明日の光とつがいの二羽   作:雪白とうま

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第四話

正月も明け、冬休みも過ぎ、二月に差し掛かろうとした頃、

光と飛鳥は変わらずのトレーニング漬けの日々を過ごしていた。

毎日のように練習を続けていたので、二人の動きは次第によくなり、

ユニットとしての基礎が出来始めていた。

そして、お互いを知ろうとし始めた。

プライベートの話をする事が増え、学校の話や宿題の手伝い、さらにはお互いの趣味の話を聴き入る事が多くなった。

光がヒーローの話をすると、飛鳥はそのヒーローの存在意義や、敵に対しての存在価値を話しては正義についての議論を始めて光を混乱させた。

また、飛鳥が描いている漫画を光がアフレコごっこをして読んでいるのを、飛鳥が無理やり取り上げたり、二人でラジオのお便りのネタを考えるようになった。

 

 

そしていつもの二人は練習時間よりも

トレーニングルームへ早く来て、飛鳥が描いた漫画を二人で読んでいた。

「飛鳥の描く漫画は燃えないなぁ。

 もっとハッピーエンドで終わるのって無いのか?」

「退廃的なセカイに一筋の希望が残る。

 その希望が輝くからこそ、この退廃さがあるんだよ、光」

「うーん、アタシにはわかんない!でも、何か面白いからいいか!」

飛鳥の漫画の話をしていると、トレーニングルームのドアが開いた。

そこには月島が憮然とした表情で立っていた。

気のせいか、いつもの眼光の強さは和らいでいるように二人は思った。

「月島さん、おはよう!」

「どうしたのさ、プロデューサー。いつもの野性味が消えているよ」

光と飛鳥が月島に声をかけると、大きくため息をつき、下を向く。

が、ネクタイを締め直すと意を決した様に顔をあげた。

眼光が鋭く元に戻っていた。

「お前ら、今から時間はあるか?」

「時間?これから練習があるけど……どうしたの?」

光が聴くと、月島はいよいよ眼光を鋭くし、咳払いを一つすると

 

「お前らの歌を作ってもらう人に挨拶しにいく」

 

と告げた。

しばらくの無言の後、

「えーっ!」

光が叫び声をあげて、月島につかみかかる。

「ちょ、ちょっとまって月島さん!?音楽って誰の?いつの?っていうか月島さんが作るんじゃないの?」

「俺はそういうのを依頼したり、スケジュールを調整するだけだ。もちろん歌うのはお前と飛鳥。4月にはシンガーとしてデビューさせるぞ」

「そうかぁ!初仕事が歌も出せるのか!!良かったな飛鳥!」

振り向いて飛鳥を見ると、

「……」

茫然としていた。光は飛鳥に抱きつき、

「飛鳥!しっかりしろ!!アタシ達のデビューだよ」

「分かってる、分かってるよ。光」

飛鳥は光の頭をゆっくりと撫でた。

しかし、その手は震えている。

「なんだろうね。嬉しいのと同時に頭のシナプスが遅いのかな……ボクには理解できているようで、理解が」

「しっかりしろ!」

大きい音と共に光の両手が飛鳥の頬を挟み込む。

「アタシ達のデビューだぞ!こっから色んな、たっくさんの人達に笑顔と正義と非日常を届けるんだろ!?」

「……」

「飛鳥?」

飛鳥は光の両手を頬から放し、光の額を指で弾いた。

「イタっ」

「分かっているよ、光。ちょっと意識を三千世界に手放したぐらいで大げさなんだから」

「嘘付け!さっきは絶対ショック受けていただろ」

「そんなことはないさ。ボクの意識は遠く銀河の果て」

「お前ら」

空気が冷える。

二人が振り向くと月島の目が鋭さをまし、ナイフのようになっていた。

「三分時間をやる。準備をしろさもなくば……!」

「分かりましたぁっ!!」

「了解!!」

二人は慌てて出かける準備をした。

 

 

 

立川に練習はキャンセルという事を告げ、

車に乗り込んだ二人は前で運転している月島を見た。

明らかにいつもの月島とは違っている。

 

 

