「さぁ、世界に響かせようか、ボク達の声を」
「アタシ達の思いを!」
「『Tomorrow Bright』ワールド」
「ブレイバー!!」
光と飛鳥の声がマイクを通して響き渡る。光はスタジオの外をちらと見ると月島が苦笑を浮かべながら手を下に下げていた。
もう少し音量を落とせという事だろう。音量は落とすが元気さは落とさない。光はそう思い笑みを浮かべ合図を送った。
「改めまして、元気してるかい!?南条光です」
「こんにちわ。聴く人によってはこんばんわかもしれないし、おはようございますかもしれないね。二宮飛鳥だよ」
「これでもう8回目。いやー、アタシ達の声が世界に届くなんてびっくりだな」
「日本語が分かる人じゃないと聴かないからどうかわからないけどね」
「そう言わない!さて、アタシ達『Tomorrow Bright』をもっと知ってもらおうとこアタシ達の秘密基地より発信中!」
「秘密基地って……まぁ、貸しスタジオだけどね。ボク達のライブやイベントに来られない人達にもボク達のセカイを知って欲しいと始めた番組だ。出来れば、日常を忘れて、この時間だけ非日常を味わってほしい」
「それでは、皆。今日も張りきっていってみよー!」
光は拳を上げる。飛鳥は苦笑を浮かべながらも、ボールペンで台本に次に何を言おうかと書きだしていた。
時間はさかのぼる。
光と飛鳥、月島と羽音といつものメンバーが集まり、次は何をしようか考えていた。ホワイトボードには四人が出し合ったアイディアが幾つも書かれている。
「ねぇ、プロデューサー。ラジオとか出来ないかな?」
飛鳥が口火を切った時、月島はボードに書いた後、しばし動きを止めた。
「何らかのタイアップ、もしくはスポンサーがつければ可能だな。だが、まだお前達の実力で声がかかるのは難しいな」
「そうじゃなくてもさ、ボク達だけでも出来ないかい?今、サブカルでは動画サイトで自分の音楽や趣味を披露しているのは当たり前じゃないか」
「確かに、私達はそこの部分は遅れてるかもしれませんね」
羽音も相槌を打ち、考え込む。
「確かにそういう面は俺達は手を出して無かったな。光、もしお前がラジオに出たら何を喋る?」
「今週のヒーロー番組の感想!」
光はすぐさま答えた。
「……それじゃ、普通のアマチュアと変わらんぞ」
「んーじゃあ、今やってるアクションの練習とか、今見ているヒーローの話とかかな。それに月島さん。アタシ、ヒーローの感想っていっても、ちゃんと見ていない人にも楽しめるように話せる自信はあるぞ」
光が鼻息荒く語る。
「ボクが昔聴いていたラジオでも、ドラマの感想とか今の世論を面白く語っていたパーソナリティはいた。光なら特撮語らせたら面白いんじゃないかな」
飛鳥が助け舟を出すと月島は軽くうなづく
「まぁ、光の話は見ていない特撮がある俺でも分かるように教えてくれるので一理ある。飛鳥、お前は」
「ボクが語るのは決まっている。非日常の事さ」
「具体的には?」
「日常の中でもちょっとした非日常の事は起こる。トラブルだったり、季節の変わり目を教えてくれる事だったり。そういうのを語りたい」
「ファン以外に需要がある話は出来るか?」
「もちろん。ボクのセカイに引き込ませる自信はあるよ」
月島はあごに手を置くと少し考え込む。
「スタジオか。カラオケボックスで収録するという手もあるが……いや、待てよ」
月島は懐からアドレス帳を取りだし幾つかのページを見るとペンでチェックを入れた。
「いいだろう、スタジオのアテは俺が探す。今から出かけるので三人でどういう番組が聴いてもらえるか考えろ。聴いてもらう以上は日本だけじゃない。世界も考えておけよ」
笑みを浮かべると月島はミーティングルームを出た。残された三人は互いに目を合わせうなづく。
