ラプンツェル   作:朱緒

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第十八話☆臆病と勇気の狭間

 連続猟奇殺人犯三人逮捕したし、運良く一名を助けることができた☆見事な成果と言えよう ―― で、今何をしているかというと、新年会の酒選びを終えたところ。

 トゥルナイゼンとかゾンバルトとかが「ミュラーとかいうラッキボーイ(三十間近)より俺のほうが格好良くね?」みたいな会話する、あの忘年会から新年会にかかるやつ。

 基本最後のお勤めなので、誠心誠意やってる☆もちろん、何時だって誠心誠意、真心込めてますがな☆

 それにしても、ユリアンが死んだことでなにか大きな変化が起きなければいいのだが………………ま、わたしが考えても仕方のないことだ! 気にしている暇はない。わたしは熊の剥製作りと生存者の見舞いという、任務があるのだからな! なんか忘れてる気もするが、忘れるということはわたしにとって必要ではないことだから忘れたに違いない。だから深く考えない!

 琥珀糖は完成させたよ。虹色と透明とオレンジ。ラインハルトが食べてくれるといいのだが、思い返せば天草の付近に死体あったんだよなあ。

 わたし? わたしは気にならないよ。でも気になる人は気になるよねー。

 熊の剥製ってなに?

 熊の剥製だよ☆わたしに勝負を挑んできた殺人鬼のホームグラウンドが山でさ、熊が出没する場所だったんだ。

 残留熱量の測定で、山中に足を運んでいるらしいことも分かって、ちょっと行ったら地面が不自然に柔らかいところに出た。死体埋葬場所です、ありがとうございます☆さらにその場の残留熱量を測定したところ、熊がえさ場にしていることが判明。

 熊のテリトリーは範囲が広く、残留熱量の大きさから見て成人した雄熊と思われるので ―― 残っているかはどうかは不明だが、持ち去られた証拠(胃の内容物)を取り戻すべく熊を殺害することにした。

 

 まったく。殺人鬼が存在しなければ、熊だって殺されることはなかったのに。熊も被害者に入れておこう。熊殺したのはわたしだけれど。

 

 熊の殺害には実はもう一つ目的があった。

 フェザーンの森に棲む熊は、運び込まれたもので、在来種ではない ―― 生態系は管理されているので問題はないが、ここで重要なのは宇宙船で運び込まれたということ。すなわち、ここに住む熊たちはネオ・アンティキテイラを所持している。あの働かないナノマシンを体内に持っているということは、わたしが持つ総統の力……遠隔攻撃が通用するということだ。

 総統の能力が使えることは既に確認しているが、使用したのは家畜のみ ―― 息の根を止めた後は、わたしとラインハルトが美味しくいただいております ―― わたしに牙を剝き敵意を向ける、食物連鎖の頂点付近に立つ生物ではない。

 総統の能力をより実践的に使うためには、わたしに向かってくる肉食獣が必要なのだ☆

 敵意向けられまくりの熊に勝てたら、ローゼンリッターの息の根も止められるってもんだ!

 ローゼンリッターと戦う予定はないが、経験を積んでおくのは悪くない。

 とういうわけで熊のテリトリーを荒らしまくり、熊の獲物(遺体)を奪い、かかってきやがれ熊! と ―― 灰色熊なので結構大きいらしいのだが、小さい頃に恐竜を見て以来、熊如きを大きいとは思えない体になってしまった。

 熊との勝負だが、近距離ぎりぎりまで粘って即死させることに成功。断末魔をあげることなく死にました。

 貴様の死は無駄にはしない、熊。それにしてもこの熊、大きいんだろうな。三メートル弱くらいあるしね……母さんと一メートル違わないのか。あんまり大きくないかもな。

 ま、熊の攻撃速度に反応できることが分かったので、シェーンコップも屠れるだろうよ。いくらシェーンコップが強かろうが早かろうが、野生の熊以上ということはあるまい☆

 

 全くの余談だが恐竜は生きたまま持ち出せぬように、医療用ナノマシンを注入していないのだよ☆だから戦う時は武装するしかない☆

 

