わたしから父さんを殺す機会を奪った同盟の奴らめ、父さんの代わりに殺してやる! 覚えてろー!
祖父もさあ、なんで総統採用しちゃうかなあ。
特異ナノマシンだとか遠距離殺害可能だとか、そんなのはどうでもいい。だ☆が!
ゴールデンバウムの秘密であろうが、もうじきラインハルトにバレてしまうわけでして「あなたの祖父は総統なのか」とか言われたら……もうね、隣にブラックホールがあったら飛び込みたい気分だ! いや飛び込まないけどさ☆ものの例えとしてね☆
でもさ、初めてナノマシンが自分の体に入ってるって聞いた時は驚いたなあ。誰も全然なにも疑ってないし、当たり前のことってか、うん、未来に来たんだなとあの時思ったなあ。
「あの日は、
おい、やめろアベル。いや、気持ちは分かる。正確には分からないけど分かる。いやね、軽口叩きや、相手にの心に容赦なく踏み込むことにかけて定評のあった曾祖父が、唯一注意を払ったのが「お前、男にもてるな」……アレだ、凄く男に好かれるタイプだったんだってさ、祖父は。それはもう洒落にならないくらいに。
曾祖父も父さんも間違いなく男にモテたんだが、祖父は種類が全く違うらしくて、帝国の法律に果敢に抵触するタイプのモテかただったんだそうだ。曾祖父と父さんは、ぎりぎり抵触しないタイプ。ぎりぎりってなんだよ☆と思ったが、それ以上は突っ込まなかったし、これに関しては思考停止させてもらってる。
人間知らなくていいことって、たくさんあると思うんだ☆
曾祖父がわたしに言い残した遺言の二つのうちの一つが「下男を看取るように」で、もう一つが「
お前他に言い残すことないのかよ? 曾祖父。思ったけど、アレになんか良いこと言い残されても困るってか、役立つこと言い残すわけないことに気付いてしまった☆それに気付いてしまったわたしは天才かもしれない。もちろん馬鹿な方向にな☆
まあそんな、
でも祖父に告白? カミングアウト? まあどっちか分からないが、好きですと告げた奴らは、殺されるまでがプレイというかお望みというか、祖父に拷問されて死にたいからまとわりついたやつ多数とか……もうね、お前ら本当に死ね☆……いや、死んでるらしいけど、祖父に殺されたか? でも、殺してやったら望みが叶って……あまり考えたくないな。
とにかく、冷たさが良いんだそうだ。それもただの冷酷さじゃなくて、孤高の冷酷さが高貴な雰囲気を更に犯しがたいものにするんだとか、なんだとか……あ? 何言ってるのって? 邸の掃除をしていた時に見つけた、祖父宛のラブレターの一文だよ。塀に挟み込んであったやつ、差出人の姓は分からないが名は完璧な男の名。祖父の目に触れなくて良かったな☆……なんて言うと思ったか! 祖父の目に触れなかったせいで、このわたしの目に触れることになってしまって、わたしに大ダメージ!
もちろん祖父に渡したよ☆
その時「ふっ」と笑ったんだが、あの笑いが男には魅力的に見えるのかー。そうなのかーという感じ。
男と女はわかり合えない部分がある。それが男と女と言うものさ☆
女性にはその冷酷さは人気なかったというか、女性相手に冷たい態度を取ることはなかったそうだ。
たしかに孫のわたしからみても、人当たりは良かった……人間として普通の態度と言われればそれまでだが。
それでこの冷たい態度は敵に対して向けられて、敵に対して向けられているその態度を、脇で見ている憲兵下っ端男性兵士の胸がときめくという ―― その時のアベルみたいな感じな。
なんだかよく分からんが父さん曰く「
考えても無駄というか、必要ないというか、時間も時間なのでアベルと食事に。髭そり練習台のお礼として、予約しようとしたのだが、話振ったら「わたしが予約します」と。面倒を引き受けてくれるというのならと任せたが、よくよく考えたらわたしがお礼する側なのだから、手間を惜しんでどうする……まあ言ったところでもう遅かった☆
連れて来られたのは落ち着いた普通のレストランだと、思ったわたしが馬鹿だったよ!
もうね、店内が黒くて黒くて、驚きの黒さに本気で驚いたよ。ああ黒い、本当に黒い、マジで黒い。いや士官学校の卒業式の時も黒かったけど、あそこは黒いのがデフォだから別に驚きはしなかったが、街中の店内でこれはないだろー営業妨害だろーというくらい、テーブルが全部軍服着用の軍人で占められている状態。ざっと見たところ、佐官クラスが多い店だ……いいのか?
