Fate/make.of.install   作:ドラギオン

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 UBWのこのシーン、本当に濃い。


無限の剣製4

 

 何度も何度も、アーチャーと衛宮士郎は投影した剣をぶつけあった。相手が過去であり未来である、己自身との戦い。実力差はハッキリしている。未来の自分、それも英霊にまでなった己と未熟な自分が戦ってどちらが勝つか、そんなのは日を見るより明らかだ

 

 明らかに技術、投影の精度、筋力や耐久力、何一つ士郎がアーチャーに勝るものは無く、何度も吹き飛ばされ、床に転がる士郎。10数回の撃ち合いで上着がボロボロになり、脱ぎ捨てる。

 

「ハァー!」

「ふん、話にならん」

「うぁわあ、く」

 

 アーチャーと打ち合った剣は、同じ剣の筈なのに一方的に砕け、何度も投影しながら戦う。しかし、アーチャーの剣に士郎の剣は力負けし、何度も地面に転がされる。しかし、唯一アーチャーに並ぶものは、自分には負けられない意地と信念だけが、士郎を立ち上がらせる。

 だが立ち上がるたびに剣を折られ。蹴り飛ばされる。

 

「お前と俺の投影が同等とでも思ったか? イメージ通りの外見や材質を保とうが、構造に理がなければ話にならん」

「うラァ!」

 

 砕かれた剣を捨て、さらに跳び出す士郎。横に振るわれた剣を、何なくアーチャーが剣で受け止める。そして、2人の剣の刃が触れ合った部分から、士郎へとアーチャーの記憶が流れ込む。その頭に流れた光景に気を取られた時、アーチャーが攻勢に出る。

 人間の士郎と魔力切れが起こっているアーチャー。攻勢に出たアーチャーの攻撃を如何にか左右の剣で防ぐも、剣を伝って流れるイメージが士郎の心に響く。だが、それは絶望のイメージだけでなく、剣を扱うアーチャーの経験すらも士郎に伝えた。

 

 アーチャーが十字に切る技を使えば、瞬時に士郎が同じ技を返す。

 

「なるほど、しぶといわけだ。前世の自分を降霊、憑依させることで、かつての技術を修得する魔術があると聞く。どうやら俺と打ち合うたびにお前の技術は鍛えられているようだな」

 

 徐々に士郎の抵抗が、洗練され始めた事にアーチャーはそう推察する。それは間違いでなく、剣に宿った使用者の記憶までコピーする士郎の投影魔術。その恩賜は確実に士郎とアーチャーの経験の差を、埋め始めている。

 

「そもそも人真似はお互い様だろ。余裕ぶってろ、すぐお前に追いついてやる!」

「俺に追いつく? ……やはりお前は何一つ理解してない」

 

 そう言った直後、英霊であるアーチャーの加速した剣が士郎を襲う。干将莫邪で真っすぐに攻め立てるアーチャーの攻撃を受け止める士郎。しかし、膂力の差から、膝を突かされる羽目になる。そして脳内に流れるのは、アーチャーの記憶。自分の歩んだ先にある絶望の姿。

 

 剣の丘に一人立ち、終わる事の無い人類の後始末を背負い、摩耗し、理想に裏切られた背中。朽ちる事も出来ず、消えることすらかなわない。この道を自分が歩く事になると考えれば、心が挫けそうになる。

 

「もう一度、お前の行き着く先を見せてやる」

 

 士郎の使う干将莫邪を、見事に粉砕したアーチャーは、固有結界の詠唱を始める。

 

「I am the bone of my sword. Unknown to Death.Nor known to Life.――unlimited blade works」

 

 ”体は剣で出来ている”。英霊となった士郎に与えられた呪文。その末路の光景を、再び固有結界と言う形でアーチャーが使用した。魔力は限界の筈、英霊となり固有結界に持ちいる魔力は軽減されると言っても、現界に支障をきたす程消耗したアーチャーが使うのは自殺に近い。