 さて熊は死んだ☆

 わたしの殺害方法は体内に攻撃を加えるという、卑怯極まりない手段だが、剥製を作るのには非常に向いている。

 必要なものを取り出してから、剥製作り開始 ―― わたしは手伝い程度だけどね。元皇女が喜んで作ってるんだ。

 なんでも曾祖父が「男なら剥製の一つくらい作れなくちゃな」って……剥製作れる男って、そんなにいないと思うけど。わたし? まあ作れるよ。下男? そりゃあいつは、大型哺乳類どころか、超大型恐竜の剥製だって作れるわ。

 とにもかくにも剥製つくって、見舞いにいって事情をさりげなく聞き、パーティー会場の飲み物を厳選し……ヒルダが飲むのはオレンジジュース? リンゴジュース? グレープフルーツジュースじゃなかったのは確実なんだが……。

 

 十二月三十日ラインハルトが到着☆

 ミッターマイヤーとミュラーが大喜びで駆け寄ってる☆わたしはそれを視聴しております。

 わたしは生還者の見舞いに行ってましたが、画面に映し出されるラインハルト、そしてわき起こるジーク・カイザー・ラインハルト。背後にはオーベルシュタインとヒルダ……良いシーンだよ。ヒルダとオーベルシュタインは相性最悪だけどなー。

 

「公妃さま」

 

 生還者と話をしていたら、声を掛けられ ―― 良いところなんだから……と振り返ったらラインハルトがいた。

 おいおい、ラインハルトさん。一体何をしに?

 契約満了届を持ってきてくれたのかな?

 直ぐに届けてくれるのはいいけれど……とか思ったら、生還者の見舞いだった。優しい言葉をかけてるよ。本当にいい人だなラインハルト。

 

「公爵夫人はこれからの同盟攻略にどうしても必要なのだ。だからあなたの元に通わせることができなくなるが、そこは分かって欲しい」

 

 生還者は今までありがとうございました、頑張ってくださいと快く見送ってくれた。心優しい生還者だ。だって監禁されている間に、フェザーン侵略したトップとその妻(仮)なんだぜ! 生還者知らないんじゃないの? 知ってる知ってる、教えた教えた。でも生還者は「フェザーン統治のままなら死んでいました」とな。

 

 元気でな生還者☆ラインハルトの妻辞めたら会いに来るからな!

 

「獣脚類についてなのですが……」

 

 新年会に跨がる忘年会で、わたしは若い将校共(年上だが)に捕まって、恐竜の話をしております。

 どんだけみんな恐竜好きなんだよ。

 まあ動いている恐竜の映像なんて、滅多に見られないものだからな。そう思ってホームビデオ公開の際に恐竜がたくさん映っているのを選んだら、エライことになったけど……再放送希望が多数とか言われるんだが、身内ネタしかないようなホームビデオを再放送するのって勇気いるわー。

 恐竜の部分だけ見たいのなら、編集するよと言ったのだが、恐竜よりも曾祖父や祖父などが見たいと……訳が分からないよ☆

 そうそう、お前が言っているのはリリエンステルヌスのことだぞ。ドイツの古生物学者、ヒューゴ・ルーレ・フォン・リリエンシュテルンが発見したヤツな。リリエンシュテルン姓は現帝国にも割といるけれど。フォン・リリエンシュテルンなる門閥貴族はいなかったはず……多分。

 

「話が弾んでいるな」

 

 ラインハルトが声を掛けると、全員一歩下がって頭を下げた。

 

「あなたを質問攻めにして悪いな」

 

 いや別にいいですよ。あれは大人しいほうですよ。前に博物学協会に論文出しに行ったら、協会長とかいうのに捕まって質問攻めにされたことに比べれば。

 

「大変だったな」

 

 礼儀がなっていないので、答えないで返ってきたので問題はなかったけどね☆以来、論文は受付に投げ入れて逃げるスタイルを取っていたので。

 

「あなたらしい」

 

 下男? あいつに届けさせたら、もっと大変なことになるわ! あいつは恐竜領の生き字引! 曾祖父があの恐竜いる惑星を管理していたから。曾祖父亡き後は、わたしが年に一度訪れて生体観測とかしてたんだ。

