Fate/make.of.install   作:ドラギオン

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次回は不定期です。


合流

 どうにか衛宮邸にまで逃げてこられたセイバー達。だが、落ち着く暇もなくすぐに士郎の治療がはじめられた。左腕を失った士郎に対して、アーチャーの腕を移植するという荒療治。さらに合流するはずの綾香たちも帰ってきていない。

 そして元は同じ衛宮士郎とはいえ、英霊となったアーチャーの腕を移植すれば、強すぎるアーチャーの意思が士郎を乗っ取ってしまう。そして未熟な士郎の体を完成した未来の魔術回路がつながることで、破壊してしまいかねない。

 あらゆる問題が積み重なる中で、イリヤと凛がどうにか一時的にアーチャーの力を抑えられればと思案する。

 

「凛、イリヤスフィール。その問題でしたら、私が解決します」

 

 救いを差し伸べたのはルーラーだった。彼女は両手を合わせながら、魔力で何かを編みこんでいく。

 

「ルーラー、それは?」

 

 士郎の右手を掴んでいるセイバーが、目の前で何かを創り始めたルーラーに問いかける。突然彼女が作り始めたものが、現状を打破できる代物だとは思えなかった。

 だがルーラーは確証を持って、答えた。

 

「ルーラーの英霊には、召喚される際に聖人スキルによって、4つの中から一つ選べる特権があります」

 

 一つ目は、秘蹟の効果上昇。二つ目は自動回復、3つ目はカリスマを1ランクアップ。そしてレティシア(ジャンヌ)が選んだものが4つ目の聖骸布の作成だ。

 その特殊なスキルによってこの世に生み出されたのは、赤い魔力をまとった布。それをルーラーが残ったアーチャーの腕に巻きつける。そうすれば、アーチャーの魔力や意思が抑制される。

 

「マルティーンの聖骸布です。魔力を一時的に抑える礼装とお考えください。これなら」

「えぇ。最高にグッドよ。イリヤ、やるわよ」

「わかってるわ」

 

 後はつなぎ止めるだけと、イリヤと凛が治癒を施しながら施術を行う。かなり無茶な行為だが、セイバーが隣にいることで聖剣の鞘による治癒と移植が噛みあい、士郎の手術は成功した。

  

 後は士郎が目覚めるだけとなり、既に日は昇りかけており、疲労したマスターたちは、セイバー達に見張りを頼み、仮眠を取ることになった。次の夜こそ、全てが終わるかもしれない中で休息は必須だった。

 

―――――

 

 暗い意識の底で、衛宮士郎一人が彷徨っていた。そして彼が眼を開ければ、剣の丘がそこにありアーチャーの記憶が映画のように流れていく。

 だが衛宮士郎は、その悲惨な姿や未来を知ってもなお、折れなかった。やがて、摩耗したアーチャーの記憶をのぞき見おえた士郎。

 

 再び剣の丘になり、そこに背を向けて立つアーチャーが士郎に語りかける。それは言葉ではなく脳に直接刻む込むような言葉。

 

(悪いが、貴様は今以上に限界を強いるだろう)

 

――覚悟している。

 

(そうか、安心した。もしお前たちが敗北すれば、あれは世界を相手にするだろう)

 

――あれって、沙条のことか。

 

(いいや違う。少なからずお前の知るそれではないのだろう。詳しくは私にも理解できない。だが、決して己を見失うな。

 これからお前が体験するのは、未来に得るはずだった知識や技術の強制的な憑依。寿命を削る諸刃、少しでも木気を抜けば、内面世界がお前を内側から食い破る。それをしても足元にも及ばぬ相手と戦う羽目になる。

 セレアルトだけでない、桜君とも)

 

―――構わない。皆を救わなくちゃいけない。そして……桜も救いだす。

 

(馬鹿だな貴様は。だが、世界を救うなど馬鹿なこと、やはり馬鹿にしかできん。―――私が今得た情報、お前達で活かせ)

 

 アーチャーはそう言い残して、剣の丘を進み黒い影に呑みこまれ消えていく。憎たらしく、認めたくない奴だった。だが最後にアーチャーの伝えたかった気持は理解できた。自分は託された。

 

