦は挑まない。先日ランサーやセイバー(アルトリウス)によって殺された個体が多く、数を消費できないため森という優位な地形を利用。

徐々に凜やセイバーを疲労させる目的で牽制を続ける。凛はガンドでアサシンたちに攻撃を仕掛けるが、どれも木に阻まれ、不発に終わる。

 こそこそ隠れる彼らに凛は段々腹が立ってくる。

 

「凛落ち着いて、敵は我々に」

「わかってるわよ。奥の手を使えって奴でしょ。こっちが奥の手を使って、消耗したところをって。ほんと、馬鹿にしてるわよね」

 

 セイバーも自分の切り札も、威力は格別だがリスクが大きい。敵はそれを見越してか、やりにくい戦法を組んでいる。視界の端々でどくろの仮面がこちらをのぞく。此処で挑発に乗って、こっちが消耗すると考えているのだろう。

 まったく、いい性格をしていると凛は考えながら、腰に刺した3本のうち一本の剣を取りだす。見た目は、剣というよりこん棒といったほうがふさわしい、刃が宝石でできた遺物な物体。それを振りかぶる。

 

「でもね、悠長なこと言ってられないのよ。言ったでしょセイバー、前に進むしかないんだって」

 

 凛はそう言いながら、右手に持つ特別な礼装、それに意識を集中。礼装起こす事象をコントロール。かの第二魔法の使い手、宝石翁から遠坂家へと与えられた宿題。

 第二魔法を限定的に発動することが可能となる、礼装。宝石剣ゼルレッチ。本来なら自分で完成させるべき代物だったが、事態の深刻化と自分にとって重大な人物、間桐桜と戦うために未来(アーチャー)の知識を持つ士郎に投影させたそれを振るう。

 

「Es last frei、Werkzung(解放、斬撃)!」 

 

 宝石剣で第二魔法を発動、空間に平行世界に通じる小さな穴をあけ、そこから大気中のエーテルを強制的に引き出し使用する。その魔力は刀身に宿ると光の斬撃として正面にいるアサシンや邪魔な木々を蹴散らしながら、森を強制的の舗装する。

 一瞬だがまさに聖剣の一撃かと思える威力の魔力が発射され、マスターから宝具並みの攻撃が来ると思っていなかったアサシンの個体に3体を消し去る。

 

「え、凛」

「く、これ結構痛いわね。けど、全然平気。行きましょうセイバー、邪魔する奴らは蹴散らすわ」

 

 まさに止まらない特急列車のように、凛が走りだす。本来なら魔力切れで動けないだろうが、凛は平行世界から魔力を無尽蔵に徴収できる。ゆえに消耗はなく、腕が引きつるような痛みはあるが、戦闘には問題がなかった。セイバーも突然の凛の攻撃に茫然とするが、すぐに意識を取り戻して凛に並走する。

 凛が突破力を持ち、消耗していない姿を見てアサシンたちが動き始めたからだ。 

 

「殺れ」

 

 木の影に隠れるのをやめ20人近いアサシン達が、武器を構えて向かってくる。凛に再びあの攻撃をさせまいと、短剣を投擲するアサシンと、接近戦を挑むアサシン。凛は宝石魔術によるエメラルドのような盾を展開。短剣を弾く。

 

「セイバー、お願い」

「はい!」

 

 接近するアサシンにセイバーが魔力放出で急接近し、その体を切り裂く。だが、アサシンもただではやられず、二人ひと組で短剣を振ってくる。セイバーはそれを剣と籠手で弾き、片方のアサシンに蹴りを入れ、残ったほうを仮面ごと一刀両断。10年前のアサシンは、分身能力を持っていた。だが、それは一体だった個体を薄めることで可能とする分身。

 しかし、今切った感触でこのアサシンは、全てが本体なのだ。魔力量も通常のサーヴァントと同じ。実質的に英霊が大勢向かって来ている。

 

 蹴り飛ばしたアサシンが、体勢を立て直し、他に二体とともにセイバーの横を通り抜けようとする。

 

「舐めるな!」

 

 自分は凛の護りだ。それをたやすく突破されるわけにはいかない。魔力放出で加速した横凪払い、体全部を使い自身を軸に回転した一撃は、アサシンのうち右側と正面の個体を切り裂く。だが、左側の一体が、短剣で剣の軌道を上に逸らし、走り抜けようとする。

 

「ガンド!」

「があああ」

 

 だが、セイバーの剣に気を向けていたアサシンは、盾から横に飛び出した凛のガンドを顔面(仮面)に受けて、悶絶する。そこを見逃さず、セイバーがアサシンの右足を切り裂き、バランスを崩したところをで首を切り落とす。

 血しぶきが舞うが、気にしている暇はない。指に短剣を挟んだ8本同時に投擲するアサシンが、次々に連続で投擲を繰り返す。セイバーは、剣で弾いていくが、一本の短剣を弾いたところで、その後ろにもう一本剣が隠れて飛来していた。

 

(ブラインド!)