予約席に腰を降ろしたら、隣の隣にも直参の超高級将校がいた。部下と一緒に来たケスラーの姿が。
軽くケスラーに挨拶をして、ウェイターから受け取ったメニューに目を通して……なんで待機してるんだ? 決まったら呼ぶからあっち行けよウェイター。だが離れようとしない。あれか、やっぱり直参クラスが来ると、すぐに注文に対応しないとあとが恐いと……別に
そうだ、今日はアベルに一応世話になったから、アベルが好きな貴腐ワインでも注文するか。そのくらいは奢ってやるよ。アベルが好きだったワインの名は「裏切りの秋」
変な名前だろ? 元はこんな名前じゃなかったんだ。というか、名前はなかった。皇子の誕生を祝って、皇帝が配った貴腐ワインだったんだが、後々その皇子は兄皇子をはめて、父皇帝に暗殺未遂をしでかした。そうあの
ウチにはいっぱいあったんだ。ほら、クレメンツが真犯人だって分かってから、門閥貴族たちワインの処分に困って。ワインに罪はないとは言うが、正直皇帝暗殺未遂して、兄を冤罪で死に追いやった奴の誕生を祝したワインとか、持ってたいと思わんだろうし、持ってるとクレメンツ派なのでは? と疑われるから ―― 曾祖父が有料で回収したんだって☆処分料とか言って金をせしめたそうだ。処分方法は、勿論美味しくいただきました☆ほんと、ぼったくりである。
「戦……公爵夫人、そんな高級ワイン、この店にはありません」
アレ高級なのか? お前、水のように飲んでたじゃないかアベル。まあ騙されて飲んでたらしいがなあ……でもないなら仕方ない。産地が同じワインを選ぶとするか。
ワインを一口飲んだら、アベルが鞄を膝に乗せて中を探りだした。なんかアベル、さっきから超高級将校らしからぬ書類を入れる時に肩から提げるようなバックを持って歩いてたんだ。
「これを受け取ってください」
成績表を父さんに渡していた時とよく似た、緊張感と期待に満ちた表情で、やたらと見覚えのある封筒を差し出してきた。受け取って中を確認すると、案の定、爵位譲渡関連の書類入り。侯爵の位が継げるよう整っていた。あとはわたしがサインするだけらしい。
この侯爵位「お前の息子が無爵など、許されるわけなかろう」と、祖父の誕生祝いとしてオトフリート五世が曾祖父に渡したものなんだそうだ。
というわけで祖父は若い頃名乗っていたが……相続の時にないと思ったら、お前に渡ってたのかアベル。
「祖父さまから”結婚祝いだ持っていけ。手続き費用は
どう考えても相続費用がなかったから、金持ちに集っただけですな☆
あーでも、これ前々から計画してたんだろうなあ。何故かって? 一応、
わたしとしては欲しくもなんともないというか、あったところで何の意味があるというか……アベルが受け取って下さい攻撃してくるのだが、わたしには必要ない。
「費用はこちらので持つので、サインして下さるだけで! 次代に引き継ぐ際の費用もお祝いとして支払わせていただきますので、是非とも!」
お前は詐欺師か? ペテン師か? それともメンタリストなのかアベル……は冗談として、ありがたいが、わたし再婚の予定ないから☆まして子供作る予定もないし☆そんな相手はいないのだよ☆
「わたくしめなぞには、
うん、まあ確かに言う通りだよなあ、その爵位。
でもわたしがこれを受け取ったら
きっと父さんや祖父も嫌だと思うぞ。わたしは知らないが
「……」
え? アベルが公爵家嫌ってたらどうするのって? それはないんじゃないかな。公爵家が嫌いでも、父さんは嫌ってないのは髭そり練習のときに確認済み。首に細いプラチナのチェーン、そして指輪がぶら下がってるの確認したから。
なんの指輪? 士官学校の卒業記念リングのことさ。アベルの首にさげられているのは、わたしの父さんの卒業記念リングだからね。
父さんとアベルは卒業記念リングを交換したんだよ。なにしてるのやら☆
ちなみに卒業記念リングってのは、学校名や校章、卒業年度や名前などが刻まれた大ぶりなリングで、成績上位者しかもらえない代物なんだって。アベルのやつ、生意気にも成績上位者だったらしい☆アベルのくせに☆
父さんに至っては主席を表す、卒業記念リングの中でもただ一つの石付き……なんで中二病が栄誉ある帝国士官学校の、栄えある主席なんですかね☆フォークとかワイドボーン的なアレですかね。ああ、そうだ! きっとそうに違いない! 嗚呼! 祖父も曾祖父も主席だったわー。祖父に至っては士官学校歴代最高の成績とか、意味分からん! 我が家、選りすぐりのアレだわー。
あ、そうだ、アベルに謝っておこう。
あのなあ、父さんの遺品整理したところ、お前の卒業記念リングなかった。多分お前と同じく首からさげて、宇宙で蒸発したみたいだ。済まんなあ。先日、士官学校の卒業式に招待された時に、卒業記念リング、紛失した場合新しいものを作ってもらえるものなのかって聞いたら、規則で無理って言われてしまった。御免な、お前の大事な卒業記念リング、父さんと心中とか寒いにも程が……あのアベルさん? なんで泣いてらっしゃるんですか?
