東方戦争犬   作:ポっパイ

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三十一話

 

 空から大尉たちの居場所を探ろうとしていた魔理沙は森の中に異様に拓けた場所を見つけた。何故、こうなっているのかを調べる前に霊夢に言われたことを思い出す。

 

『外来人やルーミアと戦わないでね』

 

 理由も何も説明はしなかったが、霊夢は魔理沙に確かにそう言った。ぶっきらぼうな親友が自分の心配をしているなど考えなくとも分かる。きつい口調だったのも自分の身を案じてくれているからだろう。

 

 不器用な親友のことだ。わざときつい口調なのも、そうやって遠ざけるしか術を知らないのだろう。魔理沙は心配してくれる親友のことを嬉しくも誇らしくも思っている。

 

 魔理沙はいつになく霊夢が今回の件に関して真剣だというのを知っている。霊夢の邪魔はしたくはないが、あの外来人に一泡ふかせることも諦めてはいない。

 

 外来人もルーミアも危険な存在だというのは知っている。特に外来人には殺されかけている。霊夢が心配するのも頷ける。

 

 心配してくれるのはありがたいが、ありがた迷惑だ。何時から、自分は守られる存在になったのだろうか。確かに、霊夢には数えれる程度しか勝ったことはないが、あの博麗の巫女に何度か勝っているというのも事実。魔理沙は守られないのではなく、横に並んであげたいのだ。

 

 ぶっきらぼうで不器用で優しい親友が、ああ見えて寂しん坊だというのを知っている。本人はそれを認めようとはしないが。

 

 ここで勝手に調べれば親友はきっと心配してしまうだろう。口煩く言ってくるだろう。それを見るのも一興かと思ったが、魔理沙も馬鹿ではない。流石に外来人とルーミアを相手に二対一で勝てる見込みはない。

 

 場所を覚えると魔理沙は大人しく引き返していく。

 

 

―――――――

 

 

 

 魔理沙が見付けた異様に拓けた場所というのは結論から述べると、大尉やEXルーミアが幽香と戦った場所だった。異様に拓けた原因というのは幽香のマスタースパークの恐るべき威力が原因だ。

 

 魔理沙の引き返すという判断は間違ってはいなかった。近くの洞窟には大尉とEXルーミア、そして――――風見幽香が揃っていた。もし、調べに降りていたならば、直ぐ様、三人の内の誰かが魔理沙を殺すべく動いていただろう。

 

 僅かな異変に気付き、洞窟の外へ出てきた大尉は飛んでいく魔理沙の姿を見送ることしかできなかった。

 

「あらあら、見付かっちゃったわね」

 

「オマエの技が派手すぎんだよ」

 

 お気に入りの場所がこうも早くバレるとはEXルーミアも大尉も予測してはいなかった。バレた原因である幽香を睨み付けるが幽香はなに食わぬ顔をして魔理沙に関心しているようだった。

 

「戦力増強の話はまた今度にするわね。帰らないと恐いのが来そうだし」

 

 幽香は魔理沙が何故、引き返したのかを推測する。あの向こう見ずの魔理沙がここを調べようともせずに引き返したのには訳があるだろう。誰かに忠告されたのだろう。誰かに報告するつもりだ。その誰かを幽香はよく知っている。あの巫女が間違いなく、ここにやってくる。

 

「勘がいいのはあの巫女だけじゃなかったのかしら?」

 

 EXルーミアの悪態を無視して幽香は自宅へと帰っていった。

 

「オイオイ、ふざけんなよ、あのクソ野郎」

 

 バレてしまったものは仕方ない。洞窟の中で待機させてある影狼を急ぎ回収して、離れなければならない。幽香の言う「巫女」と言うのが、先日、会った人物で間違いなければ、今はまだ戦う時ではない。準備はこれからだ。

 

 洞窟の中に入ると呑気に寝ている影狼の姿があった。虚勢は張れども、やはり人質という状況は心身ともに影狼を疲れさせた。加えて、まともに寝れる状況でもなく、本人は少し目を休める程度のつもりだった。

 

 騒がれるよりかはましか、と一瞬考えたが通訳が寝てしまっては一体誰が自分の意思を伝えるのだろうか。肩を揺らして影狼を起こすと、寝ぼけ眼で大尉を見つめる。そして、溜め息を吐いた。

 

「私は今ほど夢から醒めたくなかった日はないよ」

 

 自分が起こすのではなく、EXルーミアにでも起こさせれば良かったかもしれない、と大尉は考えた。

 

 とりあえず、先程の影狼の態度は見なかったことにした大尉はここから離れることを影狼に伝える。

 

 驚いた表情を浮かべた影狼であったが、大尉たちの立場を考え、場所を変えるのも納得してしまう。今や幻想郷のお尋ね人の大尉たちに安住の地はない。それの人質としての自分にも安住の地はない。

 

 洞窟の外へと出るとEXルーミアが辺りを警戒しているようだった。殺すことと食べることしか頭にないと思っていたが、どうやら幽香の加入により、EXルーミアも何か思うところがあったのだろう。一団の一人として役に立とうとしているのが明確に表れている。

 

「大将、どこに行くよ?」

 

 EXルーミアにそう訊かれたが、大尉は幻想郷の地理に詳しくない。まだEXルーミアの方が詳しいだろう。適当に走り回って追っ手と遭遇しては堪ったものではない。

 

「任せるって言ってます」

 

