明日の光とつがいの二羽   作:雪白とうま

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第七話

「それでは、発表します」

小さな会議室の中、立川が音楽雑誌を両手に握りしめて厳かに言う。

光と飛鳥は唾をおもわず、音を鳴らして飲んだ。

「『stand by dream』は……251位でしたー!!」

「やったぁ!」

「ふうん、思っていたより上の方なんだね」

二人がそれぞれの感想を言っていると奥から月島が飲み物を持って来た。

「初動にしては、まぁ予想外といったところだ。だが、CDって言うのは売れるためにはもっと努力がいる。

 口コミ、ネットの話題、マスコミに取り上げてもらえるとか色んな事だ。

 お前達、これからもっと忙しくなるぞ」

「分かってる!」

「望むところだよ」

二人の意気込みを聴いたところで月島はホワイトボードに大きく

『今後のCD販売プロモーションについて』と文字を書く。

 

 

 

「早速だが、お前らにも考えてもらう。

 次のシングルまでには時間は空くので、お前らのプロモーションも兼ねてのブレーンストーミングを行う事にした」

「月島さん、そのブレ何とかって」

「分かりやすく言うと『やりたい事を何でもあげろ』以上だ。別にプランだけなんで、反対もしない。

 ただ、必ず採用されるとは思うなよ」

と、言いながら既にした事のある『手渡し会』『アイドルイベントでの活動』を書き足す。

光が元気に手を上げる。

「まぁ、分かりそうだが、光のアイディア聴かせてもらおうか」

「アタシ達がヒーローになる番組で歌うって出来ないかな!?」

月島は軽く手に目を当てると、説明を促す。

「この前たまたま深夜に見たアニメでさ、歌いながら女の子が戦っているのを見たんだよ。

 それならアタシ達がヒーローになって、色んな歌を歌いながら悪と戦うのってありかなって思ってさ」

「悪と戦うヒーローね。お前らしいな」

と、月島はホワイトボードに書いていく。

「やり方を変えればミュージカルにもなりますね」

「この二人でのミュージカルを見たいか、立川」

「社長、今回は否定無しですよ」

月島は咳払いをする。立川は話す

「私、演劇が好きでよく見に行きますけど、二人だけの劇もちゃんとありますし、

 上手い役者さんが演じられるとちゃんと背景も見えるようになるんですよね」

「トレーナーから、ボクと同じ様な言葉が聴けるとは思わなかったよ」

飛鳥の横やりに照れ隠しに笑みを浮かべながら、立川は話し続ける

「光ちゃんと飛鳥ちゃんのヒーローミュージカルってのはどうですかね。『stand by dream』は、

 スピードも速い曲ですし、戦うイメージには合うと思いますよ」

熱のこもった立川の話に光はうなづき、月島と飛鳥は冷静な目つきで見ていた。

「飛鳥ちゃんは何かある?」

飛鳥は立川に聴かれ、少し考えると

「深淵……偶像……闇の中の光……」

小さく呟く。月島が眉をそらすと

「あれか。こう、昔のユーロビートみたいにシンセサイザー鳴らすと、光が変わって出る奴がしたいのか」

「……プロデューサーは時々土足でボクの心を踏み歩いてくるね。あんまり好きじゃないよ」

「でも、ああいうのしたいんだろ。俺も好きだしな」

と、月島は大きく『ミュージカル』『ミュージックアート』と書く。

「と、なるとシンセサイザーを弾きながら、戦い、正義と悪を分からせると」

「悪が必ずしも、悪とは限らないよ。今の世は」

「と、飛鳥も言っているので、悪というよりヒーロー対ダークヒーローって感じだな」

「おおっ!何か楽しそう!アタシも何か楽器持っていた方がいいかな。ギターとか」

「光、楽器弾けるの?やるのだったらエアギターでもやっていた方がいいんじゃない?」

「そういう飛鳥こそ、シンセサイザー弾けるのか?」

向かい合う二人に月島は両手を鳴らし、二人を止める。

「とりあえず、ここまで。後は俺と立川でスケジュール等を合わせて考えてみる。

 音楽のツテなら愛川さんにも聴いてみればいいしな。その間、二人は歌の質を上げろ。

 アカペラで歌っても、声が届き、鼻歌だけでも歌が分かるまでな」

月島が資料を持って去り、立川もトレーニングスケジュールの調整があるからと部屋を出た。

会議室には二人だけが取り残された。

 