 

「一体何時?」

 

 ラインハルトが出征しているときに。第六次イゼルローン要塞攻防戦の時や第三次ティアマト会戦、第四次ティアマト会戦の時とか、アスターテ会戦の時も……どうしたのラインハルト。

 

「わたしも一緒に行きたかったものだ」

 

 いや、忙しいから誘っちゃ駄目だろうなと思って。ラインハルトなら一緒に行けるよ。キルヒアイスは使用人枠でOKだったろうなー。

 っても、帝国はラインハルトのものになるんだから、息抜きに行くといいよ。オーディンからピクニック感覚の二日でいける惑星ですから! 人が住んでいる惑星とは、やっぱり大気が違うんだよ。

 でも大きい虫もいるから、護衛はたくさんつけてね。我が家のように最低人員で行くと、あのホームビデオのように巨大虫に体が持っていかれかけるような事案が発生するので、止めた方が良いと思います ―― 持って行かれかけたのはアベルだけどさ。

 わたしとしてはあのシーンは凄く不服なんだが。普通はあの場面、一番小さなわたしが狙われるべきだと思うんだ☆何でアベルがヒロイン的に誘拐(えさ)されるんだよ。小さなわたしのほうが、きっと美味しいと。

 大型虫に抱きつかれたいわけじゃないからいいんだけど。まああの場面のヒーローは父さん(中二病)だったから……アベルでいいや。

 

「その時は、是非あなたも一緒に」

 

 了解いたしました☆

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 解任されました☆

 督戦隊長官からね。そしてミッターマイヤー艦隊から移動になって、ラインハルト付き参謀長という、帝国軍で一番無意味なポジションに就くことに。こんな地位に就けるくらいなら、軍から放逐してくれていいんですよ☆ラインハルトさん。

 

「わたしでも務まったのです。公爵夫人ならばわたしなどより、余程相応しい」

 

 ……とオーベルシュタインさんです。

 お前いつからお世辞言うようになったんだ☆ちなみに二人きりでお話中♥……別にわたしだって好きで二人っきりになってるわけじゃないんだ! 契約結婚に関することだから、人払いが必要なんだよ! そうでなけりゃ、こんなおっかない男と一対一で話すわけないじゃないか!

 アベルに「世間の流行に乗らなくていいんですよ、戦乙女。本気で彼を恐いとは思っていないでしょう。姉上(母さん)直伝シャコパンチで一撃ですよ」とか言われたが、そういう類いの身の危険じゃなくてだなあ……大体わたしはシャコパンチは打てんよ。

 シャコパンチってシャコのパンチのようなパンチのこと。

 わたしシャコのパンチ力が尋常じゃないこと知らなくて「中佐(母さん)のパンチはシャコのよう」って聞いて、なんか可愛らしいものと勘違いし「しゃこぱんち! しゃこぱんち!」なる掛け声で母さんに打ち込んで遊んでたんだ。母さんも「なかなか筋がいい」笑ってたわけだが……シャコのパンチ力って人間サイズだと約720t。おそらくこれ、一般的な人間で計算しているのだろうから……母さんのパンチ力に関しては聞くな。

 

「兵士の士気にも関わりますし、閣下が独身に戻ると雑事が増えるので、同盟占領までこのままの関係を保っていただきたい」

 

 兵士の士気に関わる理由は知らないが、ラインハルトの身辺に関しては……わたしは知らないが女性からのアプローチはひっきりなしだろう。

 間違いなく「愛人から始めましょう」コールが……愛人は愛人止まりな気もしなくも……まあ、いいだろう。わたしが自分勝手な理由で持ちかけた契約だ、ここでこれを引き受けることで、ラインハルトも契約で利が生じるとなれば、両者ともに契約結婚をして良かったことになる。終わりよければすべてよし☆

 

「……公爵夫人」

 

 なんだね、オーベルシュタイン。

 

「いいえ、何でもありません。次に少々お尋ねしたいのですが」

 

 オーベルシュタインはフェザーンの猟奇殺人犯を短時間で見つけた方法について尋ねてきたので、さくっと数式の存在を教えておいた。

 

