Fate/make.of.install   作:ドラギオン

11 / 145
 お待たせしました。


剣の英霊、槍の英霊

アサシンが無数の宝具を持つ英霊に撃退された日の朝。アルカは、日課になりつつあった絵を描いていた。マッケンジー夫妻は、少し用事があると隣町まで出掛けてしまう。今日中には、帰ると言っていた夫妻だが、ウェイバーが留守番を請け負った。

 

「本当にいいのかしら?」

「ウェイバー、アルカ。一日だけだが二人で大丈夫か?」

 

 と心配する2人だったが、移住してから付き合いのあった友人が無くなり、お葬式に行く事になっていた。2人に無理をさせる訳にもいかない上に、聖杯戦争が始まった今、少しでも行動範囲を増やしたいウェイバーは、2人を見送った。

 

「さて、今日は2人は帰ってこない。だから、僕らも移動しようと思う。他にもマスターたちはアサシンの死亡を見ていた筈、アサシンが居ない今、マスター達も行動的になる筈だ」

 

 そう言ってウェイバーはリュックを背負い、街に繰り出した。当然、アルカを一人にする訳にいかず、同伴したのだが。

 

 

「……ウェイバー迷子」

(いいや、完全に迷子なのはマスターだ。もうすぐ着くから動くな)

 

 アルカは今現在、新都の街道に備え付けられたベンチに座りながら、スケッチブックに絵を描いていた。一人で。ウェイバーと最初は行動していたアルカだが、いつの間にかはぐれてしまっていた。ライダーとブレイカーも霊体化しており、なるべく距離を取っていたのが間違いだった。

 

 ウェイバーには、ライダーが同行してマスターを迎えに行くブレイカー。集合場所は冬木の鉄橋と決めていたため念話で連絡を取るブレイカー。念話ですらほとんど無口のマスターの居場所を、ラインを頼りに探す。単独行動スキルが仇になった瞬間であり、自分の不甲斐なさに膝を抱えたくなっていた。

 

 そうして、大人しく絵を描いて時間を潰していれば、遠くで騒がしい声が聞こえる。

 

「……?」

 

 女性の悲鳴に、思わず立ち上がって音の方向を見ると2人乗りの猛スピードのスクーターが歩道を爆走していた。そして、スクーターの後ろに乗る男が女性のバッグを握っており、後ろから女性が「ひったくりー」と叫んでいる。

 

「どけどけ!」

 

 乱暴な運転で歩道を走るひったくり犯。その方角には、呆然と立ちつくすアルカが居た。まだ、ブレイカーは辿り着いておらず、当然ながらスクーターは止まる気配がない。周囲の人々は少女が轢かれる姿を想像し、眼を逸らす。

 

「セイバー!」

「はい!」

 

 アルカが轢かれる瞬間、透き通るような女性の声と、凛々しい女性の返事が響く。そして、黒い影が風を切りながら、スクーター以上の速さでアルカの身体を抱きかかえ、転がる。だが、抱えられたアルカに負担はなく、スクーターが隣を通り過ぎる。

 アルカを抱えた美しい金髪を束ね、男物のスーツを着ている女性は、道路を渡り逃げたスクーターを走って追いかけた。その反応速度や、アルカの救助から追撃まで2秒と掛らなかった。

 

「アイリスフィール。彼女を頼みます」

 

 人間離れした速度でスクーターに追いついた男装の麗人は、ひったくり犯二名のスクーターを蹴りつけた。走行するスクーターを蹴りつけた麗人は、痛みすら感じておらず蹴られた側が転倒した。道路に転がり気絶した2名とフェンスに突っ込んで停止した。犯人が気絶している姿を確認した男装の女性は、打ち上げられたバッグを掴んで戻ってくる。その場に居た数名から拍手が沸き起こる。

 

 そして、アルカの傍に駆け寄ってきたのは、銀髪に紅い瞳、純白のコートを身に纏った美しい女性。彼女は、呆然と地面に尻餅をついているアルカに怪我がないか確認する。驚いているだけで、怪我はなさそうだと分かると、慈愛に満ちた笑みを浮かべる。

