今回は短いです。
分断され、森の中で士郎がバーサーカーを打ち倒した時、ひとりきりで森に立っていたルーラーは、ある敵と対峙していた。
森の中を駆け抜けるルーラーを空中に浮かぶ、キャスターが次々に強力な魔術で爆撃する。消滅したはずのキャスターだったが、ルーラーにも理解できない復活を遂げており、明確敵意を持って空中からの爆撃を繰り返す。空一面に無数の魔法人が展開され、一発でサーヴァントすら蒸発する規模のAランク以上の攻撃を雨のように降り注がせる。
おそらくセレアルトと同じく、聖杯から魔力を引き出すことで馬鹿げた火力と持続力を経ている。これを相手するのがルーラーでなければ、その時点でゲームオーバーだろう。
対魔力(EX)を持つルーラーだからこそ。直撃するそれを逸らし、駆け抜ける。だが、次から次に地面から現れる竜牙兵と真上からの機銃掃射。地面はえぐれ、視界は劣悪。何度払いのけても湧き出る竜牙兵。魔力の攻撃でダメージがないとはいえ、竜牙兵の攻撃は有効だ。
取るに足らずとも、持久戦に持ち込まれれば、通常のサーヴァントと違いレティシアの肉体を使っている彼女は、消耗が速いのだ。
「そう、いち、ろう」
「未練を利用されましたか、く」
ぶつぶつと呟きながら、ローブを羽根のように展開して飛ぶキャスター。紫だったローブは黒く染まり、まがまがしい魔力を放ちながらルーラーを追い詰めていく。ローブに隠れた素顔だが、赤い涙が頬を伝っている。
「このままでは、皆さんの救援にも」
「……」
ジリ貧な戦況をかえようとルーラーは駈け出す。目指す場所は、森の中で一番高い木であり、そこまで竜牙兵を旗の先についた槍で蹴散らしながら、突き進む。当然、キャスターも攻撃の手は緩めない。
「英霊メディアよ。私と同じく魔女と呼ばれた貴方の気持、僅かばかりに理解できます。ですが、私は未来に生きる彼らを守る。いざ、御免」
巨大な木を足場に、飛び上がったルーラー。空中に飛び上がったルーラーは格好の的である。無数の魔法陣から、ガトリングのように魔力砲がルーラーに収束する。だが、ルーラーの対魔力は伊達ではない。一撃必殺の魔力弾を無効ではなく、逸らし続けることで、身を守る。逆にそらされ続ける魔力砲は、地上や空へと乱反射。地上にいる竜牙兵を蹂躙していく。
自分の間合いに入ったルーラー。すれ違いざまに旗で斬り伏せようとするが、仮にも英霊。キャスターは杖でそれを弾こうとする。しかし、それを呼んでいたとばかりに、ルーラーは旗を投擲。キャスターの杖で弾かれた杖を無視して、腰に下げた剣。それを掴み、両手でキャスターの体を切りつける。
「かはっ……」
「未練はあるでしょう。貴方の気持は押して測れます。少なからずあの男性と居た貴方は、魔女ではなく一人の女性でした。儚くも眩しい、そんな未来があったのではと、私も思います」
「……そう、もう宗一郎様は」
「貴方の魂に、主の救いがあらんことを」
落下するキャスターを抱え、ルーラーが地に降り立つ。魔女と呼ばれ蔑まれたキャスター、魔女と言われ処刑されたルーラー。二人の魔女は、戦い、勝ったのは炎にて処刑された魔女だった。
既に宗一郎がこの世にいないと知ったキャスターは、もしまた会えるならと、消滅を受け入れた。彼と再び巡り合えるかすかな可能性に掛けて。キャスターの消滅を見届けたルーラーは、地面に突き刺さった自分の旗を抜き取り、目指すべき大聖杯へと歩みを進めた。
ルーラーも既に戦いに敗れたものを利用し、再び戦わせるセレアルトという化生に対して怒りがあった。啓示でも彼女を自分の宝具で倒す事が全ての解決策だと訴える。
(この悲しい戦いを、一刻も早く止めなくては)
士郎達と同じく、ルーラーも変貌したアインツベルンの森の中心へと進んだのだった。