Fate/make.of.install   作:ドラギオン

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嵐の前の静けさ・2

ライダー召喚から、数日が過ぎるも冬木市は、平穏を保っていた。

 

ライダーは、召喚された日を境に、ウェイバーの部屋で実体化しながら、テレビなど現代を楽しんでいた。音沙汰が一切ないのだから、好きなことをさせろという弁だ。

 

当然グータラしているライダーにウェイバーは、怒り出す始末。彼が怒鳴っても知らんとばかりの態度にウェイバーは、ブレイカーにまで説教を始めた。ブレイカーとしては、見張りを続けていたのだが、彼もテレビに興味を引かれて見ていたからだ。

 

「お前ら、サーヴァントの自覚あるのか!?」

「あるに決まっておろう。何を今さら……おぉ、ブレイカーよこれを見てみろ」

「俺は仕事したから、休憩だ。どれどれ、成る程」

 

二人の大柄のサーヴァントは、小さなテレビの前に座り、映画を観賞していた。ライダーだけならまだしも、ブレイカーまでグータラなのは、想定外のウェイバーが吠えた。

 

「今のところ、お婆さんと出掛けてるアルカの方が遥かに仕事してるんだぞ。良いのかお前ら其で!?」

「うるさいのぉ」

「……俺、マスターより役に立ってない印象なのか」

 

コミュニケーション能力が限りなく低いアルカは、自己主張をあまりしない。逆に言えば言い付ければそれはキチンと守る良い子でもある。アルカに洋服を買ったりと、滞在中孫娘を目に入れても痛くないマッケンジー夫人は、2日に一回アルカを外出させる。

 

いつもウェイバーも誘われるが、彼はそれを困り顔で断りお爺さんが「ウェイバーも年頃だからな」と説得してくれる。

そんなアルカは、出掛ける度に周囲の道や建物、目で見た人間の顔などを正確に記憶していた。彼女の魔術を使えば、もっと記憶できるが魔術師対策でアルカは一般人の振りをさせていた。

 

「これを見てみろ」

「写真か?」

「偉く正確な絵だな」

 

ウェイバーが二人の英霊に見せたのは、周囲の正確な地図や建物の形状、通りすがりに見た人間の顔が書かれた絵だった。これらは、アルカが記憶を元に模写したものであり、ウェイバーに渡した資料だ。

 

「絵の書き方って本を読んで、書いたらしい。それよりも重要なのは、ここに他のマスターが写ってることだ。それに建物の高低差や、魔術師向けの廃墟まで記されてる。しかも魔眼の力で、魔力の満ちたエリアや、魔術師の可能性が高い人物のリスト、御三家の位置まで割り出してる!!」

「……便利なマスターだ」

「うむ。地理だけでなく、斥候もこなせるのか小娘は」

 

ウェイバーの持っている絵には、冬木の一番新しいホテルに入る、かの憎きケイネスと同伴の女性の姿が書かれていた。他にも高台から見下ろした景色に、魔力が多くめぐっていた場所を摸写していた。

もう一つは、飛行機の窓から一瞬だけ見た冬木の全体図から、彼女の魔眼でしか見れない城が描かれていた。

アルカが言うには、もやもやに覆い尽くされた森と城だった。それを聞いたウェイバーは、アインツベルンの拠点では無いかと予想をつけた。御三家の中で唯一、拠点をドイツに持つアインツベルンが、他の御三家と対等に戦うための施設だと。

 

 

「……どうやら、アーチボルト先生は、ハイアットホテルに拠点を構えるみたいだ。それに御三家の居場所も発覚した。

お婆さんが色々連れ回してくれてるお陰で、使い魔を送らずに情報が手に入るのは大きい」

「見た目は、マッケンジー夫人と行動する孫そのものだからな。魔力も制限してるから、カモフラージュとしては完璧か」

 

ブレイカーが、腕を組んでマスターの利便性を再認識する。だが、一つ疑問が浮かんだ。

 

「と言うことは、ライダーのマスター……お前も何もしてないな?」

「う……いや、キチンと御三家には、今日中に」

 

痛い所を突かれたウェイバーがたじろぐ。その姿をライダーは、訝しげな目で見る。

 

「余達に絡むのは、自分への怒り半分といったところか。たわけ」

「あいた」

 

ライダーは、そのゴツい指でウェイバーの額を弾く。弾かれたウェイバーは仰け反って、倒れる。赤くなったオデコを擦り、剥れ、黙り込んでしまう。

 

「弁護するなら、俺達は居場所を探られる訳にはいかない。何もしないで情報が手に入るなら、リスクを避ける面でも有効じゃないか征服王?」

「後付けなら、どうとでも出来るな。坊主とりあえずは、御三家と言った連中に使い魔を送っておけ。動くなら、その何れかであろう」

 

