愛歌と呼ぶ声が行動にこだまする。その声に答え愛歌が凜に手を降りながら笑い掛ける。
「ヒッ」
笑って微笑みかけられた。それだけなのに凜の体は愛歌の眼を見ただけで鳥肌が立ち、心が折れそうになる。
「どうしたの？ 呼ばれたから答えたんだけど～……もしかして私が怖い？ うふふ、大丈夫よ凜。
もうすぐ恐怖すら感じなくなるから」
「あ、あんた何者よ。なんで愛歌の姿をしてる訳? それに偽物でも、少しは本物に似せる努力くらい」
姿形は一緒だ。元々目立つほど整った容姿だったアルカが認識阻害で見た目を目立たなくしていたが、それが解除されたことで本来の美しさを取り戻している。
だがそれ以上に表情や話し方が違いすぎる。偽物でも、もう少し似せるべきだと言った凜に愛歌は、無表情のまま、凜の自分を指差したその指をへし折った。
「ぐ、っつあああ」
愛歌は触れていない。ただ見たものを曲げる魔眼を用いて凜の人指し指を曲げただけ。指を折られた凜が激痛に呻きアーチャーが前に出て剣を投擲する。
しかしアーチャーの投げた剣は、愛歌の眼前で謎の結界に阻まれ崩れ去り砂へと変わる。
明らかに異質の力。それを幾つも振るう愛歌。彼女は無表情から一転して陽気に笑う。
「元々あなた達の知る沙条愛歌、アルカこそが偽物よ凜。あんなの存在しないのよ。意味のない寄生虫、それがあれよ」
「こん、のぉ。アイツが偽物？ だったら金ぴかを相手してるアイツはどうしたのよ」
折れた指を自分で戻し、アーチャーの背後で凜が問う。それに偽物はキョトンとしたあと、答えた。
「ギルガメッシュもブレイカーも、そしてアルカ……私にとって邪魔な奴らは全員、死んだわよ。ただ、アルカは違うわね。この体は元々私の物だもの、私が生きているから死んではいないわ」
自分の胸や髪を艶かしく触りながら黒いドレスを着た愛歌は、告げる。絶望の知らせを。そして凛達と話が合わない事で、少しだけ考え込んだ彼女は、ポンっと両手で音を立て、「いっけない」と何かを思い出す。
「名乗っておくわ凜。私はセレアルト・マナリストン・ティターニア。仲良くしてね。
うふふふ、あらやだ。そうだったわ、今から殺すんだった。……生まれ変わったら仲良くしてね」
愛歌はセレアルトと名乗った。そしてアーチャーの背後に隠れる凜を殺そうとした。彼女の背後でガラスの破片などが浮き上がり、それらが瞬時に高純度のダイヤモンドへと変わる。
それらは純度の高い魔力を秘めており、宝石魔術を宝石の無い状況で使うつもりだと凜が察する。その無茶苦茶さに聖杯の器であるイリヤですら驚愕する。
「次は何に生まれたい？ 希望を叶えてあげる。何でもいいのよ、むしろ何度でも殺して生まれ変わらせてあげる」
あいつじゃないけど貴方には好印象よっとセレアルトが告げる。そして全ての宝石を魔弾へと変えようとした時、アーチャーが前に出る。
「正義の味方さん、貴方が私を止められると思っているの？」
「さしずめ君は悪なのだろ？ なら為すべき事を成そう――悪いが付き合って貰うぞ。I am the bone of my sword.」
「まぁデートのお誘いかしら。６年生きてきて、初めてよ」
セレアルトと退治するアーチャー。既に凜に貰った宝石は飲み込むことで魔力とした。だが固有結界を使えば結局は消滅する。
だが凜達を逃がすため、当然の行動だった。自分は正義の味方なのだから。目の前に救える命がある、救いたい命がある。
「桜、先輩が連れ去られてしまいそうよ」
「先輩……」
詠唱をしながら、セレアルトの放つ宝石魔術を片腕で切り払う。それを見てセレアルトが桜を動かし、桜の使い魔達もアーチャーを襲い始める。
「アー……士郎!」
「unlimited blade works。後は頼んだ……遠阪」
詠唱を終え、アーチャーが固有結界にセレアルトと桜、そして影の使い魔を取り込み消える。最後のアーチャーの表情は、士郎のものだった。
そして、その場から消えたアーチャー。彼の意思を無駄にしないため、凜は全員と脱出した。冬木中央公園は、外で戦った綾香とセイバー(アルトリウス)と影のせいで荒れており、綾香の姿もなかった。
綾香を探る時間もなく、凜達は負傷した士郎と残ったアーチャーの腕を持って、逃げた。