明日の光とつがいの二羽   作:雪白とうま

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第十五話

「ソロデビューかぁ」

秋にしては暑く、飛鳥と月島はアイスコーヒーを飲んでいた。

「まぁ、ちょっとしたユニットから離れて見て個人の力量を見てみたいというのもあるな。お前らには遠く及ばないがボーカルユニットが、

一年近くソロユニットだったり、別のバンドとセッションと組む事があるだろ?

あれを実験的にしてみたい」

「光は?」

「あいつは歌やアクションもそうだが、ヒーローの司会とかをやらせる。そしてお前は歌とポエムだ」

「ポエム?」

コーヒーのおかわりにシュガーを大量に入れながら飛鳥は怪訝な顔をする。

「中二の得意分野だろ?お前の漫画の台詞によく入っているだろうが」

飛鳥は顔をしかめ、

「そういう勝手に人のものを見るのは止めてくれないかな、プロデューサー?ボクにもプライベートってものがあるのだから」

「すまんな。お前の作品はどうも、俺を引き寄せるものがあってな」

苦笑を浮かべ月島は四杯目のアイスコーヒーを頼んだ。月島はブラックのまま勢いよく飲む。

 

プロデューサー、月島の話は相変わらず自分の興味ギリギリのところを押してくると飛鳥は思っている。

ミニアルバムという形で『Tomorrow Bright』の延長線として二宮飛鳥をプッシュしていく形だ。

ちゃんとした仕事にしていくのは長いスパンがかかるだろうが、飛鳥に取っては楽しいものではあった。

「でも、光一人にしていいのかな?」

「大丈夫だろ。アイツはお前という『ヒロイン』つまり拠り所を見つけた。それを持ったヒーローってのは強いものだ」

「そんなものなのかい?ヒロインはいつもヒーローの側にいるものかと思っていたよ」

「そうじゃなくていい。人の付き合い方にも色々あるだろ?本当にダメな時はヒロインであるお前のところに戻ってくる。

 そして、誰かを助けに行く。そういう強いヒーローだよ光は」

コーヒーを飲み干し、中の氷も噛み砕くと月島は資料を飛鳥に渡した。

 

-自分の非日常を日常に叩きつける。それを独りでする。

ついにそんな時がきたのかなと資料を読みながら飛鳥は思った。

 

 

 

 

 

「『夜の星は孤独。それでも繋がりあっているのは何故?

何光年もの距離を越え、ボクらは交信しているのだろうか』

……何か、違うな」

消しゴムで文字を消し、新たに文字を書き連ねる。

「大変そうだな」

光がお菓子とサイダーを両手に飛鳥の側に寄って来た。

「詩は己の心情を表す。でも、それだけじゃただの言葉の羅列だからね。

それを調律してやらなきゃいけないのさ」

視線はノートの方のまま菓子を手に取り、ソーダで飲み下す。斜め横に光が座っているが、当たり前の事だからそれは気にも止めない。

むしろ光がいるからこそ、何か別の閃きが浮かぶ事もあると思うようになった。

「そういえばさ、この前の映画見た?」

「あぁ、ボクらが歌った映画かい。なかなからしいね」

「面白かったぞー。アタシ4回も見に行った」

「そんなに楽しいかい?映像は既に決められているものだから、新しい発見は中々ないと思うけどね」

「いやいや、主人公を助ける際に四人のナイト出てきただろ。あの時、それぞれポーズ取っていたのが、過去のヒーローオマージュだったらしくて改めて見て、おおおおおっ!ってなった」

「成程、改めて過去から未来の少年少女達へのメッセージか……そういうのもいいな」

飛鳥は詩を書き足して行く。光はどんなものが出来るのだろうか、子供のような瞳で飛鳥を見ていた。

「……ん、出来た」

飛鳥は光に紙を渡す。光は小さな声で呟きながら飛鳥の詩を読んでいく。

一度、大きな声で光が読み飛鳥は情緒の無さにはたいた事がある。

読み終わったのか、光はじっと詩を見ていた。そして、一文を口にする。

「『星は繋がっている、時を越えて』か……アタシ、何かこの文好きだな」

「本当はヒトも星も孤独なのだけどね。人は想像の線を作り星座を作り出す。そこで、星は何かで繋がっているのかなと思ったんだ。それはもう何光年も離れ、何千年もかけてね……」

炭酸の少し抜けたサイダーを飲み干し、飛鳥は微笑を浮かべた。何となく味が濃くなっており、自分へのご褒美かなと思った。

 

 

 

その後、『二宮飛鳥』としてのCDが小さく販売された。店内イベントで手渡しイベントもした。

飛鳥と同じ中学生だけでなく、少し上の女子高校生にも人気が出て尊敬の目で見られた事もあった。

 

ただ一つ、隣にいつも元気なヒーローがいない。

何か寂しいのか、飛鳥の心のどこかにすきま風が吹いている気がした。

無論、そんな事はおくびにも出さず飛鳥は独り、笑顔で立ち続けた。

 

 

 

 

「……何してんのさ、飛鳥?」

「ヒロイン分の充電といったところかな」

連休の日は必ずと行って二人がどちらかの部屋に泊るようになった。

そして、この処飛鳥は光を静かに抱きしめる事が多い。

「失ってから、ヒトは大事なものに気付く……身を持って知ったよ」

「いや、それはいいから夕食持ってくれない?動けないんだよ」

「後、ちょっとだけ……こうさせて」

飛鳥は光にもたれかかるようにして、少し光を抱く力を強めた。

光は不思議な顔をして相棒をしばらくそのままにしていた。

 

 

これが、二宮飛鳥が独りで立った日。

 




ただでさえ、遅筆が病気を患いさらに遅くなった事をお詫び致します。
次は光単独の話を書けたらばと思います。

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