二人が知っている社長であり、

プロデューサーの月島といえば傲岸不遜、唯我独尊、話が通じなくとも相手の隙を見つければスジを通し、話をこちら側へ有利に終わらせる人だ。

そして、あまり敵は作らないように相手側にも利益を提供するようにしていると飛鳥は立川から聞いた事がある。

そんな敵はいないといった月島がどこか弱気な顔をしている。

「月島さん、何かあったの?」

「……まぁ、何だ」

月島は二本目の棒付きキャンディを口に入れてなめ始めた。

昔は煙草を吸っていたが、光を練習生にする際に羽音に子どもであり、アイドルの前で吸うのはいかがなものかと注意され、

口寂しいのをごまかすために暇があってはなめている。

「今回会う歌を作ってくれる人は、俺の師匠筋からの知っている人でな。俺がプロデューサーになって始めて直接お願いする事になる」

「へぇ、じゃあプロデューサーも人の子。緊張しているのかな?」

飛鳥の意地悪な口調に、音が鳴った。

月島の口でキャンディが噛み砕かれた音だ。

「俺はあの方は苦手だ」

「は?」

「色々使い走りをさせられた頃、とことんいじりたおされた。確かにいい経験にもなった。腕は確かだ。だが、悪ふざけが過ぎる!!」

月島は、いきなり叫ぶと弱気になったのか

「正直、今でも会いたくない」

と、弱気な声で月島はつぶやいた。

「プロデューサーがそこまで嫌がる相手か。興味が湧いてきたね」

飛鳥が意地の悪い笑みを浮かべる。

「……後悔するなよ」

月島は絞るような声を出し、アクセルを踏んだ。

わずかに車体が揺れると車はスピードを上げて駆けていく。

 

 

 

「ほー、大きいなあ」

光は目的地である分譲マンションにつくと感嘆の声を上げた。

そこは、いわゆる高級宅地で分譲マンションや

いかにも高そうな一軒家が整列されたかのように建てられており、駅が近いのか電車の音が静かに聴こえてきた。

「これはこれは……セレブってやつかな。金の雨が降ってきそうだよ」

飛鳥がマンションを眺めながら呟く。

光と飛鳥からするとマンションは今から冒険に出かける塔のような気持ちだ。

だが、月島は違うらしい。近づくたびに顔に苦み走った表情が深くなり、10歳も年を取ったような顔になる。

「行くぞ」

月島は二人を促すと自動ドアを開け、

マンションの部屋番号を押し、インターフォンを鳴らす。

しばらくの間、無音が続いたが、何かが動く音と共に

「はぁい?」

と、気だるそうな女性の声がインターフォンごしに聴こえてきた。

「お約束していました、月島です」

月島が来訪を告げると、しばらく無音が続いたが

「おお、つっきーか。ロック開けるから入っておいで」

と、入口のロックが開く音が聴こえた。

「月島さん、つっきーって何?」

「俺のあだ名だ。行くぞ」

月島は光の話を遮るように、靴の足音高く入口へ入って行った。光はとまどっていたが、飛鳥に肩を叩かれ、

「人間、誰にだって触れられたくない過去があるんだよ。そう、つっきーにもね」

月島ににらまれるのを無視し、飛鳥に手を引かれ光は中へと入っていった。

 

最上階。

分譲マンションではもっとも高い部屋とされるそこには

「宮形音楽事務所」と書かれた看板がドアに打ちつけられていた。

月島は深呼吸を二、三度するとドアをノックし開けた。

「失礼します」

「うむ、まっとったよ」

奥から中性的だが、年齢の重ねた声が聴こえて来た。

「とりあえず、中へお入り」

その声にひかれるまま、三人は部屋の中に入って行った。

 

