東方戦争犬   作:ポっパイ

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更新遅れて申し訳ありませんでした。暫く更新ペース遅れてしまいます。




三十五話

 今のところ、数においてレミリアたちの方が勝っている。レミリア、フラン、パチェリーの三人に対して、相手は大尉と幽香の二人だ。だが、それもすぐに拮抗してしまうだろう。大尉側には天子がいる。

 

 やって来るであろう天子の到着を前にレミリアは大尉か幽香のどちらかを削る必要があると考える。数で優位な内に更に優位に立ち、咲夜の援護に向かわなければならない。

 

 だが、相手は大尉と幽香。そう易々と自分の思惑通りに事が進むとは到底思えない。

 

「今は戦うことだけ考えなくちゃ、ね」

 

 挑発的な笑みを浮かべる幽香はレミリアとの距離を詰め、日傘を振るう。レミリアはその日傘を片腕で受け止めてみせる。だが、吸血鬼の怪力を持ってしても、防ぎきれるものではなかった。

 

 あらぬ方向に曲がってしまった片腕だったが、これは想定内の出来事だ。空いている手に新たなグングニルを顕現させると幽香へと突き出す。

 

 突き出されたグングニルを避け、間合いをとろうとした幽香に巨大な何かが突進してくる。幽香はその正体を見て、胸が躍るような気持ちになり、笑みが溢れる。

 

「『シルバードラゴン』」

 

 パチェリーの宙に展開する魔導書の一冊から現れた金属で構成された竜は幽香に向かって無数に並ぶ鋭利な牙を見せびらかすように大口を開けて突進してくる。

 

 突進してくるのならば、それに応えてやらなくては、と幽香も金属製の竜に向かい駆ける。

 

 金属製の竜が幽香に食らい付こうとするが、それよりも前に幽香は日傘を金属製の竜に向かって振り上げる。

 

 だが、無数の蝙蝠と化したレミリアが幽香の視界を遮るように顔の周りを飛び回り妨害する。幽香は邪魔な蝙蝠たちを手で払い除けようとするも、蝙蝠たちは器用にそれを避け離れていく。

 

 幽香の視界に写ったのは金属製の竜の顎ではなく、急旋回し背中を見せる姿だった。考えるよりも前に幽香の体に鈍い衝撃が走る。何が当たったのかを幽香は飛ばされながらも見ていた。急旋回し、遠心力を加え振り回された竜の長い尾だ。

 

 紅魔館の外壁へと衝突し、すぐに体勢を整えようとする幽香の右肩に投擲されたグングニルが突き刺さる。飛んできた方向を見れば、姿を戻したレミリアが空を飛び、こちらを見下ろしている。その手には今にも投擲されそうなグングニルが構えられている

 

「やるじゃない、貴方たち」

 

「挑発してきたお礼だ、貰っておけ」

 

 何の躊躇いもなくレミリアは幽香の頭へとグングニルを投擲する。

 

 

――――――――

 

 

 フランは大尉と対峙していた。美鈴を倒した憎き人狼だ。フラン自らの手で壊してやりたかった。

 

 フランの『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』は強力にして凶悪だ。物質の『目』と呼ばれるものを自身の手の平に移し、それを握り潰せば破壊する。この人狼もかつての玩具のように壊してやりたいが、どういう訳か『目』が思うように捕まらない。

 

 大尉の『目』がフランの手に移り、握り潰されるよりも前に大尉は霧となり、逃れていた。フランの能力は予め、幽香から聞かされていた。ならば、対策するのは容易い。霧となっている間はどうやらフランも能力が発動できないようだ。

 

 握り潰そうとする一瞬の間に霧となるが、少しでも霧となるのが遅れれば、フランの能力の餌食となっしまう。

 

「あーもー、うざいなぁ」

 

 自分の思うように事が進まないフランが悪態を吐く。霧はフランには近寄ろうとはせず、まるで様子を窺っているようだった。

 

 相手に一撃必殺の能力がある以上、大尉とて動きづらい。折角の戦争がこんな序盤で終わってしまうのはEXルーミアや幽香たちへの裏切りだ。

 

 だが、大尉はこの戦いをとても楽しんでいた。一撃必殺の能力を相手に立ち回らなければならない。生と死の境界線が曖昧な状況。相手が幼い姿をしているとはいえ、吸血鬼であることには間違いない。

 

 霧となり、フランへと急接近すると実体化する。大尉の本来の姿である巨狼の姿だ。初めて見る人狼の本来の姿にフランは驚くどころかレーヴァテインで巨狼を突き刺そうとする。

 

 だが、レーヴァテインは空を刺す。あまりの手応えの無さに霧を突き刺したということに気づいたフランだったが、霧はそんなフランに次の行動を起こさせるよりも前にフランの頭上で実体化し、その頭頂部に踵を叩き落とす。

 

 常人がくらえば頭蓋が砕け散ってもおかしくない威力だ。流石の吸血鬼も無傷とはいかないだろう。現に、地面へと頭から叩き落とされたフランは頭から血を流し、倒れながらも大尉を睨んでいる。

 

 フランが何かを握り潰そうとする素振りを大尉は見逃さなかった。急ぎ、霧化した大尉はフランの視界に入らないように動く。大尉はこの能力はフランの視界に映る範囲でしか発動しないと仮説を立てていた。

 

 フランが起き上がり、こちらを見るよりも速く動き、フランの顔面へと膝蹴りをお見舞いする。殺人的な威力だが、吸血鬼たるフランにとっては痛手でしかない。フランから離れようと霧化した瞬間にレーヴァテインが宙を斬る。

 