 

 未来視に近い直感で、自分の頭部に突き刺さる姿を見たセイバーは、首を限界まで逸らし回避には成功する。だが、バランスが崩れてしまい、動きが一瞬遅れる。その隙を逃すアサシンではなく、3体のアサシンが俊敏性を生かして、真横を通りすぎる。

 このままでは凛が危ないと、魔力放出で無理やり後方に飛び上がり、聖剣を真後ろにいるアサシンの胴体に突き刺す。けれど、それを見越していたのか、更に正面から来たアサシンは、セイバー狙いで短剣を振るう。別のアサシンを突き刺した剣を抜こうとするが、刀身を刺されたアサシンが握りしめ、抜けない。

 抜けないのはほんの一瞬だった。力をあまり入れずに抜こうとしたことで発生した隙。

 

(間に合わない)

 

 眼前に迫ったアサシンに抵抗までにと魔力放出で加速した蹴りを放つ。だが、直線的な蹴りは、アサシンに避けられ、刃が自分の顔面に迫る。咄嗟に籠手で短剣を受け止めるが、背後には凛を狙った2体のアサシン。どう考えても間に合わない。

 数で押されているのもある。だが戦闘向けのサーヴァントであるセイバーとアサシンの技量の差は歴然だ。なのに、アドバンテージが一体倒すごとに無くなっていく。徐々にセイバーの行動を読み、明らかにステータスも向上し始めている。それが群れを成して襲ってくる。

 

「セイバー、伏せて! Es last frei、Werkzung(解放、斬撃)!!」

 

 アサシン二体が迫っていることを察した凛は、エメラルドの盾の後ろから宝石剣を解放。再び平行世界の魔力を引き出し、光の斬撃を放つ。凛に迫った二体のアサシンは光に呑まれ、消滅。残るはセイバーとセイバーを襲う個体だが、セイバーは聖剣を突き刺したアサシンをしとめるため、風王鉄槌と発動。

 

「風王鉄槌(ストライク・エア)!!」  

 

 体に突き刺さった剣から突然のジェット噴射。ミンチのようにばらばらになるアサシン。そして、勢いよく空に飛び上がったセイバーに振り切られたアサシンは、凛の放つ光の斬撃に呑みこまれる。

 

「怪我はないセイバー?」

「はい。助かりました。ですが、敵は一体倒すごとに強くなっているようです」

「やっぱりか。楽には勝たせてくれないわね」

 

 元々反則的なアサシンだったが、ここに来て反則さが極まっている。倒せば倒すごとに戦力を増強していく個体など悪夢でしかない。何より、完全に不意打ちで放ったはずの宝石剣を残った個体は回避しているのだ。

 だが、アサシンの中で本体と思われるアンの姿がない。他のマスターを襲いに言ったのか、わからないが旗色は良くない。 

 

「けど、弱音は吐かないでよセイバー」

「問題ありません。必ずや勝利を」

 

 相手が強いなど当たり前、苦戦など日常、凛とセイバーは一度だって聖杯戦争で絶対的優位となった事がない。だからこそ、逆境には強い。結局は倒さなければ、前に進めないのなら倒すしかない。

 

 セイバーが鎧を解除してドレス姿になり、全ての魔力を魔力放出と聖剣に回す。風王結界を解除し黄金に光を放つ聖剣を構える。

 

「私は自分の身を守るから、思いっきり勝ってきて」

「行きます!」

 

 爆風とともに、凛は自分の周囲を結界で覆う。そして音速を超えたセイバーが、弾丸としてアサシンの群れに斬りかかった。残るは半数。セイバーは自分の出せるスペックを出し切り、短期決戦を決めた。凛は優秀だ。少しの間なら身を守れる。

 その信頼ゆえに騎士王は、迷いを捨てて駆けだした。アサシンの俊敏性すら上回った加速は、彼らの虚を突き抵抗しようと短剣を振るう個体の胴体を両断、ガードを決めた個体をもガードごと聖剣の切れ味の前に斬り伏せる。

 

「が」

「げぇ」

 

先ほどのように身を呈して止めようとも、解放された聖剣の切れ味の前では無意味。次々に群れごと切り開かれ、投擲を得意とするアサシンに迫る。当然相手も抵抗し投擲を繰り返すが、完全にセイバーの間合いであり、攻撃をしゃがんで回避された後に、振り上げられた刃で倒れる。

 姿勢を低く保つセイバーに、いっせいに飛び掛る。毒のあるナイフで、相手を突き刺せば、それだけで一気に優位になる。

 しかし、セイバーの剣速は最高潮に達していた。振り切り戻すまでの速度が尋常ではなく、隙と見せかけての誘い込みだった。瞬く間に胴体や首を切断されたアサシン。

 

「終ったのセイバー?」

 

 最後の一体を一刀両断したセイバーは、凛に振り返る。凛も結界を解除して、ようやく神経を使う戦いが終わったと安心した時、セイバーが聖剣を自分の足元に突き刺す。

 

「がッ!!」

「嘘!」

「おそらく彼で最後でしょう」

 

 セイバーの剣は、地面に潜み一瞬のすきを狙っていたアサシンを突き刺した。頭部を貫通した聖剣を抜き取ったセイバー。その体には血一つ付いておらず、15近いアサシンを剣技のみで圧倒した。

 最後の一体は、直感によって足元からの攻撃を予知しており、先に対処しただけだった。自身のスペックをフルに活用したセイバーは、実質強いのだ。

 

「凛、我々はかなり時間を使いました。急ぎましょう」

「そ、そうね」

 

 セイバーは凛を抱きあげて、森の中を走りだす。目指す場所は皆と同じ大聖杯なのだから。

 

ーーーーーー

 

 一方で、サーヴァントを二人連れる綾香は、仲間達の中で最も苦戦していた。場所は開けた木の少ないエリアであり、ランサーとアサシン(小次郎)と契約した彼女だったが、敵はそれ以上に強敵だった。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。