明日の光とつがいの二羽   作:雪白とうま

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第六話

「ここが飛鳥の部屋かぁ」

「ようこそ、招かざる客人さん。あんまりモノをいじらないでね」

飛鳥はため息を吐きながら光を自分の部屋に入れた。

二人はそれぞれ、月島が用意したワンルームマンションに住んでいるが、

お互いがそれぞれの部屋に行った事は無かった。

光は靴を手早く脱ぐと、部屋を見回した。そこには光が目にした事が無いものがたくさんあった。

どこか神秘的な夜景を描くイラストポスター、

昔ながらの形をした古めかしいラジオ、

色彩豊かなエクステが飾られていた。

光にとってはどれも珍しく、興味に溢れるものだった。

「お、飛鳥のエクステいっぱいあるな。これ、全部付けているのか?」

「並びを変えないでくれよ。歓喜・憂鬱・怠惰・希望ってちゃんとイメージ通りに分けてあるんだから」

「そんなイメージあったのかぁ」

エクステの並びに感心しながら、机に目を移す。

何枚かの原稿が整列されてそこに置かれていた。

光はその原稿を何枚か手に取って読んでみると、

自分がよく読む漫画とは異なり、どこか絵を描いているだけといった感じも受けた。

それでも、以前描いていたものに比べどこか退廃的なところが失せつつあったような気がした。

飛鳥の言う『最後の希望』がしっかり描かれてる気がした。

「描いているんだな、ちゃんと」

「あのおばさんに言われたのはシャクだけどね。気が向いたら描くようにしている」

飛鳥は光の手から原稿を取り上げ、原稿入れにしまうと冷蔵庫に向かう。

「とりあえず何か飲むかい?お茶以外ならなんでもあるよ。無論お酒も」

「お酒!?」

「嘘だよ。残念ながら、ボクらは法で保護され、縛られている身だろ」

「びっくりしたなぁ。サイダーとかある?」

「あるよ、甘くないのも」

「……甘いやつで頼む」

「了解」

 

光はソーダを一気に飲み、飛鳥はゆっくりと飲む。

自然と飛鳥は、光の空になったコップにサイダーを注ぐ事になった。

飛鳥は光の三杯目のサイダーを注ぎながら聴く。

「どうだい、バディの部屋を見た感想は?」

光は飲みかけのコップを置いて少し考えると

「んー、飛鳥も女の子なんだな。って思った」

「何だよ、それ」

飛鳥は少しの苦笑を浮かべると光はまた部屋を見回し

「光ってさ、初めて会った時は……何と言うか、女の子っぽくない感じがしたんだよ。

 でも、男の子っぽくないし、何と言ったらいいのかな。まん中って感じかな?」

「趣味もカッコも男の子に近い君に言われるとは思わなかったよ」

飛鳥が苦笑を浮かべる。

「でも、ちゃんと服が女の子っぽいのあるし、

 部屋もアタシと違ってキレイだしさ。使っているペンとか文房具とかもかわいいのあるし、それで飛鳥も女の子なんだと思ったんだ」

光は熱を込めた言葉で飛鳥に話す。飛鳥は何か面白いものを見るような顔で光の話を聞き続けていた。

「後、飛鳥はやっぱりカッコいい気がする」

「何で?」

光はラジオを指差した。インターネットの接続オプション等が当たり前のこの世の中に

アナログの古いラジオがあった。

受信電波もオートで探してくれるのではなく、

自分でダイヤルを合わさなければいけない骨董品に近いものだ。

「あれさ、秘密基地から特別任務とか聴こえてきそうでかっこよくないか!?」

「君には特殊アイテムのように見えるけど、残念ながらただのラジオだよ」

「でも、あれでいつもラジオ聴いて、番組のメッセージとか出しているんだろ?