「なるほど。……公爵夫人、その数式は同盟にも存在しますか?」

 

 存在しているらしいよ。なんでもスパイを逆に洗脳し数式に仕立て上げて帰国させて……ということをしていたらしいから。

 数式関係なら下男に聞いたほうが良いだろう。

 

「ハイネセンだけで四桁はいますな」

 

 随分と同盟にもいるんだな。

 

「その中で信頼できる者はいるか……聞いてくださいませんか、公爵夫人」

 

 はいはい。今だけはオーベルシュタインの問いに答えてやれ。優しく聞いてくれているうちに答えておけよ。こいつ、手段選ばない系なんだから。

 

「手段はかなりお選びになっているお方にお見受けいたしましたが……覇王の直参の中ではということでしょうか?」

 

 歴代門閥貴族のアレさ加減と比較したら、そうかも知れないな。

 ……で、オーベルシュタインとラグナロク作戦に関する会議をするはめに。わたしとオーベルシュタインって、戦略なんかは艦隊持ってる提督に連中の足下にも及ばないわけだが ―― 情報戦となれば違う。

 特にわたしは一世紀近くかけて作り上げられた独自のルート【数式】を持っている。数式は情報を此方に届けるだけではなく、指示通りに動く。特に難しい数式を持っている輩はこちらの希望に添うように動いてくれる……らしい。使ったことがないから分からない。

 

「リンチ少将の件ですか」

 

 この数式を使うことにより、完全なる勝利をラインハルトにもたらそうとしている ―― ラインハルトは喜ばないだろうけれど、ちょっと味方してもいいかなーという気持ちになる。

 オーベルシュタインが持ちかけてきたのは「ラインハルトはヤンとの戦いに固執し、ヤンを避けてハイネセンを占拠する方法は取らない。だがヤンは政府の指示に従うので、()()()と言うときにハイネセンが侵略されたという誤報をながして欲しい」というもの。……きっと、フェザーンまでの道中、何度もラインハルトに進言して却下くらったんだろうな。

 でもそれは、ヒルダが実行してくれるから……安全策として誤報をながすようにするか。ちょっとでもタイミングがズレるとラインハルト死んじゃいかねないからな。ユリアンが死んでいることが、どのように関係するかわらかないしね☆よし、それは引き受けよう。ただしこれは、ミッターマイヤーにも協力してもらわないとならないから、その時の説得は……

 

「公爵夫人にお願いします。小官は一軍官僚、指揮官に意見はできませぬ」

 

 オーベルシュタインから丸投げ食らった! ……ま、まあ。オーベルシュタインが持ちかけると、頭ごなしに否定される可能性高いからなあ。わたしの意見? ヒルダの申し出に乗っかる形だから大丈夫☆

 まだその時ではないけどね!

 リンチ少将について? それは、誤報を誤報と悟られないようにするために必要なことなのさ☆ふふふ、人は時にどこまでも非情になれるのだよ! 宇宙で蒸発したくないから! それを阻止するためならば、婦女暴行だって起こしてみせる!

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 婦女暴行未遂犯逮捕ーーー! からの営倉、営倉! 初営倉!

 わたし、ただいま営倉目指して走ってます☆

 なんで婦女暴行未遂犯逮捕して営倉送りになったのかって? 

 さっくりと説明すると、フェザーンの街中歩いてたら、見覚えある女性が見覚えある格好の男に暴行されていたので、男のほうを拳で沈めたんだ。

 出会い頭の一撃で伸された男は門閥貴族 ―― 誰かは知らんが、帝国貴族特有の格好から内乱で亡命した門閥貴族なのは直ぐに分かった。

 見覚えある女性は男物デザインの軍服を着用しているヒルダ。

 ダウンした男と、殴られて震えているヒルダをつれて本営に戻って、

 

「髪長姫。あなたが強いのは知っているが、無茶はしないでくれ。こういうときは、手順に従って通報して欲しい」

 

 ラインハルトに注意されてしまいました。

 一対一なら勝てるよ☆と言ったのだが、どこに仲間がいるかも分からないし、背後からブラスターで撃たれたりする危険もあるからと。

 そうですな。門閥貴族相手なら勝てると慢心しておりました。

 

