明日の光とつがいの二羽   作:雪白とうま

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第五話

『TOMORROW BRIGHT』

 明日の光を意味するユニット名を付けられ時間が立ったが、光と飛鳥にはまだ実感が湧かなかった。

 ただ、二人で仕事をする際はそう呼ばれる。そんな感じを受けただけだった。

 ユニット名に意味はあるのか二人は考えてみたが、特にこれというものは浮かんでこなかった。

 名付け親である月島に聴いてみたが、これからその意味は作られるものだ。とだけ答えが返って来た。

 

「どう思う?」

「どうも何も無いね。ネーミングに意味何かないのじゃないかな」

 光と飛鳥はストレッチをお互いにしながら、ユニット名について話していた。

「アタシ達が明日の光になるかぁ。

ヒーロー的にはカッコいいと思うけどなあ」

「ボクはイマイチしっくりこないよ。非日常にもまったく関係無いしね。

 もっとセンスのあるネーミングが欲しかったよ」

 

 体の固さに軽く悲鳴を上げながら飛鳥は答えた。

 そうは言っても二人にユニット名について考えている時間はあまり無かった。

 月日は流れもう3月。来月にはデビューのお披露目をする事になっている。

 宮形はあっという間に歌を作り上げ、歌うポイント、リズムを月島や羽音にも伝えてあった。

 後はどう歌うかは二人次第という事らしい。あまり激しく体を動かす事は無いが、

 高音を出す、緩急を付けるところでそれぞれに苦戦を強いられていた。

 トレーニングは主には羽音がついていたが、たまに月島や宮形が顔を出す事もあった。

 その際に一つ一つ注文を付け、それをこなしていく。

「ボクらの歌じゃない……まるでオートマトンみたいだよ」

「それをアタシ達の歌にする。アタシは飛鳥とこの歌を歌いたいよ」

 たまに飛鳥が愚痴るのを光は背を押すように励まし、飛鳥は光の思っている以上の課題を越えて行く。

 

 -この歌を二人のものに。

 

 それだけを考えて、二人はひたすら練習を重ねた。

 

 

 余韻のダンスが終わり二人でポーズを取る。

 そして、音が止んだ。しばらく二人は笑顔。目の前には月島、羽音、宮形がそれぞれ見ている。

 

 沈黙が流れる。

 

「ありがとうっ!」

 たまらず、光が沈黙に耐えきれず声を出した。宮形が急の事で吹き出し、月島と   

 宮形は目を合わせ苦笑を浮かべた。

「どう……かな?」

 飛鳥も不安そうに回りを見回す。それを見ていた大人たち三人は拍手で答えた。

「飛鳥!」

 光は飛鳥に飛びつき抱きしめる。飛鳥は始めとまどった顔をしていたが、

 ずり落ちてくる光を支え笑みを浮かべる。

「いけるよな!?アタシたち、これでデビュー出来るよな!?」

「できるとも光。これがボクたちの新しいペルソナの完成だ!」

 飛鳥は光を強く抱きしめると振りまわして、喜びを分かち合う。

 

「これで二人のデビューは決まったね。つっきー」

「宮形さんもありがとうございました。最後までお手を煩わせて失礼致しました」

「ワシは言う事言いに来ただけよ。ほとんどは羽音ちゃんがやってくれたしの」

「いえいえ……でも」

 まだ、喜び合っている二人を見て立川は小さく、強く呟く。

「始まるんですね。あの子達のアイドルのしての活躍が……」

 

 

 

 

 デビュー当日の日になった。

 デビューとはいっても単独のイベントではなく、まだマイナーなアイドルユニットの

 集合イベントの内の参加する一ユニットだ。

 出番は最初から三番目。始めての出演ユニットでは無難なところだろう。

「どうせなら、会場全体を食ってこい」

 と野獣のような笑みを浮かべて、月島は二人に吹きこんだ。

 二人は、その際に月島にもらった棒付きキャンディをなめ続けている。

「やっとだね」

「そだな」

 光はキャンディを噛み砕くと棒をゴミ箱へと吐き出した。

「飛鳥、ちょっといい?」

 光はいたずらっぽい笑みを浮かべて飛鳥に顔を近づける。

「どうしたんだい、光?また何か考えたんだろ」

「あぁ。ヒーローにもあるようにアタシ達も約束を作ろうと思うんだ」

「約束?」

 飛鳥がキャンディをなめ終わり、棒を捨てている。光は飛鳥に向けて掌を大きく広げる。

「ヒーローが考えた5つの誓い。それにならってアタシ達の『アイドル5つの誓い』ってのを考えたんだ」

「へぇ、どんなのかな?」

 光は少し、息を吸うと、力強く宣言する。

 

 

「アイドル5つの誓い―

 一つ、ご飯はちゃんと食べる事。

 二つ、友達、スタッフ、事務所の人達には、はっきり挨拶する事。

 三つ、好きなものは、好きだと伝える事。

 四つ、遊びも勉強も仕事も、めいっぱいする事。

 五つ、アイドルは自分も皆も笑顔にする事。

 ……どう?」

 

