Fate/make.of.install   作:ドラギオン

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 やっとオリジナルも入れる事が出来た。


潰えていく希望

「凛!」

「え」

 

 ボロボロの身体、それでも士郎に肩を貸しているセイバーでは間に合わず、アーチャーが体に鞭をうって凛を突き飛ばす。だが、その影の触手のようなものは、身代わりとなったアーチャーの左腕を切り飛ばす。切断された腕は、地面へと転がる。その一瞬の出来事に一同は固まる。

 

「ぐ」

「アーチャーーー!」

 

 傷口から出血するアーチャーを見て凛が駆け寄ろうとするが残った手でそれを制す。セイバーも影の出所を見て警戒していた。士郎と凛、そしてサーヴァント達の前に現れたのは、不思議な物体だった。風船のような奇妙な黒い物体から、無数の触手をはやした怪物。

 サーヴァントを見て来たマスター達ですら、不気味の感じる存在。表情など無いが故に、虫を見るような言い知れに不安がよぎる。

 

「よくもアーチャーを!」

 

 一番最初に動いたのは、凛であり彼女はガンドで影に攻撃を仕掛ける。だが、彼女のガンドは影に命中すると瞬時に呑み込まれて消化されてしまった。あまりの消化の速さに、凛がガトリングのように撃つガンドも意味を成さない。

 

「ぐっ、逃げろ凛」

ささった触手を抜かれ、大量の血液が床を濡らす。だが意地だけで持ちこたえたアーチャーが怒りでガンドを撃つ凛を止める。それでは凛が消耗するだけで、意味がない。だが、突然この場に現れた怪物をどうにかしない手は無い。

 見るからに自分達を狙い、少しづつ迫ってくる怪物。士郎を凛に預けたセイバーが、聖剣を構えるも、未来視に迫る直感がこれには勝てないと知らせる。

 

「セイバー、君も触れるな。あれは真っ当な英霊であればある程、喰われればひとたまりもないぞ」

「わかっています。ですが、マスター達を護らなければ」

 

「危ないセイバー」

 

「我が旗よ、我が同胞を守りたまえ! 我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)!」

「シロウ!」

 

 セイバーがアーチャーに答えた瞬間。影の怪物から触手が伸ばされる。それに反撃しようとしたセーバー達の前に、窓を突き破って旗の宝具を発動したルーラーが現れる。そして、彼女に続いてイリヤも現れる。

 

 10本もの触手が、ルーラーの宝具により聖なる守りに遮られる。それを見て何度か攻撃を繰り返す怪物だが、ルーラーの護りと対消滅を起こして、触手が短くなる。攻撃を防いだ彼女は、士郎やアーチャーの傷を見て、アーチャーの腕がない事に気が付く。

 

「遅かった……」

「レティシア、なにがあったんだ」

「詳しくは説明できません。ですが、凛さんが入った後、突然講堂の入り口前にアレが現れました。それも一体ではありません」

 

 ルーラーは、動きの鈍くなった影を警戒しながら、凛が講堂に入った直後、自分達にもあの怪物が襲いかかったと告げる。啓示のスキルが、戦わずして逃げる事を知らせたため、士郎達を救出に来た。綾香とセイバーは、外で影と戦闘、時間を稼ぎ次第、撤退する手筈だと伝え得る。

 とはいえ、セイバー(アルトリア)と同じくセイバー(アルトリウス)でも影との相性は悪いだろう。求められるのは迅速な撤退だった。 

 

「何が起こってるかわからないけど、行くわよアーチャー、士郎、セイバー」 

「わかった。行こう」

「承知しました」

 

 目の前に怪物が居り、その怪物を綾香達が引きつけていると言っても勝ち目がない。魔術が吸収され、サーヴァントですら喰われるのなら、戦いにならない。その言葉に士郎やセイバーも同意して、ルーラーの入ってきた割れた窓から脱出しようとする。

 

 

「何処に行っちゃうんですか……先輩」

 