「あなたが大丈夫なのは分かるのだが、危険な真似はして欲しくはない。そうそう今回のことは主席秘書官にも咎があるので、亡命門閥貴族の命までは取らない。罰金刑に処する」

 

 なんで? と思ったが、あまりわたしには関係のないことらしい。文官関係の話ならわたしには関係ないのも仕方ない。

 

「ファーレンハイトの所で……」

 

 アベルのところで頭を冷やしてこいということですな! わかりましたアベルの旗艦営倉で三日くらい惰眠むさぼってきます!

 

「いや、ちが……」

 

 ラインハルトが何かを言っていたような気もするが、気のせいだろう。

 早く営倉入りして、己の慢心を捨て、背後の気配を今まで以上に悟れるよう心を鍛えようではないか☆座禅がわたしを呼んでいる! 

 

「確かに営倉ならば、話はし易いのですが」

 

 ラインハルトはわたしのことを営倉送りにしたわけではないらしい☆

 でも営倉におります。本当になにもない部屋だなあ。

 

「ローエングラム公が、戦乙女の精神状態を心配しておりました。……そうです、連続猟奇殺人事件です。はい、わたしがお教えいたしました。隠していたところで知られてしまうのですから」

 

 その話かー。わたしは全然気にならないし、精神状態だっていつもと変わらずなんだけどね。

 

「わたしも心配する必要はないと進言いたしましたが、ローエングラム公は心配なさっておりましたよ」

 

 ラインハルトに心配されるのは心苦しいが、お前は少しくらいわたしの心配しろよアベル。

 

「だって気にしていないでしょう?」

 まあなあ、祖母が猟奇殺人犯に殺害されたことに関してはなあ。

 この祖母は父方の通称大ツークツワンクじゃなくて、母方で臣籍降嫁した貧乏くじ引かされたおっさん(オトフリート五世)の皇女。フリッツのじじいのお姉さん、元皇女の妹 ―― この人、歌が好きで上手で歌姫(ディーヴァ)と呼ばれておった。臣籍降嫁してからオペラ歌手として活動してたんだ。

 そして殺害されたんだ。殺害されただけでも最悪なのだが、更に悪いことに猟奇なヤツだったんですよ。猟奇の方向性は調理系。ヤバイ素材でお料理作って振る舞う迷惑なやつ☆食わされたのは名門貴族、なんだか知らないが我が一族も含まれているよ。ま、あまり詳しくは聞くな、ということさ。

 わたしは話として知っているが ―― 語り手が曾祖父だったせいで、もの凄く軽快で「犯人馬鹿だなー」としか思わなかったわけだが、たしかに世間的には気を遣われるポジションか。祖母(ディーヴァ)の名誉のためにも、ラインハルトに頼んでこの事件は闇に葬ってもらう。

 

 ついでと言ってはなんだが、良い機会なので執事(皇太子)について聞いておこう。オーベルシュタインの作戦を実行する際、誰に依頼するかな……となった時、下男が執事(皇太子)を薦めてきたんだ。

 執事(皇太子)の血筋から、当初オーベルシュタインは難色を示したが、ゴールデンバウムを嫌っていなかったら、帝国を捨てることはなかったと言われ、更に我が家には忠誠を誓っているから問題ないと。ということで、執事(皇太子)に依頼する方向なんだが、わたしの中の執事(皇太子)ってそんなに有能なイメージないんだよねえ。

 祖父がある程度力を貸したことから、無能じゃないのはわかるんだが。どうしても、わたしのイメージは若干小柄(180cm台なので家の中では小さく見えただけ)で、銃器を操り戦える使用人風貴族。戦ったら強いのは、あの恐竜討伐の際にこの目で見たので分かるが、情報操作に関してはどうなのか?