 飛鳥はしばらく茫然としていたが、声を出して笑う。

 

「それはアイドルの誓いかい?むしろ子供の約束に聴こえるよ」

「こんなもの単純なのでなんでいいんだよ。アイドルだってヒーローだって

 分かりやすい方がいいに決まっている!」

「あぁ、光のイデアにはちょうどいいかもしれないね」

「どういう事だよ!?」

「君そのものってことだよ。この誓いは」

 飛鳥はしばらく笑っていたが光の顔を両手で持ち、お互いの額を合わせる。

「必ず、ボクらだけの世界を作ろう、光」

「ああ。そして色んな人達に笑顔を作ろう、飛鳥。そして、アタシ達が明日の光になるんだ」

 

 出番の声がスタッフからかかる。二人は手を繋ぎ、小さな光の向こう側へと踏み出した。

 

 

 拍手が聴こえる。

 それは小さな拍手だ。当然だ。まだ、自分達を知っている人はいない。

 だけどこの拍手が大きくなるように。

 ―皆を笑顔に。

 ―自分達という偶像を通して非日常を見せつける。

 二人はそう思った。

 

「皆、今日は集まってくれてありがとうッ!!」

 光が叫ぶ。

「そして、ようこそ。こちら側の世界へ。」

 飛鳥が誘うようにささやく。

「今日はアタシ達『Tomorrow Bright』の初お披露目だ!」

 少し声が固い気がしたが、光は叫び続ける。

 叫ばないと、この観衆から目を背けられるような怖さがあった。

「そして、聴いて、感じてくれ。ボクらが紡ぎだすセカイを。ここではないどこかに旅立てるハーモニーを」

 飛鳥も頭の中に浮かぶフレーズを次々と言葉に乗せる。もっと、もっと自分達を見てもらいたいという願いと共に。

「それじゃ、歌おうか」

「ああ、ワンフレーズ残さず頭にインプットして欲しいね。聴いてくれ」

 

 

『stand by dream』

 

 

 

 

「つっかれたー!!」

 光は帰りの車の中で叫ぶ。その口に容赦なく飛鳥から棒付きキャンディが差し込まれた。

「うるさいよ、光。疲れたのはボクも同じなんだから」

「分かっているけどさあ……」

 キャンディをなめながら光は今日の事を思い出す。

 歌っているのは覚えていた。ただ、それだけだ。

 どこが間違っていたか、どこが上手くいったかなどはまったく頭にない。

 まるで自分はその時本当に歌っていたのかという記憶も無かった。

 気が付けば、今回イベントに参加した全アイドルの集合撮影の中にいた。

 ただ、体が全身を使って歌を歌っていた。それだけが感触として残っていた。

「飛鳥は覚えているか?今日歌っていた内容とか……」

「残念ながら、ボクも覚えていない。ああいうのを五里霧中っていうのかな」

 同じく棒付きキャンディをなめている飛鳥は宙に目をやった。

 

「二人ともよく歌えていたぞ。初めてにしてはな」

 運転中の月島が答える。普段に比べ、その目つきは柔らかかった。

「ホントか!?」

「あぁ、まあ及第点。っていったところかな。これから上手くなればいいし、伸びてもらわなきゃこちらも困る」

「まかせてよ、プロデューサー。ボクらには可能性がある……だろ?」

「言ってくれるな、飛鳥。これからこの歌をもっともっと広げなきゃいけない。そのために色んなイベントにも

 参加してもらうぞ」

 軽く笑う月島に、二人は同じく笑みで返した。

 

 

「明日はオフだ。好きにするといい」

「アタシ、飛鳥の部屋にいってみたいな。どんなものが飾ってるのか、言ってる中二っていうのを知りたい」

「オフは孤独に過ごしたいのだけどね。独りの時間は必要だよ」

「だって、アタシ飛鳥好きだし。どんな事しているか興味あるな」

「……好きって」

 飛鳥は急に言われた事にとまどう。飛鳥はエクステをいじりながら

「素直すぎるよ、光は」

「アイドルの誓い三つ、好きなものは、好きだと伝える事。そうだろ、飛鳥」

「まぁ……そうだけど」

「飛鳥はアタシの事嫌いか?」

 頬を膨らませる光の顔を見て、飛鳥は苦笑を浮かべ

「嫌いじゃないよ」

 と返した。光は少し不服な顔をしていたが

「ま、いいか」

 と頷き、キャンディを噛み砕いた。

 

 その後、アイドル雑誌の隅の方ではあるが今回のイベントの内容が掲載されており、写真には『Tomorrow Bright』が使われていた。

 

 これが南条光と二宮飛鳥。二人のデビュー。




前話が少々長過ぎたため、今回は短くまとめてみました。どこまでが読みやすく、皆様に面白みを伝えられるか思考錯誤していこうと思います。

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