リングだけでも、父さんと一緒にいけたことが嬉しい……あの、なにを言っていらっしゃりやがるんですかな?
「出来ることならば、最後までお供したかった」
いや、お供とか要らんから。お前が幸せに生きて栄達していったほうが嬉しいんじゃないかねえ。つーか、そもそもアベルは、そこまで我が家に恩義を感じる必要はないわけでしてね☆
だってお前の父親の上司はめて、そっちに属していた者たちを家族ごと破滅させたのって、カストロプじゃないですか☆
父さんがアベルを連れて来ることができた理由って、薄いカストロプの血縁を辿って横の繋がりでの戦利品分けに無理矢理入り参加して、持ち帰ってきたからであってね。貴族的に言えば敵に分類されるわけでしてね。
思えばわたしはアベルにがっつり嫌われる血筋だったわー。母さんの公爵家は権力を全て失っていたがカストロプ公爵家の本家に該当する、要するに母さんは当主。当然わたしも当主……でもアベル、母さんのこと嫌いじゃなかったよね。わたしのことはどうかは知らないが。
「わたしめが士官学校で虐められていないかと心配し、わざわざ事務官として赴任してくださった姉上を嫌うなど……」
怖ろしいまでに不適材不適所……いや、母さんは事務処理能力も優秀だったから適材だろうし、その頃は
内勤で士官学校の事務官は、本当にアベルを心配して選んだらしいよ。元々母さんはノイエ・サンスーシで働く姫騎士団に所属してていたから、産後は元の職場にどうですか? と、お誘いがあったらしいけど「
姫騎士に関しては聞くな! 母さんは姫騎士の中の姫と言われてたらしいけどな☆深く考えるな! 考えると銀河帝国の姫の法則が乱・れ・る!
「兄上に言いつかって、姉上に花を届けたものです」
えっと、酔ったアベルから母さんと父さんの馴れ初めを聞かされてまーす☆
「初めて姉上の前に出た時は、緊張のあまり震えが止まりませんでした」
それ緊張じゃなくて、生物の本能じゃないのかな? 完全に物理的にやられる! 恐怖なんじゃないかなあ。
アベルにがんがん酒を注ぐようウェイターに指示を出し、わたしはアベルと執事が父さんと母さんの仲を進展させるためにしていたキューピッド活動(八割不発)を聞く。楽しそうに話しているから、黙って聞いてやるのが当主の仕事ってもんだ。こんな軍人が大勢いるところで、また泣かれたら困るからさ。だってこいつ、超高級将校ですよ☆直参ですよ☆三十路ですよ☆一応猛将の部類だよ、ファンタスマゴリだけど。
話が途切れたところで、先ほどの卒業記念リングの話に戻す。
アベルのリングがなくなった代わりに、祖父と曾祖父のリングもおまけにどうだ?……とか言ったが拒否された。
「ありがたいのですが、わたしめは兄上のリングだけで充分でございます。そうだ
それは祖父も曾祖父亡きあと、直ぐに実行したらしいが「お気持ちだけで、身に余る光栄にございます」って辞退したってさ。
「……そうです………………」
祖父と曾祖父の卒業記念リングを握ったまま寝落ちした。これでやっと、父さんと母さんの馴れ初めになってない馴れ初めを聞かなくてすむ。
ただ、今は昼なんだよなあ。そう午前中の終わりあたりに髭そりの練習台、そのお礼に昼食で、午後は執務に戻るって流れだったんだが……ラインハルトにはわたしから謝っておこう。酒をがんがん飲ませたのはわたしだしね。
さて、この寝落ちした三十路をどうするか? 落とした責任はわたしが取る☆というわけで、まずは精算しようとしたら、アベルが既に払っているとのこと。