 

 

「……どう思う?」

「カッコいいとは思う。でも、今のアタシ達に出来るかどうか、ちょっと心配だ」

「どうしたの、光らしくも無い。こういうのならすぐにでも飛びつきそうなのに」

「飛びつきたい。飛鳥と一緒にヒーローショーみたいなのが出来るならやってみたい。でも、分かるんだ」

両手を握りしめながら、光はうつむく。

「アタシ達が、歌やダンスで精一杯だと。これ以上やってみたいけど、今のアタシ達には」

「光」

飛鳥は光の肩に両手を乗せ、静かに叩いた。

「分かるよ、不安なのが。

 でも、ボク達は非日常を行くアイドルだ。

 どんな事でも一回チャレンジしてみようじゃないか」

「飛鳥……」

光の肩が震える。飛鳥は光の頬を持って額をくっつけた。

「君なら見せてくれるとボクは思うんだよ。ボクの世界に賛美の言葉をくれた君なら。

 違う異世界を見せてくれると……そうだろ、ヒーロー?」

「……そうだな。アタシはヒーローだ。夢と笑顔を見せるのがヒーローだ。飛鳥にも見せないとな」

お互いに笑みを浮かべる。

「でも、さっきは飛鳥の方がヒーローっぽかったぞ。アタシ、びっくりした」

「ボクもそんな因子があって、光に感化されたのかもね」

二人は笑みを浮かべながら額を軽くぶつけあった。

 

数週間後、会議室に同じメンバーが集まった。

「少し路線変更がある」

と、開口一番月島は言う。

「戦いながらのミュージカル。この流れでいこうと思う。だが、愛川さんに相談したところ」

書類を机に投げだす。そこには火の鳥のエンブレムと見た事が無いメロディーがあった。

「2ndシングルお披露目もやるぞ」

 

これが、南条光と二宮飛鳥のセカンドステップ。




今回、第二弾の始まり。といった感じで書かせていただきました。
まだまだ、至らぬ点はありますが面白い作品になりますよう精進していきます。


-間幕-
 オフの日。
 光はノートに色んなものを書込んでは消していた。
携帯電話が軽快な音を鳴らした。
「うん?」
携帯を開けると羽音からメッセンジャーアプリの連絡があった。
「『青と橙の混じる中で』って何か飛鳥みたいだな」
光は笑みを浮かべると次に写真が出てきた。
夕焼けの中に青空が混じっている大きな空の写真だ。
「おおっ!何かすごいな!」
すると、飛鳥からすぐにメッセージが入った。
<いいセンスだね。紺碧の空と黄昏の橙……カタストロフか、リヴァイブをイメージさせるよ>
<相変わらず、何を言ってるんだ、飛鳥?>
<光も見てみなよ。この羽音さんからの空。彼女のダークサイドもこんな感じかもしれないね>
<いや、それは>
<お前ら>
月島のメッセージが入る。
その後に、不機嫌そうな顔をしている月島の顔が映った。
<俺は今、こういう顔をしている。分かっているな>
<分かったよ、プロデューサー。言葉のゲームにも付き合えないのかい?>
<そういうのは余裕のある時にしてくれ。後、羽音もいつもの
ところか。気をつけて帰れよ>
<はい、分かりました>
既読が付くと、光はメッセンジャーアプリをしまう前にもう一度写真を見た。
「それにしても、大きい空だけど……羽音さんどこにいるんだろ?」

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