 

「セイバー、大丈夫?」

「えぇ。問題はありません。それよりも、お怪我はありませんでしたかレディ?」

 

 男装の麗人は、自分を見上げるアルカに手を差し出し、アルカが手を伸ばすとゆっくりと立たせてあげた。

 

「……ありがとう」

「礼など不要です。騎士として当然の事をしたまでです。お怪我がないようでよかった。

 アイリスフィール、此方の鞄をあちらのマダムに返してきます」

「えぇ、そうしてちょうだい」

 

 騎士然としたセイバーと呼ばれた超人的な女性と人間離れした美しい主は、バッグを被害者の女性に返却しに向かう。そして、アイリスフィールと呼ばれた女性がアルカに「気をつけてね」と遠くに居る誰かに重ね合わせるように言い残し、その場から去って行った。警察が駆けつけたのは全てが終わった後だった。

 

警察が来る前に、ブレイカーがアルカを回収していた。実体化しないでアルカに道を教えることでライダーと合流することができた。

 

「勝手に居なくなるなんて、何考えてんだよ!」

「……ごめんなさい」

(坊主、許してやるがいい。子供とは大人とは違う目線を持って生きておる。大人の都合は子供には理解できんからな)

(いや、危機感は持たせるべきだ。とはいえ、見失った俺が一番悪いが……)

 

妙にアルカの肩を持つライダーに対して、ブレイカーはもっと言うべきだと考えていた。顔には出さないが。

 

「……はぁ。手握っておけばはぐれない」

「……ん」

 

渋々手を差し出すウェイバーに、アルカは僅かに表情を変えて、小さな手で彼の指を握った。手を繋いで歩いてくれる事が、アルカは喜ばしく感じられた。

 

「……あの」

「どうした? 歩くの早かったか?」

 

歩幅が違うのは、知っているのでゆっくり歩いていたが、アルカには早かったかとウェイバーは考える。だが、アルカが首を振って否定する。

 

「さっき……新都でホムンクルス……あった。セイバーも」

「は?」

(ん?)

(さっきのinstallは、まさか)

 

アルカは、男装のセイバーと白いコートの女性。両方に手で触れていた。彼女の魔術は、特殊で大規模の解析と採り入れならば、魔力を使うが小規模なら魔術師も気が付かないのだ。

 

彼女の目は、特殊な魔眼で隠された魔力も見抜き、吸い込んで糧にする。情報収集と解析に特化した能力も持っていた。そして皮膚での接触で、その人物の浅い記憶や感情を読み取る魔術。

どちらも魔力消費が殆どなく、隠蔽性に富んだ魔術だった。かなり危ない賭けをしたアルカを叱るべきか、誉めるべきか。

 

「話先に聞く……解析したのか?」

「セイバー……無理だった。名前呼ばれてたから……」

「セイバーのクラススキル、抗魔力だな。マスターの方は?」

「一瞬。……楽しい、不安、色々」

 

アルカが一瞬だけ触れたアイリスフィールの情報は、感情と少しの記憶だけだった。有益とは言えない。

 

「ホムンクルスって事は、アインツベルンがセイバーのマスターか。けど、魔術師相手に解析は禁止だ。お前の身がいくらあっても足りない!」

「……」

「本当に危ないんだ。それを守れないんじゃ、僕はアルカを連れていけない」

 

アルカが迷子になり、肝が冷えたのはブレイカーだけじゃなかった。ウェイバー強がって居つつも、心配しない筈がなかった。聖杯戦争でなければ駆け出していただろう。

 

「……ん。……おい、てか、ないで」

「約束を守るなら。おいてかない」

 

ぎゅっと繋いだ手に力を入れるアルカ。充分反省の色が見えたので甘いと思いつつ許した。だが、アルカのウェイバーに対する執着が後に大変なことになるとは、思っていなかった。

 

 

ーーーーーその後、サーヴァントやマスターの痕跡を探して探索する。しかし、マスター達も馬鹿ではなく、手掛かりは見つからない。しかし、太陽が沈み夜になり、状況が変わる。

 

