明日の光とつがいの二羽   作:雪白とうま

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第九話

二宮飛鳥は闇が好きだ。真っ暗な部屋で思考を遊ばせながら、眠りにつくのはいつもの事だ。

しかしここ最近はラジオをつけ、静かな曲を聴きながら眠りに入るのは近頃当たり前になっている。

それは、闇が好きなのか、闇の中に灯す輝きが好きなのかどちらか分からない。

南条光と出会ってから、光なのか小さく輝くものに興味を示すようになった。

それを見ていると、元気でいつもヒーローになりたいと騒ぐバディを思い出すのだ。

そしてそのバディは今、一人ステージで歌っている。

数年前にヒットした曲だけあってかお客さんもノっているようだった。

「皆、元気かー!!」

歌が終わり、光の叫びが響く。歓声があがった。

 

 

『アタシには夢がある!それは、皆の笑顔を守るヒーローになる事だ!』

普通に喋っているように見えて台本の劇に入って来た。月島に言われていた変な力のいれようは抜け、自然に聴こえる。

『だから、アタシがどうなってもいい!皆の笑顔が守れるなら-』

瞬間、言葉を重ねるように飛鳥はマイクを握る。

『そして自分を犠牲にして消えるのかい?ヒーローがお笑い草だね』

さぁ、自分の時間だ。少しダークなイメージのギターメロディが

流れてくる中、歌を歌いながらステージの端より現れる。

光が驚いたような目をしている。さぁ、光。ボクを上回れるかな?

そんな気持ちを持ちながら飛鳥は歌を絶唱した。

 

 

 

南条光は自分の名前が大好きだ。

日の出の光と共に産まれたからと故郷徳島にいる祖父がつけたというのを聴いた事がある。

ヒーローはヒカリだ。

皆を輝かせ笑顔にさせる。そう思っているから自分もいつの間にか名前にふさわしくなろうと、そして子供の頃見てきたヒーローのように太陽を背負うヒーローになろうと思った。

しかし、近頃月や星も好きになってきた。闇の静かな雰囲気でたたずむ事がある。

そんな時に思うのは相棒の飛鳥だった。

彼女なら、こんな時自分には分からないけどどこかかっこいい言葉を紡ぐのだろうかと思った。

月や星は飛鳥にとってエクステのようなアクセサリーなのだろうかと不思議な事を考えた事もある。

そして今、彼女は歌と共に闇の中から現れた。

低音でありながら、どこか軽やかな響きがする歌声が会場にしみ渡る。

やがて、歌が終わり彼女はコートをひるがえし一礼をした。

 

 

『初めましてかな。渡り鳥のヒーローさん』

『誰だ、お前は!?』

BGMにチェロの音が流れてくる。回りがどこか神話めいた雰囲気を出してきている、光はそう思った。

『ボクは君のライバルにして世界の観測者。そしてこの世界の悪を滅ぼすものさ。まぁ、正義の味方かもしれないけどね、君から言わせると』

髪をかき上げながら、飛鳥は大人びた笑みを見せる。台詞は頭の中に入っているのか、余裕さが見える。

『悪を滅ぼす?』

『そう、善と悪は表裏一体。君も分かるだろう。悪がいなければヒーローはなりたたない』

『そんなのなり立たなくていい。アタシはヒーローを目指しているが、皆がいい人で笑顔であればいいんだ』

『そうかい。でもね、ダメなんだよ。そういう甘い考えは……君が改心させたはずの火星の男』

『あのおじさんが、どうかしたのか?』

『……ボクが始末した』

ライトが一気に暗くなる。それに合わせて自分の顔が驚いた顔をしているだろうか。もう、何回も練習したところだから

体が覚えているのかもしれないと光は思う。

『どうして!?』

『彼は悪を為した。それだけさ』

『もう悪い事はしないってあのおじさんは言ったんだぞ!!』

『それが君の甘さだよ。ヒトはいつでも悪をする。ましてや一回行ったのなら、なおさら』

『お前はっ!』

思い切り脚を踏みこみ、飛鳥を殴る―フリをする。おお振りでパンチをしているのを、光は特撮で何度も見てきた

だが、飛鳥は動かない。光は慌てて腕を引っこめようとするが勢いは強く止まらない。

そして、本人達が思い浮かばないところで飛鳥の左頬に拳が当たり効果音と共に、鈍い音がした。

倒れる飛鳥。闇の中、飛鳥の頬が赤く見えるような錯覚が起こる。

しかし、光は声を上げたいのをぐっとこらえる。今は演技の途中だ。

光は今すぐ飛鳥を抱き上げたいのをこらえ肩で息をしていた。

 

 

 