「あぁ、ただ一人のマスターは依然消息不明だ」

「戦場において、完璧な情報などありはせん。軍とは、人が織り成すもの。人が関われば、どうあっても綻びが生じる。それを入手するのも人間、多少のズレや不足は許容範囲よ。小娘が立てた手柄だ、余達が報いらなければ、立場があるまい」

 

ライダーは、テレビを見るのをやめて、ウェイバーとブレイカーに語りかける。戦場を何度も駆け巡ったアレキサンダー大王の言葉は、重みがあり、3人の心は少しだけ結託した。

 

(幼児よりも、役に立たない大人にはなりたくない)と。

 

---------

 

一方、いつもよりおめかししたアルカは、マッケンジー夫人と手を繋いで、例のハイアット・ホテルで人気のケーキバイキングに訪れていた。

 

「……おー」

「どれでも食べていいのよアルカちゃん。ただ、食べ過ぎちゃダメよ? お腹壊しちゃうからね」

 

初めて見た大量のスイーツにアルカは、少しだけ心踊った。例え自我が気薄でも、肉体的に苦いものは苦手で甘いものが好ましい。彼女の味覚は、飛行機で飲んだジュースで目覚めたため、甘いものがお気に入りである。

 

マッケンジー夫人は、大人しいアルカが一人でケーキを取ってくると言うので、座席に腰掛けながらホテルの上品な紅茶を味わっていた。

 

 

 

「……」

「……何か?」

 

好きなケーキを食べて良いと言われ、どれを食べるか冷静に無表情で思案していると、彼女の隣で同じくケーキを物色している切れ長の目をした色白の端整な美人がいた。

女性は皿に、ショコラケーキと苺たっぷりのケーキを乗せ、もう一品を選んでいた。

 

アルカが女性を見上げて、しばらくすると。彼女の服の裾を摘まんで引っ張る。

 

(子供?)

 

ケーキバイキングを堪能していた女性、実は今回の聖杯戦争参加者である衛宮切嗣の協力者、久宇舞弥は油断していた所を不意を突かれて、振り返った。

咄嗟に服のうちに隠した拳銃に手を伸ばすが 、彼女の服を引いたのが齢6つ程の少女で混乱する。

 

「……ほっぺ」

 

じっと変わった目の色をする少女に見つめられ、舞弥も見つめ返す。両者無表情だが、先に動いたのはアルカだった。

小さな指で自分の頬を指差した後、舞弥の頬を指差す。舞弥は、それを見て自分の口元に触れるとクリームがついていた。

 

「ありがとうございます」

 

クリームが付着したまま、気が付かない程気を抜いていた自分を責めながら、しゃがんで少女に礼を言う。礼を言われたアルカは、ペコリと頭を下げて興味のあったケーキを取って、マッケンジー夫人のいる席に向かう。

 

(僅かに魔力を感じた……しかし、本当にただの子供なのでしょうか)

 

祖母のもとに戻るアルカとマッケンジー夫人の様子から、怪しさは感じられない。最初は感じた魔力の痕跡から魔術師関係かと睨むも、優しげな祖母と孫と言った自然さが、彼女の勘を否定する。

 

(強いて言えば、何処か……)

 

舞弥は、祖母のとなりでケーキを食べているアルカを見て、可能性を否定する。何処か自分に似た部分を感じたが、幸せそうな二人を見て自分と同じなどあり得ない。そう思い、ケーキに意識を向けた。

 

-----------

 

ケーキバイキングを堪能したアルカとマッケンジー夫人は、帰宅すると夕飯の仕度を始めた。

 

「アルカちゃん、ウェイバーちゃんを呼んできてくれるかしら?」

「……ん」

 

夕御飯の支度が整いつつあったが、カレー粉が切れている事を失念しており、お使いを頼めないか聞こうとした夫人。

椅子に座っていたアルカがウェイバーを呼びに、階段を上る。

 

「……ウェイバー。……?」

「おかえり、マスター」

「帰ったか小娘。坊主は今、冬木の全体図を書いておるのだ」

 

部屋に入るとアルカが書いた絵を使って、ウェイバーが地図に重要なポイントを書きまとめていた。その隣でブレイカーは、資料の整理と掲示。ライダーは、邪魔にならぬよう小さくなって見守っていた。

 

「……お婆ちゃんが、カレー粉買ってきてほしいって」

「……あ、帰ってたのか。カレー粉? まぁいいよ。ライダー行くぞ」

「外か。悪くない」

 

部屋に籠りきりも不味いと考えたウェイバーは、護衛にライダーを連れて近所のスーパーまで行くことにした。英語しか話せないが、冬木は外国人が多い町で、スーパーにも外国人向けの表示がある。

 

かつて世界を駆け抜けた征服王を部屋に押し込むだけでは、辛いだろうという考えもあった。

 

