楽園の素敵な巫女である博麗霊夢は『文々。新聞』を軽く読み流すとくしゃくしゃに丸めてゴミ箱へと捨ててしまっていた。異変でない限り動かないにしろ外来人の心配すらしていない。
その様子を傍で見ていた普通の魔法使い霧雨魔理沙は呆れた表情を浮かべる。
「少しは真面目に読んでやれよ」
「厠の塵紙にすらならない新聞に何を期待してるのよ」
「でもよー久しぶりの外来人だぜー。少しは心配してやったらどうなんだ?」
魔理沙の言うことは最もである。巫女の役割として望むのであれば外来人を外の世界に還す義務がある。それすら果たそうとしない霊夢の態度に魔理沙は疑問を感じいる。
「あー、私のところに来て、還りたいんならそうするわ」
「還りたくないって言ったら?」
「好きにすればいいんじゃない? 私は異変さえ起こさなければ何でもいいわ」
「適当だなー」
基本的に異変が起こらない限り動くつもりのない霊夢は縁側で寝転がって日向ぼっこの続きを始める。
外来人が賽銭を入れてくれるような人物かどうかを勝手に妄想している霊夢に魔理沙は溜め息を吐くと神社から出ていく様子だった。
「私はこれから外来人を探してくるぜ」
「……気を付けなさいよ」
寝転がったままの霊夢から聴こえてきたのは本気で友人を心配するような口調だった。呆気に取られた魔理沙は数秒間黙り混むとニカリと笑ってみせる。
「おう!」
そう返事して箒に跨がった魔理沙は風のように飛んでいく。そんな友人を寝転がりながら見送った霊夢は珍しく真剣な表情を浮かべた。
「嫌な予感がするわ」
そんな巫女の独り言を聞く者は誰もいない。
―――――――
向日葵が年中咲き続ける場所『太陽の畑』の恐ろしくも可憐な人外の彼女はその能力で向日葵たちと会話をしていた。
「――――」
「あら、そうなの」
「――――」
「ふぅん、強そうなのね」
花の声が聴こえない者にとっては一人で喋っている痛い光景にしか見えないが、その人外は花の声が聴こえ、会話もできる。
向日葵が彼女に話していた内容は外来人のことについてだ。花から花へと伝わって廻ってきた内容に彼女は興味深そうに相槌を打つ。
「で、その外来人は何者なの?」
「――――」
「……狼男、ね」
楽しそうに伝えてくる向日葵に聴いている彼女の表情も柔らかく楽しそうにしている。
興味を持ったのは新聞が始まりだった。久しぶりの外来人の記事などどうでもよかったが、写真からでも伝わってくる強者の雰囲気に彼女は心奮わせた。
強いのならば戦おう。異変を起こしてくれるのならば喜んで解決に向かおう。きっとこの外来人はそれに価するはずだ。
「弱かったらどうしてくれようかしら」
自分勝手で我が儘だが、知ったことではない。だが、自分をがっかりさせるとどうなるかを叩き込んでやろう。顔しか知らない相手だが、風見幽香は期待に胸を躍らす。
『ごっこ』なんてものには飽きてしまった彼女は闘争とは無縁な向日葵畑で獣を連想させるような獰猛な笑みを浮かべる。