 そのウチ、宇宙警察とかのメッセージが飛鳥に流れてくるかもしれないぞ」

「たまに流れてくるのはノイズだけさ、雑音に隠れたメッセージは無いよ」

「でもそのウチ流れてくると思ったらワクワクしないかな?」

「その発想は、君の様な一部だけだと思うけどね」

飛鳥はサイダーを飲み干すと、ラジオの方に向かう。電源を付け、ノイズが入る音の中、

お気に入りのラジオ局の電波に合わせる。

ちょうど聴こえてきたのは二人と少し年が上のアイドルの曲だった。

「ほら、この通り。皮肉にも聴こえるのはボクらのライバルの曲だ」

「うん、明るい元気な曲だな」

「ボクらとはちょっと違う曲だけどな」

「この曲……アタシ達より上を行くんだろうなあ」

「多分ね。どうする、嫌なら切るけど」

「いや、いい。ライバルを知る事もヒーローに取って必要な事だから」

二人はサイダーをしばらく飲み続けていたが口数は減っていた。

 

あのデビューお披露目の後、劇的な変化は二人に訪れなかった。

デビューする一ユニットしか見られていないという気持ちはあったが、

二人には誰よりも目立とうという気持ちは強かった。

その成果もあってか、それとも愛川が作詞・作曲したという看板があったから

あのイベントの中でCDは一番売れたとは聴いている。

その後、二人は同じ様なアイドル合同のイベントで、

直接CD手渡し会を行ったり、サイン会や撮影会も行った。

二人がいるプロダクションはけっして大きな会社ではない。

だからゲリラライブやテレビ出演等はまったくという程出来ない。

それでも、ラジオで取り上げられた時は喜んだり、心無い批評にはあまり目を向けず、

来てくれるファンを大事にしようとする事だけを考えた。

 

 

 

 

飛鳥はしばらくラジオから流れてくるアイドルの曲を聴いていたが、急に局のチューニングを変える。

流れてきたのはしっとりとしたジャズピアノの音。光が少し驚いた顔をしていたので

「今はライバルの事は忘れよう。ボクらに必要なのは休息と少し背伸びをする時間さ」

サイダーのペットボトルをもう一本開けると静かに注ぐ。

リズムに合わせてか、泡も静かに浮いている。光にはそう感じた。

「こういう曲、光は苦手かい?」

「んー……初めて聴くからなんともいえないなぁ。ただ、ちょっと眠くなるかも」

「成程。1950年代は君に取って子守歌になるわけだ」

「飛鳥はどうなんだよ?」

「魂を鎮める歌、鎮静剤。ボクにとってのジャズはそんなものだよ。

 光がヒーローものの曲を聴いて興奮剤とするようなものさ」

「わかんないなあ」

口をとがらせる光に飛鳥は微笑を浮かべる。サイダーは静かに泡を立ててもう落ちかけている日を反射させていた。

 

 

 

「サイダー、ごちそうさま。美味しかったよ」

「どういたしまして。ボクとしては光が大人しかったのが意外だったけどね」

「あのジャズだっけ。あれを聴いていたら

 何かほわぁっとした気持ちになってさ。光の部屋を色々調べようって気にならなくなったんだよ」

「ジャズはヒーローを目指す少女をも大人にするのかな」

飛鳥は微笑を浮かべた。もう、日は落ちており電灯がちらほらついている。

「帰り……といってもすぐだけどね。気を付けて」

「あぁ、そうする。今度は飛鳥がアタシの部屋に遊びに来いよな。

 色んなヒーローグッズとか見せてあげるからさ」

「君の部屋かい?体温がいつも高熱になりそうだね」

「何だよ、そりゃ」

二人は笑う。

「それじゃ、また明日。事務所でな」

「あぁ、ミーティングがあったんだったね。この時期は眠くなるのにね」

「飛鳥。アイドルの誓い!」

「そうだね、元気に挨拶だ。じゃ、明日に備えて早めに寝るよ」

「あぁ、それじゃおやすみ」

「おやすみ」

二人は手を振り、光が駆けだすと同時に飛鳥の部屋は閉じられた。

 

これが、南条光と二宮飛鳥の休日のひととき

 




少し間が空きましたが短い話が出来ましたので一本お送りさせていただきます。
エクステの事を少々ファッション誌、ネット等で調べましたが色んなのがあるのですね。

次回は質・量ともにもっと多いものが書ければと思います。

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