めっちゃ短いです。
間桐慎二は、アルカに負けたあと、ずっと家に閉じ籠っていた。
庭の木々がざわめけば怯え、ライダーに見張りに行かせる。
「くそ、くそ、皆で僕を……」
アルカの逆鱗に触れ、殺されかけた慎二。魔術師同士の戦いに敗北、そして死にかけたとき見たアルカの目が慎二に拭いきれない恐怖として刻まれた。
今までは魔術回路があれば、強いサーヴァントがいればと逃げることができた。
けれど魔術回路を持っていても、伝説の英雄を使役しても慎二は、勝てなかった。
言い訳できず、自分に魔術の才能がない事を痛感、そして今度戦えば再び死ぬ恐怖を味わうことになる。
慎二は、折れてしまったのだ。心が。
「慎二、庭に侵入者はいない」
見回りに行っていたライダーが戻ってくる。けれど慎二は、ライダーすら恐ろしく感じた。
「だったら、どっかいけよ。どうせお前だって役に立たない僕は邪魔なんだろ‼」
慎二が自虐的にそう告げる。戦意を失い、聖杯戦争を放棄した慎二。通常の英霊なら彼を見捨てるだろう。そして、彼の崇拝するセレアルトは、既に慎二を見限っていた。
慎二の夢を叶え、そして戦わせて利用し、敗北の決まった戦いをさせることで絶望した慎二。
彼を救ったかのように見えたセレアルトは、間桐邸で慎二の令呪の真相、寿命を削りきる無理矢理な魔術師化による慎二の残りの時間。そして、慎二の心を弄び、彼女は礼を言ったのだ。
そんなのは嫌だ、もう一度救ってくれと懇願する彼の願いを切り捨てて。
「たくさん笑わせてくれてありがとう慎二。うふふ、もう必要ないから、勝手に死になさい。邪魔はしない」
全てを失った慎二。唯一自分の心の安定に使っていた桜ですら自分より強く、セレアルトに必要とされていた。
結局自分のことを見てくれる人間はいなかった。
心の折れた慎二に戦う気力はなく、ただ死を待つだけ。
「ワタシは、君を主として認めた。慎二が戦いたくないなら、一緒に終わるまで付き合うさ」
「余計なお世話だ‼」
慎二は、部屋にこもったきり外に出ない。あの七色の目が、自分を見下すあの目が、と信二は自分で自分の恐怖に呑まれていく。
ふと、窓に映りこんだ自分の貌を見て、頬はこけ、目から生気は失われている。まるで亡霊だと笑いがこぼれる。これが他人なら嘲笑っただろうが、自分なのだから救いようがない。
暇になったライダーは、青銅鏡の持つ探知機能を用いて、サーヴァントの分布を再確認していた。
「セレアルトと妹さんの所に、アサシン70、セイバー(アルトリウス)、それとこれは誰だ? とてつもなく大きい魔力だ。そして、君の同級生の所には、会ったことのないセイバー、ルーラー、あのランサーとキャスターの飼い犬か」
その戦力の分布を見て、総力戦が始まると予想される。数と質でも不利と言わざるを得ない。正直、ランサーとアサシンが介入しなければ、戦争すら行えない。そしてサーヴァント達に全力で戦わせるためには、アサシンたちをどうにかしなければいけない。
(しかし、ヘラクレスは負けてしまったか。一言くらい語り合いたかったものだが)
自分の子孫が敗退したことを知っている彼は、少しだけさびしくも感じる。
願いがない、自分もまた戦う理由はない。マスターの意思には従う。英雄の誇りを失わないが、誇りにこだわりはしない。一つだけ悩むことがある。自分は果して、信二の背中を押してよいのだろうかと。
彼の望みがわからない。いや信二は目的を見つけられなくなっている。自分達の戦いはここで終わりかと、残った時間を以下に過ごすべきか、考えていた。
―――
だが、転機は訪れる。その日の夜の戦いで、ライダーすら予想しなかったことが起こった。
「ライダー、情けないだろ? けどさ、けどさ……あいつを他人が不幸にしてるのなんて、絶対にダメなんだ! 桜を不幸にしていいのは、僕だけだ。
―――いくぞライダー」
遠見の水晶で、ある戦いを見届けた信二が、突然怯えながらも立ち上がり、戦場へと足を運んだのだから。