 しかし、アーチャーの目的は自殺だ。それ故に自分の消滅は、最初から目的なのだ。衛宮士郎を殺せれば、それでいい。

 

 再び世界が塗り替わり、灰色の空と剣が突き刺さった荒野。そして空で回る巨大な歯車。英霊エミヤの歩んだ末に得た世界。正義の味方を実現した未来が其処にはあった。

 その世界を見せつけられてもなお、衛宮士郎は闘う。何度おられても剣を持ち、それを振るう。だが英霊エミヤには届かない。振るうたびに剣を折られ、心を折られそうになる。

 

 やがて息が整わず、剣の丘に刃こぼれした莫邪を突き立て、両膝をついてしまう。汗と傷口からの血が荒野を濡らす。

 

「叶わないと分かっていてなお、挑んでくる愚かさ。生涯下らぬ理想に囚われ、自らの意図を持てなかったまがい物。それが自身の正体だと理解したか!

 

 ただ、救いたいから救うなど――感情として間違っている。人間として故障したお前は、初めから偽物だった。そんな存在に価値は無い!

 俺がお前の理想であり、決して叶わぬと理解した筈だが?」

「あぁああ!」

 

 アーチャーの言葉は真実。それが衛宮士郎の歩んできた道なのだろう。だけど、認められない。その感情を乗せ士郎はボロボロの剣を振るう。

 

「……なるほど、俺がお前の理想である限り、衛宮士郎は誰よりも俺を否定しなくてはならない、か」

 

 正義の味方を求め、それがアーチャーに辿り着くと言う未来。理想に裏切られると確定した救いの無い世界を、衛宮士郎は認められない。士郎の疲れから来る情けない斬撃を軽く避けながら、アーチャーは問いかける。

 

「では、聞くがな。お前は本当に正義の味方になりたいのか?」

「何を今さら――俺はなりたいんじゃなくて絶対になるんだよっ!」 

「そうだ……絶対にならなければならない。なぜならそれは衛宮士郎にとって唯一の感情だからだ」

 

 衛宮士郎であるアーチャーはその言葉の意味を知っている。士郎が何故今戦うのかも。

 

「たとえそれが自身の内から表れたものでないとしても。俺には、もうかつての記憶はない。だがそれでもあの光景だけは覚えている」

 

 アーチャーは、冬木の大災害を思い出す。炎と煙に包まれ、平和だった日常が全て灰となって消える地獄。

 

「衛宮切嗣という男の俺を助け出した時の安堵の顔を――それがお前の源泉だ。助けられたことへの感謝など後から生じたものに過ぎない」

 

 ただ火災の中で生きる事だけを考え、周りの全てを助ける事は出来なかった。それでも自分は死んでしまうと思った時、彼は現れた。衛宮切嗣、彼の自分の手を取った時の顔は、忘れられない。

 

「お前はただ衛宮切嗣に憧れた。あの男の、お前を助けた顔があまりにも幸せそうだったから自分もそうなりたいと思っただけ。子が親に憧れるのは当然だ。だが最後に奴はお前に呪いを残した」

 

 衛宮士郎が、正義の味方を目指す理由。それは衛宮切嗣が死ぬ最後の夜のことだ。彼が叶えられなかった”正義の味方”を自分が叶えると宣言し、それが目的となったことが、全てだった。

 

「お前はあの時、正義の味方にならなくてはいけなくなった。お前の理想はただの借り物だ。衛宮切嗣という男が取りこぼした理想、衛宮切嗣が正しいと信じたものを真似ているにすぎない。

「それは」

「正義の味方だと? 笑わせるな。誰かの為になるとそう繰り返し続けたお前の想いは決して自ら生み出したものではない。そんな男が他人の助けになるなどと―――思い上がりも甚だしい!」

 

 先程まで攻撃を剣で払っていたアーチャーが、右手の剣を士郎の腹部に突き刺した。人間であれば致命傷のそれを受けた士郎は、激痛に呻きながら倒れる。それを見逃さず、倒れる前にアーチャーの蹴りが士郎を5m程吹っ飛ばす。