「坊主、サーヴァントだ」

「急に動き出したな。……けど、そんなことより此処から離れたい。なんでこんな場所何だ」

「ここより見晴らしのいい場所もあるまい」

 

 冬木の新都と深山を繋ぐ鉄橋、そのてっぺんで佇むライダーと高さにおびえ、伏せているウェイバー。見晴らしのいい場所をとライダーが選んだ場所は、ウェイバーにとっては苦しい場所だった。ライダーは、突然魔力を発して挑発するサーヴァントを感じ取り、その方角に目を向ける。

 その位置は、ちょうどライダーやウェイバーから見えるコンテナが並ぶ倉庫街だった。挑発していた英霊とそれに乗った英霊とマスターらしき女性が現れる。

 

「……セイバー、と女の人」

 

 ライダーの隣に立つブレイカーは、彼のマスターであるアルカを肩車していた。ちょとちょろ動いて危ないために肩車をして、魔眼での観察を頼んでいたのだ。

 

「しゃきっとせんか坊主。それぞれの時代に名を馳せた英雄豪傑達の戦いだ。見逃す手はあるまいて」

「お、押すなっばかぁ! ひっ」

 

 

――――

 

倉庫街では両手に長さの違う槍を持った偉く整った顔立ち、ランサーのクラスで召喚された英霊である事は間違いなかった。

 

「良くぞ来た。今日一日、この街を練り歩いて過ごしたものの、どいつもこいつも穴熊を決め込む腰抜けばかり……俺の誘いに応じた猛者はお前だけだ」

 

ランサーは、自らの誘いに乗ってきた金髪に男装をする英霊に、挑戦的な笑みを向ける。この時代に呼び出されて、初めての相手であり昂っている事を自分でも理解しているような笑みだった。

 

「……」

 

 誘いに乗った英霊セイバーと背後に構える貴婦人アイリスフィールは、彼が持っている呪符で覆われた長槍と短槍の二本が気になる。宝具の性質を隠すための処置であるのは明白だが、二本の槍を持つ彼の姿は異様だった。槍とは、元来両手で扱う得物であり、それを片手で一本づつ扱う人間など考えられない。

 

「その清澄な闘気、セイバーとお見受けしたが如何に?」

「その通り。そういうお前はランサーに相違ないな?」

「ふん、これより死合おうという相手と、尋常に名乗りを交わすこともままならぬとは……興の乗らぬ縛りがあったものだ」

 

 騎士とは栄誉を求める人種だ。敵対してなお、己の武功と相手の武功を尊重し、戦いにおいて勝利という栄誉を求める。互いに名を名乗るのは、相手に対する敬意でもあり、自分が打ち倒す存在の名を、胸に刻みつける覚悟の現れ。しかし聖杯戦争は、真名から弱点が発覚する可能性があり、迂闊に名乗る事は出来ない。 

 ランサーが槍を振る姿を見て、セイバーもスーツから、本来の騎士の鎧とドレスに着替える。

 

 お互いに通じるものがあったセイバーとランサーは、視線で相手を捉え、何時でもぶつかり合う準備はできていた。

 

「セイバー、気をつけて。私でも治療呪文ぐらいのサポートはできるけど、でも、それ以上は」

「ランサーはお任せを。ただ、相手のマスターが姿を見せないのが気懸かりです。妙な策を弄するかもしれません、注意しておいてください」

 

 風が渦巻く、刀身の見えない剣を構えたセイバーは、背後に居るアイリスフィールに注意を促す。ランサーを倒すつもりではあるが、ランサーを相手取りながら、アイリスフィールを守る事は難しい。相手から感じる武人の気配は、仕合う前から相手が兵であると騎士の勘が告げる。

 

 

「アイリスフィール、私の背中は貴女にお預けします」

「わかったわ。セイバー、この私に勝利を」

「はい、必ずや」

 

 セイバーが正統な騎士であることを知り、ランサーが喜びから笑みを浮かべる。その美貌は、世の女性を虜にする……呪いを秘めていた。

 

「魅惑(チャーム)の魔力?」

 