そこには白い雪がある。そんな風に光や飛鳥には思えた。

年齢を重ねたであろう、飛鳥のエクステとは違う雪の様な白髪。

深い彫の入った皺に柔らかな瞳とほのかな朱が入る唇。

そして、着物は白を下地に金の帯でまかれていた老婆がいた。

だが、瞳の輝きは少女のまま。

光と飛鳥は同じ世代の匂いのようなものを感じた。

「ごぶさたしております。宮形さん」

「いよう、つっきー。お前があのカッコつけの社長から離れて以来かの」

「はい」

月島は頭を下げたまま目を合わせようとしない。

「で」

宮形は光と飛鳥に視線を合わせる。

「この子達かい。お前が見つけたアイドルの原石ってやつは……お名前は?」

急に名前を聴かれたので、二人はとまどいながらも

「南条光……です。こんにちは」

「二宮……飛鳥です、よろしくお願いします」

名乗り、自然とお辞儀をした。

「うん、つっきートコの子だけあって礼儀はそれなりにできとるね」

「恐縮です」

ひねり出すように月島は言葉を紡ぐ。

重い空気の中、光はちらと視線を外した。

壁には多くの賞状、戸棚にはトロフィーが飾られている。

だがそれよりも、壁に飾られた色あせたポスターに目がいった。

子供の頃に見ていた戦隊モノのポスター。

「バードブレイバーだ!」

「ほう」

宮形の目が光に注がれる。

「そこのちっこいガキんちょりバードブレイバーを知っとるかい?」

「う……じゃなくて、はい!子供の頃、ずっと見ていたから」

「ほほう!それじゃ、オープニング曲も知っとるかい?」

「はい、確か『太陽の下 ボクらは集う 青空再び 舞えるよう』って」

宮形が楽しそうに手を叩いた。

「こりゃ面白い!バードブレイバーのオープニングを知っているとはやるのう」

「アタシ、サビの部分大好きで、子供の頃そこばっかり

 歌っていたって父さんから聞いた事あるんだ」

「そう言われると、ワシも嬉しいな。子供のために作った曲だしの」

「おばさんが!」

光が身を乗り出すと、月島が顔をしかめて光の頭を下げさせる。

「すみません。13歳とはいえ礼儀はしっかり叩きこませたのですが」

「ええよええよ。ワシも礼儀なんてその頃は知らんかったしな。ほれ、そっちの髪の毛がちょっと変なのも本性おだし。お前もカッコつけの匂いがするしの」

愛川に言われ、飛鳥は少し驚いたが苦笑する。

「分かってしまうのか……恐ろしいね。年の甲ってのは」

「お前のそういうのは何人も見たからの。つっきーもその一人よ」

「宮形さん……それは」

月島の情けない声に、皆が笑った。

 

 

 

その後、四人の談話は軽いものになった。

月島が入れたコーヒーを飲みながら、

光と飛鳥は宮形を数年来の友人の様に話し、

宮形もまた子供の様に、時には大人の威厳を示しながら語っていた。

月島だけがたまに昔の事を出されては渋い顔をしていたが、

それにかまわず光と飛鳥は色んな事を愛川に問いかけていた。

「宮形さんって名前変えて曲作ってるの?」

「そうだね。演歌の時はこのまんまだけど、

 他の曲を作る時は別の名前を使っている。

 イメージってもんがあるしの。

 この前も暇つぶしで動画サイトに音楽ソフト使って

 投稿もしたとこだよ。ナントカPっていっぱい若い子が作品を出してるしの」

「面白いね、おばさん。デジタルもアナログもいけるなんて」

「飛鳥だっけ、お前さん。歌作るのはデジタルもアナログも所詮は道具なんだよ。要はどの道具で一番いい音楽が出せるか、ワシはそれだけが楽しみなのよ」

高らかに笑う宮形を光と飛鳥は興味と尊敬の入り混じった目で見ていた。

月島や羽音とはまったく違う大人。それでいて、

子供の部分をしっかりと残している始めての大人に

二人は何かを揺さぶられているような気がした。

 

 

 

「さて、本題に入るかね」

両手を軽く合わせると宮形が光と飛鳥に視線をやる。

光は拳を握りかまえ、飛鳥は口を結び、

エクステをいじっていた手を止めた。

「ワシに曲を書かせる。それはいいとしよう。でも、お前さんらの意見も聞きたい」

コーヒーを飲み干し宮型は言葉に強さを持たせ、問う。

 

 

「お前さんらは歌で何をしたい?」

 

 

「皆を笑顔にしたい!」

光はすぐさま答えた。

「ほう。でも音楽以外でも笑顔に出来るものはあるぞ。落語やテレビの番組。光の好きなヒーローでも笑顔に出来るのう。最近だと漫画キャラの絵のようなアイドルみたいなのも出始めたしの」

「……それでも」

光は拳を固め、宮形に向かう。

「それでも、なんていえばいいんだろ……アタシにしか出来ない、アタシだけが皆に伝えられる笑顔があると思うんだ」

「それは、どんなものかい?」

優しくも厳しい声が返ってくる。

光は何かを口にしようとして固まってしまった。

 