 アベルはどう思っているか? 聞かせて欲しい。

 

「情報操作ですか。人並み以上には出来ると思います。皇帝の血を引いているからには敵を排除する必要があり、効果的に排除するのは流言飛語を上手く操る必要があると、メメント・モリ(曾祖父)さまから習ったと聞きましたので。ただ執事も”太子公には遠く及ばない。言わなくても分かるだろうけれど”。とはいえ、同盟にメメント・モリさま以上の方などいないでしょうから、充分対応できるでしょう」

 

 そうか。わたしより執事のことを知っているアベルがそう言うなら、指令出してみるとするか。

 他に話は……なんだよ、アベル。ラインハルトのこと大切にするようにって。言われなくても大切にしてるよ。なにせ彼は銀河の至宝ですからな☆

 

「仲が良いのは結構なのですが、そろそろ大人の仲の良さに踏み出してはいただけませんか」

 

 ……あー、そっちなー。だから子供はわたじゃなくて、正妻(ヒルダ)が産むからな。

 気にしているのはお前だけ? えー幕僚全員。それは困ったなあ……って、お前らなんの話してるんだよ。

 

「わたしたちにとっては、戦いに勝つ以上に重要な事柄ですから」

 

 そりゃまあラインハルトの結婚とか後継者問題は重要だろうが、わたしには関係ないことなんだよなあ、これが。お前らの皇妃ヒルダだよー言いたいが、アベルは経歴上ヒルダとは相性悪いから黙っておこう。どうせお前、ヒルダが皇妃になる前に戦死するしな☆……ふむ、ちょっと誘ってみるか。

 

「提督を辞めるつもりはあるか? 唐突になんですか? わたしにはそのつもりはありません。戦乙女が辞めるように命じる? 理由によります。どうしてもと請われたら考えますよ」

 

 あ、そう。回廊の戦いに行かせてやりたい気もするが、死ぬのを阻止したい気持ちもちょっとだけある。まあ、ちょっとだけ。本当に僅かだけ☆

 

アトミラール(提督)オーバーストロイトナント(中佐)、ローエングラム公がお呼びです」

 

 営倉生活は半日で終わってしまいました☆それにしてもオーバーストロイトナント(中佐)か……父さん(中二病)この階級好きだったよなあ。中二心を擽られる響きだったらしい。アベルが中佐になった時、そりゃまあ楽しげに繰り返してたよなあ。アベル、笑顔で頷くな☆アベルなんか、アースロプレウラに羽が生えたアレに連れ去れてしまいやがれ☆実際連れ去られたら助けにいくけど。

 

「この琥珀糖という菓子、見た目も綺麗で美味い。あなたは本当に色々なものを作れるのだな。尊敬する」

 

 ラインハルトと酒を飲みながら談笑中。―― そうは言っても、そんなに面白い話なんてしてないんだけど、ラインハルトが楽しそうなのでまあいいや。ラインハルトも恐竜の話好きだね。

 

「前に話してくれた、琥珀に閉じ込められた昆虫からDNAを取り出して、恐竜を復元した話をもう一回してもらえないだろうか」

 

 あ、はい……恐竜パニック映画のお話ね☆オリジナルストーリーだとは言っていませんよ。でもオリジナルが最早失われているので、わたしのオリジナルになりつつある。

 

「古い世界観がとても斬新だ」

 

 現代からすると、あの技術は超レトロだもんなー。以前のわたしたが平安時代の技術聞いて「へー昔って苦労してたんだなー」言うレベルより更に古い感が。ラインハルト、そんなキラキラした表情で見ないで。続編のネタも語っちゃうよ☆

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 そしてランテマリオで決戦でーす。

 ランテマリオの戦い自体はこっちの勝利が確定しているので、どうでもいいのだが ―― なぜかヒルダが同乗してないんですよ。

 なんでヒルダいないんだよー。……はっ! もしかして明文化されてはいないが、艦橋には女性の定員数というものがあるとか? だとしたら、悪いことしたなー。今更言っても仕方ないけど。ランテマリオ終わったら、別艦隊に移動しておこう。わたしの情報操作はどこにいてもできるしさ。

 どうせ移動するのなら全銀河で最も安全なビッテンフェルト艦隊のケーニヒス・ティーゲルの艦橋がいいよね☆わたしの人生のコマンドは、何時だって「いのちだいじに」である。

 


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