お前ずっと酒飲んで父さん賛美してたはずなのに、何時の間に。釈然としないが、ここで叫くほどわたしは子供ではないので、黙って引き下がる。
車の用意を言いつけたら、既に待機しているとのこと。ではっ! 鞄を肩にかけてから、アベルを確りとプリンセスホールド! なんだろう、わたし今年に入ってから
迎えの地上車に乗り込んで、行き先はラインハルトの官舎。
ここまで泥酔したのを、放置するほどわたしも薄情ではない。泥酔して寝かせ意識ないまま嘔吐して、吐瀉物喉に詰まらせて窒息死されても困るしな。
家に誰かいるかも知れないが、わたしは知らないし、そいつがどれほど信頼できるかも分からないので ―― わたしが誰よりも信頼している下男に世話を頼む。明日の朝、確実に登庁させるようにも言っておく。
そこまで泥酔させたなら、お前が面倒見ろって? 用事がなければ様子を見ながら介抱したけど、急遽用事が出来てしまったからな。
知った以上
で、下男になにか知っているか尋ねると、祖父が纏めた報告書を持ってきてくれた。あとそれとは別に封がされているかなり厚みのある封筒も。
「こちらの封筒は、亡き公爵さまが御前さまの
あうー
車中でネオ・アンティキティラに関する報告書に目を通したところ、わたし一個人が独占していいような内容ではなかったので、ラインハルトにアベルを潰したことを謝罪するとともに、出来れば直ぐに時間を作って来て下さいと頼んで ―― すぐに来てくれたので、祖父が作成した報告書を差し出した。
目を通したラインハルトはかなり驚いていた。
そもそもラインハルトは指揮型ナノマシンの存在自体知らなかったから、その驚きは当然のことだろう。ちなみに指揮できるネオ・アンティキテイラを所持している者の総称は「null」ドイツ語及び帝国語で「0」という意味だ。
車中で目を通した書類に、このnull型ネオ・アンティキテイラに関して大まかな説明が書かれていたのだが血液型が「Rh null型」の人のみが所持している能力らしい。そう言えばアベルもさっき【人種も年齢も性別も出身地も既往歴、第一世代に注入されたナノマシンの製造工場のどれも共通するものはなかった】とは言ったが、血液型に関しては触れなかった。あいつも下男同様、正確に伝えてくるが、わたしが気付かなければそれまでな喋り方してくるよなあ。
まあアベルが言ったことは他も正しく「Rh null型」の人間全員null型ネオ・アンティキテイラになるわけでもない。本当に困ったものだ。困ったものというか、今気付いたんだが母さんの爵位……わたしが九つの頃に継いだ母さんの公爵家だが、別名が「
てっきり
ラインハルトは驚きのあまり若干うめき声をあげながら、もの凄い速度で報告書に目を通して、どこかに連絡していた。まあ重要書類保管庫には、これに関する詳しい書類があるわけでして、ラインハルトはそれを読むことができる立場であり、読んでこの先どうするかを考えなくてはならない重要な立場にいるからな☆
そんな立場のラインハルトとは正反対の、どうでも良いわたしだが、わたしのネオ・アンティキティラに関する報告書という厄介なものが。祖父がわざわざ別口にしたところから考えるに、かなり変わった特徴とか、あまりよろしくない内容なのではないかと……まあ、速攻封を破って書類を取り出すわけですがな☆え? 引っ張るわけないだろ、面倒くさい。
……ざくっと読んだところ、わたしも総統で聖処女で0なのだが、医療用ナノマシンの見た目が全く違うのだそうだ……自分で言っておきながらなんだが、「フューラーでハイリゲユングフラオでヌル」ってなんだよ……本当にもう!