「では光は一度待つとしよう。飛鳥は何をしたいんだい?」

「非日常を」

「非日常。ほう、曲で非日常を出せるかい?」

「セカイは繋がっているようで、途中で切れてしまう。

 ボクだけのセカイもあるし、おばさんだけのセカイもあるとボクは思う」

「それで?」

「人が当たり前のように過ごす日常、その中に、楔の様に……ボクの言葉で……日常から解放……違う……それぞれのセカイ」

「飛鳥」

宮形が途切れ途切れになってきた飛鳥の言葉を手を優しく握り止めた。

「それ以上言うんじゃない。それ以上言うとアンタの言葉が腐るよ。

せっかく面白い素質あるのだから、もっと言葉を覚えな」

「……はい」

飛鳥はうなだれる。何も言えなくなった宮形はため息を吐くと

月島をにらむように見た。月島は首を横に振る。

「こいつらは、まだ13歳です」

「もう13歳とも言えるね」

「いいえ、まだ。です」

月島は力をこめて言い放つ。

「俺はこいつらが可能性の固まりだと信じています。今、宮形さんにはまともな答えは出せませんでしたが、10年後、20年後が楽しみなんです」

「この子らにそこまで芸能界を生きられる強さがあると」

「あります」

月島は低く力強く言う。

「外見がいくら変わっても光は光であるし、飛鳥は飛鳥であると俺は信じています。そして、こいつらの原点であるヒーローと非日常は、必ず誰かに響きます

……かつての俺がそうであったように」

月島の言葉に宮形は黙り、テーブルを指で叩き始めた。

やがて、それがリズムを取り始める。

 

 

「宿題をあげる。それをワシに見せておくれ」

「宿題?」

「どんなの?」

光と飛鳥はわずかに首を上げ、宮形を見る。

「二人のルーツが見たい。二人が自分を自慢できるもの。この際、幼い頃のものでもいい。そういうのを持っておいで」

二人は黙ったまま、宮形を見続ける。

宮形は年に似合わない、白い歯を見せ笑った。

「とりあえず、つきあってあげようじゃないの。二人がどんなものを持って今まで生きてきたかをさ。さあ、今日は帰るんだね。その宿題次第で歌を考えてあげようじゃないか」

 

 

 

帰りの車の中、光と飛鳥は疲れた顔をしてお互いを見ていた。同時に苦笑が浮かぶ。

今日のインパクトはそれぞれ、強すぎるものがあったのが分かった。

「驚いたか」

月島が運転席から声をかけてくる。

「うん」

「ちょっとね、びっくりした。ああいう大人と子供の狭間にいて立っていられる人がいるんだって事に」

「正直、二人は宮形さんに潰される。そういう心配もあったんだがな」

月島はため息混じりに言葉を出す。なめていた棒付きキャンディはもう五本を越えていた。

「あの人は、別に意地悪でああしているんじゃない。下手な歌を作りたくない、その人に合った歌を作りたい。ただ、それだけのために生きているような人だ。

イメージ優先をした俺の師匠ともぶつかりあった事もあったな」

二人は無言で月島の言う事を聴き続けた。歌に命を賭けて生きる。ああいう人の事を言うのだろうかと光は思った。

「多分、そんなもんだ」

「え!?」

光が思っていた事を見透かしたように月島が答える。

「あの人は歌にずっと命を賭けてきた。それは良い事も悪い事も全てだ。俺達が帰った今でも、あの人は次はどんな歌が流行るか考え、今後残していく歌はどんなものかを考えている。人生を歌に捧げている人だよ」

「そっか……」

光は窓に目をやり、遠くを見る。

日はもう沈みかけており、星が空を照らし出そうとしていた。

ふと、星を掴むように手を動かす。

―届かないが、必ず届かせる。

そんな気持ちが光の中に湧いてきた。

「何か負けたくないよね。あのおばさんに」

飛鳥が答える。

「あの情熱に、圧力に、人生そんなに長く生きていたかだと負けるけど、ボクらの今までを出しきって……勝ちたい。そんな気持ちだよ」

「アタシもだ」

光の言葉に飛鳥は微笑を浮かべる。

「宿題、もう出すのは決まってる?」

「決まった!」

「ボクもだよ。整理して、これが二宮飛鳥だ。

 というのを見せつけてやろうと思う」

「アタシも。ヒーローはこんな逆境越えてみせて当たり前だもんな!!」

「やろう、光。あのおばさんに最高の曲を書いてもらうために」

「勿論だ、飛鳥。アタシ達の最強のモノを出してやろう」

光が拳を突き出す。飛鳥は笑って、拳を合わせた。

バックミラー越しにそれを見た月島は口元で軽く笑った。

この二人なら何かをやってくれると。

 

 

 