 その様子はまるでタイミングを図っているようだ。人狼の弱点をレミリアから聞いたフランは大尉が実体化し、攻撃をする瞬間を狙おうと、そのタイミングを試していた。

 

 大尉の動きは思っていたよりも速く、視界から外れて攻撃を仕掛けてくるため、そのタイミングは図りづらい。

 

 レミリアやパチュリーを見るが、どうやら、自分を援護してくれるどころではなさそうだった。

 

 頭と肩に突き刺さったグングニルを引抜き、超速再生した幽香が一転攻勢してレミリアを集中狙いしている。パチュリーはレミリアを守るべく、二体目のシルバードラゴンを発動しレミリアの盾として働かせている。

 

 フランはその様子に溜め息を吐く。常日頃から吸血鬼の威厳や高潔さを垂れていた姉の不甲斐ない姿はこんな時でなければ笑っていたところだろう。

 

「『フォーオブアカインド』」

 

 人狼よりも幽香の方がよっぽど危険ではないかと思えてくる。ならば、こんな人狼は早いとこ殺してしまおう。数の暴力はなんと素晴らしいことか。

 

 四人に増えたフランの姿に大尉は別段驚くことはなかった。何故なら、相手は吸血鬼だ。どんな手段を使ってもおかしくはない。要は、的が増えただけだ。

 

「少しはリアクションしてほしい――――な!」

 

 四人同時にレーヴァテインで斬り掛かってくるが、大尉にとっては脅威ではない。霧となり、高速移動し、確実に本体であろうフランに対して蹴りを叩き込む。

 

「えっ――――」

 

 フランの『フォーオブアカインド』はアーカードのように全てが本物ではない。分裂ではなく、ただ分身しただけである。ならば、人狼の嗅覚、これまで戦い続けて養った感覚に従い攻撃すれば、自ずと本体は見えてくる。

 

 蹴りを叩き込まれたフランは一発で本体を見破られたことに困惑の表情を浮かべているが、その表情もすぐに怒りへと変わる。

 

「殺しちゃえ!」

 

 本体からの命令を受けた三体のフランが実体化している大尉へと斬り掛かる。だが、大尉の狙いはあくまで本体。分身に能力がないと判断すると執拗に本体だけを付け狙う。

 

 分身に気を取られ、本体に能力の発動を許してしまうことこそ、大尉の敗北に繋がってしまう。

 

 本体は逃げ出すものばかりだと思っていたが、ちゃっかり能力を発動をさせようとしてくる辺り、抜け目ない。それでこそ、吸血鬼だ、と大尉はフランに対して賞賛すら贈りたい気持ちだ。

 

 だからこそ、気持ち良く戦ってやろうと思える。瞬時に巨狼化した大尉は握り潰そうとした拳ごと腕に噛み付き、肩からその腕を引き千切る。

 

「ギャァァァァアアア!!」

 

 本体であるフランは悲痛な叫びを上げるが、それでも分身は巨狼を斬り付ける。健気な分身だが、体毛に守られた巨狼に対して浅く斬ることしか叶わない。

 

 吸血鬼ならばすぐに再生できるだろうと踏んだ大尉は咥えた腕を捨てると、分身の処理に掛かる。再生するよりも前に分身を消してしまおうと考えていた。

 

 だが、巨狼と対峙するように金属製の竜が割って入る。フランの悲鳴を聞き付けたパチュリーが幽香への攻撃用に発動させた最初のシルバードラゴンを大尉へと仕向けていた。

 

 それで功を得たのは幽香だった。邪魔な壁が一体減り、大尉へと気を向けてしまったパチュリーに日傘の先端を向ける。

 

「パチェ!」

 

「『マスタースパーク』」

 

 傷だらけのレミリアの声にパチュリーが反応するよりも前に日傘の先端から放たれた超極太のレーザーがパチュリーを呑み込む。

 

「あら、意外と耐えるのね」

 

 超極太のレーザーが消えた跡には今にも砕け散りそうな魔法壁を張ったパチュリーが息絶え絶えで何とか立っていた。

 

「無事か、パチュ!?」

 

「はぁ……はぁ……その技は何度も……見たことがある……わよ」

 

 対策できたのはいつも図書館から本を盗んでいく魔法使いがいたからだろう。彼女が好んで使っていた技だったからこそ、対策はできていた。だが、その威力も範囲も彼女とは比べ物にならない程であり、お陰で魔導書が二冊燃え尽きてしまった。

 

 何とかシルバードラゴンを発動させた魔導書は守れたが、もう一発当てられたならば、守ることも叶わないだろう。

 

「じゃあ、もう一発いく?」

 

「させるかぁ!」

 

 又もマスタースパークを放とうと日傘を向ける幽香にレミリアとシルバードラゴンが攻撃を仕掛ける。だが、突然、又も地面が揺れる。

 

 宙に浮かんでいた幽香やレミリアには何の効果もなかったが、その揺れに立っていられなかったパチュリーが膝を付く。

 

「空気の読めない子だこと」

 

 溜め息を吐く幽香は興が削がれたのか、おとなしくレミリアとシルバードラゴンの相手をする。

 

「ちょっと! あんたら速すぎよ! 私を置いていくとはいい度胸ね!」

 

 空気の読めない子――天子は置いていかれたことにご立腹だったのか、文句を垂れて登場する。

 

 歩くのも面倒臭くなったのか地面スレスレを浮遊する要石に乗り、移動してきたその様子からはとても急いで移動してきた感じはしない。

 

 レミリアは現れた天子の姿を見て、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。数は対等。だが、フランは再生中であり、パチュリーは満身創痍。この状況を劣勢と言わずに何を劣勢と呼べばいいのだろうか。


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