「あなた固有のものだから、好きにするといい。あなたの名前の一つを取るのはどうだろう?」
わたしの名前………………あ、オルヒデーエでいいです☆わたしの名前とか、何処取っても恥ずかしいんで☆
それで封筒の中身はそれだけじゃなくて、幾つもの数字が書かれた封筒が入っており、その番号のリストがあるのだが「eins:結婚相手が門閥貴族の場合」「zwei:結婚相手が門閥貴族で相手の両親が死亡している場合」「drei:結婚相手がフリッツの場合(笑)」……おい、三番目なんか笑いマークが付いてるぞ、いやつけたくなる気持ちは分かるが。ちなみに四番目は「vier:結婚相手がウィルヘルム三世の場合」など、中身は分からないが、色々な対応策を考えてくれていたらしい。そこだけは祖父に感謝する。
抜かりのない祖父は、現在のわたしの状況も想定していた「null:結婚相手が門閥貴族以外の帝国臣民の場合」
「あなたが門閥貴族以外と結婚する可能性まで考えていたとは。恐れ入る……見るのか?」
ラインハルトとは別れるが、封書の中身が気になるので全部開封するつもり。と言うわけで、この場でnullを開けてみた。
するとまた封筒がいくつか入っており、あとは便箋が ―― 挨拶文代わりに”平民でも奴隷でもいいが、頭の悪い男と結婚するな”と書かれていた。あ、うん、はい。それは完全にクリアしている状態。ラインハルト以上の男はいないから☆で、封書から出てきた封書(小)だが「童貞用」と「非童貞用」……なんだこれは。
書類をよくよく読むと、わたしがナノマシンを動かし治療ができるタイプだと相手に教えた場合は、該当する封書を渡すようにと……大事なのか? でもフリッツのじじい(笑)のような(笑)付きの封書じゃないところを見ると、本気なんだろうな。ラインハルトと二人でしばらく硬直したが、
「読んでもいいだろうか?」
読むのは構いませんよ。どのみち、わたしが全部開けるので。
ラインハルトは童貞用の封書を掴んだ。いや、ラインハルト、ここは見栄を張って非童貞用の封書を掴んでも良いんだぜ! とか思ったけど、ラインハルトは童貞用の封書を開けて便箋を取り出して目を通し、顔赤らめた。新帝国の皇帝が可愛すぎて困るわー。なに、この百合も薔薇も芍薬も一気に枯れてしまいそうなラインハルトの恥じらった表情。やばいわー、さすがラインハルトさんですわー。
内容ですが「初めてだと男も痛いから、性器の病と勘違いしないように」とのこと……お、おう。そうなのか。それは知らなかったし、その痛みを知ることは永遠にないが。
ちなみに非童貞の方は「生殖器でも病気の治療できるから、痛かったら申告して手などで治療してもらうように。何ともなかった場合は、お前が下手くそなだけだ」とのこと。男心を容赦なく抉りにいってる感が凄いんだが気のせいか? きっと気のせいだよね☆
ああ! 治療できるのは手だけなのかと思ったら、全身でサーチして治療できるのか。……そっか、遠距離で攻撃できるんだから、手だけという縛りはないだろうなあ。ん? 生殖器にも治療機能が備わっているのは聖処女だけ☆……ふーん。怖ろしく必要のない情報だぞ、祖父よ。だってわたし
「あなたは本物の貴種なのだな」
童貞封書から立ち直ったラインハルトが、報告書に目を通しながら呟いた。いや貴種って言うか、変態……ああ、変態じゃなくて変異体ってことで。
「悪いところがないか捜したい? ないとは思うのだが」
そしてわたしは気付いてしまった訳ですよ。あの治療法がないラインハルトの病を治せる可能性があることに! 膠原病そのものは、とうの昔に治療法が確立されて、ナノマシンに入力されているし、
容赦なく首を「がっ!」と触って「治れ☆」と念じたら、ラインハルトが悲鳴を上げた。どうも痛かったらしい。
「悪いところがあるのか」
もうこの時点で病が発症していたらしい。でも大丈夫☆わたしが治して進ぜましょう! 気合いを入れて、即座に☆全力を持って、完璧に! そう言ったら、ラインハルトが少し考えて、
「あの……ゆっくりと治療してもらってもいいだろうか?」
そのように言ってきた。
直ぐ治ったほうがいいんじゃないの? ラインハルト。かなり痛いので、少しずつ治療して欲しい? そっか痛いのか。わたしが感じることのない痛みだからなあ。それじゃあ仕方ないよね。
分かりましたとも。同盟制圧まで掛けてゆっくりと治すね☆
そうだ、フェザーン攻略の際、向かわせる艦隊に同乗させて欲しいんです。はい、したいことがあるんです。
なにをしようとしているかって? ユリアンを捕まえるんですよ。人質にするんです。ヤンとの対戦の場面で「降伏しないとユリアン殺すぞ」って脅すため。男同士の戦いに無粋なまね極まりありませんが、勝つために手段は選びませんよ☆それに後々ユリアンいると面倒なんで、さっくり処分するのもまた一興☆ユリアンは捕まえておくにこしたことはない。ぶっちゃけ、フェザーンでユリアン殺しても問題ないし。ヤン救出に必要となれば……まあ、余計殺意が滾るか。
「フェザーンのほうは、考慮しておく。
なにより
あっ! もっと早くに気付くなりしていたら、キルヒアイス助けられたじゃないか! あああああ……