12月24日、クリスマスイブ。
「雪でも降ればロマンチックな光景になったかもしれないのにね」
飛鳥は残念そうな口調で空を見上げた。光はそんな飛鳥の背中を軽く叩き
「いいじゃないか、雲一つない、青い空!アタシ達らしいと思うぞ」
「光には合うかもしれないけど、ボクはどちらかというと幻想の中に生きるモノだから違うと思うけどね」
「そんな事言わない!なんにせよ、お客さんが待っているんだ。行こう、飛鳥!」
飛鳥は衣装のコートを着なおすと小さな笑みを浮かべる。
「キミといると冬の寒さもどこかいってしまいそうだね。分かった、行こうかヒーロー」
「頼むよ、ヒロイン。いや、今はダークヒーローか」
二人は会場へと駆けだした。一年前より少し大きくなった会場では観客はいっぱいだ。
今日はクリスマスイブ。ヒーローもダークヒーローも戦いを止め、平和に過ごすというコンセプトの元ライブが行われた。
とはいえ二人は14歳。遅くのライブはできない。しかも、今年は平日だ。それでもなんとか二人を見ようといつもの観客だけでなく
新しいお客さんも増えていた。
『メリー・クリスマース!』
二人の叫びに歓声が返ってくる。二人の衣装もいつもと違いサンタ風にアレンジした赤と白の衣装、そして緑のワンポイントをおいたアクセサリが目立った。
「ようこそ、聖夜……ってまだ聖夜じゃないか、いいや楽しいクリスマスのイベントへ」
「今日は非日常の中でもっとも俗世と離れる身。皆が優しくなれる日、冬の値が聞こえる日。そんな時間を味わってほしい」
「それじゃ、熱く」
「クールに」
『一曲目、いこうか!』
伴奏が聞こえ、二人の声のハーモニーが流れ始めた。
「本気で考えているのかえ、つっきー?」
「本気です。あの子達が羽ばたくためには、ここの籠はせますぎる」
「籠が気持ちよいときもある。時にそれをムリに出すのは鳥を殺すことにもなりかねない、それを知っての上か?」
「ここ一年、あいつらは俺が思う以上に伸びてくれました。ならば、俺個人だけでは伸ばしきれないものもあると思うのです、宮形さん」
愛川はため息を付き、小さく手を差し出した。月島はタバコを差し出し火をつける。月島も火をつけお互い紫煙を吐いた。
「ワシもあの子達に歌を提供するのが楽しみだった。そりゃあ、まだまだだ。でもつっきーが言った通り十年先も芸能界で生きていける。
そう信じられる力が見えてきたとこじゃぞ」
「だからこそです。ご存知ですか?あいつらのネットラジオで外国人のリスナーがいる事を」
「ワシも知っておるわい。一リスナーじゃしの」
「ならば、あいつらは世界を動かすヒーローに、そして非日常を見せられるものになるかもしれない。それはアイドルという枠をも超えて」
「……」
宮形は大きく煙を吐くと、携帯灰皿にタバコをもみ消した。
「そういえば皆、アタシ達のラジオ聞いている人手ぇあげてっ!おおっ、いるいる!」
「知っての通り、何故かボク達のネットラジオはワールドワイドだ。そんなわけでこんなの用意したよ」
飛鳥はホワイトボードに世界地図を張り付けたのを持ってきた。
「この色がついているのが今まで報告があった国の人達。その数……35」
「多いのかな?」
「日本のマイナーアイドルのラジオにしちゃ多いと思うけどね。そこで、今日のための新曲を……用意しましたっっと」
拍手が起こる。
「そうそう考えたんだけどさ。海外じゃ別かもしれないけど、日本じゃ一つのお祭りなんだよね」
「厳粛な人は眉をひそめるかもしれないけど、今日は優しく隣の人を愛おしむ。そんなつもりで聴いてほしい」
「それじゃ、歌います」
『深夜には君と隣に』
夜、光と飛鳥は二人で街を歩いていた。夕食のチキンやケーキはトレーナーの立川が用意してくれているので自然と足が速くなる。
「あぁ、羽音さんの料理楽しみだなあ」
「相変わらず、食い気だね。光は」
「いいじゃないか、ヒーローは体が資本なんだから食べなきゃダメなんだぞ」
「ボクは少しでいいよ、腹八分がちょうどいいというしね」
「飛鳥はもう少し食べたほうがいいと思うけどなあ」
そんな話をしていると、雪が降ってきた。二人は無言のまま歩くが、自然と手を繋ぐ。
「去年だったよな。冬を聞いてたの、飛鳥が」
「あぁ、そしてボク達はヒーローであり、ヒロインになる事を決めた」
「……これからも続くといいな」
「続けるさ。ボク達ならもっと多くの人に。そして、光。君ならその名の通り多くの人の希望のヒカリになれるさ」
「それは飛鳥がいるからだよ」
「ボクも同じさ、光」
二人は空を仰いだ。雪はさらに降り続けていた。
「メリークリスマス、飛鳥。これからもよろしくヒロイン」
「メリークリスマス、光。続けていこう、ヒーロー」
二人は静かに歩いて行った。
―これが南条光と二宮飛鳥の一年を過ぎた繋がり。
―そして
「はい、月島です……ええ、分かっています」
「ありがとうございます。では、二人の受け入れを」
「ええ」
「……分かっています。美城プロと我々のイメージは違うという事を」
「来年、話すつもりです」
「二人の移籍と、ユニットの解散を」
-終わりの始まり
PC破損等いろいろありまして、新作が遅れた事をお詫びいたします。
これは決めていた事です。
最後までしっかりと、そしてちゃんと二人の歌が色んな人に光をともす事を書ければいいと思います。
よろしくお願いいたします。