明日の光とつがいの二羽   作:雪白とうま

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第二話

「冬?」

月島は不思議そうな顔で二人の顔を見た。

「うん!何かこの子屋上で見かけたんだよ。そしたら

『冬を聴いている』って言っていて」

そう光が言うと、月島は顔をしかめた。

「飛鳥……またお前の悪い癖が出たな」

「そうは言うがね、プロデューサー。

ボクは己のパトスに逆らう事は出来ないよ」

飛鳥と呼ばれた少女はどこか得意げに、白い髪をひとふさかきあげた。

「さて、話を変えようか。その小さい子がボクのバディとなる子なのかな?」

月島はため息をつくと、親指で光を指さす。

「そうだ、名は南条光。小さいがお前と同じ13歳だぞ」

「そうだそうだ。小さいけど……ってええ!?」

光は飛鳥を指差しながら口をぱくぱくと空けていた。

「13!?アタシと同じ!?」

「そうだけど……あぁ、ひょっとしてこう思ったのかな。こんなイタイやつが同い年なんて」

 

 

「かっこいい!」

 

 

「え?」

予想外の言葉に固まる飛鳥。

「なんかさ、ダークヒーローっていうのかな!?

 アタシが目指すヒーローとは違うけど、

 途中から敵から仲間に加わったり、一人で戦ってたのに突然仲間になったりする  

 ヒーローみたいだ!」

早口でまくしたてるこの少女は飛鳥はこの子を真正面から相手にすると疲れる。そんな顔をしていた。

「……まぁ、君がそう見えるのならボクはそうなんだろうね」

「そうかもしれんが、飛鳥は独りになりすぎる。

たまに孤独と孤高を履き違えてないか不安だ」

「それはないさプロデューサー。

でも、孤独と孤高は血液型が違う双子のようなものだよ」

「お前がそう思っているならばそれでいい。

 では改めて紹介しよう、こちらは二宮飛鳥。

 さっきも言ったが光と同じ13歳だ」

月島は苦い顔をしながら、飛鳥の白い髪のひとふさを掴む。

「まぁ、この歳にありがちな『中二病』ってやつでな。

 何かと行動に意義や思想を持ちたがる」

「あ、あのう。『中二病』ってなんですか?」

ずっと会話の外にいた、トレーナーの羽音がおそるおそる手を上げて質問をしてきた。

「分かりやすくいえば、『かっこつけたがり』だ。

 光、お前の同類かもしれんぞ」

「そうかなあ?」

光は首をかしげて考えたが、特に何も浮かばなかったので笑顔を浮かべた。

「ま、デビューと仕事が入るならいいや!

 アタシは飛鳥がパートナーでいいよ」

飛鳥は、月島の手をさらりと払うと苦笑を浮かべる。

「ボクは君の事をまったく知らないから困るんだけどな

 ……それに君だってボクの事を知らないだろ?」

「知らなかったら、今後覚えて行けばいいし、

 なんなら今から教えてもいいぞ」

「え?」

飛鳥が言い終わる前に光は大きく息を吸い、

「名前は南条光!

 歳は13歳!

 うどんがおいしい徳島県出身!

 月島さん紹介の私立の中学校通ってる!

 身長は140センチあるからちっちゃくないぞ!

 体重は筋肉多め!

 好きなものは特撮!特に超人もの大好き!

 好きな食べ物はお肉もそうだけど立川さんが持ってきてくれる

 特製カレースープ!

 当然、目指すはアイドルだけど」

光は早口でまくしたて、そして指を一本高く上げ

「アタシはヒーローになりたいっ!!」

そう力強く宣言した。月島と羽音はまたかという顔をしている。

「光ちゃんの名乗り、相変わらずですねえ」

「というか、アレ以外のアピール方法を考えられんのかあいつは」

飛鳥は何か珍しいものを見たという顔をしているが、

苦笑交じりに笑った。

「ボクは二宮飛鳥、飛鳥でいい。好きなのは、ラジオを聴いたり、漫画描いたり……後は、セカイを観測する事かな」

「その白髪は?」

「ウィッグを知らないのかい?」

と、片方のウィッグを飛鳥は外し、光の前にぶら下げる。

「ほんのささいな反逆さ。日常へのね」

「……なんか、狐のしっぽみたいだな」

光の呟きに月島と立川が吹き出す。飛鳥は理解のなさに口を少し尖らせた。

だが、また不敵にな笑みに表情を変える。

「見せてもらうよ光。キミがボクにどんなセカイを見せてくれるか」

「ああ、よろしく飛鳥!」

飛鳥は光に右手を差し出した。光は笑顔で握り返した。

 