数日後、二人は月島に連れられ再び、宮形の元へとやって来た。

「で、宿題はやって来たかい?」

「アタシはこれを持ってきた」

光が前に出て、一冊のノートを宮形に渡した。

表紙には大きく『マル秘ヒーローソング』と書かれてある。

「これは?」

宮形がノートを読みながら光に問いかける。

「アタシがいつか歌を歌う時に使いたかったものを書いてあるんだ。

 気に入ったフレーズとか色んなのを組み合わせて歌詞にしてある」

「いつから作りだしたの?」

「子供の頃から」

光は手を大きく広げた。

「アタシは、昔っから特撮が好きだった。ヒーローが好きで好きで、それになりたかった。その時思ったんだ。『歌が歌いたい』と。心の底から、フレーズが湧きでてきたんだ。だから、アタシはヒーローになりたいし、アイドルにもなりたい。そしてもちろん、トップを目指したい。皆を笑顔に出来る事が出来るなら」

光の熱の籠った言葉に宮形はページをじっくりと見つめ、時にはすぐに次のページへとめくりノートを見終わった。

 

「成程ね、ありがとうよ。飛鳥は何を持ってきたのかい?」

「ボクはこれ」

飛鳥は何枚の紙を宮形に渡した。

「今まで描いてきた漫画やラジオで

 投稿したメッセージを文章に起こしてきた」

「ふむ。なんで、これを持ってきたのかい?」

「ボクは……非日常が好きだ」

飛鳥は口を軽く噛むと静かに語りだす。

「ラジオの聴いている瞬間、漫画でしか語れない非日常が好きだった。

アイドルも偶像で非日常的なモノだとボクは思っている。

それで、ボクの一番日常に近くて非日常なモノをおばさんに見せらればって思い、持ってきた」

無言で宮形は飛鳥の漫画やメッセージを

プリントしたものを見続けていた。

時には、光が書いた作詞ノートと見比べたり、

もう一度見返したりしていた。

 

 

二人にとって、長い時間が立ったように思えた。

宮形は両方とも見比べるのをやめると大きく息をした。

「成程、つっきーのいうようにまだ13歳だね」

薄く笑みを浮かべると二人に目をやる。

「幼稚で、雑多。アイドルとして輝けるものがあるかどうかは分らない……でもね、可能性は見える」

「それじゃ……!」

「いいだろう。今回は大目に見て二人の曲、書いてあげるよ」

「やったぁ!!」

宮形の言葉に光と飛鳥は手を合わせ打ち鳴らす。

月島はほっとしたような顔をし、深々と宮形に一礼した。

「ただし、歌うからにゃ、ちゃーんとした結果を出してもらわないとね。

ま、新人アイドルだ。CDランク400位、もしくは音楽購入ダウンロードサイトで1500ダウンロードくらいは入ってもらおうかね」

「入る!絶対、入ってみせるよ!」

「見せてあげるよ。おばさんが言ってたボクらの可能性というのを……!」

興奮して二人は詰め寄るように愛川に答えた。

「若いっていいねえ。これは、ワシもちゃんとしたのを作ってやらんとねえ

 ……いい子を見つけ、育てたね。つっきー」

「ありがとうございます。でもそれはこの二人のいいところあってですよ」

「さてさて、どうなるか。あぁ、それと光」

「何?」

「このノート。今からでもずっと書き続けなよ。今回ワシが作るところもあるが、

 成長した光はまた別のヒーロー像を描くかもしれない。その時、またこのノートは進化していくからね」

「分かった。必ず書き続けるよ!」

ノートを受け取りながら、光はうなづき続けた。

「飛鳥も漫画は描き続けなよ。別に漫画家になれってワケじゃないけど、

そのラジオのメッセージと漫画はいつかアンタがそのカッコつけを辞める時、何かのよりどころになるだろうしね」

「残念ながら、この中二は辞める気は無いよ。でも、そうだね。ヒマがあったら描き続けるよ」

二人の様子を見て、宮形はうなづいた。

「ところで、この二人のユニット名決まっているのかい、つっきー」

「決めています」

 

月島の言葉に二人は驚いた顔を見せる。

「月島さん、いつ決めたの?というか、ユニット名とかあったのか!?」

「そういうのはボクらにも相談してほしいよ。プロデューサー」

二人が詰め寄るのを両手で軽く抑えると月島は咳払いを一つして、

 

「この世界、日常と非日常が混ざり合っている。

 明日、どんな事が起こるか分からない。

 そんな不安な日を抱えている人達に

 光になれと願いを込め―」

月島は一度、言葉を区切ると

 

「『TOMORROW BRIGHT』

 二人のユニット名はこれでいこうと思います」

 

 

これが、南条光と二宮飛鳥が明日の光になった瞬間。




難産致しましたが、何とか続きを書き終えました。
また、続きを出来ればと思いますので、面白いと思っていただければ
幸いです。

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