まいった、ミステイクだ。

左頬の鈍い痛みと共に飛鳥はそう思った。

本当なら、光の腕が見えた瞬間、顔を手で覆いながら倒れるつもりだった。

だが、距離を見誤った。光の背が小さいから腕のリーチも短いものだろうと思っていた。

しかし、光の腕は思っていたよりも長く、自分の頬に当たった。

痛みをこらえ飛鳥は光を見る。どこか泣きそうな顔をしていたが、何かをこらえていた。

バディにこんな顔をさせるとはいけないなと思いつつも、一つのチャンスだと飛鳥は思った。

『……ほら、君も拳を出したろう。そんな風に人はあっさりと悪人の領域に踏み込んでしまうんだよ』

幸いにも口はあまり切れてないせいか、台詞は喋れる。光も飛鳥の台詞に顔の表情が少し変わった。

『……それでも……それでも、アタシは自分の夢を、皆が笑える世界を作りたい!』

『気付いてないだけだよ、君は。正義のために悪を為している事を。そんな甘い夢は捨て―』

『嫌だぁ!アタシは諦めない!』

光が急に飛鳥の肩に手をかける。台本には無いシーンなので飛鳥は少し驚く。

『アンタにもあるんだろ!?夢が!!正義の味方なんだろ!?』

『……そんなものとうに忘れたよ』

『なら、思い出せ!心の奥から引っ張り出せ!頭の中でそれに向かう道筋を考えろ!!夢はいつも―側にある!!』

 

光が片手を上げると『Stand by Dream』の前奏が流れ始める。本当は二人で歌うはずのところだったが、光はたった一人で力強く歌いあげる。

一番が終わろうとした瞬間、光から飛鳥にスポットライトが当たる。

飛鳥は瞬時に理解して二番は一人で歌いあげる。

頬が痛むがそんなもの気にしてはいられない。

二宮飛鳥のカッコよさはちょっとしたトラブルでも折れない事を見せつける。

そして、最後のサビ。二人で歌う。協力しあうように、時に争うように。

二人は腕を絡め、空に上げ、そして、はじかれるように離した。

 

 

 

『また逢おう、渡り鳥のヒーロー。その拳の痛みの呪いと共に考えるといい。本当の正義は何か、君の夢は正しいかということをね』

『アタシは負けない!アタシの夢も!お前の夢も!皆の夢も叶えてみせる!!痛いこの拳も広げれば、誰でも受け止められる手になるんだ!』

光の叫びでライトは消え、幕は閉じた。光は舞台袖にいる飛鳥に申し訳なさそうな目を向ける。

飛鳥は笑顔で首を横に振った。

見入っていた観客から拍手が鳴りやまない。

「行こう」

飛鳥は光の肩を叩き、舞台へと向かう光も涙をぬぐうと飛鳥に続き舞台へと向かった。

スポットライトが二人を照らす。両手を振って二人は観客に応えやがて、一礼をした。

 

―歓声、拍手、口笛が響いた。

 

頭を上げると多くの人達の顔がしっかりと見えた。

二人は再度手を振りながら舞台袖へと消えて行く。

それでも、しばらく鳴りやまなかった。

 

 

劇が終わった瞬間、光は飛鳥を抱きしめた。

「飛鳥……本当にゴメン!!」

「いいさ、光。こういうアクシデントも乙なものさ」

痛む頬を冷やしながら、飛鳥は光の肩を軽く叩く

「でも、アイドルの顔に傷は……」

「大丈夫。ボクはそんな弱くない。光の演技もよくなったから怪我の功名ってやつじゃないかな」

それに、と付け加えると飛鳥は今までにない笑みを見せ

「キズはね。時としてヒトをカッコ良く見せるものなのさ。中二ならなおさらね」

「飛鳥ぁ……」

瞳に涙を浮かべる光の頭を飛鳥は撫でる。

「さて、急がなきゃね。帰りの人の見送りだ」

「……あぁ、しっかりやらなきゃな」

力強く涙を拭くと光は顔を二、三度叩く。

「よし、行こう飛鳥」

「もちろん。劇の残り香を持って帰ってもらわないとね」

 

二人はグッズ販売のところに立ち、手渡しとサインを行った。

特に飛鳥の回りには体を張った役に女性のファンらしき人が列をなし、多くのサインを求めていた。

光には男のファンが多く「昔のヒーロー」を思い出したという声と殴ってしまった事に対して「次は頑張れ」とこっそりと励ましの声を多く聴いた。

 

この後、全ての客がいなくなった後、二人はつがいの鳥のように眠っていた。

 

これが、南条光と二宮飛鳥の長く感じたある一日

 




少し時間が空きました。
次はこれの感想戦か、飛鳥が光の部屋に行く話を書こうかと思ってます。
夏真っ盛りには夏の話を書きたいですね

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