明日の光とつがいの二羽   作:雪白とうま

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第二十二話

 光はあ然とした。

あの飛鳥が泣いていた。

あまり感情的にならないと思っていた二宮飛鳥が。

夏の希実の時ではなく、理屈じゃなく感情で月島を叩いた。

「こうなる事は、覚悟していたが」

月島が頬を押さえながら、ため息をつく。

「さすがに響いたな。感情のこもったいいビンタだ」

「そんな事いい時じゃないだろ!」

飛鳥は、月島の襟をつかみ叫ぶ。

「どういう事だよ!?アタシ達はヒーローになるためにここまで来たんだぞ!月島さんは、その夢を潰すのか!?」

「違う」

月島は、首を横に振った。

「でも!」

「光ちゃん」

羽音が、光の肩に手を置く。

「社長の話も聴いてあげて」

「……」

光は歯を食いしばると、座った。

 

 

 

月島は飴を取り出し、口に含む。

「まずいきなり解散と移籍の話を出したのは俺が間違っていた。

飛鳥の繊細さを見誤ってたな、すまない」

月島が深々と光に頭を下げる。

いつもの月島らしくないと思いながらも、光は声を出す。

「でも、何で?」

「そうだな。まず、美城プロは知っているか?」

「うん、あの大きなお城見たいなイベントとかあったり、アイドルがいるところだろ」

「そこからオファーが来た。光と飛鳥を美城プロに移籍させる気はないかと」

光は、驚いた。

「俺は、始めは断ろうと思った。だが、この前のラジオや飛鳥がお前のためにヒロインになると決めたのを見て、俺は」

月島は、苦笑を浮かべる。

「自分勝手な夢を見た。お前らが、それぞれ成長しまたいつかユニットを組んだ時に世界を沸かせる事が出来るんじゃないかってな」

「でもそれは、月島さんのところでもいいじゃないか!!」

「そうだ、光。それは分かってる」

祈るような仕草で額に手をつけた。

「だが、ここはお前らには狭いと思ってしまった。

 俺ひとり、いくらコネクションがあってもしょせんは小さな村でしかない。

 だが、美城プロは……城なんだよ。

 お前達が踊るにふさわしい場所なんだ」

「そこに、アタシたちが」

「いや、お前と飛鳥だけじゃない」

そういう月島に横にいる羽音を見る。

「羽音さんも?トレーナーとしてって事?」

月島は、首を横に振った。羽音に目をやる。

「もう、『調律』は終わったか?」

「はい、何度か森に行った事で何とか。ノイズも消えました」

「じゃあ、もういいだろう」

 

 

月島は飴をなめ終えて、棒をゴミ箱に投げ捨てる。

 

 

「『梅木音葉』に戻っても」

 

 

 

「え……?」

羽音は眼鏡を外すと束ねていた髪を外した。

「え、えぇぇぇぇぇ!?」

光の叫びに音葉は、微笑みを浮かべた。

「黙っててごめんなさいね。私も貴方と『同じ』なの」

確かに金髪で海外の人っぽいと思っていた、

でも今の羽音、いや音葉はどこかファンタジーに出てくる人のようだ。

「別にアイドルがアイドルを育てて悪いという事は無いしな。今じゃ当たり前だ」

「え……でも、羽……じゃなかった梅木さんは何で、プロデューサーのところに?」

「それは後で。で、どうするんですか、プロデューサー?飛鳥ちゃんの声は灰色に染まってますよ」

音葉のとがめる声に、月島はため息を大きくはいた。

「そうだな。だが大人の事情を語ってもアイツに届くだろうか?」

音葉は、眉をあげると

「何を言ってるのですか?いつものプロデューサーなら言うでしょう『届かせろ』って」

「……そうだな」

月島は、腰をあげるとネクタイを締め直した。

「準備してくる」

 

 

屋上。

いつものように灰色の空に雪が降っている。

「寒い……な」

飛鳥は、口の端をあげて震えた。嗤っているのだろうか、自分にはそう思えた。

「非日常も壊され、日常にも戻れずいっそのこと雪のように消えるそれもまた」

 

 

「いいわけねぇよ」

 

ドアが大きな音を立てて開けた。

 

 

 月島は飛鳥を見た。始めコピー機で漫画を描いていたどこか虚ろな目。

それでも、何かを発露したいという何かがある。

 