 大尉の意思を感じ取った影狼がEXルーミアに伝える。困った表情を浮かべたもののEXルーミアは何とか隠れるのに使えそうな場所を思い出そうとする。

 

「ここが一番だと思ってたんだけどなァ」

 

 何もかも幽香が悪いと決め付けるとEXルーミアは自分にとって最悪の場所を思い浮かべた。ここが食料提供の場とするならば、思い浮かべた場所は自分の寝床だ。

 

 良い思い出がないのは、その場所で当時の博麗の巫女に封印されたからであろう。寝ているところを襲われたわけでもなく、正面から正々堂々と戦いを仕掛けに来た巫女に負け、封印されてしまった。

 

 忌々しそうな表情を浮かべたが、今は私情を持ち込む気はない。

 

「誰も寄って来ねェだろう場所がもう一つある」

 

 影狼を抱えて大尉は先導するEXルーミアに着いていく。

 

 

――――――――

 

 

 太陽の畑にて幽香は優雅に紅茶を飲みながら来るであろう客人を待っていた。せっかくの客人なのだ。お茶でも出してもてなしてやろうかなんて考えていると不機嫌そうな雰囲気を醸し出す客人は舞い降りた。

 

「来ると思ってたわ、霊夢」

 

 用意してあげた椅子に座るように促すが霊夢は幽香を睨むだけで座ろうとしない。

 

「単刀直入に訊くわ。――――外来人と戦ったわね?」

 

「何故、そう思うのかしら?」

 

「勘よ」

 

 これだから霊夢は侮れない。すべてを「勘」の一言で済ませて、こちらの内情を無視してくる。それにしても、魔理沙から報告を受けたにしては早すぎる行動だ。本当に「勘」で動いたとしか考えられない。

 

 どこまで知っているかなんて幽香から訊くことはできない。それを訊いてしまえば、自分の立場が危うくなる。今はまだ大尉たちとの関わりは隠さなければならない。

 

「相変わらず、良い勘してるわね」

 

「そりゃどうも。で、どうなのよ?戦ったの?戦ってないの?」

 観念したように幽香は溜め息を吐く。

 

「えぇ、確かに戦ったわ。ルーミアともね。でも、逃げられちゃったわ。これから面白くなるってタイミングでね」

 

 こうなっては嘘と真実を混ぜ合わせて相手に怪しまれなくするしかない。相手は霊夢だ。何を考えているのかなんて予想もつかない。ここでバレては畑を燃やされる可能性すらある。

 

「あんた、追わなかったの?」

 

「私の足が遅いの霊夢なら知ってるでしょ? それとも嫌味かしら?」

 

「えぇ、そうよ」

 

 分かりやすい挑発に幽香は思わず笑みが漏れてしまう。

 

「何がおかしい?」

 

「随分と余裕がないのね、霊夢。関係のない私に喧嘩まで売るなんて余程のことなのね」

 

 挑発には挑発で返してあげるのが幽香なりの礼儀だ。それにしても、霊夢は今回の件に関して本当に余裕がないらしい。霊夢が苛々しているのが嫌でも伝わってきてしまう。

 

「関係がない? 外来人と戦っておきながら何を言っている」

 

 霊夢が手を出そうとしたところで、何者かが霊夢と幽香の間に入るように降りてくる。幽香はその人物を見て、思わず舌打ちをしそうになる。霊夢なんて舌打ちしたのを隠そうとすらしていない。

 

「あやや、霊夢さん、今回はお話を伺いに来ただけでしょう? そうも好戦的ですと話してくれるのも話してもらえませんよ?」

 

 霊夢の手伝いをすることになった文は太陽の畑に行くのを上空で見張っていた。機嫌が悪く、好戦的な霊夢が幽香と戦おうとするのが容易に想像できていた。

 

 霊夢と幽香のガチバトルもこんな状況でなければ大スクープとして扱っていただろう。だが、今、記事として書いてしまえば霊夢に半殺しにされてしまうだろう。

 

「三流記者が何の用かしら?」

 

「これは手厳しい。私は霊夢さんのお手伝いをですね――――」

 

「帰るわよ、文」

 

 踵を返す霊夢の姿に幽香は意外だと言わんばかりの表情を浮かべる。もうちょっと食い下がってくるものばかりだと思っていたが、そんな時間もないようだった。

 

「あら、もういいの?」

 

「無駄な体力を使いたくないだけよ」

 

「ふふ、そうしといてあげるわ」

 

 霊夢が一瞬だけだが睨んできたような気がしたが、幽香はそれに微笑みで答える。これだから霊夢は幽香が嫌いなのだ。

 

 こちらがいくら挑発しても、のらりくらりとはぐらかしてくる。意味のない発言も意味があるようにすら聞こえてしまう。外来人との戦いで幽香が多少弱っているのは見抜いていたが、それでも油断ならない強さを持っている。正直、今、相手にするのは得策ではない。

 

 隠そうともしない舌打ちをすると霊夢は浮かび、どこかへと飛んでいってしまう。幽香に一礼だけすると文も霊夢を追い掛けるように飛んでいく。

 

 残された幽香は呆れたように溜め息を吐く。

 

「もう勘づいてるかもしれないわね」

 

 遅かれ早かれ、大尉たちとの協力関係はバレてしまう。勘の良い霊夢ならば、その事実に気付くのも遅くはないだろう。ならば、早い内に協力者を増やさなければならない。

 

 だが、今日はもう疲れていた。一日くらい休んでも罰は当たらないだろう、と考えた幽香は家の中へと入っていった。


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