 逃げようとした士郎の耳に入った声。その声に脚を止め振り返る士郎。この場所に彼女が居る筈がない、でも聞き間違えるはずは無い。それは凛も同じで、2人そろって振り返る。振り返った方角には、影の怪物が居るだけだったが怪物が突如形を変え、縦に割れる。そして、割れた怪物の中に居たのは、白髪と黒い帯のような物を身に纏った間桐桜が居た。靴も履かず裸足で立ち、士郎の事を美しさと狂気の入り混じった笑みで見つめる。

 

「やっと、先輩を迎えに来れました」 

「さくら! どうして桜が此処に」

 

 流石に想定していなかった事態に士郎も驚愕する。だが、凛はこの影と今の桜を見て、同じ魔力で構成されている事を知る。そして間桐慎二がマスターなので、桜は魔術師として育てられていなかったと思いこみ、桜が衛宮家へと訪れなくなったのは、聖杯戦争がはじまり敵陣営に身内を預けないためだと考察していた。

 だが、実際桜は魔術を使っている。得体の知れないサーヴァントすら倒してしまう魔術に、一目見た瞬間から勝てないと感じる無尽蔵な魔力量。何よりその眼が、桜の中の負の部分をさらけ出していた。

 

 他の人間が大勢いる中、士郎だけしか目に入っていない。気に留めていないのではなく、見えていない。

 

「何を言ってるんだ桜」

「衛宮君、今の桜はいつもの桜じゃない、近づいては危険よ」

 

 凛が桜に駆け寄ろうとするのを引きとめる。其処でようやく桜が凛の姿を目に入れる。

 

「遠坂先輩……姉さん、やっぱり邪魔をするんですね」

「さくら、あなた」 

「姉さん達のせいで……先輩が死んじゃうんです。何度も何度も、姉さん達を護って……でも」

 

 凛を見るなり、周囲の人間達も見ながらつぶやき始める桜。明確な怒りが含まれており、縦に裂けた後二つに分裂した影の怪物が彼女の内面を現わすように、暴れはじめる。

 

「先輩は、だれにも渡しません。先輩は私のもので、私だけが理解できるんです。だから」

「避けろ凛、ぐあ」

 

 突然そう宣言する桜。右手を振るうと影の怪物が、統率のとれた動きでマスター達を攻撃し始める。セイバー(アルトリア)とルーラーが立ち塞がるも、弾かれる。地面を滑る形で後ずさった2人。しかし、その隙に桜自身から帯のような影が2本高速で伸ばされ、凛を狙う。アーチャーが莫邪を投影して片腕で振るうが、力負けして、もう一本の触手を防げない。

 どんっと凛の体を衝撃が襲い、床に倒れ込む凛。 

 

「痛」 

 

 確かに痛みは感じる。けれど、思ったような痛みではない。そして眼を開けた時前に居たのは、彼女を突き飛ばした士郎だった。だが、士郎は無事ではなかった。多くの血が凛の頬や服に掛る。総じてその血は、士郎の傷の深さに比例していた。

 

「えみや、く、……士郎!!」

「よかった、ぶじ、で」

「シロウ! シロウ―ーー!」

 

 凛を突き飛ばしたのは士郎だった。アーチャーと徒の戦いで傷付いた身体に鞭を撃ち、彼女を守った。だが、凛を八つ裂きにする筈だった攻撃は、士郎の背中と左腕を切り飛ばし、彼の背中を切りつけた。それにより士郎は気を失って倒れ込む。それを受け止めた凛が傷の深さに驚き、イリヤも駆け寄って士郎の名前を呼ぶ。けれど士郎は目覚めない。

 そして、切られた士郎の左腕を見て、当事者である桜が取り乱す。 

 

「先輩、どうして。どうして、先輩が……いえ、違います。私は先輩を助けたかった……」

 

 打ちあげられた士郎の左腕は、桜の傍まで飛び取り乱した桜がそれを拾って、頭を抑える。そして影達はコントロールを失った様に、周囲の壁や天井を我武者羅に攻撃を始める。

 

「見境なしか、セイバー、ルーラー。マスター達を逃がせ」

「くっ、わかりました」

「逃がせ? まさかアーチャー、貴方」

 

 ルーラーがアーチャーの指示に従い、一早く士郎の傷を治療するイリヤと凛を連れて行こうとする。だがセイバーは、アーチャーが一緒に逃げるつもりがない事を知る。

 

