レミリア主催のお茶会の議題は外来人の正体についてだ。最近、幻想入りしてきた早苗は外来人の服装について知識があるはずとレミリアは予想していた。直接、外来人と会った文は絶対に記事に書いていないことがあると推測していた。
レミリアは焦っているのだ。あの敵とも味方とも分からない外来人に対してだ。何がそうさせるのかは『視えなかった』としか言いようがない。
運命を操作することができるレミリアにとって自分の運命が分からなくなっている。それがどういうことなのかはレミリアは理解し切れていない。なら、対策を練ろうとこのお茶会を開いたのだ。
「早苗さんはこの奇妙な服装に見覚えありますか?」
写真を見せられながら文にそう聞かれた早苗は困ったような口調で答える。
「服装までは分かりませんが――この紋章みたいのは外にいた頃に習ったことがあります」
早苗が指差したのは大尉の服の紋章のようなもの。それは忌むべきものだと外の世界では伝えられている。『ハーケンクロイツ』『鉤十字』などと呼ばれ第二次世界対戦でナチスが使っていた紋章だった。
「戦争というのは人間同士がやるものでしょう? 彼は妖怪でしたよ。何の妖怪かまでは分かりませんでしたけど」
「妖怪兵士を使うナチスですかー。下手なB級映画にたくさんありそうな題材ですね」
早苗が何となく頭に思い浮かんだのは何故か、ナチス兵がゾンビとなって襲ってくる低予算映画だった。
「ナチスだかナチョスだか私は知らんが本当にそいつらは妖怪や化物を兵士として使っていたのか?」
「そんなわけ。外の世界では妖怪とか化物っていうのはオカルトですよ。狂ってもいない限り兵士になんてしませんって」
「……だといいがな」
「そういえば、椛が興味深いことを言っていました。『あの外来人から同種に近い匂いがする』と」
「何? それは本当か!?」
レミリアは一つの仮説を立てていた。吸血鬼と並ぶと評される化物にして吸血鬼の天敵。幻想郷にも既に一人いるらしいがそれからは危機感すら感じない。だが、この外来人からはその危機感を感じる。レミリアの仮説は寸分違わず合っていた。
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お茶会が開かれているなど知りもしない大尉はある気配を追っていた。懐かしいとさえ思えてしまう気配の正体は吸血鬼。しかも、純粋な吸血鬼のものだ。紛い物でもない、恐るべき吸血鬼のものだ。
高台から気配がする方を見下ろすと趣味の悪い赤い館と霧の立ち込める湖が見える。目的の吸血鬼は赤い館にいると確信した。
だが、今はその時ではない。今は準備をしなければならない。あまり事を急いては折角の戦争が台無しになってしまう。
高台から降りると大尉はまた森の奥へと消えていった。
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それを見張る者もいた。文から外来人を捜すように言われていた椛はその能力を使って大尉の動向を追っていた。面倒だと思いながらも、上司として命令されてしまっては歯向かうわけにもいかない。
だが、大尉が速く、自身の能力をもってしても追うのにも一苦労であり、立ち止まったところを確実に確認するというこれまた疲れる作業を強いられていた。
「紅魔館を見ていた? 文さんに報告することが増えた」
何故、紅魔館を見ていたのかなんてことは椛には分からない。だが、面倒ごとが増えてしまった、と愚痴を漏らす彼女はまだ自分が如何に大変な任務を背負わされたことに気付かない。