 

 翌日から光と飛鳥は羽音の指導の元、

同じトレーニングを始める事になった。

光の唯一の不満があるとすればヒーローごっこにも似た

アクショントレーニングを

「ナンセンス」

の一言で片づけられた飛鳥の意見により、

しばらくは自主練習だけでする事になった事だ。

月島はユニットでの売りだしを考えているのか

二人の歩調を合わせるのを優先する事にした。

個性の強さはと二人は聞いたが

「お前らはありすぎだ!」

と、月島の一言で片付けられた。

 

 クリスマス・イヴと世間は騒がしい中、

二人はダンスの練習をしている。

「はい、飛鳥ちゃん!余計なスピンかかってるわよ。

 脚は木の根っこをイメージ!」

「光ちゃん、動きが単調!もっと腕をあのイエローのように大きく動かす!

 ただ回すだけじゃいけないわよ」

立川の指導にも熱がこもっているのがわかる。

光は一人の時もっと自由にやれたような気がする。

少しきゅうくつだ。

だけど、飛鳥が入って来たおかげでどこかアイドルっぽくなった気もするなとも思っていた。

飛鳥のダンスは独学なのか、綺麗ではあるがどこか無駄が多いと、立川からいつも指導を受けている。

飛鳥も息を上げながら、二人の連携をよくしていく事にとまどっているようだった。

 

「はい、休憩!」

立川が大きく両手を叩くと光も飛鳥も糸が切れたように倒れ、

ペットボトルのぬるくなったスポーツドリンクを一気に飲み干していく。

外はクリスマス・イヴで賑やかになっているのにここだけが切り取られた世界のようになっていた。

「あー!今頃、ヒーローショーでクリスマススペシャルとかやってるんだろうなぁ!!生放送で見たかったー!」

「日本人は何かとお祝い事に特典をつけたがるからね。

 光も何かあったのかい?」

「いやぁ、ただ、今やってるヒーローが世界の偉人だっけ?その力を使ってるんだよね。だからサンタクロースバージョンとかあるのかちょっと期待してた」

「聖ニコラウスが極東でヒーローの元になるなんて、

 誰が予想しただろうね」

「聖ニコ……何?」

「サンタクロースの元になった人さ。もっとも、今のボクらはニコラウスの脚元にも及ばない。夢を見せられるなんて先の先の話だ」

お互いにスポーツドリンクを飲み干し、

同時にため息を吐く。

「そういえば、飛鳥ってさ。何でアイドル目指そうと思ったのさ?」

「ボク?」

飛鳥はしばらく考え、やがて苦笑を浮かべると

「学校と家以外に居場所を作りたかったからだよ」

「ん?それって、どういうこと?」

「非日常を味わいたかった。そんなとこかな」

飛鳥は微笑を浮かべると、さてと、言って立つ。

「さて、次はどうすればいいかなトレーナー!」

「お、飛鳥ちゃん元気になったね。 次はボイストレーニングをします。二人の声がちゃんと合うとこを見つけないとね」

「ボイトレか。光の声は大きいからなぁ」

「そういう飛鳥の声が小さいんだよ」

「大きければいいってもんじゃないよ、光。一定の音を越えればそれはノイズだ」

「でも」

「はい、それまで」

手を大きく叩いて二人の言いあいに羽音が入り込む。

「お互い弱点はあるわね。でも、良さは確かにある。それを意識してやってみようか」

二人は返事をすると姿勢を正す。

よい声はよい姿勢から、何度も羽音に言われた事だ。

「まず光ちゃん」

光は腹に力を込め、声を出していく。

元気などこにでもある声だ。

「次、飛鳥ちゃん」

飛鳥が声を出した。光よりかは弱いがどこか機械的でもあり、何かをひきつける声だ。

「光ちゃんはちょっと小さく、飛鳥ちゃんは大きく出して」

それぞれの声が変わっていく。光も飛鳥も腹から空気が全て出て行き、胸に痛みを感じていた。

―その瞬間

 

『あ』

 

繋がった。

二人の声がちょうどいいところに合ったのが

何となく分かった。お互いの顔を見合わせる。

羽音は笑みを浮かべると、

「よし、分かったわね。さっきのところ、もう一度やるわよ」

 