「元より、私は消えるつもりだった。気にするなセイバー……アレが目標を見失う今がチャンスだ」

「……アーチャー」

 

 心配するセイバーにアーチャーは、言葉を続ける。

 

「君が衛宮士郎を運べ、密着していればそのぶん回復が早まる。だが、腕は諦めろ……いや」

 

 士郎の中の鞘を知っているアーチャーだが、いくら聖杯の鞘でも斬り落とされた腕が生える事は無いだろう。だから諦めろと宣言しそうになったが、丁度自分の腕が足元にある事に気が付いた。元より同じ衛宮士郎。そのまま使用は出来ぬが、無いよりはましだろう。何より士郎の腕は、桜が持っているのだから取り戻せない。

 

「凛、此処を離れたらこの腕をそいつに移植しろ」

「ちょ、これ。アーチャーあんた」

「私は残る。君達だけで逃げろ」

「そ、そんなの認められる訳が」

「凛、知っての通り頼りない奴だが『私』を頼む。君が支えてやってくれ」

 

 アーチャーは、凛にそう言うと剣を投影し、荒れ狂う桜に対峙する。勝てる可能性は無い。たとえ勝てたとしても衛宮士郎であったアーチャーに、後輩だったあの少女を害する事は出来ない。時間を稼ぐとはいったが、既に投影も限界が来ている。今持つ剣も宝具ではなく鉄の剣。

 その無理を悟らせる訳にはいかない。せいぜい強がるしかないアーチャー。彼の背中には、士郎を背負うセイバー、涙を流しながら士郎の名を呼ぶイリヤと彼女を進ませるルーラー。

 

 桜を止める策を考えた時、背後から飛来する何かを感じ、剣を地面に刺して受け止める。受け止めたそれを見て

笑うアーチャー。投げたのは凛だった。

 

「……元々あんたにぶつけるつもりだった魔力がたっぷり溜まった宝石よ。好きに使いなさい」

「あぁ、そうだな」

 

 アーチャーの手には、凛のとっておきの宝石3つがあった。込められた魔力は多く、それを全て預けた。素直でなくとも、その心使いに感謝しつつ、脱出しようとする凛達を護ろうと一つ目の宝石を飲みこみ、魔力が体内に満ちる。

 

 そして、凛達が脱出しようとした時、パチパチと拍手の音が講堂に響く。その音源は、突然その場に現れた。サーヴァントや魔術師である彼等をして全く関知できない転移による移動。それによって現れた魔力は周囲の空間を包むほど濃密で、吐き気のする程邪気を纏ったものだった。

 その魔力の発生源は、桜の真横に現れる。だがアーチャー達には、暴れる影で姿が見えない。しかし、魔力を喰う化け物の真横に、化け物のような魔力の塊。暴走しているとはいえ、魔力に寄って行く性質のある影の怪物。触手ではなく巨大な腕がそれを襲う。

 

「うふふ、邪魔しないで」

 

 指がぱちんとはじかれる。その音で突然現れた何かを何かを襲う影の怪物が破裂する。完全なる消失によって脅威を取り除いた存在を見て、セイバー、ルーラー、イリヤ、凛が驚愕した。影が消えた事で姿を現したのは、全員の知る人物だった。

 

 七色の瞳を持ち、腰まで伸ばした金髪。細身ながら女性らしい体系で芸術に近い顔の造形をした女性。実質聖杯戦争で全員が辛酸をなめさせられた相手。彼女は、ケラケラ笑いながら拍手を止め、士郎の腕を持って泣いている桜の頬に優しく触れる。

 

「もう、桜はあわてん坊なんだから。でも欲しがってた先輩の一部は手に入ったのね。おめでとう。後は胴体と残った手足、そして頭かしら。うふふ」

 

 桜を宥めるように、とんでもない発言をした人物。桜以上にその場に現れる事が予想外だった彼女。それは凛達を見ながら、こう言った。

 

「希望なんて、何処にもないわよ。みんな」

「愛歌!!」

 

 全員の言葉を凛が請け負ってそう言った。彼女達の前に現れたのは、英雄王と戦うため白に残り、今は謎の黒いドレスを着た姿の沙条愛歌だったのだから。彼女は首を掲げながら、にやりと微笑む。




 

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