斬り合う寸前に、相手から魔力を感じたセイバーは、その魔力の性質を言い当てる。己の魔力を言い当てられたランサーは、紅い槍を肩に乗せ、少しだけ楽な姿勢を取る。これから殺し合う相手が、女だと言う事を忘れて、フェアではないと自ら語る。

 

「悪いが、持って生まれた呪いのようなものでな、こればっかりは如何ともしがたい。俺の出生か、もしくは女に生まれた自分を呪ってくれ」

 

女に生まれてきた者たちの天敵であり、所帯持ちや世の男性の宿敵のような呪いを持つランサー。本来であれば、その場に居るアイリスフィールなども対象に含まれるが、アイリスフィールはホムンクルスであり、その程度の呪いを防ぐのは難しい事ではない。

 

「その結構な面構えで、よもや私の剣が鈍るものと期待してはいるまいな? 槍使い」

「そうなっていたら興醒めも甚だしいが、成る程、セイバーのクラスの対魔力は伊達ではないか。……結構、この顔のせいで腰の抜けた女を斬るのでは、俺の面目に関わる。最初の一人が骨のある奴で嬉しいぞ」

「ほう、尋常な勝負を所望であったか。誇り高い英霊と相見えたのは私にとっても幸いだ」

 

 セイバーが相手の正々堂々とした気質に、武人特有の笑みを浮かべる。

 

「それでは……いざ」

 

 ランサーが右手に長槍、左手に短槍を持った鳥のような独特の構えを取り、戦闘の合図を送る。対するセイバーも全身から魔力を迸らせ、地面を蹴って距離を詰める。槍と戦うに当たって、必勝の方法は間合いを詰めるに他ならない。透明の剣を握り、今宵初めての戦闘を開始した。

 

 二本の槍と透明の刃が、ぶつかり火花が発生した。3騎士の内、二つがぶつかった瞬間だった。刃がぶつかるだけでアスファルトは捲れ、上段からの攻撃を受け止めるだけで、地面が凹む。互いの攻撃と防御を繰り返しながら、戦場にて舞う。

 

 

―――― 一方、ランサーとセイバーが戦闘を開始した時、倉庫街の影。

 

「始まっているな」

 

 そう呟いたのは、黒いのコートにボサボサの髪をした男性、手に大掛かりなスコープをつけたライフルを持つ聖杯戦争の参加者。セイバーの真のマスターであり、魔術師相手に特化した”魔術師殺し”の衛宮切嗣だった。

 その隣に以前アルカがケーキバイキングで出会った女性、久宇舞弥が同じくライフルを構えていた。

 

 彼等は戦士ではなく、暗殺者。現代で活躍する殺しのプロであり、2人は互いに役割を確認するとそれぞれ目的の位置に移動した。彼らが狙うのは正統の勝利ではなく、マスター殺しによる確実な勝利だった。

 

「では、お手並み拝見だ。可愛い騎士王さん」

 

 強化した視力の先で戦うセイバーを見て、衛宮切嗣は、暗い笑みを浮かべて呟いた。

 

 

――ー―――

 

 セイバーとランサーは、互いに持てる技術で交戦するが、何処かに隠れるランサーのマスターが宝具の使用を許可した事で、拮抗していた両者に差が生まれる。魔力を無効化する赤き槍【破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)】にて、魔力で編んだ鎧や剣を隠す宝具『風王結界(インビジブル・エア)』を無効化。なればと、鎧を捨てて、最大加速の勝負に出たのだが、もう一本の黄色い槍『必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)』によるカウンターを受けていた。

 

 必滅の黄薔薇ゲイ・ボウの能力は、ランサーの死か槍が折れるまで続く呪い。その刃に傷つけられたダメージは、決して回復する事の無い傷となる。その槍で左手を切られた事で、癒えない傷が腱を斬る形で残ってしまった。

 

「いかんな」

 

 

 その様子を見ていたライダーが、面白くなさそうに呟いた。新たな波乱が始まると、ウェイバーはこれまでのライダーとの生活で思い至った。

 

 




 ついに聖杯戦争始まりましたね。始まったばかりなのに、なんかゴールに来た気分です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。