三人の話しあいは20時まで続いた。
そして、月島のツテで貸しスタジオを借り今、収録をしている。予算の無い事務所としては安くおさえるためレンタル時間も少なくし、下手なNGは出せない。
しかし、出来うる限りの面白いものを話したい。二人は必死にメールを整理し、次の読むお便りを探していた。
「さて、次のお便りだ。ペンネーム『ワイルドホーク』さん。いつもありがとう」
「この人、アタシの好きな特撮のツボ知っているからすごいよな」
「『お二人ともこんにちは。また特撮の話を送らせていただきます。私が子供の頃に放映していたメタルヒーローのフィギュアを発見しましたので購入しました』
写真付いているけど、凄いね。素人目でもよく作られているのが分かるよ」
「これ、アタシが産まれる前のやつだ。とどめのフラッシュブレードがかっこいいんだよなぁ」
「『ところが、我が息子(3才)がすごく気に行ってしまい、私より息子が振りまわして遊んでおります。高い買い物だったのでヒヤヒヤするのと、親としてはやっぱり子供に遊んでもらいたいという気持ちが重なって複雑な気分です』そりゃ、大変だ」
「ヒーローは子供の味方だからな。ワイルドホークさん、子供にあげて別のフィギュアで一緒に遊ぶとかどうかな?」
「その内、二人で作品を見られる事もあるかもしれないしね。親子で話が共有できるのは素晴らしい事だと思うよ」
「後日談も聴いてみたいな。また、お便りよろしくっ!さて、次は……お、いつもの子だね『おひさまの妖精』さんありがとう。『光ちゃん、飛鳥ちゃんこんにちわ』」
「はい、こんにちわ。この前のメールに添付してくれた夕日の写真、よかったよ。ボクの琴線に触れたね」
「『そろそろ冬が近づいてきました。お二人は風邪ひいていませんか?』アタシは元気だぞ!子供は風の子って言うしな!!」
「光は別の意味でひかなそうだね」
「それ、どういう意味だよ!?」
「まぁまぁ、ボクもちゃんと暖かくして過ごしているから元気だね」
「『この前、友達が風邪を引いて学校を休んだのでお見舞いにいったら、わたしにうつってしまい学校を休んでしまいました』あらら、大丈夫かな?」
「それはアンラッキーだね」
「『でも、ちょっと嬉しかったのがお母さんが優しかった事、お父さんがいつもより早く帰ってきてくれた事、そして、果物をたくさん食べられた事です。
果物をいっぱい食べられるなら風邪を引くのもいいかなってちょっと思っちゃいました』こらこら、いけないぞ。元気なのが一番!」
「あぁ、でもボクも理由を付けては小学校休んでいたからね。ズル休みする楽しさは分かるな」
「飛鳥まで、そんな事いっちゃだめだろ!皆、元気に学校、仕事行こうな!!」
「光は真面目だね。さて、まだまだお便りは募集しているから、何か思い付いたら送ってくれ。ホームページのメールフォームか今から言うメールアドレスにお願いだ」
その後、光と飛鳥はお便りを読んだり、自分の趣味を話したりした。
「アタシ、最近バク転出来ないか練習しているんだけど、どうしてもただの受身になっちゃうんだよなあ」
「アイドルにバク転とか必要かな?」
「いいじゃん、歌いながらアクション出来るのってかっこよくないか?」
「そうかもね。でも、受身もそのウチ、特撮やるのにいいのかもしれないよ」
「確かにスーツアクターの人も柔道出身とかで受身取れるのは基本だしなぁ……」
二人の話はとりとめもないが、事務所によると再生数は他のアイドルに比べると多い、そう聴いた。
それでも、二人は満足せず何か話を見つけるためメモ帳を持ち何かあったら書くようになった。
「このごろ、エクステの色の珍しいのないかなってちょっと探していてね」
