Fate/make.of.install   作:ドラギオン

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是、射殺す百頭

「投影、開始(トレース、オン)」

「■■■■」

士郎がアーチャーの腕を解放、そして魔術回路を起動すると、バーサーカーが魔力を察知して、振り返った。敵を、士郎を認識すると斧剣をがむしゃらに振り回しながら、地面を駆ける。その動きや挙動は、野性動物のように荒々しい。

ヘラクレスが士郎を全力で殺しに来る。悪夢以外のなんだと言うのだ。

 

だが士郎は恐れない。真に恐れるは、退避だ。逃げた先でイリヤが死ぬ。それは許されず、決してあってはいけない。

例え相手が神の試練を乗り越えた大英雄であっても。そして命をかけてイリヤを守った彼の誇りを汚させてはいけない。

 

「――――投影、装填(トリガー、オフ)」

 

士郎の腕に投影されたのは、石の柱。体のサイズより大きな武器。それはバーサーカーが持つ斧剣であり、本来士郎が持てるはずのない代物。

それを片腕で支え、士郎は迫り来るバーサーカーへと意識を向ける。

 

「全工程投影完了(セット)――――是、射殺す百頭(ナインライブズブレイドワークス)」

 

 迫りくる暴力の塊、それは眼前に迫って音速の斬撃をふるう。当たれば即死、かすれば即死、よけても即死。避けられない必殺の一撃、それに対して士郎にできることは一つだった。

 

 頭の中で、剣の丘が、衛宮士郎の心象世界に降り立ったアーチャーが呟く。

 

(――――ついて来れるか)

 

 その声を聞いたとき、士郎は動いていた。音速の一撃を超える神速の斬撃。士郎の目指すものは、その背中の先にある。ついていくのではない、それを追い抜く。士郎の覚悟に比例するように、バーサーカーの斬撃を一太刀で弾き、さらに8つの斬撃を人体の急所にほぼ同時に叩きこむ。

 この9つの斬撃は、士郎のものではない。本来であればバーサーカーの持つ宝具。それを士郎が模範したに過ぎない。だが、半端ものの士郎ですら、大英雄の体を切り裂き、ばらばらにするほどの剣技。ヘラクレスが扱えば、どれほどの絶技だったのかは言うまでもない。

 狂化し、それを使えなかった。それだけが士郎に勝機をもたらした。

 

「■■■■■■■!!」

「っ」

 

 だが、体を切り刻まれてもバーサーカーは倒れなかった。ズクズクになった体でありながら、咆哮をあげ士郎へと斧剣をふるう。

 既にかわせない、斧剣も振り切ってしまい、戻す頃には士郎の体は肉片となる。わずかな回避も間に合わない。

 

「シロウ!!!!」

「ーっ!」

 

 イリヤが、士郎の名を呼ぶ。その声が士郎の最後に聞く言葉にはならなかった。突然、バーサーカーの刃が止まる。自ら攻撃を止めたバーサーカー。彼は、腐っていく体、そしてつぶれてしまった目でイリヤの姿をとらえた。

 不安げに、瞳に涙を流しながら、士郎の名を呼ぶ少女を。この現世で自分が守ると誓った少女、それを泣かせているのは自分だと、狂気の中でも理解した。

 

「ハァアア!!」

 

 その隙は逃せない。士郎は、渾身の力で斧剣をバーサーカーの心臓に突き立てた。それがバーサーカーの死を決定つけた。おとなしくなり、狂気からも汚染からも解放された彼。その魂は、今度は桜の聖杯ではなくイリヤの聖杯へと流れ込む。

 そして、消滅の寸前に一かけらの理性を取り戻した彼は、か細くいたいけな少女に目を向ける。

 

「ばーさー、かー。……護ってくれてありがとう、さよう、なら」

「……」

 

 既に戦闘力のないバーサーカー、イリヤはギルガメッシュの時に言えなかった別れを口に出す。そして、バーサーカーの元に駆け寄る彼女を、彼はしゃがみ、小さな体をその腕で抱き上げた。堅い腕で、握りつぶしてしまわぬよう繊細にイリヤを抱きしめるバーサーカー。イリヤもそれに答える様に最後の別れを抱擁によって伝える。

 そして、イリヤを抱き上げながらも、士郎を見るバーサーカー。目で「お前が守り通せ」と伝える。

 

 それに対して士郎はうなずいて返答する。30秒程経った後、バーサーカーは消滅する。バーサーカーの二度目の消失、それがイリヤの心を傷つけたのは当然だ。

 

「イリヤ」

「シロウ、何も言わないで。ちゃんとお別れ出来てよかったの。いきましょう」

 

 強い決意を宿した背中。自分よりはるかに小さな背中だが、士郎はその背中に覚悟を感じて進んだ。

 

 

 


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