箒に乗って空を飛ぶ魔女を見たのは数百年ぶりだろうか。まだ人狼が存在できていた頃に大尉は何度か材料目的で魔女に狙われたことがあると記憶している。
だが、自分を狙っていた魔女は老婆ばかりで、先程見たのはまだ幼い少女だ。正確には魔理沙は魔女ではなく、魔法使いであり、大尉の見たことのないモノだ。
大尉の知る限り、魔女という存在は中世の頃に狩られてしまっていたはずだ。魔女であろうとなかろうと怪しいと思われた者は皆全て裁判に掛けられたはずだ。
魔女というには未熟であり、人間という種の中で収まっている。だからこそ、大尉は魔理沙に惹かれるところがあったのだろう。
自分を倒すかもしれない存在を見付けれただけで大尉は此処に来れた価値を感じていた。
だが、それとこれとは別問題だ。情報が少なくては動こうにも動けない。自分を殺そうとする部隊が動いていない、もしくは攻めあぐねているならば時間はある。
木々の中から身動き一つせずに人里を見詰めるその目には獣を思わせる獰猛さがあった。
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妖怪の山の本部会議室に赴いた文はあくまで事務的に対応していた。今の妖怪の山にまともな対処ができるとは思っていないからだ。
上層部の大半から見れば白狼天狗の一人が怪我をさせられたようにしか見えないだろう。だが、椛は白狼天狗の中でも実力者である。椛が倒されたということは椛以上の実力者であると証明している。つまり、それ以上は未知数なのだ。
上層部はそれを理解していながらも軽視している。天狗らしく鼻高々にしている。自分たちが倒されるわけがない、と自負している。
「で、射命丸よ、何を望む?」
「烏天狗一名、白狼天狗四名の小隊を組んで山の警備に当たり、天狗の皆様にはいつでも動けるように準備をして頂くのがよろしいのではないでしょうか」
天狗たちが鼻で笑うのが聴こえる。それもそうだろう。文の提案したものは厳重すぎるからだ。却下されると分かっていて提案したがここまで嫌な反応をされては馬鹿馬鹿しくなってくる。
「……天狗の皆様にお任せします」
それで納得したのか天狗たちは文に退室を命じる。退室させられた文は無能な上層部への怒りから会議室の壁を殴りたくなったが必死に堪える。
レミリアにこのことを伝えなくてはならないと思い立つやすぐさま外に飛び出す。ただの外来人なら仲良くなれたかもしれない。だが、もうそうすることもできない。
今日ほど忙しい日はいつぶりだろうか。
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この世界は大尉を驚かせることばかりだ。先程も空を飛ぶ緑髪の少女を見かけた。空を飛ぶというのはこの世界ではありきたりなものなのだろうか、と考えるが考えたからといって自分が飛べるわけではない。
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何の収穫もなかった魔理沙は茶屋で団子を食べていた。聞けど聞けども新聞の情報しか得られない。
「あれ、魔理沙さんじゃないですか」
串を咥えたまま声のする方を向けば、ニコニコ顔の早苗がいた。
「早苗も外来人目当てか?」
「もってことは魔理沙さんもですか?」
「その通りだぜ。でも、収穫は何一つなしだ。どうやら、人里には顔を出してないらしい」
落胆している魔理沙に早苗は同盟のことを話そうかどうか悩んでいた。魔理沙が加わればレミリアや文の負担は減るだろうと考えいたが、下手に喋ってもいいものなのかどうかも怪しい。
口止めはされていない。だからといって馬鹿正直に話していい内容とは微塵も思わない。
「魔理沙さんは何で外来人を探しているんですか?」
「どんな奴か気になってな。それに、もしかしたら、困ってるかもしれないだろ?」
好奇心旺盛でお人好しな魔理紗らしい答えだ。
「この後はどう動くつもりですか?」
「なんだ? 自棄に今日は質問が多いな。この後か……空から適当に探し回ろうかな、と思ってるぜ」
「私もご一緒してもいいですか?」
魔理沙の言う通り人里には姿を現していないだろうと踏んだ早苗は一人で探すよりも二人で探すという選択肢を取る。ここで断られたら終わりだが、魔理沙は断らないと知っている。
「おぉ! それはこっちも大助かりだ!」
人懐っこい笑みを浮かべて快諾した魔理沙とともに早苗は外来人を探すことになった。その結果、文からの連絡が遅れてしまうという事態になってしまうが、結果論だろう。
そして、日が落ち始めた。