 そして意識が体に戻る感覚。体中が軋み、息が苦しい。だけど生きている。それを感じ少し目をあけると、外が騒がしく感じる。左腕に違和感と全身に一瞬だけしびれが廃止るが、徐々に左腕から流れる熱が体になじみ始める。

 そして喧騒のする方向を見ながら、体を起こそうと力を入れる。そして、自分の左腕……昨夜切り落とされたはずのそれが、存在していた。だが赤い布にくるまれ、少し大きい。何より肌の色が違い、これはアーチャーの腕だと本能的に理解した。

 だがそれがいずれ自分の先にあるものだと思うと、違和感が薄まる。

 

 そして、ふすまを開いて外に出ると空は日が昇っており昨日を生き延びたのだと感じる。

 

「なんの、騒ぎだ……なんでさ」

 

 廊下に出て、凛の声が聞こえる玄関まで壁を伝っていけば、その光景に驚愕する。

 

「ちょっと綾香、何がどうなって、こうなるのよ!」

「昨日、あの後、色々あって」

 

 凛は綾香に激怒しており、綾香は説明をしようとするが、捲し立てられうまく説明できていない。だが凛の怒りももっともなのだ。セレアルトと桜に襲われた後、帰ってこなかった綾香が帰ってきたと思えば、セイバーを連れていなかった。

 だが、その代わりに紫の陣羽織を着た侍と青タイツの槍兵を連れているのだから、当然と言える。綾香が衛宮邸にかえった瞬間、ランサーとアサシン(小次郎)が背後におりセイバー(アルトリア)とルーラーが警戒するも、綾香が彼らは自分と契約したサーヴァントだと伝える。

 そして玄関に入ったところ、凛が見つけて雷が落ちたということだ。 

 

「嬢ちゃん、そう捲し立てんなって。俺らのマスターが事情説明できないだろ」 

 

 さすがにマスターが不憫だと思ったのかランサーが仲介に入る。問題の張本人が仲裁は逆効果だが、侍は武家屋敷を見て、なにかもの思いふけっているため彼しかない。第一、ルーラーとセイバーが戦闘態勢の前で、こちらは武装していない。

 悪さの仕様がないのだ。そしてランサーは。壁伝いに歩いてきた士郎に気がつく。

 

「衛宮君! 起きてたの?」

「あぁ。おかげさまで。とりあえず、いったん落ち着こう。とりあえずお茶を淹れてくる」

 

 場がカオスすぎて、理解が追い付かない。それに殻からの喉を潤したく、士郎は綾香の引き連れる二人をリビングに招いた。

 

 そして、リビングで落ち着いた凛に対して、綾香は昨日の顛末を話した。アンが寝返っており、その襲撃でセイバーが敵に奪われた。セイバーが消えるまでの時間を利用してマスターのいない英霊、アサシンと契約を持ちかけることで存命。

 さらに同じくマスターを無くし、フリーだったランサーとも道中で契約。本来はすぐに合流したかったが闇夜で無数のアサシンを相手する不利をランサーに指摘され、柳洞寺で朝まで身を隠していたと。

 

 綾香はその説明に、セレアルトからセイバーを奪還することを伝えた。アンはセイバーを殺すのではなく、仲間に引き入れると言っていたことから、殺されていないと仮定しての発言だ。

 一方凛と、騒ぎで起きたイリヤからは、昨日の桜の襲撃、セレアルトとの遭遇、それによる被害と士郎の腕のことなどを伝えた。

 

 それを聞いて綾香は、姉が負けたと知り、少し時間がほしいと士郎に部屋を借りて籠る。士郎は、危ないところを助けられたことに礼を言い、あの夢はアーチャーの最後のメッセージだったのだと悟る。そして自分の左腕に移植された腕を見ながら、夢で聞いた事実を伝える。

 

 セレアルトは、真祖や精霊などが用いる空想具現化を用いる怪物であり、固有結界による隔離が有効だったと伝える。ただ固有結界の使えるアーチャーが消滅した以上、可能性があるのは未熟とはいえ士郎のみ。

 話を聞いていた凛とイリヤは、夕方までに作戦を考えると、衛宮邸にある魔術工房へと籠っていった。

 

 セイバーは、士郎の傍でまだ腕が馴染まない彼をサポート、ルーラーは宿主であるレティシアを休めなくてはならないと休息を取る。

 