 

この後、何度も繰り返し二人は声を出してきたが、

同じ感覚を味わったのは一回も無かった。

 

 

何度も繰り返す事。でも休むことも大事。

それを羽音に言われた二人は練習を終えたが、

やりきれないのは一緒だった。

 

 

練習は22時を回った。

雪はまだ、少しだけ降り続いているので月島が車で二人を送る事になった。

「なんか、悔しいよな」

「そうだね。そして、なんだかつまらないよ」

「焦る事はない。日々練習し自分を、そして余裕が出来れば相手の事を考えろ。そうすればおのずとユニゾンしてくるものだ」

バックミラーごしに見る月島の眼は鋭かったが、言葉は優しかった。

光は軽くうなずくと窓の外を見る。

黒い闇の中、白い雪が静かに舞っていた。何故かそれを見ていると光のやるせない気持ちは癒されるような気がした。

「今日は雪の下、どんな愛の言葉が舞っているのだろうね」

「お前もいずれその言葉を誰かに伝えるのかもしれないぞ」

「明日の事も分からないのに、遠い未来の事は分からないよ。プロデューサー」

飛鳥も静かな笑みを浮かべ、窓の外を見ていた。

「なぁ、飛鳥……アタシ達これからだよな」

光が珍しく弱気な事を言う。

「そうだね。

でも、ある映画の台詞を借りるなら

『始まってすらいない』のかもしれないよ」

その言葉に飛鳥は小さく笑う。

「そうだな。アタシ達、今日が最初の一歩だもんな」

「そうだね。偉大なる一歩かもしれないけど」

「ヒーローにとっての一歩か……!」

光は拳を握り小さく、強く呟いた。

「あ、でもボクはヒーローになる気はないよ」

「ええっ!?」

光は顔を歪めて、飛鳥の方を向く。

飛鳥は、いたずらっぽいく笑みを浮かべて指を一本立ていた。

「ただ偶像としてのアイドルは興味あるけどね。

 ヒーローは光にまかせるよ」

「そんなぁ!飛鳥もヒーローになろうよ!

皆を笑顔に出来るんだぞ!」

「アイドルも笑顔に出来ると思うけどね」

「ヒーローは正義も教えられるぞ!」

「正義は人それぞれにあるからね。

そんなものに興味は無いよ」

「でも!」

「……お前ら」

二人が言い合いをしていると、空気が冷えるような声が前から聴こえてきた。

「それ以上うるさいと、ここから歩いて帰らせるぞ」

「う、ううっ!それは」

「勘弁願いたいかな……」

月島の一言で二人は押し黙った。

しばらくの無言が続く。

「……ふふっ」

飛鳥が急に笑った。

「へへっ」

光もつられて笑う。何故おかしいのかは分らないが、

同じ理由で笑っている気がした。

 

「それじゃ、明日から休みだ。風邪は引くなよ」

「分かってる!でも、元気がとりえなのは月島さんも知っているだろ?」

「俺が心配しているのは光が学校の宿題をする事なのだがな」

「ど、努力する」

「光、勉強は学生の課せられた鎖だよ。

 ボクら自身でひきちぎらなければいけない」

「そういう飛鳥も心配なんだがな、俺は」

「……プロデューサー。お願いなんだけど

二人で勉強教え合うというのは出来るかな」

月島はため息を一つはくと

「トレーニングルームの鍵を立川に渡しておくから二人でやれ。分からないところがあれば立川に聴いてもいい。

ただし、必ず正月の休み明けには終わらせろ」

「やりぃっ!ナイスアイディアだぞ、飛鳥!」

「まぁ、知恵を出し合う事はいい事だしね」

光はシートベルトを外し、車の外に出た。

「それじゃ、メリークリスマス!飛鳥!月島さん!」

「メリークリスマス、光」

「じゃあな」

三人はそれぞれの挨拶をかわす。月島の車は飛鳥を乗せて去って行った。

「……なんか、わくわくしてきた」

光の目の前には真っ暗な空がある。

しかし、空の雪が、その白さとまぶしさが、

自分達の行き先を祝福してくれているように思えるのだ。

「やるぞーっ!!」

 

これが、南条光と二宮飛鳥の始めの一歩。




二話目になります。書き溜めはここまでとなりますが、なるべく早く、もしくはSS等を混ぜながら書き続けようと思います。
ご指導ご鞭撻の程、よろしくお願いします。

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