「飛鳥のエクステ、今の多さでも充分だと思うけどなぁ」
「分かって無いね、光。エクステの色はボクに取って世界への反逆の印。常に変わってないといけないのさ」
「そんなものなのかなあ」
「エクステの色だけで無く質にもこだわってみてる。……まぁ、ボクらの年じゃまだまだいいものは買えないけどね」
自然とお便りは増えてきて、いずれは公開イベントもしたい。そんな話も上がってきた。
「さて、今日のチャレンジコーナー。この前は激辛のお菓子食べたけど今日は何かな」
「アタシの手元に既に我らがプロデューサー兼ディレクター、月島さんから手紙が渡されてるんだけど」
「何だろうね、光。開けてみて」
「そうだな」
光は手紙を開く。途端、動きが止まった。
「光?」
「あすか……これ……」
飛鳥は光から手紙を受け取り、中身を読むと顔が歪むのが分かった。
「これ……何語?」
「ボクも分からない……英語では無いし、ドイツ語でも無い……え、何プロデューサー?」
「『初の外国からのメールだ、お前ら頑張って翻訳しろ。なお、翻訳アプリは使用禁止』ってえぇぇぇぇ!?」
「どおりで、スタジオに辞書がいっぱいあるわけだ……でも、これ時間どうするのさ」
「『そこはなんとかする』って……あー、もう!分かった!!やってやる!!ヒーローが悪役の言語を翻訳するシーンもあるんだ!!」
こうして、二人は辞書とスタジオ外から来る月島のヒントを合わせながら、必死に手紙を翻訳した。
「やっと、分かった……これ、フィンランド語だ。しかも本名っぽいけどいいのかな?」
「とりあえず、読んでみよう。お名前は……エイラ……スオマライネンさん?間違っていたらごめんよ」
光は手紙を慎重に持って、ゆっくり読み上げる。
「『ヒカル、アスカ。こんにちわ。初めてお手紙します。ワタシ、ヘルシンキの大学で外国語の勉強をしています』」
「大学生かぁ。ボクらよりお姉さんだね」
「『昔、ニンジャの映画を見て、日本の事に興味を持ち調べていると、トクサツ……というのでしょうか、今のニンジャみたいな人が戦っている話を見ました』
あぁ、今の戦隊モノ忍者ものだしね」
光は手紙をめくり、読み上げる。
「『その時、ヒカルとアスカの歌を聴いて、好きになりました。』ありがとうっ!」
「ここは、『キートス!』というべきかな?」
「『二人は私より小さいのにアイドルとして、色んな事をしているのはすごい。私が同じ年の時はこんな事してなかったなと思い感動してます。
いつか、ニホンに行った時には二人の歌を目の前でみたいと思います』うん、待っているよエイラさん!」
「なんなら、ボクらがフィンランド行くのもありかもね」
「アタシ、フィンランドの事まったく知らないからどんなとこなのかな?うん、いってみたいな」
「サウナが気持ちいいらしいね。後、ちょっと動画で音楽聴いたけど明るい中に哀愁がある。そんな感じだったね」
「へぇ、それじゃエイラさん!アタシ達もいつかフィンランド行くからな!!」
二人のラジオはディープではあったがリスナーは少しづつ増え続けた。
「光、今度はアラビア語だ……」
「アタシ達の話って外国受けするのかな?」
そして、何故か何回かに一回は外国のリスナーからのお便りが届き、翻訳に苦労する二人がいた。
これが、南条光と二宮飛鳥がちょっとだけ世界を感じた時
何とかノルマ的な一か月に一回の投稿に間に合いました。アマチュアのラジオ番組を作ってた身としてはもう少し制作の事も書きたかったのですが、それより二人がどう喋っているかを中心に書いた方がいいかと思ってちょっと方向を変えました。
春になりますね。まだ、小説内では冬に入りかけですが、追いついていこうと思います。