「なんだい?キミにはもう用事は無いはずだよ」

「無くても、俺にはある。お前と光、そして羽音

 ……いや、音葉を舞踏会に連れて行く。それが俺の役目だ」

「勝手だね……!」

泣きそうでどこか、怒りがこもった声を飛鳥は喉の奥から絞り上げた。

「急に終わりにしたいとか、やりたい事があるとか大人はいつも勝手だ!だから、ボクは取り残されるんだ!!」

「……」

「何だよ、言ってみろよ、プロデューサーなんだろ!?いつものように横暴で!無謀で!自分勝手で!言ってみろよ!ボクに合うガラスの靴を出してみろよ!!」

 

飛鳥の言葉に、月島は指を1本立てる。

「飛鳥、一つ聴く。今のお前に『冬』は聞こえているか?」

「……え?」

「聞こえているかと言っている!」

 

 

少しの沈黙の後、飛鳥は何か言おうとして口を噤んだ。

月島は、目を伏せて下をうつむいた。

(俺の声は届かないか……)

月島がそう思った瞬間、

「あすかぁ!!!」

光は駆け出し、階段を飛び上がるように登りながら叫んだ。

飛鳥の手を力強く握ると、光はもう一度言った。

「なぁ、冬は聞こえるんだろ!?月島さんにいいたくないだけなんだろ!?」

飛鳥は目を見開くと、手を振りほどこうとする。

「いいだろ、そんな事!」

「よくないぞ!!アタシがカッコいい二宮飛鳥はそんなのじゃない!」

「それは、キミの勝手な思い込みだろ!」

「そうだ、アタシの思い込みだ!でも、一つ言える」

光は離さない。

「アイドルの誓い、好きなものは、好きだと伝える事!に加えてもう一つ」

飛鳥に光は顔を近づけて叫ぶ。

「『嫌なものは嫌という!』これもあってもいいと思うぞ!!」

「な!?」

月島は驚き、音葉は苦笑を浮かべながら月島の肩に手をやる。

「アタシになら言えるだろ!

 ヒロインが困ってるなら何度でも聴くのがヒーローだ!」

「うるさい!もう、ボクはキミのヒロインでもないんだ!!」

「でも、飛鳥はアタシのユニットだ。今でも、これからも!ライバルでも構わない!!」

「でも、でもボクは……」

光は額を当てて飛鳥にささやく。

「なぁ、この世界に非日常をぶつけるんだろ」

光は、小さくそれでも強く伝える。

 

 

 

「そうだろ、My close friend?」

 

 

飛鳥は、驚いた。

 

一瞬かもしれない、

偶然かもしれない、

間違いなく光の言葉はネイティブの話に近く、そして飛鳥の心に光を刺した。

「は、ハハハ……」

飛鳥は苦笑を浮かべる。

光にはいつもの飛鳥に戻った、そんな気がした。

「とりあえず手を離してくれないかな。暑苦しいし、痛いよ」

「あ、ご、ゴメン!!」

光が手を離すと、飛鳥は光の手を握った。

光も飛鳥の手を握り返す。

「そうだね。あんなプロデューサーは見限ってボクらも次のステージにいこうか」

「あ、ああ、行こう。行こうよ!」

飛鳥は苦笑を浮かべる。

だが、いつもと違って目から静かに涙が流れていた。

「飛鳥ぁ……泣くなよぉ」

「さっきからずっと涙を流しながら笑ってるキミの方がイタいよ、光」

「ヒーローは泣きながらでも戦うんだぞ」

「やれやれ、意地っ張りだなぁ。生理的には嫌いだけどが敬意は示すよ」

飛鳥は左手を離すと、光の涙をぬぐった。

光も、空いた手で飛鳥の涙を払う。

「あぁ、でも。ちょっといいかもね」

「何が?」

「いや、ヒロインの立場が。こう、助けに来てくれるのがいるのは……いい事かもね」

飛鳥は、光の胸に顔を埋めた。

「ありがとうボクだけのヒーロー。不条理な黒き闇を癒やしてくれて」

「こちらこそ、ヒロイン!だってアタシはヒーローだもの!!」

二人は、泣きながら笑った。

 

 

これが南条光と二宮飛鳥が飛び立とうと決めた冬。




ご無沙汰しております。
少し余裕ができましたので執筆致しました。
エタっておりましたが何とかいけそうです。

次回で最終回です。
そこで、デレマス本編にお返しするようにさせていただきます。
よろしくお願い致します。

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