 話を横で聞いていたアサシン(小次郎)とランサーは、現代のマスター達に策を任せ、綾香を下手に慰めることをせず時間があるため衛宮家の道場でアサシンは借りた胴着と木刀で、ランサーはシャツとジャージで薙刀を使って手合わせしていた。

 誘ったのは、小次郎であった。命を取りあうわけにはいかないが、武人である自分達にできることなど、鍛練くらいのものであろうと誘ったのだ。

 

 そして士郎に同情を借りることで、音を置き去りにする激しい高速戦闘を繰り広げていた。互いに得物ではないが、人間離れした戦闘を行う。互いに相手の攻撃を見切り、フェイントを織り交ぜながら肉薄する。

 

「それでよ、お前はどう思う?」

「何のことだランサー」 

「あの嬢ちゃんだ。マスターのことだ。あいつ、姉が生きてると思って踏ん張ってたんだろ?」

「綾香嬢のことか。確かに、不憫には感じよう」 

 

 ランサーが大ぶりで薙刀をふるうが、アサシンはしゃがみ逆に切り上げる。だが柄で攻撃を受け止めたランサーが、薙刀で連続に突きを繰り出す。ランサーが速さと荒々しさのある攻撃なら、小次郎は笹の葉のように鋭く、しなやかな攻めだろう。

 二人は、互いに一切手を緩めることなく戦いの中で会話する。

 

「だが、我らはサーヴァント。戦い守ることはあれ、主に戦を強要するのは間違いよ」

「てめぇ、戦いたかったんじゃなかったのか」

「綾香嬢が下りるというなら、別の主を探せばよい。拙者も其方も縛られてはおらんのだ。今出来る事は、刃を研いで備えるだけ」

 

 アサシンの方針は単純だ。自分という刀を求めるのなら戦い、求めのなら離れる。冷たいかもしれないが、そもそも昨日契約したばかり。下手に他人が彼女に声をかけていい問題ではない。戦う戦わないは綾香の決めること。

 気に入らないのなら、他のマスターを求める。それだけ。とはいえ、戦うのなら見捨てるつもりは皆無。それこそ主として自分の武技全てを貸し与える所存ではあった。

 

(とはいえ、あれほど啖呵を切る胆力のある娘、悩みもしよう、苦しみもしよう。だが野花とは、そうやって強くそして可憐に咲くものよ)

 

 そのあたりが、主に対する価値観の違いなのだろう。だが小次郎は、ある意味綾香を信頼していた。

 

 そして一時間近く、演武を舞っていた二人は、道場への侵入者が来るまで力を押さえながらも戦い続けていた。

道場に来たのは、目元を真っ赤にした綾香だった。一旦鍛練を止め、彼女を迎える。

 

「マスターの嬢ちゃん、目元が真っ赤だぜ」

「……ランサーさん、小次郎さん。私はマスターとして戦う。家族は、みんな……聖杯戦争で死んで。新しい家族も、皆が居なくなった。

私は聖杯戦争そのものを終わらせる。二度とこんな悲しい戦いをしないため。

逃げないから。逃げろって言われても逃げないから……絶対勝とう」

 

綾香の決意。頼る相手はいなくなり、自分で決めるしかない彼女。どれだけ悩んだのか。衞宮士郎以上に聖杯戦争に縛られた人生。これだけの災悪に見舞われていれば、聖杯戦争を、冬木の街を恨んで当然。

けれど綾香は、冬木の街を愛している。人を生活を。故郷であり、思い出の詰まった場所だから。

 

それを脅かすセレアルトは、許せない。姉との約束の意味、姉は自分が失敗したとき、未来を綾香に託したのだ。

セイバーも命を掛けて託してくれた。だから生きて勝つのだ。

 

「勝ちに行く…か。戦う気がないよりは、百倍マシだな」

「方針は決まった。ただの杞憂だったようだぞランサー。それとも貴様の臆病風か?」

 

アサシンのちゃかしのランサーは、「ほざけ!」と槍を振るい再び木刀と薙刀の打ち合いが始まる。

 

二人が戦い始めたことで綾香が道場をでる。

 

「衛宮くんがもうすぐ御飯を作ってくれるって言ってたわ。程ほどにね」

 

綾香の言葉に男どもは、頷いて返し互いに相手にぶつかり合う。

 

 

 





次は間桐さん視点か……アルカ視点か悩みますね。

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