 口から血を吐き、痛みに顔を歪める士郎。だが、立ち上がり剣を取る士郎にアーチャーは畳掛ける。

 

「……誰かを助けたいという願いが綺麗だったから憧れた! 故に、自身からこぼれ落ちた気持ちなど無い! これを偽善と言わず何と言う! この身は誰かの為にならなければと脅迫観念に突き動かされてきた――傲慢にも走り続けた、だがそんなものは偽物だ。 

 初めから救う術を知らず、救う者を持たず。醜悪な正義の体現者がお前の成れの果てと知れ!」

 

 両手の剣を砕かれ、武器をすぐに投影出来ない士郎にアーチャーは剣を上から振り下ろした。ガードすらできない一閃が、士郎の肩から胸を切り裂く。

 

「がは」

「その理想は破綻している。自身より他人が大切だという考え、誰もが幸福であって欲しい願いなど、空想のお伽話だ。そんな夢でしか生きられないのであれば抱いたまま溺死しろ」

 

 傷が深すぎて、動けなくなった士郎。その無様な姿を見下ろしアーチャーがまくしたてた。だが、士郎は頭の中で、彼の言葉をほとんどが現実だと認めるも、一つだけ認められないものがあった。

 

 地獄から始まり、地獄を見続けて、未来でも地獄を見る。地獄の中で、見つけた理想ですら踏み入れたら抜け出せない地獄だった。浮ぶのは、冬木の大災害、その中で救われた自分の姿。それを思い出す時、

 

(確かに初めは憧れだった。けど根底にあったものは願いだったんだよ。この地獄を覆して欲しいという願い……誰かの力になりたかったのに結局何もかも取りこぼした男の果たされなかった願い」

 

 衛宮切嗣の願い、それがとても綺麗だった。その先が地獄でも、この憧れは正しいと信じたいから。だからこそ、衛宮士郎は正義の味方の道を、突き進む。どんな困難が待ち受けようとも。

 決意を胸に、死に掛けた体を起こす士郎。その時、士郎の傷口が一度小さな剣のようになり、傷口を剣が縫い合わせ始める。それによる再生能力は、またたく間に彼の傷を癒していく。 

 

「そうか、彼女の鞘。命を救うため切嗣が埋め込んだセイバーとの縁。あれは聖遺物、召喚されたものではない。契約が切れてもその守護は続いている」

 

 その不思議な現象をアーチャーは、嘗て自分の中にあった聖剣の鞘で説明を付けた。聖剣の鞘は所有者に不老不死と無限の治癒能力を与える。現在戦いを見護るセイバーが近くに居る事で効果を発揮しているのだ。

 

「体は―――剣で出来ている」

 

 士郎が、そう口にしながら両手に干将莫邪を投影する。

 

「お前には負けられない。誰かに負けるのはいい――だが、自分にだけは負けられない!」」

「ようやく入口に至ったか。だがそれでどうなる? 実力差は歴然だと、骨の髄まで理解できたはずだが」

 俺はまだ戦える。負けていたのは俺の心だ。お前の正しさは、ただ正しいだけのものだ―――そんなもの俺はいらない。俺は正義の味方になる! お前が俺を否定するように、俺も死力を尽くしてお前という自分を打ち負かす!!」

 

 衛宮士郎の起源は「剣」だ。剣とは叩く事で強くなって行く。アーチャーは衛宮士郎を折ろうとした。折れてしまった自分の抹殺のために。だがそれはアーチャーの思惑とは反対の意味を成す。未来の自分によって理想を折られかけてもなお、折れなかった士郎の「剣(理想)」。それは長い時間の中で折れてしまったアーチャーの「剣(理想)」よりも強く、決して折れる事の無い剣を作ったのだ。 

 





 次で無限の剣製は終わりです。



追記
 そういえばFGOのプリヤイベント今日からですね。楽しみです。
 

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