----何事もなく買い物を終えたウェイバーは、夫人に買った商品を渡し、カレーが完成。お爺さんも帰宅し、4人で食卓を囲った。

それから、アルカとウェイバーは、ウェイバーの部屋で使い魔を窓から放っていた。使い魔を向かわせるのは、冬木の御三家である。

 

「……ねずみ」

「今度使い魔も教えてやるよ。よし、行ってこい」

 

使い魔に興味を持ち、物欲しそうに掴むアルカから、ねずみを取り返して解き放つ。ねずみが一番近くの遠坂邸にたどり着き、感覚共有で監視する。

 

「……つかいま」

「こう言うのも、何だが俺も使い魔だからな」

 

膝の上で使い魔を欲しがる様子のアルカに、ブレイカーが渋々告げる。

 

 

------遠坂邸に使い魔がたどり着き、数時間の時が経つ。そして、ついに聖杯戦争に動きがあった。

 

遠坂邸の魔術結界に、黒い装束と白い仮面をつけた細身の英霊アサシンが侵入。次々に結界を、突破したアサシンだったが、遠坂邸の屋根に現れた英霊の放つ無数の剣、槍、斧に貫かれてこの世から消滅した。

 

「やったぞライダー、ブレイカー。早速一人脱落だ」

「ほう」

「悪いが少し、声を落としてくれマスターが起きる」

 

ライダーとブレイカーは、見張っていたウェイバーの話を聞きアサシンの脱落を知る。しかし、ライダーはアサシンを特に警戒しておらず、ブレイカーはベッドで眠るマスターを心配していた。

 

「わかってるのかよ。アサシンが脱落したんだぞ。これで、マスター狙いの暗殺には警戒しなくてもいい」

「暗殺者が何だと言うのだ。隠れることしか出来ぬアサシンが消えたところで、元々余の相手ではない」

 

アサシンは、敵に含まないライダー。彼とは違い、ブレイカーは眉間に皺を寄せる。

 

「本当にアサシンなのか?」

「あ、あぁ」

 

ウェイバーの見た情報を整理しながら、ブレイカーは可笑しな点に気がつく。正しくは違和感を感じていた事実に信憑性が増したという状態だ。

 

「言い忘れていたが、俺はマスターの指示で養鶏所の近くに隠れ潜んでいたアサシンを殺してる」

「え?……それって」

「ライダー召喚の前日だ。奇跡的にアサシンを発見した俺はアサシンを確かに始末した」

 

数日前を思いだし、アサシンを確実に殺したブレイカーは、今日再びアサシンが現れた事実に陰謀を感じる。

 

「ブレイカーよ。可笑しな話ではないか? 本当に仕留めたのか? 仕留め損なったアサシンが生きて居ったという事はないのか?」

「首をもぎ取り、心臓を貫いた。これで死なない英霊なら、可能性はある」

「むう、暗殺者にしては不気味な英霊だな。まるでブレイカーが始末したアサシンが影武者のようだが、暗殺者の影武者など聞いたことがない」

 

ライダーとブレイカーは、二人揃って真剣な表情をする。何らかのトリックがある事はわかるが、殺した英霊が死なないのは、驚異だ。

 

「わからんな。暗殺者の考えなどさっぱり読めん」

「二度ある事は三度ある。この国の諺だ。警戒はいつも以上にしておこう」

 

ブレイカーとライダーは、アサシンの正体が判明するまで生きていると仮定する方針をとる。一方話に置いていかれたウェイバーは、拗ねていた。

 

「む、とりあえずアサシン倒した英霊についても、報告するぞ」

「うむ。お前は何を見たのだ」

 

ウェイバーは、アサシンが殺られる様子を見たとき、一瞬過ぎて詳しく見えなかった。しかし、見えたものも存在した。

 

「なんか、大量に剣とかを発射してた。なぁ、英霊にとって宝具は一人ひとつだよな?」

「原則はな。しかし余のように2つか3つくらいは、持っていても不思議はない」

「俺も宝具は2つだな。両方ポンコツだから、使う機会ないけど」

 

聖杯戦争の資料にもそう書かれていた。なのにアサシンを討ち取った英霊は、何十もの宝具を射出していた。

 

「死んだはずのアサシンに、無数の宝具使い。一筋縄ではいかんな」

「まったくだ」

「お前ら、そう言う割に落ち着いてるみたいだけど?」

 

普通ならもっと警戒したり、驚くはず。なのにウェイバーの前で座る二人は落ち着いていた。

 

「どんな英霊であっても、聖杯戦争に勝つのは余だからな」

「同じくだ。英霊なんてものは一癖二癖あって当然だ。どのみち勝てば問題ない」

 

アサシン脱落疑惑が周囲のマスター、サーヴァントに広まる中、ベルベット陣営は持てる情報を整理し冷静に流れを読んでいた。

 

tobecontinued

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





やっと聖杯戦争進んでいきそうです。アニメなら2話しか進んでませんね。

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